5年前
「終わったー。今回の数テむずくね?平均点下がってますように。」
「確かに今回のはきつかったな。」
「だろ!最後の大問なんか一つも解けなかったし。あーあ。まぁ気晴らしにカラオケでもいこーぜ。」
「ああ。」
「えっわたしもいきたい!」
「もちろんいいぜ。野郎だけだと花がないしな」
俺の名前は瑠衣。諏訪中の1年。部活はサッカー部でポジションはFW、しかもレギュラー。まあ、同じポジションの先輩がけがをしたからってのもあるけど、始めて8か月で試合に出れてるのを考えるとセンスは結構イイ方なんじゃないかって思う。よくしゃべる陽気なこいつは幼稚園からの幼馴染、尊。隣のボブの女の子は由美。周りのやつらは俺と由美が付き合ってるって言ってるけど、まあ、俺の中では仲いい友達ってかんじ。別に彼女って言われても嫌じゃないしあんまり否定もしてないけど。
「なあ、やっぱりお前ら付き合ってんの?」
「またその話かよ」
「そりゃ気になるだろ。幼馴染なんだし」
「もうやめてよー。気まずいじゃーん」
「おれは付き合っててほしいとおもってるぜ。」
「なんで?」
「お前らが付き合うと瑠衣を狙ってる女たちが俺にまわってくるだろ?」
「なにそれ、性格悪。」
「やばーい」
「俺の好きな舞ちゃん。友達から聞いたけど、瑠衣のこと好きっていってたらしいんだよなー。もしお前らが『付き合ってまーす』なんて言ってくれたら俺にもワンチャンでてくるだろ。」
「お前は2番手でもいいのかよ」
「恋愛は”妥協”だぜ、瑠衣」
”恋愛は妥協”か。俺自身、今までの人生で何かを”妥協”した経験はいくつかある。小学校までは兄ちゃんのおさがりを着てたし、みんなが持ってたPSPを俺は持ってなくて、指をくわえながらゲーム画面のぞいてたっけ。まあそれでも、人一倍我慢してたわけじゃない。友達の中にはDS持ってないやつもいたし、サンタさんが来ないってやつもいたから。みんながいつかどこかで妥協しているんだろう。ただ、俺は人間関係では”妥協”したことがないとおもう。クラスで一番かわいかった女の子とショッピングモールにいって”デートもどき”もしてたし、サッカーやバスケやってる、いわゆるイケてる男子ともよく遊んでたし。だから、”恋愛は妥協”って言われるとなにか引っかかるというか、「なんでそんなこと考えてんの?」っておもう。人と人との関係にそんな”制限”なんてのはないんじゃないのって。
「けっこう広い部屋とれたな」
「うちら、ラッキーだね」
このカラオケ、通称”サンカラ”は俺たちのテリトリーの一つ。近くにほかの店もいくつかあるんだけど、サンカラは中学生半額キャンペーンをやってるからお得。まぁ、ぶっちゃけ、別の店にも行ってみたい気もするけど。
「じゃあ、とりま俺の十八番『愛の歌』きいてくれよ」
「でた、いっつもその歌からだよね。最初に感動もの歌うのってどうなの?」
「いいじゃん。この歌うたうのには俺の喉の調子を整えるって意味もあんだよ。瑠衣もわかるよな?」
「わかんね」
こうは言ったけど、尊にはほんのちょっと感謝してる。誰だって最初に歌うのは緊張するし、何より尊は歌がうまいわけじゃないから俺たちのハードルをさげてくれるし。
「愛とは~真心~。恋とは~下心~。」
スマホを片手に俺は尊の歌をききながす。ふと隣に座っている由美のほうを見てみたが俺と同じようにスマホに夢中のようだ。計らずも目えたその画面にはインスタのストーリーが映し出されていた。
「ん?なに?」
「えっ、いや、別に、、、、。何見てんの?」
「この前あげたインスタ。瑠衣と二人で踊ったやつ。これ結構いいねついてて好評なんだよねー。今日も撮ってよ。」
「あーまぁ、あとで」
「ぜったいだよ」
カメラを向けられるのは苦手ではない。昔からたくさん撮られてきたからもう慣れた。やれ運動会だの文化祭だので親はもちろん、友達から一緒にとってくれーって頼まれたから。最初はなんとなく嫌だったけど、減るもんでもないしなって考えるようになってからは断りもしなくなった。
「よっしゃー今日はこれで解散!みんな気をつけて帰りましょう。」
「なにそれ、うちのママ見たい。」
「今日はやけにはやいな。」
「あーわりぃ。この後、ちょっと用事があるんで。それじゃ!」
にやにやしているのをいると、どうやら女らしい。まあ、かといって問い詰めたりもしないけど。
「うちらはどうする?うちこの後空いてるけど。」
「俺は帰るわ。なんか今日やけに眠いし。」
昨日、徹夜でテスト勉強した副作用がどっと来た気がした。遊びたい欲より眠たい欲が勝っている。それに、最近になって由美と二人でいるのがすこしだるくなってきた。早く私に告白してよ的なオーラを醸し出しているのがわかる。俺も付き合いたくないってわけじゃない。実際かわいいし、明るいし。ただ、何か引っかかる。その何かを言語化できるほど語彙力がない自分が悔しい。
「、、、、りょーかい。じゃあ来週。」
「ああ」
俺は後ろを振り向き、最寄りの駅へと足を運んだ。なんとなく由美に悪い気がしたけど。彼女との関係もいつかいい感じになるだろう。今は自分の部屋のベッドでゆっくりしたい。そういうことをかんがえたくない。
いつもの町、いつもの風景が眠気に襲われぼんやりとした視界に入ってくる。何十回と通った道だ。もう体が覚えている。さびれた看板を掲げたパン屋で世間話をするおばちゃん、道端にまとめられた黄色のごみ袋、目の前にある信号があとどれくらいで赤色になるのかさえも。ぜんぶ。
ただ一つ、赤信号に突っ込んできた車を除いて。