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プロローグ
『これを書き終わった瞬間、もう死んでも良いと思った』
朝土 玲唯です。
よろしくお願いします。
キュッとシューズの音が響く体育館。外の気温は三二度。
「奏も一緒に夏祭り行こうぜ! 花火が綺麗なんだって!」
小学三年生の春に転校してきて四ヶ月が経つ雄大は、大きな声を体育館に響かせる。
「朱音と行こうって言ってたんだよ!」
奏はうつむいていた顔を上げ、少し困った顔で雄大を見る。
「だめ? お願い! 俺お前と行きたい!」
雄大は声を大にし、体育館中に響かせる。奏は少し困ったような顔をしていた。
そこへ、バスケットボールを持った奏のお兄さん、湊が近づいてきた。
「奏。行って来なよ」
「うん」
湊に背中を押され、奏はやっと了承した。奏はそれでもまだ困った顔をしていた。
小学三年の夏、朱音、雄大、奏の三人は、雄大の一言をきっかけに、毎年一緒に夏祭りへ行くようになった。花火を言い訳にして。