初恋トレーニング
「これは、デートじゃない。そうトレーニングだ。明日のデートの予行演習なんだ」
僕は、彼女に説明する。彼女は「ふうん」と興味なさそうに答える。それから反論した。
「ていうかさー。トレーニングだとか、予行演習とか全部無駄じゃない? とっとと好きだって告白して、それからデートして楽しめばいいじゃない。何でそれができないの? 面倒くさッ!」
幼なじみの彼女は、容赦ない言葉を僕に浴びせる。ここで彼女に見捨てられたらトレーニングは終わる。
「待ってくれ! 頼む! トレーニングに付き合ってくれ! 一生のお願いだ!」
「分かったわよ。仕方ないわね。トレーニングに付き合うわ」
「ありがとう! 助かるよ」
こうして、僕たちはデートのトレーニングを始めた。何気ない会話もトレーニング。彼女を褒める言葉すらトレーニング。
そして、トレーニング終えた翌日。これは訓練ではない本番だ。
本命の好きな子とデートする。予行演習はバッチリだ。トレーニングは完璧だ。
そして、本命の子とのデートは終わった。
次の日、トレーニングに付き合ってくれた幼なじみの彼女に会った。彼女は真剣な表情だった。
「それで、本命の彼女とのデートは上手くいった? トレーニングの成果はあったのかしら?」
「あ、ああ…… トレーニングの甲斐はあったよ。デートは上手くいった。でも違うんだ。楽しくなかったっていうか、これじゃなかった」
幼なじみの彼女は、ちょっとムッとした顔をする。
「せっかく人がデートのトレーニングに付き合ってあげたのに。何よそれ! いったい何が不満なの?」
「それが…… 楽しかったのは、デートの本番よりトレーニングの方だったんだ…… 本命のあの子といるより、お前といる方がずっと楽しくて、胸がドキドキした」
「ちょっと何言っているのよ! それじゃあまるで……」
彼女は顔を紅くしてうつむく。
「僕が好きなのは、君なんだ。一緒にトレーニングしてくれた君が好きなんだ!」
僕は彼女の目をまっすぐに見る。彼女は驚いた顔をして、頬を紅潮させて、伏し目がちに言った。
「私でいいの? 本当に?」
「君がいい。君が好きだ! これはトレーニングじゃなくて本当の気持ちだよ」
「もう! じゃあ、仕方ないわね。キスのトレーニングもしとく?」
彼女は、微笑んで言った。
「任せてくれ、そのトレーニングならバッチリだ!」