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【月岡湊】誰がために

 *****

 流れ出る涙を、喪服の袖で拭う。

 パソコンのキーボードには、液体をこぼしてしまったかのような、白いシミがいくつもあった。

 奏はこれをどんな気持ちで書いたのだろう。

 そう思うとまた、涙が溢れた。

 

 奏が、夜中コソコソしているのは知っていた。両親が寝た後、いつも奏の部屋から物音がしていた。

 あぁ、そうか。奏はこれを書いていたのか。

 

 クリスマスの朝、奏がいなくなったと知って僕は、汗水流して奏を探し回った。

 奏が外に放り出された冬の夜のことを思い出しながら、走り回った。

 

 そして、冬の冷たい海の砂浜に置いてある奏の靴と携帯を見つけた時、後悔が頭の中をよぎった。


 そこから一一〇に通報した。

 たくさんの人と一緒に奏を探したけれど、海岸に打ち上げられた奏を発見したのは、僕だった。

 救急隊員は「死体が綺麗な状態で見つかっただけ奇跡だ」なんて言っていたけれど、僕にとっては奇跡でも何でもなかった。

 奏が、裸足でどこかをふらついているだけかもしれない。

 その淡い期待が打ち砕かれた瞬間だった。

 心臓をとんかちで殴りつけられたような気持ちになったのに、奇跡だなんて思えるはずがなかった。


 それから僕は、病院内でストレッチャーに乗せられている奏を見ながら、何度も叫んだ。


 嫌だ。

 奏が死ぬなんて嘘だ。

 泣いていてもいい。怒っていてもいい。笑っていなくていいから、いますぐ起きて。

 ごめん。

 奏、ごめん。


 誰に止められても、慰められても、僕はずっと叫んでいた。

 

 これまでずっと、何度も殴られ、けなされている奏を見ていながら、僕は、『奏なら大丈夫』と思い込んでいた。

 そう思い込むことを、行動しない言い訳にしていた。


 流れ出る涙が止まらないので拭くことを諦めた。

 パソコンの画面をスクロールしていくと、最終話の続きがあることに気がついた。

 それをクリックして開く。

 ぼたり、ぼたりとキーボードの上に僕の涙が落ちていく。

 スクロールしながら、画面に映る文字を見る。

 

 奏。

 僕、兄らしいことは、何も出来なかったけど、最後に一つさせてくれないかな。

 

 僕はパソコンを握り絞めて、外へ飛び出した。

 

 そして、雄大くんと朱音ちゃんの家へ向かった。


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