恋情の交差
「浦田さんのことは…、やっぱり麻友ちゃんでいいのかなぁ?」
私の目の前で、私の憧れの人が…笑顔で喋りかけてきている。
嬉しくて、嬉しくて。
笑おうとも思ったわけではないのに、自然と笑みがこぼれた。
「いや、麻友でいい、寧ろ麻友でお願いしますッ」
気がつけば声もいつもより大きくなっていた。
「そう?じゃぁ麻友ね♪」
いつだって見てきた、その彼女は私に今…私だけに笑顔を向けていた。
だけど…。
「もう行けば?未来」
冷たい彩香の声が聞こえた。
え…?なんでそんな言い方…。
問い詰める前に未来が苦笑しつつ返答した。
「うん、ごめんね。私生徒会の仕事もあるし…本当にごめんね」
「バイバイ」
嫌だ。もう少し話しててもいいじゃないか。
頭の中で自分勝手な感情が巡る。
なんで、彩香はあんなに冷たいんだろう…。
「あのさぁッ!」
気持ちが先回りして、自分を突き動かしていた。
不思議そうに振り返る未来に近づき、初めて彼女に触れた。
とは言っても、手を軽く掴んだだけ。
それでも、緊張はピークだった。
「メ…メールとかしてもいい……?」
乾ききった口から出る言葉。どうしても上手く喋れない。
未来はじっと私を見据えている。
しばらくして、またさっきまでの笑顔に戻り、
「じゃぁ、彩香からアド聞いてもらってもいいかな?今メモ帳なくってさぁ~」
未来のまったりとした口調がいつもどおりに流れる。
「ぁ…ありがと………//」
「じゃあね!」
未来は、足早に去っていった。
頬が赤らんでいるのが自分でも感じられた。
その日の夜。
いつものように布団にダイブして、携帯を開く。
…アドレス。聞いてみるか。
ぱぱっと、彩香にメールを打った。
『未来のアド教えてくれない?』
単純な内容だった。
直ぐにでも返信は来るだろう。
そう思って、少し目を閉じる…。
すると、案の定。手早く返信が来た。
『嫌だよ。教えない。私は…………麻友が好きなの。格好良くて、いつでも優しくて。抱きついたりしてもちゃんと受け止めてくれて。麻友が好き。だから未来には何も譲るつもりはないから。未来にどんなに辛い過去があったからって、未来が泣いたって、私はわがまま言うようだけど誰にも麻友は渡したくないの』
「え…ッ。っ……!?はぁ…!!?」
思わず声を出していた。
な…、どういう話の転換ッ!?
急に告白なんて…それも女子から…。
「…ん?」
気になる言葉があった。
”辛い過去”…?
彩香はどこまで未来を知ってるんだ?
よく考えると私はやっぱり彼女の何も知らなかった。
あんなに未来が好きなのに。どうしてなんだろう。
…………………好き?
私が?未来を…?
何も考えずに出た言葉だった。
好きなのか、自分は未来のことを。
もう…、隠して自分を誤魔化すのはやめようか。
そうだ、おかしな愛情かもしれない。
でも…もう隠さない、逃げない、誤魔化さない。
私は未来が好き。
初めて見たあの時から、ずっと彼女だけを見ていたじゃないか。
まだ彼女のことは何も知らない。
彩香よりも。でも、これから知っていくことはできるんだ。きっと。
だから諦めない。
彩香が私のことを好きと言ってきても、揺らぎもしない。
これから、…いや、これからも彼女を見続けよう。
『ごめん。気持ちにこたえられそうにない。私は未来が好きだから。嬉しかったよ、ありがとう。』
心からの、謝罪と、気持ち。
いつか未来を振り向かせる、そう自分に誓えた気がした。