次のプロメテウス
これはこのアンソロジーの最新話です。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
イングランドに生まれた、小柄で痩せた青年── マルコ・ガーヴィー。
両親はアフロカリブ系であり、彼自身は医療用ナノボット研究の第一人者の一人であった。
彼の妻は、アフロカリブ、ユダヤ、そして香港の血を受け継ぐ美しい女性── ルシア・リン・マヘツ。
二人は幸せな生活を送り、生まれたばかりの娘と共に未来を夢見ていた。
だが、2024年。
マルコに告げられたのは、癌。
余命は三年…長くは生きられないと。
ルシアは絶望し、深い悲しみに沈む。
その時、マルコは決意する──自らの研究を、自らの身に施すことを。
彼が追い求めてきた理論。
ナノボットは、末期患者の肉体を新たに作り変える可能性を秘めていた。
それは夢物語に過ぎなかったはずだ。
だが今、彼は実行する。
ナノボットを自らの体に注入し、癌細胞を一つ残らず破壊し、
その代わりに人工のナノボット細胞を構築していくのだ。
やがて人間の細胞は消え失せ、
残るは「機械の肉体」のみとなるだろう。
──その時、自分はまだマルコ・ガーヴィーでいられるのか?
人間でいられるのか?
それすら分からない。
だが、彼には挑む理由があった。
妻のために。
娘のために。
研究に没頭する日々の中で、マルコの脳裏には人類の歴史が浮かぶ。
火の発見、火薬、そして月面着陸──人類が挑んできた偉大なる瞬間の数々。
そして、2027年1月25日、深夜零時。
月は満ち、光を放つ。
ナノボットは完成した。
注射器は彼の手にある。
その時、死が訪れた。
それは古の伝承の姿そのままに──
黒い絹に包まれた骸骨の顔。
そして鉄の大鎌は、まるで竜の爪のごとく輝いていた。
マルコは呟く。
「私は…戦わずに倒れるつもりはない。
新しい時代は……今、始まる!」
彼は注射を打ち込む。
翌日。
ルシアと娘が家に戻ると、扉は開いていた。
胸騒ぎを覚えたルシアは、夫の研究室へと急ぐ。
そこには、夜空を見上げるマルコの姿。
彼はゆっくりと振り返り、静かに問いかける。
「……君は、私が誰だと思う?」
この話を楽しんでいただければ幸いです。次の話をすぐにアップロードします。




