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天国なんていらない

「おい兄貴、やっぱり前情報の通りだ」

「本当にあんなナメた武器で来やがった」


路地にたむろした仲間たちが口々に、俺に敵の到来を知らせる

ついにこの時が来た


俺達6人は「六文銭」という名前でこの街で好き勝手な暮らしをしていたが、今回の喧嘩だけはそれまでとは違っていた



「来たか、死神…」


俺が苦々しい表情を向けると、死神は不敵な顔をして鎌をこちらに向けた


『お前達はもう長く生きた』



────俺達は強くなり過ぎた


別に世界の王様になった訳ではないけど、悪い事なんて沢山やったし、女子供も星の数くらい泣かせたと思う


「世間的・一般論的には俺達が悪」なんだと客観的に解るし、人間よりもすごい神様とかがやって来て殺されたって、むしろ「それで当然だ」って解る



でも俺達は今日、自分を裁きに来た正義をブッ殺すために集まっていた


みんなもう家庭もあるし、先日子供が産まれてパパになった奴だっている

「お前は悪い奴だから」で殺されてる場合じゃない事は全員がはっきりと解っていた


多分、覚悟の無い奴なら「お前は罪を犯した」って言われたら自分を責めて、泣きながら命を差し出したと思う


でも、俺達からすると「生きる」っていうのはそういう事じゃない

みんな自分の女のためなら命を張れるし、悪い事だっていくらでもやれた


たまに「世界のみんなが笑顔になるために」とか言う奴がいるけど、俺達はそんなの信じない


「自分の大切な人を笑顔にするためならどんな事でも出来る」みたいな奴を俺達は尊敬していたし、そのために手を汚せない奴の事をみんな軽蔑していた


「自分が正義でなきゃ喧嘩も出来ない」なら、もうそいつは死ぬべきだと俺も思ってる




「てめーナメんなよ、コラ」

俺達は既にそれぞれの武器を手に、敵を取り囲む形で立っていた


人間が相手であれば拳銃を持ってたとしても向こうの命は無いし、こちらは怪我の一つも負わない状況だ

それでも俺は「多分俺達は、ほとんどみんな死ぬな」という予感を感じていた


みんなも強いから恐れを見せないようにこそしていたが、長い付き合いの俺には緊張が見て取れた



──初めに死神の鎌が一瞬閃いたかと思うと、もう俺以外の5人の首が同時に地面に転がった


『あとは相応しい最期が用意してある』


死神が言うと、路地の暗がりから人の形をした影のようなものが次から次に現れ始めた


『お前達を恨みながら死んだ者達の魂だ』



こいつらに俺をいたぶらせるつもりなら相当陰湿だ


それが正義なんだろうか

俺は思った


俺は馬鹿だから、ちょっと解らなかった

でも、これが正義なんだろう


「人間は恨みを持って死ぬと、こういうのになんのか?」

俺が聞くと死神は答えた


『そうだ、死後も魂は存在する』


『お前達の魂は永遠に苛まれ続ける』


自分が優位に立っているからか得意になってつまらない事を喋っていたが、必要な事は聞けた

それで十分だった


「お前ら強い奴らにイジメられるから、すべて諦めて虫みてーに生きろってか」


「俺達はそんなのごめんだね」



汚ねえ亡者共が俺に殺到する


──多分、死ぬより酷い目に遭わされて死ぬ


今までの人生の、どの瞬間よりも怖かった

でも俺は背筋を伸ばし腕を組んで、笑った




────


「テメーらみてえなのが一番ムカつくんだよ、コラ!」


それこそ地獄のような時間が流れたが、俺達は死神と亡者に勝利し、そいつらを蹴り転がしていた



死神の言っていた事は本当だった


「死後も魂は存在する」

しかも仕組みは解らないけど、恨みが強いほど喧嘩も強いらしかった


俺は死ぬより何百倍もすごい痛みと屈辱の末に命を奪われ、その後もこの路地で痛めつけられ続けた


どのくらいの時間が流れた後か知らないけど、それでも六文銭のメンバーは助けに来てくれた

俺達はやっぱり仲間だった


「これからどうする?こんな見た目じゃ家にも帰れねえぞ」

誰かが言った


全員が顔を見合わせる

確かに、いまや俺らも影のような亡者の姿になっていた


俺は「知らねえよ」と答えた


成り行きで死神も殺してしまったし、多分俺達はもっと強い奴らから目を付けられた事は間違いなかった



でもそれって、今までとあまり変わらない気もする


生きてると色んな奴から目を付けられる

痛い目にも遭わされるし因縁も付けられる


でも、後悔だけは俺はしたくなかった


「考えても仕方ねえよ」



「六文銭は、もう一銭も無えけどさ」


「そもそも要らなかったのかもな、天国」


いま言った事の意味が、みんなどれだけ理解出来てるか俺には解らなかった

でも、俺達は何処へとも無く歩き出した

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