出会い
桜の花がまだ咲き始めたばかりの入学式。
天候は生憎の雨で・・・。
担任の先生はお姉ちゃんの元担任だった人。
知らない人だらけの教室。
ぶかぶかの制服。
無邪気にはしゃいでいる同級生の子達。
何もかもが新しい環境に包まれていた。
そんな入学式。
でも、私は怖くて怯えていて・・・誰とも関わろうとしませんでした。
浦田麻友。13歳の中学一年生。
いつも一人で自席に座ったままの少女が気になってた。
彼女はいつも本を読んでいるか、寝ているか。
みんなが楽しそうに話している休み時間でさえ、つまらなそうに窓の外を眺めていた。
とても可愛い顔の子で、髪は真っ黒なロングヘア。
男子を女子も彼女に近づきたがっていた。
でも、彼女は誰とも話したがらない子だった。
彼女の名前は花田未来。
いつも花田さんを遠くから見つめる日々が続きました。
そんな時、
「ん……えっと………浦田さん…だったっけ?」
不器用で戸惑った声が教室に響いた。
賑やかだった教室は彼女の声で静まり返った。
自分の名前を彼女が呼んでいる。頭の中にはそれだけだった。
「え、あ…うん!浦田です…けど…」
なんでだろう。
上手く言葉が出てこない。
やけに緊張する。
でも…嬉しかったのもなんでだろう?
「プリント…落ちてたから」
花田さんは笑顔を見せることすらなく、私にプリントを差し出した。
と、その瞬間。
男子達が一斉に自分のプリントをバラまく。
「「花田さぁーん!俺もおっことしちゃったっ!!」」
男子の止まらない『拾って』コール。
花田さんは意外と素直で優しい性格らしく、拾おうかどうか戸惑っていた。
まったく・・・可哀想じゃん。
そうは思うけど、女子より多数の男子を静まり返らせることは難しい。
すると、花田さんは床しゃがみこんでプリントを一枚ずつ拾い始めた。
「そんなこと、しなくていいじゃん」
気づけば声が出ていた。
「勝手に落としたんだからさ。ね?花田さん」
私がそういうと花田さんはじっと私を見つめた。
男子からは止まないブーイングの嵐だったけど、別にいっか。
花田さんは一応全部拾って一人の男子に手渡すと、私に柔らかな笑顔を向けて「ありがとう」と言った。
自分では思ってもみなかった。
自分だって女なのに。初めて心から女の子に可愛いと思えた。
それから…関係がおかしくなっていくなんて考えもしなかった。
次の日。
身体力検査というものがあって、みんな体育着でクラスごとに学校内を行ったり来たりしていた。
身長、体重、座高、視力、聴力、体力…………。
様々な検査で、私は花田さんについていろいろ知れた気がした。
身長は145cmと小柄。体重だって見るからに軽そう。
ただ意外だったのが、足がかなり速かった。
ま、ある意味で完璧な女の子。顔も可愛いし、小柄だし、足は速いし?
私といえばまぁ、平均より少し上回る程度。
身長だって165cm、大きいとはいわれるけどそこまでじゃない。
足は意外と速いって自分でなんとなく思える程度。
花田さんほど速くはなかった。
それからだ、花田さんはクラスの人気者になった。
誰にでも笑顔を見せれるぐらいに元気な子になって、誰と問わず仲良くしていた。
勿論、私も花田さんとはそんなに話さなかったけど好きだった。
どんな感情で好きだったと聞かれると…よくわからないが…。
いつか絶対仲良くなる。
よくわからないけど、そんな気がしていた。
そして、一月。
このクラスももう二ヶ月程度で終わりという時。
転入生がきた。
山田彩香という子。
これまた小柄な女の子。花田さんよりは大きいだろうけど…。
ショートカットで性格の強そうな瞳。
その子とは簡単に仲良くなれた。
花田さんよりも人懐こくて、足も速く、あっという間にクラスのムードメーカーになっていた。
私は彩香とすぐに仲良くなった。
同じ部活でバスケ部に入部して、いつでも一緒だった。
「麻友ぅううッ!部活いっくよー♪」
彩香の明るい声とともに彩香が抱きついてくる。
「うしッ、いくぞ!」
私と彩香は似ているところが多かった。
周りから男扱いされてたし、いいペアとも言われていた。
その時だった。
花田さんがじゃれている私達の傍をとおりすがっていった。優しい香りがした。
相変わらず、花田さんは優等生で…完璧な存在。
手が届かなかった。
とおりすがって行ったと思ったのに。
彩香が明るく花田さんに声をかけたのだ。
「あーッ!!!無視は無しだぞ!未来!!」
…………え?未来?
そういえば、花田さんの下の名前もちゃんと知らなかった。
未来っていうんだったっけ?彩香は…なんで花田さんと仲良いんだろう?
考えがぐるぐると回る。
「あはははッ。ごめんごめん、無視したつもりはなかったんだけど」
花田さんの楽しそうな声が近くで聞こえる。
彩香は私から離れると花田さんに抱きついた。
「未来ー、今日は何時まで部活?待っててくれるよな?」
すごく、人懐こい彩香が羨ましく思えた。
届かない存在だと思っていた花田さんは、話しかければいつだってすぐ近くに居たんだ。
そう思うと、もっと早くから仲良くできたのに、と後悔していた。
「部活ね~、五時までだよ。でも今日は塾だからごめんね~」
花田さんは楽しそうに項垂れている彩香の頭を撫でていた。
その刹那。
花田さんと目があった。
こんなにまっすぐ見つめられたことはなかった。
花田さんはぺこりと私にお辞儀した。
いつの間にか背も伸びたみたいで150cmはあるだろう。彩香より大きかった。
「あ…、ども。えと……花田さん」
私がぎこちなく名前を呼ぶと、
「いいよいいよ。未来で」
花田さんは笑顔で答えてくれた。
どうしてだろう?
こんなに嬉しく思えたのは。
どうしてなんだろう?