変身マンという勇者の冒険
これはこのアンソロジーの最新話です。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
並行世界・Ch44gmc2。
リリアンヌ・ウェルシュトンは、英国王室の最下位に生まれた、巨乳のぽっちゃり美人の若き公爵令嬢だった。彼女の所領は、地図にもほとんど載らない小さな村。だが、その小さな世界の片隅で、彼女は幼い頃からひとつの信念を抱いていた。
――真の高貴さとは、生まれでも血筋でもなく、「能力と徳」によってこそ証明されるべきものだ。
その信念のもと、リリアンヌは数えきれぬ慈善事業を支援し、世界中を旅しては「本物のエリート」、すなわちこの世界を導くべき資質を持つ者たちを探し続けてきた。
彼女にとって、王とは玉座に座る者ではない。
王とは――民を守るために泥を踏み、矢面に立つ「盾」なのだ。
一方、同じ世界の反対側――メキシコ。
アドリアナ・サントスバーは、ある麻薬カルテルの首領の一人娘として生まれた。彼女は背が低いで、爆乳女性。父の死後、彼女は組織を受け継ぎ、組織の性質を根底から変えた。
――覚醒剤ではなく、医薬品のためのオピオイドを供給することで、世界の医療システムの「影」に入り込んだのだ。
合法でも違法でもない、どこにも属さない灰色の支配。
アドリアナは麻薬王の娘ではなく、世界医療の裏側を支える黒い女王となった。
そんな二人の女性――リリアンヌとアドリアナは、奇妙な友情で結ばれていた。
ある夜、二人は疲れ果て、モナコの街で電話越しに「遊びに行こう」と笑い合った。
そして、夜明け。
午前六時。二人は五つ星ホテルのベッドに転がり、眠気と酔いの狭間で目をこすっていた。
コンコン、とノックの音。
扉の向こうに立っていたのは、地中海の風を纏うような青年だった。
引き締まった体。柔らかな笑み。
「リリアンヌお嬢様、アドリアナお嬢様、朝食をお持ちしました――」
銀のトレイに乗っていたのは、ふわりと香るバターのスクランブルエッグ、軽く炙ったバゲット、熟成されたパルマハム、そして白いチーズ。
青年の口から、二人の「本名」が零れたとき、リリアンヌとアドリアナは視線を交わし、いたずらっぽく笑った。
――また、会ったわね。
彼女たちはその青年を、こう呼んでいた。
「ハニー」。
何度も、何度も、世界中のどこかで彼と出会ってきた。
名前も姿も、いつも違う。だが、魂は同じだった。
「ハニー」はまるで幽霊のように、他人の身体を乗っ取り、好きな女性の前に現れるのだ。
そして――一夜限りの恋を楽しむ。
リリアンヌとアドリアナはその秘密を知っていた。
それでも彼と過ごす時間を、心から楽しんでいた。
ベッドに三人並び、夜と朝の狭間で、彼らは互いの人生を語り合う。
だが――。
そのとき、地鳴りがモナコを震わせた。
それは地震ではなかった。
宇宙そのものがきしむような音だった。
「ハニー」は顔を上げ、窓辺へと歩いた。
胸の奥に、確かな悪寒があった。
実はハニーは幽霊ではない。
本当の名は、並川 亜伊斗。
日本に生まれた、ごく平凡な青年だった。
しかし、あの日――奇妙な夢を見るまでは。
夢の中。
無数の神々が戦場でぶつかり、天空を裂いていた。
その戦場から飛来した一つの隕石が、少年の胸を撃ち抜いた瞬間――亜伊斗の中に、神々の「力」が宿った。
24時間だけ、他者の肉体を借りる力。
人間でも、動物でも、神でも。
どんな存在の身体にも、彼は「なる」ことができた。
彼はその力を使い、恋をして、誰かを守り、世界を彷徨い続けてきた。
――そう、何度も、何度も。
ホテルの屋上に出た亜伊斗が見たのは、空を裂く二柱の最も強い神の戦いだった。
その激突は、まるで宇宙の心臓を貫くような衝撃波となり、連鎖的に数兆の並行宇宙を破壊していた。
あと少しには、このCh44gmc2も吹き飛ぶでしょう。
亜伊斗は、神「ヴァク・イー・ノ・オース」の蛸の姿を持つ身体を借りた。
数百本の触手が夜空を覆い、溢れ出る爆発のエネルギーを受け止める。
肉体は裂け、魂は焼かれ、それでも――彼は放さなかった。
「……この世界だけは……壊させない……!」
灼熱の光が消えたとき。
世界はまだ、そこにあった。
リリアンヌとアドリアナの眠るホテルも。
朝焼けのモナコの海も。
亜伊斗は触手を静かにほどき、微笑んだ。
「ハニー……また、助けたのね」
二人の女性が彼のもとへ駆け寄る。
その光景を、夜明けの光が包みこんだ。
――英雄も、幽霊も、王もいらない。
ただ、世界を少しだけ愛せる「誰か」がいれば、それでいい。
この物語を楽しんでいただければ幸いです。次の物語をすぐにアップロードします。




