私は人類の勇者になりたくない。スローライフの生活方が良い。
これはこのアンソロジーの最新話です。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
並行世界「w1o2r3l4d」において、ムルバタと呼ばれる異星人の種族が地球を侵略し、人類を打ち負かした。
ムルバタは人間に似た姿をしているが、より大きな体躯を持ち、その皮膚には生まれつきバロック調の装飾が浮かび上がっている。模様は日本美術やインカ美術、マオリ美術を思わせる複雑な意匠であった。
人類を支配した後、ムルバタは生き残った人間を農場に集め、家畜として飼育するようになった。
重要な事実がひとつある。ムルバタは人間を食べるのだ。人類もそれを理解しており、そのため農場には常に不安と動揺が漂っていた。
だがムルバタは野蛮な捕食者ではなかった。彼らは独自のシステムを築き、秩序立てて人間を管理した。
彼らが好んで食べる人間には三種類がある。
――太っていて背の低い老人。
――痩せていて背の低い老人。
――そして暴力的な性質を持つ人間。大半は犯罪者であった。
農場は常に監視され、人間が他人に危害を加えようとすると、すぐさまその攻撃者は連れ去られ、七面鳥のように調理されてムルバタの食卓に並んだ。
また、通常ムルバタ宇宙人が食べるのは先の二種類の老人、つまり「背が低く太った老人」と「背が低く痩せた老人」だった。どうやらその三種類の人間には体内で特別な変化が生じ、ムルバタにとって格別の美味と化すらしい。
さらに、ムルバタが好んで食べるのは六十歳を超えた人間であった。若い人間は味が薄いとされ、例外は暴力的な人間だけだった。
人間にとってチーズやワインが嗜好品であるように、ムルバタにとっては老人を食べることが何よりの楽しみだった。
こうしてムルバタの最優先は「できる限り多くの背の低い痩せた人間と背の低い太った人間を繁殖させること」となった。
彼らは「正の強化心理学」を応用した。背が低く痩せた男、あるいは背が低く太った男を伴侶に選んだ女性にはご褒美が与えられたのだ。
美味しい食事、快適な寝床、そして世界中への旅――南イタリアの田園からニューヨークの廃墟まで。
そのため、背が低い男たちは数多くの女性を得ることができた。一方で高身長で筋肉質な男たちは相手を見つけられず孤立していった。
テキサスにある「ラストホープ」と呼ばれる農場に、背の低く痩せた青年キョウタロウが住んでいた。
ある夜、ラストホープの人々は密かに集まり、再びムルバタ宇宙人への反乱計画を練っていた。忘れ去られたバンカーや、古代の戦争機械の噂が持ち出され、人類が自由を取り戻す日を夢見ていた。
だがキョウタロウは口を開いた。
「本当に……それが最善だと思いますか?」
老人ジョン・マクウールが問い返す。
「どういう意味だ、キョウタロウ?」
キョウタロウは静かに言った。
「もし人類が再び地球を支配したとして……それが本当に、この惑星にとって良いことなのでしょうか?」
その場はざわめき、老人たちの顔は怒りに赤く染まった。
ジョンは声を荒げる。
「馬鹿げたことを! 奴らは侵略者だ。我々こそがこの星の正当な所有者だ!」
しかしキョウタロウは退かない。
「でも……人間が再び権力を握ったとき、この星は本当に幸せになるのでしょうか?」
五十歳のユースタス・コーンウェルは殴りかかろうとしたが、老人たちが必死に止めた。
ジョンは険しい声で言う。
「説明してみろ、若造。さもなくばここで誰かがお前を殴り殺すぞ。」
キョウタロウは語った。彼と十人の妻がムルバタ宇宙人に連れられて世界を旅したときの光景を。
――復活した生態系。
――絶滅から救われた数千の種。
――人類の不在によって繁栄する自然。
「もしかすると……人類の時代は終わるべきだったのかもしれません。ムルバタ宇宙人の方が、この世界をより良く統治できるのです。」
ユースタスは怒鳴った。
「裏切り者め! 先祖が血を流して守ろうとした人類の誇りを捨てる気か! それは最悪の背信だ!」
だがキョウタロウと同じ考えを抱く若者も多かった。背の低い痩せた男たちや太った男たちは皆、自然の変貌を自分の目で見ていたのだ。
ユースタスはさらに叫ぶ。
「お前たちはただのムルバタの犬だ! 女を与えられて、まるで飼い犬のように尻尾を振っているだけだ!」
ジョンは冷静に告げた。
「我々は必ず立ち上がる。農場の主を討ち、ヒューストンの聖ミルトン海軍基地へ向かう。そこで軍事力を取り戻し、ムルバタ宇宙人から国を奪還する。そして百年でも、二百年でも、千年かかろうとも――この星は我らのもの、神が与え給うた人類の故郷だ。
自由を選ぶ。それがアメリカの魂だ。」
ジョンの支持者は二つのグループに割れた。ひとつは陽動として反乱を起こす者たち。もうひとつはその隙に脱出する者たち。
その夜、キョウタロウは家に戻った。そこでは十人の妻――アレッタ、アンジェラ、ミア、ヒトミ、セラ、アドリアナ、ジョージア、デイジー、カレン、そしてダイアナ――が待っていた。
彼女たちはそれぞれ異なる文化の出身で、姿も多様だったが、誰もが美しかった。
月を見上げながら、キョウタロウは悟った。
ジョンとユースタスの反乱は必ず失敗する、と。
彼らは過去に囚われ、「人間こそが宇宙の中心だ」という傲慢な幻想に縛られている。
人類が受け入れられないもの――それは弱さ。
いや、もっと正確に言えば「謙虚さ」だった。
この話を楽しんでいただければ幸いです。次の話をすぐにアップロードします。




