二人のヒロイン
これはこのアンソロジーの新作です。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
『太陽と亀 ― 最終決戦』
黒き夜空を切り裂くように、炎と光が交差した。
その中心に立つのは二人の女――
一人は「ミス・サン」。
日本の現実ではなく、日本が本来歩むべき理想を体現する者。
幼き日に、動物や子どもたちの笑顔を守ることを誓った彼女は、極真空手と柔道を磨き上げ、鋼の意志を得た。
もう一人は「ミス・タートル」。
合衆国の現実ではなく、合衆国が夢見た未来を映す者。
マーティン・ルーサー・キング牧師の言葉を胸に刻み、ムエタイとフリースタイルレスリングを極めた闘士。
二人は異なる大地に生まれながら、同じ影を憎んだ。
その影の名は「グレーター」――人類の歴史と同じほど古く、
日本に過労死を植えつけ、アメリカに人種差別を根づかせた闇の組織。
【フラッシュバック】
「サン…お前はなぜ戦う?」
血まみれのリングで、ミス・タートルが問うた夜。
「子どもたちが泣かない未来を…動物が踏みにじられない世界を…私は、それを見たいのだ。」
サンの声は震えず、ただ澄んでいた。
「ならば同じだな。」
タートルは笑い、己の拳を見つめた。
「私は、差別のない大地を…皆が夢を見ることを許される未来を…」
二人の運命は、その夜ひとつに重なった。
【最終決戦】
大広間。世界中に生放送される電波の中心。
「グレーター」の最後の首領が、巨躯をゆがめて立ちふさがる。
「お前たちの旅はここで終わる。英雄など存在しない。人類は常に我の鎖に囚われるのだ!」
サンとタートルは互いに頷き、歩を進める。
観客席――否、テレビの前の全世界が息を呑んだ。
「――私たちは一度に一人しか倒さなかった。」
タートルの低い声が轟く。
「だがその一人一人に、人生があった。」
サンが続ける。
二人はこれまでに倒した敵を思い出す。
腐敗した企業家。
狂信のテロリスト。
人身売買の首領。
戦争をあおる武器商人。
誰もが孤独な悪だった。
だがその背後に「グレーター」がいた。
戦いは烈火のごとく始まる。
タートルの肘打ちが大地を震わせ、サンの足刀が空気を裂く。
首領は怪物のごとき力で応じ、二人の身体は次第に血に染まっていく。
「……サン!」
「……タートル!」
両者は同時に胸を貫かれ、崩れ落ちる。
カメラ越しに世界が凍りついた。
【死の淵】
漆黒の虚空。
そこに顕れたのは、言葉を超えた存在――至高の神、ゼンタイという名前の擬人化されたミアキスだった。
「お前たちはよく戦った。だがまだ終わりではない。」
神は二人に幻を見せる。
それは何でしたか。誰も知らない。
「希望を失うな。それを繋ぐのは、お前たちだ。」
そして神の手が触れた瞬間、二人の心臓は再び鼓動を刻む。
【復活】
眩い光の中、サンとタートルは立ち上がる。
その姿を、世界はテレビ越しに目撃する。
「立った……!」
「まだ…まだ戦えるのか!?」
タートルは唸り声を上げる。
「グレーター! 我らは夢を裏切らせはしない!」
サンは瞳に太陽を宿し、最後の構えを取る。
「これが私たちの答えだ!」
二人の拳と蹴りが、宿命の闇を打ち砕く。
――そして、「グレーター」は崩壊した。
その夜、世界は知った。
理想を掲げる者が決して倒れぬことを。
たとえ血に沈んでも、希望は蘇ることを。
勝利の後、ミス・サンとミス・タートルは安らかに亡くなりました。
『太陽と亀』――その名は永遠に語り継がれるだろう。
この物語を楽しんでいただければ幸いです。次の作品を近々アップロードします。




