【月岡湊】誰がために
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流れ出る涙を、喪服の袖で拭う。
パソコンのキーボードには、液体をこぼしてしまったかのような、白いシミがいくつもあった。
奏はこれをどんな気持ちで書いたのだろう。
そう思うとまた、涙が溢れた。
奏が、夜中コソコソしているのは知っていた。両親が寝た後、いつも奏の部屋から物音がしていた。
あぁ、そうか。奏はこれを書いていたのか。
クリスマスの朝、奏がいなくなったと知って僕は、汗水流して奏を探し回った。
奏が外に放り出された冬の夜のことを思い出しながら、走り回った。
そして、冬の冷たい海の砂浜に置いてある奏の靴と携帯を見つけた時、後悔が頭の中をよぎった。
そこから一一〇に通報した。
たくさんの人と一緒に奏を探したけれど、海岸に打ち上げられた奏を発見したのは、僕だった。
救急隊員は「死体が綺麗な状態で見つかっただけ奇跡だ」なんて言っていたけれど、僕にとっては奇跡でも何でもなかった。
奏が、裸足でどこかをふらついているだけかもしれない。
その淡い期待が打ち砕かれた瞬間だった。
心臓をとんかちで殴りつけられたような気持ちになったのに、奇跡だなんて思えるはずがなかった。
それから僕は、病院内でストレッチャーに乗せられている奏を見ながら、何度も叫んだ。
嫌だ。
奏が死ぬなんて嘘だ。
泣いていてもいい。怒っていてもいい。笑っていなくていいから、いますぐ起きて。
ごめん。
奏、ごめん。
誰に止められても、慰められても、僕はずっと叫んでいた。
これまでずっと、何度も殴られ、けなされている奏を見ていながら、僕は、『奏なら大丈夫』と思い込んでいた。
そう思い込むことを、行動しない言い訳にしていた。
流れ出る涙が止まらないので拭くことを諦めた。
パソコンの画面をスクロールしていくと、最終話の続きがあることに気がついた。
それをクリックして開く。
ぼたり、ぼたりとキーボードの上に僕の涙が落ちていく。
スクロールしながら、画面に映る文字を見る。
奏。
僕、兄らしいことは、何も出来なかったけど、最後に一つさせてくれないかな。
僕はパソコンを握り絞めて、外へ飛び出した。
そして、雄大くんと朱音ちゃんの家へ向かった。




