新しい声
~花田未来vision~
(※ここからは花田未来目線となって物語は進んでいきます)
「動物園で…好きですって…あはは……」
それとなく呟いてみる。
学校からの下校中。
もう中学二年生の夏を迎えようとしていた。
本当は悩んでいた。
別れようか、それとも。
縛られたままの生活は辛かった。
それに、私の背負っているものは大きくなるばかりだった。
麻友になら何でも相談できる気がしていた。
麻友なら私を助けてくれると思っていた。
だけど、麻友は、何も聞いてすらくれなかった。
もう私のこと嫌いなんじゃないかな。
だから最近怒るのかな?
一緒にいると、麻友が嫌な気持ちになっちゃうのかな。
それから。
私は少しずつ麻友を避け始めた。
そのほうが早く麻友が楽になれるよね。
麻友から「バイバイ」って言ってくれるよね。
そう思ってした行動だった。
それから、5ヶ月が過ぎた。
季節はもう秋だった。
冷たい風が吹き始めていた。
その頃。
私の心にも余裕が無くて、限界がきていた。
だから…麻友が引っ越すなんて、気づきもしなかった。
「転校するから。未来を縛り付けてる自分も嫌だから。バイバイ」
そう、私に直接告げた。
これでよかったのか。
去ってゆく麻友の背中に、声をかけることも叶わなかった。
麻友は転校して行った。
まだ、メールするぐらいの中ではあった。
『友達でいよう』
そう、麻友が言ってくれたから。
私といえば、不幸が続くに連れて周りから何もかもが劣っていった。
学校さえ、休みたいと願うようになった。
勉強も追いつかなくなっていた。
周りからの接し方はいつでも、劣っている私を憐れんでいるようにしか見えなかった。
逃げ出してしまいたい。この現実から。
甘いことを考えているんだろうな。
そうはわかっていたが、思いは止まらなかった。
そんな時、出席番号が一つ前のあの子は、私に心から接してくれていた気がした。
初瀬涙。身長も大きくて、私は涙と麻友を重ねてしまっていた。
「ね、未来」
休み時間中のこと。
「んー?」
私はいつものようにつまらなそうに窓の外を眺めながら曖昧に返事をした。
「へへ…可愛いーなー♪大好き!」
…一瞬。その言葉に期待してしまった。
涙は普通の子。わかっていたつもりだった。
私もやっぱりおかしいのかなー…。
「うん、私も大好き」
こんな会話、日常茶飯事だった。
私と涙はいつもセットで、仲良くしていた。
このときはまだ、涙がどんな子か全然知らなかったから。
辛いのが私だけなんて、勝手に勘違いしていたんだろうな。
涙はすごく、強い子だったと思う。
私みたいな弱虫と違って。
私はいつも、自分の出来なささを偽って生きてきた。
強い子といわれたって、誰かに縋りたかっただけ。
涙は、私が甘えることを唯一許してくれた存在でした。
私を傍に置いてくれました。
その頃から、私はもう、涙のことが好きだったのかな。