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使い捨てカイロ

作者: 森内哲

 「これ、ちょっと借りてもいい?」


 あと一か月もすれば高校受験本番という寒い朝のことだった。私は机の上を指さしながら後ろの席の男子にそう声をかけた。指の先には使い捨てカイロがあった。登校してきた彼がおそらくコートのポケットから出したのだろう。カイロを机に置いたまま、カバンから出したノートと机の中に入れっぱなしだったノートを入れ替えている。


 「――――いいよ」


 こちらを見ずに言った。いつもそうだ。私がどれだけ視線を送っても、彼と視線がぶつかることはない。余程の照れ屋なんだろうけど、会話するときに一度も目を見てくれないのは悲しかった。かなり積極的にアピールしてるつもりだけど、暖簾に腕押し(ぬか)に釘、豆腐に(かすがい)土に(きゅう)


 それでも、恋はいいものだ。好きな人とすぐそばの席で一日過ごせるなら、なおさら。高揚した気分で今の今まで彼を温めていたはずのカイロを手に取った。その温もりのいくらかは、彼自身の体温だったかもしれない。ところが持った瞬間拍子抜けした。


 (冷たい……?)


 以外にもカイロは温まっていなかった。封を切ったばっかりだったらしい。私はそれを手に持ち、何度も上下に振った。しかしカイロは一向に温まらない。

 数十秒振り続けて、ふと気が付いた。


 (わざわざ学校に着いてからカイロの封を切る人っている……?)


 普通はいない。教室の中は暖房が効いているし、そうでなくても建物の中なのだから少なくとも外よりは暖かい。もしかして…………。


 「これ、ひょっとして切れてる?」


 「ううん。昨日の朝開けたばっか」


 無言でカイロを叩き返した。彼が口元だけでほんの少し笑っている。ホント男ってバカ。

実話。最後までお読みいただきありがとうございます。そんなあたなが大好きです。

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