第3章 夜の祭り
強者は強者でいなければならない、1度でも敗北すればそれは弱者と同じである。
第3章 夜の祭り
美愛は俊や瑞葉と違って、一般特別待遇という形でもてなされた。
その夜おこなわれた国王主催のパーティーで俊と瑞葉は現国王ケネルから国王認可の勲章を授けられる。その勲章を持っていると王国領内では生活に困らず大貴族と同じ待遇が受けれる最強のアイテムだ。
(美愛視点)
「美愛様、少しいいかな」
甲高い声で私を呼んでいる貴族?がいる。身体は細く貴族らしい貴金属も見当たらない。後ろに護衛もつけていない様子だ。私に何の用があるのだろうか、無視をするわけにもいかないので返答した。
「なんでしょうか?」
振り向きその貴族の方をみる。
その貴族は私のつま先から上へ舐めるように見てくる。気持ち悪い、今すぐここから離れたいと思った。
「美愛様の着ているお洋服を買い取らせて頂けないかしら?」
かしら?こっちにもオネエっているのね。
まさか、私が唯一といってもいい元の世界から持ってきたものを手放すなんてしたくない。ここはさっさと断って早く寝室にいって寝よう。起きたら元の世界に帰っているかもね。
「すみません。この洋服はとても大切なもので、貴方にお譲りすることはできません」
その貴族は顔色1つ変えずにこう言い放った。
「あらそう、残念だわ」
とても残念そうにはみえない。私は断ったあとすぐに寝室へ向かった。疲れていたのか寝巻に着替えたあとすぐに寝てしまったようだ。
ガタン、ガタン、ガタンゴトン、、、、
ガタンゴトン?このベッドは電動かな。いや違う、そんなのは冗談にしてもつまらない。ふと目を開けると空はまぶしく荷台に揺られているようだった。
起き上がり辺りを見渡すと平原が続いている。私は昨夜寝室にいたはず、荷台に乗ってるということは誰かが運転してるはずだ。そう思い前方へ声をかけた。
「止まってくださーい」
「おーい」
すると急に荷台が止まりその勢いで頭をぶつけた。
ボスッ、、、
なんの音かと思い、前をみると藁人形が倒れていた。なんで?荷台から降りて周りを見回すが、人がいる気配はまったくない。そして理解した、追放されたのだと。もちろん荷台に制服は無い。あるのは金貨10枚と3日分程度の水と食料。これは私に死ねといっているようなものだ。はぁ、これからどうしようか。私に能力はないしここがどこかもわからない。だいたい、ここは異世界で私たちは勇者みたいな感じで呼び出されたわけでしょ、なんかすごい力とか普通あるよね?
彼女、美愛は中二病であった。
美愛が混乱しているとき足に冷たい感触が当たった。
「キャーーー」
美愛が叫びだした。
足元にはうねうねと動く液体の塊。これがスライムというモンスターか、なんだか少し可愛い。
美愛はそのスライムを眺めていると、足首に激痛が走った。
「痛ッーーーーーーーーーーーー」
激痛に驚きそのスライムを思い切り踏みつけた。すると、何かが溶けるような音とともにスライムは消滅した。
ふっ、所詮スライム、漫画でみたとおり雑魚ね。
足首に目を向けると皮膚が少し溶けてただれているのがみえる。その瞬間、声を荒げて激痛に悶え苦しむ。
災難なことに声に呼び寄せられたかのようにゴブリンが2匹こちらに近づいてくる。ゴブリンたちは棍棒をもち一斉に美愛にとびかかってきた。
「やめて!」
嫌がる声とともに前が見えないほど手を振り回す。
「ギギ、、、、、ギャア」
ゴブリンの苦しむ声。
襲い掛かってこないゴブリンの様子を不思議に思いそっと手をどける。
するとそこにはその場で倒れ、顔を抑えながら苦しむゴブリンの姿、まるで先ほどの私のようだな。
数十秒後、ゴブリンたちはぴたりと動かなくなった。死んだのかな?もう少し近づきゴブリンをみると顔が溶けていた。もしかして私がやったのか。いや、そんなことないよね。まさか、、、。自問自答を繰り返す。その疑問を晴らすため、少し試してみることにした。
平原の上に大きく仁王立ちし右手を振りかざしながら唱える。
「アシッドアタック」
漫画やアニメでみた知識をもとに言ってみた。スライムの酸液が弧をえがくように飛び散る。その後酸液が落ちた地面が溶け出す。
私は異世界に来たんだと思い興奮し喜ぶ。これってめちゃくちゃチートな能力じゃないか!
おそらく私の能力は倒した相手の力を奪う的なやつだろう。だから宝玉に触れたときに具現化しなかったのか。とりあえず王国にはもう戻れないだろうから進むしかない。荷物をもち道沿いに歩き出した。
一方王国オルディナでは
「美愛ーーーー、どこにいるの~?」
瑞葉の声が町中に響きわたる。私に黙ってどこに行ったのかしら。
するとそこに1人の貴族が近づいてきて伝える。
「美愛様は何の力もない私が周りに迷惑をかけるわけにはいかない。と申し昨夜ここを出ていきました」
そんなわけない、美愛が私に黙って出ていくなんて。今すぐ探しに行かなくちゃ。とても心配した様子で言葉を発する。
「私は美愛を探してきます」
「いけません、瑞葉様は今日からローゼ様のもとで訓練があります」
「かわりに私めが探してまいりますのでどうか落ち着いてください」
さまざまな言い合いの末、瑞葉は渋々承諾した。
美愛は今頃死んでるだろうよ。貴族は考え嫌な顔をする。あとで、ぐちゃぐちゃの死体でも持って見せればいいか。
後日、影も形も残っていない死体を見せられ瑞葉は深く絶望した。
ここは魔王の住む地オムニヘルヘイム
弱い生物が吸い込むと即死してしまうような死気が漂い、草木は枯れ日差しを遮るように黒いカーテンがかかってる。
ひときわ禍々しいオーラを放つ存在が崖の1番高い場所にある城に向かい歩いていた。
足首あたりまである漆黒のマントに、肩につきそうなくらい長い白いさらさらの髪の毛、身体は細くアルビノのように白い。その存在に警告をだすかのように前に立ちはだかる悪魔がいた。
「そこのお前止まれ、そのまま引き返すなら危害は加えない」
威圧のオーラとともに異質な声で伝える。
しかし、白髪の男は怯むこともなくその悪魔を無視し歩き出す。
はぁ、と残念そうにため息をつき悪魔は即座に詰め寄り殴りかかる。しかしその拳は白髪の男をすり抜けた。どうなっている、確かに当たった感触はあった。悪魔は地面をけり間合いをとる。
刹那、悪魔の視点は90度傾き意識がなくなり、体が前に倒れる。
ドス、、、バタン
男は数回まばたきをし、再び進みだす。
悪魔が倒れた瞬間、白髪の男の周りに500体は超える悪魔の大群が現れた。
盛大なおもてなしをありがとう。皮肉まじりに言うと面倒くさそうにしながら低くかすれた声で白髪の男は唱える。
「ミラージュ・クリエーション、モデル サラマンドラフォース」
悪魔の大群の前に全長20メートル以上もある炎に包まれた硬い鱗をもつトカゲが4匹顕現し、悪魔の大群に襲い掛かる。
サラマンドラのオーラに絶望を感じ逃げ出す悪魔もみられる。
サラマンドラが吐く炎で悪魔たちは消し炭になっていく、それは戦いというより大量虐殺という表現が正しいだろう。悪魔たちは成すすべなく次々殺されていき、やがて静寂が訪れる。
男が、解除と言うとサラマンドラたちはその場で消えていく。
あの距離、歩いてたら着く前に魔王が逃げるかもな。
そう言うと幻術でドラゴンを作り出しそれに乗り魔王城へ飛んでいった。
警備隊の悪魔が全滅したことはすぐに魔王やその幹部たちの耳にも入った。
ーーーオムニヘルヘイム中央部標高5000メートルの崖の上、魔王城ーーーー
「魔王様、どうしましょうか」
幹部の1人が発言する。
下級悪魔たちだがあの数を消されると戦力的にも苦しいな。千里の宝玉を使って戦闘の様子を覗き見しようとしたが我が見させられたのは花畑でぴょんぴょん跳ねるヘドロカエルとか、意味がわからん。
相手の能力が不明な今下手に幹部たちを向かわせるわけにもいかないしな。どうしたものか。悩んでいる最中、外からズドンという大きな音が聞こえた。
その衝撃音に最初に反応したのは魔王城の門番クリープ・リーパー。暗黒のオーラを放ち辺りの死気をいっそう濃くしている。強固なゴーレムさえも両断できそうな禍々しい見た目の鎌を持ち身体の半分は腐敗している。
「誰だ、ここに何の用で来たんだ」
以外にも話の通じそうな雰囲気である。
「ここの主に会いに来た」
白髪の男は答えたあとにドラゴンの幻術を解き扉に向かって歩き出す。
ガシャン、、
と音を立てリーパーは鎌を前に出しながら男の道を遮り止めようとしたが男はすでに鎌の奥にいた。
どうやったのか何にもわからない。
君に用はないと言い男は消えていく。そして鎌を持っていた手が軽くなった、目線を手に向けると鎌はバラバラになりその破片が地面に散らばっていた。
その瞬間で圧倒的な実力差を感じその場に立ちつくし、自分の無力に絶望する。
(魔王視点)
悩みながら1つまばたきをする。目を開くとそこには白髪の男が立っていた。
初めまして、とその男は挨拶をしてくる。驚きつつも挨拶を返した。こいつが悪魔警備兵を全滅させたのかと疑問に思う。こんな細い身体にそのような力があるとは思えない。
試してみるか。
魔王は自身の頭上に大きな眼を顕現させ男を見つめる。これは対象が自分より弱い場合に効果を発揮し完全に従属させることができる魔王が持つ固有魔法(従属の眼)である。莫大な魔力を消費するのでそう簡単には使えない。
「なんですか、その大きな眼は?」
見下ろされている感じで不快ですねと言ったあと右手をかざし軽く握り潰す動作をする。眼は瞬時に消滅し、少し怯んだ様子の魔王がみえる。周りにいる幹部たちもその恐ろしさで動けないでいる。
とりあえず相手の情報が欲しい。まずは名前を尋ねた。
「キーチ・タイラーだ」
案外素直に答えてくれて少し安心した。話を聞く限りタイラーという男は世界の秩序を守る者らしい。それで我にいくつか提案してきた。まず1つ死気が濃すぎるのでもう少し調整しろと、2つめに大陸中央部にそびえ立つ世界樹ユグドラシルには手を出すなと、最後にもう少し人間に危害を加えろってさ。変な書類にもサインを書かされた。そんで最後に聞いてやった。
「これ守んなかったらどうすんの?」
「魔王軍すべてを滅ぼします」
その言葉の迫力はとんでもないものだった。
理解した、、、。
男にそう伝えるとそのまま消えていった。
ひとまず安心した魔王軍であった。幹部たちは魔王をも超越した力を目にし自らの目的である世界征服に疑問を抱いた。
「あれだけの存在がこの世界にいるとは、これからの方針に大きなヒビがはいりますね」
先ほどの気配を察知し隠密化していた魔王の側近が現れ声をかける。
「そうだな、めんどくさい存在に目をつけられたようだ」
魔王軍をすべて率いて戦ってもまともに相手をされるかどうか、しばらくはやつの言うとおりにしておくか。
すべての幹部にそう伝え解散した。
「ヴァン・エルディオよ死気の調節を頼む、それとユグドラシルに向かっている我らが軍に今すぐ引き返せと伝えてくれ。私は少し人間どもの様子を見てくる」
「承知いたしました」
魔王の側近が応えた。




