自分が望むものを手に入れるには異世界に転生する必要があると思っていたが、そうではなかった。
これはこのアンソロジーの最新話です。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
正人は、背が低くて痩せぎすな17歳の引きこもり高校生だ。
彼の学校には、一人の完璧で、爆乳の少女がいる。名前は杏里(Anri)。才色兼備のお嬢様であり、文芸部の創設者でもある。
杏里はいつも正人のことを“比喩”でからかってくる。
「太陽と月は同じ空にいられるけれど、月がみっともない太陽を愛することなんてあり得ない。わかる?」
彼女の言葉は、まるで詩人のように難解だ。もちろん、正人にはその本当の意味がわからない。
彼の目には、杏里は自分を心の底から嫌っている“完璧で冷たいお嬢様”にしか見えなかった。
ある日、市場で正人は一匹のサーモンを買う。売り手は、日本とアフリカの伝統装飾が融合した奇妙な仮面をつけていた。
家に帰ってそのサーモンを焼いて食べると──それは彼の人生で一番おいしい食事だった。恍惚の中、正人は眠りにつく。
目を覚ますと、驚くべきことが起きていた。
彼の内面世界がすべて現実化していたのだ。夢に見た光景も、記憶の断片も、そして──彼の頭の中で作り上げられた“悪い杏里”までもが、目の前に現れた。
一方、学校では正人が欠席している。ですから、先生たちは杏里にお願いを頼む。杏里は一人の家に行って、彼女のノート
を彼に貸さなければならない。
杏里は初めて正人のアパートに向かいながら、心の中で考える。
──自分が正人を好きになった理由。
厳格なスパルタ教育する親に育てられ、常に“進化”を強要されてきた杏里。
しかし正人は、子供のように無力で、何も進化していない。
その「遅さ」と「不器用さ」は、杏里にとって失われた理想そのものだったのだ。
アパートに着くと、杏里は目を疑う。
“悪い杏里”が正人を殴りつけていた。
本物の杏里は立ち上がり、もう一人の自分とビンタ合戦を繰り広げる。
そして──ついに言葉で想いをぶつけた。
「……正人くん。。。私は、ずっとあなたが好きなの」
その瞬間、“悪い杏里”は煙のように消えた。
呆然とする正人に、杏里は顔を赤らめながら言う。
「ばか……なんで気づかなかったのよ、私、ずっとあなたが好きだったのに……」
そして、月が太陽にそっと口づける。
正人と杏里の世界が、少しだけ輝いた。
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