表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/23

厳しい条件

 夕焼けの訪れとともに閉業の時間が近付く頃合い。聞き慣れた石段の音が響いて、メモリアとヴェルメリオのでこぼこコンビが帰ってくる。


「帰ったぞぉ!」


 到着するなり、ギルド中を駆け回るメモリア。冒険者たちはやれやれ敵わんと、呆れながらに笑みを零す。


「くそガキ……信じられん体力だ」


 ヴェルメリオの方は呆れているのか感心しているのか、誰に伝えるでもなく呟いた。


「どうでしたか? うまくいきましたか?」

「おいメモリア、見せてやれ」

「がってん! 見てよレイチェル! 大量だ!」


 布袋をひっくり返すと、中からはどさどさと蜜袋が転がり出る。


「凄い……凄すぎです! ですが少々狩り過ぎでは?」

「ちゃんと巣はとっといてあるから安心しろ。女王を叩いたら洒落にならんからな」

「ねぇねぇ! 女王蜂は強いのか?」

「違いますよ。むしろ女王は大きすぎて飛べず、兵隊より弱いとされてます。問題は女王しか卵を産めないということ」

「女王を狩れば巣は壊滅、狩場を一つ失うことになる。それくらい自分で考えろ」


 しゅんとするメモリアにつんとするヴェルメリオ。それを見るレイチェルの顔には朗らかな笑みが零れる。


「終わったのなら、早く順番を譲ってもらえません?」


 三者三様の目の向く先には、腕組みして構える不機嫌なルアンの姿があった。


「せっかちなやつだ。少しくらい待てんのか」

「なんですって?」


 ヴェルメリオとルアンの視線がバチバチと火花を散らす。


「あわわ……」


 戸惑うメモリアを見て、レイチェルにくすぶるのは母心。席を立ったレイチェルは、いがみ合うヴェルメリオとルアンの間に割って入った。


「や、やめてください……冷静に……」

「お前は引っ込んでろ」


 ヴェルメリオはレイチェルの肩を軽く小突いたつもりだったが、小柄なレイチェルはそのまま床に尻もちを着く。


「きゃ」


 直後にヴェルメリオが鳴らした舌打ちは、力加減を誤った己に対して。しかし端から見るルアンはそうは思わない。


「あなた……いま自分が何をしたか分かってますか」

「なんだと?」


 握る両拳を震わせるルアンは、眼鏡の奥の赤目を光らせた。


「女性に……レイチェルさんに手を上げるとは、この野蛮人め!」


 ルアンは胸倉に掴み掛かり、引けないヴェルメリオは嘲るように見下した。


「はっ、初対面ではあれだけ上から見ておいて、レイチェルに惚れたのか?」

「そんなことは一言も言ってないでしょう!」


 口ではそう言いつつも、激昂とは異なる赤みを差すルアンを見て、ヴェルメリオはここぞとばかりに高らかに笑ってみせる。


「おいおい、男の嫉妬とは醜いなぁ!」

「だから! 勝手を言うなぁ!」


 遂には右拳を振り上げて殴り掛からんとするルアン。応じるヴェルメリオも合わせて拳を握り――


「やめなさぁああああああい!」


 内壁を揺らすほどの大音声に、ギルドの時はぴたりと止まる。


「冒険者同士で争ってどうするんですか!」

「ですが……この男が順番を譲らないから!」

「なんだと? お前が吹っ掛けてきたんだろ!」


 そして再び動き出す時の歯車。レイチェルを交えて、三人のヴォルテージは高まりをみせるも――


「どっちが悪いじゃありません! 二人とも幼稚です!」

「おいおい、幼稚ってのは節操のないメモリアみたいな――」

「ふざけないでください! メモリアさんは駄目なことはちゃんと謝れる、とっても良い子なんです! あなた達のような単細胞とは違います!」


 いち早く怒りのウィニングポストを突破したのは、先行のルアンでも差しのヴェルメリオでもなく、後発で駆け出したレイチェルの追い込みだった。


「た……」

「単細胞……」


 ゴールを前に抜き去られ、唖然とするルアンとヴェルメリオ。怒れるレイチェルはまずルアンの胸に指を突き付ける。


「我慢できないルアンさん」


 振り返ると、ヴェルメリオの胸にも指を突き付ける。


「人のせいにするヴェルメリオさん」


 そして最後は二人に向き、高らかに声を張り上げた。


「お二人の方が幼稚です!」


 怒るタイミングの遅れを取り、あまつ正論を突き付けられ、ばつが悪そうにするルアンとヴェルメリオ。


「すみません……」

「悪い……」


 しかしレイチェルの手は依然として腰の上でどんと構える。怒り顔は収まる気配をみせない。


「駄目です。許しません!」


 二人はおずおずと顔を見合わせて、レイチェルに向き直す。


「じゃあ……」

「どうしたら……」


 ふんと鼻息を繰り出すレイチェル。険しさをみせるレイチェルの、許しを得る為の厳しい条件とは――


「お酒です!」

「……え」

「と……」

「お酒です!」


 こうして閉業した後に、四人で酒屋に飲みに行くことが約束されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ