意思を持つスキルに憑依された引きこもりが異世界最強の勇者になった、その手記――だが……
これはこのアンソロジーの最新作です。皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。
書くべきかどうか、正直わからない。
でも、パーシヴァルは「書け」と言った。
「その方が物語として自然だ」と。
俺の名前はカズトだ。
……少なくとも、そう記憶している。
本当にそうだったのかは、もう確かめようがない。
俺は東京の引きこもりだった。
部屋に閉じこもって、カーテンを閉めて、画面だけを見ていた。
時間の感覚も、空腹も、全部どうでもよかった。
……そういう記憶がある。
でも最近、それが本当に「記憶」なのか疑っている。
まるで誰かが作った設定みたいに、不自然に整いすぎているからだ。
パーシヴァルは俺の中にいる。
声として聞こえるわけじゃない。
別人格みたいに振る舞うわけでもない。
……もっと曖昧な形で、そこにいる。
これはスキルだ。
この世界で最強と呼ばれているスキル。
そういうことになっている。
パーシヴァルは、理由もなく俺を選んだ。
運命でもない。
才能でもない。
相性ですらない。
ただ、「なんとなく」だと言った。
「誰でもよかった」
そう言われた時、特に何も感じなかった。
……感じるべきだったのかもしれないけど。
俺にはこの異世界でハーレムがあるらしい。
ナタリア、アンジェラ、アドリアナ、アレッタ、エンジェルズ、オクタヴィア、セラ、エリザ、ナラ。
全員、美人だ。
……それだけはわかる。
でも、あいつらは俺に興味がない。
俺の名前を覚えようとすらしない。
あいつらにとって重要なのは、俺じゃない。
パーシヴァルだ。
時々、俺の顔を見ながら、俺に話しかけているのに、
その言葉が向けられているのは「俺じゃない」とはっきりわかる。
子供もいるらしい。
何人か。
……でも、それを「自分の子供」と呼ぶ感覚がない。
パーシヴァルは常にそこにいた。
なら、それは本当に「俺の子供」なのか?
最近、境界がわからなくなってきた。
どこまでが俺で、どこからがパーシヴァルなのか。
そもそも、境界なんて最初からなかったのかもしれない。
あるいは――
俺という存在自体が、最初から存在していなかったのかもしれない。
あの部屋も、あの生活も、全部。
パーシヴァルが作った「前提」だったのかもしれない。
一度だけ、聞いたことがある。
「俺の記憶は本物なのか?」と。
パーシヴァルは、少しだけ沈黙した。
あいつにしては珍しく。
そして、こう言った。
「それに意味はあるのか?」
答えられなかった。
今、俺はこれを羊皮紙に書いている。
夜だ。
静かだ。
もうすぐ、寝る時間になる。
ナタリアと。
アンジェラと。
アドリアナと。
アレッタと。
エンジェルズと。
オクタヴィアと。
セラと。
エリザと。
ナラと。
もう部屋にいるはずだ。
呼ばれてはいない。
でも、行かなければならない。
パーシヴァルが、そう言っているから。
……
俺も、そう思う。
思っている、はずだ。
この物語を楽しんでいただけたなら幸いです。次の作品も近いうちにアップロードします。




