【谷山雄大】衝撃
そして、二年生がやっと学校に戻ってきた月曜日。
朱音は委員会だから、今日は一人で帰路についた。
昨日の奏の家のカレーは美味しかった。
人の家のカレーは個性の味をしている。
家ごとに少しずつ風味が違って、それが美味しい。
そんなことを考えながら、歩いて行く。
家に帰ったら、昨日動画を見ながら取り組んだ筋トレをもう一回やろう。そして終わったらランニングもしよう。
生ぬるくて気持ちいい風が、びゅーっと吹いてくる。
ずっとこのくらいの気温が良いのにな、と思いながら歩いて行く。
団地へと近いていくうちに、何やら人がたくさん集まっているのに気付く。
何だ?
何か珍しい動物でもいるのか?
ときどき狸がこの辺にやってくるから、みんなそれを見に来ているのだろうか。
遠くから救急車の音が聞こえて、その音はだんだん近づいてきた。そして、救急車はかなりのスピードで俺を抜き去っていき、人だかりの手前で停車した。
何かの事故だろうか。
俺は救急車の止まったところへ、とぼとぼと歩いて行った。どうせ、一階に住んでいるおじいさんがまた呼んだんだろう。
よく、「ゆうたくん」と俺の名前を呼び間違えるおじいさん。声をかけてくれるのは嬉しいけれど、何度訂正しても「ゆうた」という別人の名前で呼ぶのはやめてほしい。
この前はぎっくり腰になっただけで、深夜に救急車を呼んでいたくらいだからな。あのおじいさん、本当大げさなんだよな。
まあさすがに、正月に餅を喉に詰まらせた時はびっくりしたけれど、あの人はあと十年くらいは意地でも生きていそうな精神力をしてるよ。
思い出し笑いをしながら、進んでいく。
なにやら様子がおかしい。人だかりが尋常じゃ無い。
俺は人混みの間から、背伸びするように顔を覗かせて、その現場を見た。
は?
視界に入った情報を、一瞬では理解出来なかった。
人が倒れている。手には携帯が握られていて、足からひどく血を流している。
いや、重要なのはそこじゃない。ここに倒れているのは……。
いや、ちょっと待て。どうしてだ。
「飛び降り!?」
「えー、やばー」
近くにいる中学生が携帯で動画を撮影をしている。そんな不謹慎なことやめろ、と声を荒げたいのに、口からは荒い息しか出てこない。
ぽっかり口を開けたまま、しばらくそこに立ちすくんでいた。
朱音がいるのにどうして?
あんなに幸せそうにしていたのにどうして?
アスファルトの上で、携帯を握り絞めながら血を流して倒れ込んでいる清水伊織を見ながら、怒りと衝撃で、俺はその場に崩れ落ちた。
清水伊織の手にある携帯が、ずっと音を鳴らしながら振動していた。




