エピローグ
キュッとシューズの音が響く体育館。外の気温は三十二度。
「奏も一緒に夏祭り行こうぜ! 花火が綺麗なんだって! 朱音と行こう! って言ってたんだよ! だめ? お願い! 俺お前と行きたい!」
雄大は両手を合わせ、奏に頼み込む。奏はずっと、困った顔をしている。そこに、バスケットボールを持った湊が近づいてきた。
「奏。行って来なよ」
「うん」
奏は湊に背中を押され、やっと了承した。
その年に初めてお祭りに行った三人は、ただの小さな町で行われる、どこの町にもある夏祭りに惹かれた。
それぞれ祭りの別のところを気に入った。雄大は食べ物の多さに惹かれ、朱音は隠れて行われる結婚式のような雰囲気に惹かれて、奏は綺麗な花火に惹かれた。
「すげー! 綺麗だな!」
「そうだね」
雄大と朱音は初めて見た打ち上げ花火に夢中になった。ずっとうつむいていた奏は、二人の声を聞いてから、初めて空を見た。
奏がぱっと見た空には、
何も無かった。
「綺麗だね」
でも奏はそう言った。
「かき氷食おうぜ!」
そう言って走り出す雄大は、小学三年生のときに転校してきて、すぐに気になっていた朱音と二人で夏祭りへと約束をした。でも、夏祭りの前の週に開催されたバスケの試合で、ミスをしてしまって落ち込んでいる奏を元気づけるために、雄大は奏も誘った。
雄大はそんなことを思い出しながら、かき氷を買って持って朱音の元へと帰ってくる。
「かき氷買ってきたぜ!」
今年も雄大は、元気に走って三つのかき氷をバイトで培われた技術で器用に持ってきた。
「はい! 朱音!」
雄大は、紫色のかき氷を朱音に渡した。
「なんでいつもそのチョイスなの?」
朱音は好きな味のかき氷を渡されて嬉しそうだ。
「イメージカラーだよ」
雄大はどや顔でそう言って、海の色をしているかき氷を口へと運んだ。
彼らの隣に置かれた真っ赤なかき氷は水となって、少しずつ空に解き放たれていった。
まるで花火が打ち上がるかのように。
バァン!
はしゃぐ人間たちと同じように、花火も嬉しそうなほど騒いでいた。
それを見て誰もが綺麗だと夢中になった。
もちろん二人も。
「綺麗だな」
「うん。それに温かいね」
「そうだな」
大きすぎる花火の音を、二人は抱きしめるように聞いていた。
そこに置かれるかき氷の溶け残りぐらいの涙を零しながら。
次回最終話です。
最後までよろしくお願いします。




