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解説

 前話あとがきを読んで、ここまで来て下さった方、ありがとうございます。

 ここからは、本編の解説を私の気が済むまでしていきます。良ければお付き合い下さい。

 

 ※本編を読まずにこちらを読む方がおられましたら、ネタバレ含みますのでご了承下さい。

 

 *****

 まず作品全編を通して、私が気にしたことは、本文の文体です。

 この作品の中で大きく出てきたのは、『波北なみきた朱音あかね』『谷山たにやま雄大ゆうだい』『清水しみず伊織いおり』そして、[紫の海になって、]の作者である『月海奏(月岡つきおかかなた)』です。

 私はその中で幼なじみ三人組の文は意識して文体を変えました。

 朱音の場合は、『~していた』『~した』

 雄大の場合は、『~してもらった』『~してくれた』

 奏の場合は、『~された』

 という文を作るようにしました。(伊織の場合、何も意識していないが、多分奏の文体に寄っている。)これは、作品としての大きなこだわりポイントです。三人の性格をわかりやすく表せたかなと思います。


 加えて登場人物それぞれの親へ対する気持ちの対比もこだわりました。これはそれぞれの性格が表われているのではと思います。(これは本文を読めばわかるので省略)


 *****

 では第一章目、朱音と伊織の出会いから始まる物語について見てきたいと思います。

 まず、私がこの章でこだわったのは『伊織=女性』であることを読み手に隠すように描写したことです。

 途中の朱音の語りから伊織が女であることは発覚しますが、それまで伊織が自分のことを『私』と呼ぶシーンは一つも作りませんでした。

 『同性愛に批判はない』と口では言う人でも、恋愛している人たちを見た時に、『男女』と決めつけて見ていることがあるのではないか。

 そういった観点からあえてこういった描写にしました。読んでいる読者はどうなのか、というの問いただすようにしたかったのです。

 伊織を女にする必要があったのか、と私は途中で考えもしましたが、結果的によかったと思いました。なぜなら、朱音が『出されたものしか出来ない』『自分で選べない』性格だったからです。

 朱音のこれまでは、女である伊織は『選択外』であったはずですが、最終的には伊織を自ら選べるようになりました。朱音の成長を描くには、伊織が女であることは必要不可欠なことだったのだと自分でも思います。


 ここは改稿する前とあとでは大きく変わっています。初め、この章で[紫の海になって、]のプロローグを入れていませんでした。

 [紫の海になって、]を序盤で入れてしまうと物語の展開が読めてしまうのではないか、という不安がありました。でも、ここであえて入れたことで、『朱音が理解出来ない=近しい人だとしても、全てをわかりあえるわけではない』ということが書けたかなと思います。


 ところで皆さんは朱音のことをどう思いましたか。

 私は『無神経』を意識して朱音を書きました。

 

 失礼に値するのを承知で言いますが、朱音のような学年十位以内でもなく、頭が良いという部類でもなく、それよりもずば抜けて秀才である子は、どことなく何かがおかしい気がします。

 良い意味なのか、悪い意味なのか、多くの人間(普通かどうかとかではなく)とどこか合わないようなところがある気がします。何かが浮いているというか。

 でも、だからこそ秀才なんだろうなと思います。

 私の言う朱音の『無神経さ』は雄大に対する発言からよくわかるかなと思います。

 

 *****

 それでは第二章にいきたいと思います。

 この章は本当に何も考えずに書きました。(笑)

 多分、一日か二日で全て書き切った気がします。それぐらい、すらすら書けました。

 とにかく、一章で呑気に見える雄大を苦しめれば良かったからです。あ、でもあえてこだわったと言えば、始めに朱音と伊織が付き合っていると知ったときに、嫌悪感を抱いたところです。

 最初雄大に『朱音が女と付き合っていること』に嫌がっているのでは、という嫌悪感を滲ませました。しかし、後になって『朱音が女の子を好きならば、自分は選択肢に入らないこと』に対して雄大は悔しがっていたということを明らかにしました。

 ここは改稿する前、もっと雄大が嫌悪感をあらわにしていたのですが、少し薄れた気がします。私の力不足ですね。


 雄大は、『同性愛に否定はしないが、自分が男であるという自覚はある』というところに重きを置きました。あとは、『人を疑わない』、『意外と自分のずるいところは口にしない』というところです。

 自分のずるいところを口にしないことで苦しむ人(後の奏)もいますが、それに気付かない人、もしくは気付いても苦しまない人がいるのが現実かな、と思います。雄大は確実に後者です。

 

 二章については多く話すことはありません。

 最後の、飛び降りた伊織を多くの人が動画に撮っているあたりは、現代らしいななんて皮肉めいた表現をしてしまいました。

 二章最後の『清水伊織の手にある携帯が、ずっと振動していた』は、私的に大切な一文です。

 じゃあ次へいきましょう。


 *****

 三章は、私にとってとにかく辛かったです。

 清水伊織という人物の性格や家族関係は前々から決めていましたが、いざ伊織の自分を卑下するところを書くと、私が伊織を傷つけているみたいで辛かったです。

 この作品が最初に完成したとき、もっと視点入れ替えが何回もあって、三章のシーンは朱音視点も作っていました。『伊織が飛び降りた後、朱音がどうしていたか』『朱音が思っていたこと』を詳しく書いていました。こちらに投稿したものでは、後者は上手く組み込めたかなと思いますが、前者が入れられませんでした。(最終章の伊織視点のところで、飛び降りた日に電話をかけてきていた人物が明らかになりますが・・・・・・。)

 つばさと朱音がどうして一緒にやってきたかは、もう書かなくていいかなと思います。みなさんの妄想で補完して下さい。

 というのも、神崎かんざきつばさという人物は、この作品中で唯一明らかになっていない人物なので、この人だけはみなさんの妄想で作り上げてほしいなと思います。

 つばさならどういう行動に出たのか、正解はありません。もちろん私が書いた以前のストーリーはありますが、もうそれは出すつもりはありません。

 つばさの話はここまでにして・・・・・・・。

 

 伊織という人物について。

 彼女の大きな変化は、『嫌いだった自分を好きになれたこと』です。これまで自分がどんなにひどく扱われようと伊織はそれを『当たり前』としてきました。レズの自分が気持ち悪がられるのは当たり前、自分の持つ気持ちは気持ち悪い、そう思ってきました。

 でもそうではないことに気付きます。それが朱音の存在です。

 朱音が好きだと言ってくれ、それが泣くほど嬉しかった。そして、朱音も伊織の気持ちを受け取って嬉しく思っている。それがわかり合えたとき、二人は本当の意味で結ばれたのです。 

 

 この章は、伊織が[紫の海になって、]を読んでいる描写を書きました。そしてそれに共感している描写を書きました。

 ここでは『仲が良い人と必ずわかり合えるとは限らない』ということを伝えたかったのです。

 遊んでいて楽しい人と必ずしも価値観を共有し合えて、それに共感し合えますか?

 一緒に騒ぎあえる人が、本当にわかり合える人ですか?

 『仲が良い』と『わかり合える』は別物だと私は思っています。

 みなさんはどうでしょうか?身近な人で考えてみてもらえたらと思います。


 そして私はこの章でとても伝えたいことを奏に言わせました。

 奏からのメールです。

 『(前略)恋愛がしたくないのか、したい人と出会えていないだけなのかわからないからです。でも自分のことを無性愛者であると思っています。そう思わないと、生きていけないからです』

 伊織の『あなたは無性愛者ですか?』という質問の答えです。

 この奏の答えはとても重要な意味を持っています。

 

 私はいつも思います。

 『私は同性愛者です』『異性愛者です』『無性愛者です』

 どうやって、自分をそう判断したのだろう、と。 


 世界中の人に会って、私はやっぱり女の人にしか性的興奮を覚えなかったな、だから同性愛者だ、とでも言うのでしょうか。

 私が暴論を言っているのは承知の上です。しかし、謎で仕方がありません。

 同性愛者を気持ち悪い、と思う人は、自分は絶対に同性に恋をしないのでしょうか。仮に世界に、自分と同性の人二人きりになったとして、絶対に恋をしないのでしょうか。可能性はゼロなのでしょうか。

 私の頭の中にはいつもそんな疑問があります。


 第三章はこのくらいかな、と思います。

 (ちなみに、伊織の病室である四二八号室、四つ葉にしたのにもちゃんと意味があるので良かったらくわしい花言葉を調べてみてください)

 *****

 そして第四章。

 第四章のために、私はあそこまで小説を書きました。

 朱音が伊織に出会うのも、雄大が親に苦しめられ、そして解放されるのも、伊織がいじめられ、そして朱音に救われるのも、全部このための前座です。

 この作品は、『全てを詰め込みすぎだ』と評価されましたが、そうでないと意味が無いのです。

 四章のためだけに、奏の評価を上げてきました。理不尽なほどに持ち上げてきました。

 奏の性格や、これまでの事実については第四章で全て明らかにしているので、作中で一番こだわった[紫の海になって、]の九話から最終話にかけての話のことを書いていきたいと思います。


 いきなり、九話の終わりあたりから現実味が消えたと思います。

 急にお茶のような声の主が出てきます。声だけが聞こえるのは、人が死ぬときに最後まで残る感覚が聴覚であると言われているからです。

 この声の主を奏は『聞いたことがある』と言います。

 そして、この声の主は、奏のことを『昔息子と娘と一緒に見た花火によく似てる』と言います。

 この話で、息子と娘、つまり姉弟で登場したのは一人のはずです。

 プロローグ、エピローグにある、『花火が綺麗なんだって!』という言葉からわかるように、お茶の声の主の子供は誰かに花火が綺麗なことを教えてもらっているのです。小さな時に見に来たことがあるのでしょう。それをきっと奏に話したのでしょう。

 奏が物語の中でお茶の声の主を登場させたのは、物語の中でちゃんとお茶の声の主が生きていることを伝えたかったのでしょう。もしくは、自分が死ぬためだけの材料に過ぎないのかもしれません。

 ここは私ですら明確にするつもりはありません。奏が書いた[紫の海になって、]は本編に出てきますが、奏自身の本当の気持ちを描いた描写は本編には出てきません。

 嘘つきの奏だったから、[紫の海になって、]の話も嘘が混じってるかもしれませんね。


 [紫の海になって、]の最後。

『月よりも、お前らと見る花火の方が、綺麗でした。』

 わかる方が大半と思われますが、『月が綺麗ですね』を自己流にしました。月よりも、という表現を入れることで、思い人よりさらに重い思いを抱いていることを表現しました。

 そして、その文から少し戻ったところ([紫の海になって、]『九話』)にある、

『俺が死んでも良いと思えた理由はお前ら二人なのだ。

 そう思わせてくれ。他のことは忘れさせてくれ。』

 と言う文は、月が綺麗ですねに対する『死んでも良い』の言い換えです。これも自己流(自己満足)です。


 奏という人物は、どうしようもなく幼稚で、どうしようもなく優しい人間にしました。

 

 長くなりましたが次で最後です。

 

 *****

 最終章、度々鳴っている爆発音はもちろん花火です。

 伊織は花火を見て、『綺麗な彼』にメールを送ります。その『綺麗な彼』はもちろん、自らが書いた作品のあとがきで、『花火になりたい。』と言っていた奏です。

 [紫の海になって、]のタイトルは読点で終わっていますが、この先には何が入るかはもう予想できたと思います。この先をあえてタイトルに付けなかったのは、奏の性格からです。言いたいことを言えない、そんな奏の性格を表しました。

 

 この後の展開で、外にいるつばさの目には花火が映ります。

 それを見た伊織は『奏の気持ち=名前も付けられないような幼なじみに対する特別な愛情』を自分もちゃんと持っていたことに気付きます。

 ちなみに第三章で、伊織の病室へ顔を出したときのつばさの第一声は『やっと起きたか!』です。

 いったい何があったんでしょうね。


 最後、女子高生ら二人は『月海奏』を『つきうみかなた』か、『つきみそう』かで言い争っています。

 みなさんは一体どちらだと思いますか。

 今一度タイトルを読み直してもらえたらわかると思います。そして暇なら花言葉でも調べてもらえたらと思います。タイトルが、全く別の意味に聞こえてくるはずです。


 *****

 

 名前のない夜の花~君が死ぬためだけの話~

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 タイトルにある、『君が死ぬためだけの話』というのは、『奏が死ぬためだけの話』という意味もありますが、私の趣旨は別にあります。


 それは『作者である私が死ぬためだけの話』です。

 

 

 朱音の悩みも、雄大の苦しみも、伊織がいじめられるのも、奏が親に殴られるのも、全て私のための話。私が死ぬためだけにある話。

 過去の私が書いた未来の私(=君)が死ぬためだけの話。

 私はこれを遺書を書く気持ちで書きました。これを残して死んでも今の私に悔いは何一つありません。

 だからこの作品を、バッドエンドかハッピーエンドと捉えるかは人それぞれ何じゃないかなと思います。



 共感されたい。

 私も奏と同じようにその気持ちでこれを書き上げました。

 とても苦しい時間だったけれど、書き上げられたときの達成感は今でも忘れられません。

 この小説を通して、自分の言葉に何らかの意味があれば、誰かの気持ちを少しでも動かせれば、嬉しいなと思います。


 満足に死ねそうです。


 それではみなさん。さようなら。ありがとう。

 

 


みなさんは私が死んだとき、この話をハッピーエンドにしますか? バットエンドにしますか?

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