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2のn乗尺様


 俺は怪奇ハンターのお兄さん。


 都市伝説に出てくる化け物や、UMA、異常存在を捕まえることを生業にしてるアラサー手前のお兄さんだ。


 この生業を始めてから何年か経ったが……昨今の某流行病のせいで怪奇ハンターとしてバラエティ番組や中堅ユーチューバーのゲストとして出る機会も激減してしまい、今の家の家賃を払うのですら苦しい毎日。


 なので、今日は本当に化物をとっ捕まえて、暗いニュースばかりの世の中に差し込む一筋の光になってやろうと思ってる。


 そのために俺は近頃世間を賑わせている八尺様と言う都市伝説の怪物を捕らえるためにその大元がいるとされる山奥の江南乗村(えぬじょうむら)にやってきていた。


 新幹線と車合わせて都心から片道約3時間、移動費で数千円吹っ飛んだ。ギリギリ家賃が払えなくなってしまった。だからこそ、追い詰められたからこそ、ここで捕らえるしかない!


 八尺様を!!


 鴉の飛び交う曇天と風に揺れる枯れ木とコチラを値踏みするような村人たちの視線……


 やっぱりここには八尺様に関わる何かがあるはずだぜ!


「あなたが怪奇ハンターさんですね? 私はこの江南乗村の村長。八条乗数(はちじょうじょうすう)です。話は分かっています、貴方のようにこの村の神秘を暴きにきたものはたくさんいたので……」

 

 いかにも呪いとかありそうな村にいる重そうな瞼に白い顎髭、少し禿げた頭の村長が俺をお出迎えしてくれた。

 出会い頭の脅し文句は俺をそれほど怖がらせなかったが、むしろ期待感を充足させた。


「この村にいる巨体の怪奇神、えぇ、貴方が『八尺様』と呼んだ存在に合わせて差し上げましょう」


「……よろしくお願い、します」


 村長さんはそういうと俺を八尺様が祀られていると言う山の社へと連れて行ってくれた。道中村の人達の視線が怪しくて少しビビったが、この程度でへこたれてらんねぇ。


 俺は絶対に八尺様を捕らえるんだッ!


 その意気込みで俺は八尺様が封印されている御社の中に入り、村長と共に封印の間の前で祈りを捧げた。


「南無……これにて、清めの祈祷が終わりました」


「これで八尺様を見てもよろしいんですね?」


「はい、ただ、あなたの認識には誤解が少しあるようですね」


「誤解?」


「あなたは先程から我らが奉り、封印している存在を『八尺様』と呼んでいらっしゃる。しかし、ここにいるのはいわばそれの原型であり、より強大な怪異なのです」


「より、強大な……!」


 その言葉に俺は目を見開いて、しめ縄の施された封印の扉をますます強く見つめた。


「其の真名は……中に入ってからお話ししましょう」


 村長はそんなふうに口ごもりながら、しめ縄を外し、何やら風習的なまじないの言葉を述べると古めかしい両開きの扉をずいっと開けた。


 空いた扉の中は陽の光も入らない暗黒の空間。何やら凄まじい瘴気が立ち込め、体温を急激に奪っていった。


 やはり! いる!


 期待が実った高揚感に俺は心躍らせながら、足を一歩ずつ前に進めた。


「今、蝋燭に灯を……」


 村長は袖の中から太い蝋燭を一本取り出すとマッチで火をつけて闇に隠されていた封印の間の中をありありと俺に見せつけた。


「こ、これはっ……!」


 そこには5メートルほどの大きく、髪が長い女が横たわっていたのだ。都市伝説の通りに白いワンピースのような服と帽子をかぶっている其の女は正しくイメージ通りの八尺様だ。

 寝息を立ててるところを聞くに、まだ自分達がやってきたことには感づいてなさそうだが、起こせば今にも簡単に人を一握りで捕まえてしまえそうなあの腕が伸びて、間違いなく殺される予感はあった。


 巨体! 巨女!


 だが……なんだこの違和感は……!


 怪奇ハンター、瞬間的に違和感を覚える。

 目の前の人間(?)があまりにも大きいから、というから感じる不一致なのだろうか。

 いや、それよりももっと想定外のことが起きているのだ。


「これは、そうだ……そうッ! まさか!?」


「あなたはどうやら勘がいいらしい……」


 横で俺の顔を覗き込んでいた。何やら目を細め、俺が違和感を覚えることが予想できていたかのように。


「貴方のように『八尺様』という怪奇を求めてきた方は其のように反応なさるのです。()()()()()()()()、と」


 そう、()()()()()()()()()()

 それは人間と比べてではない! 八尺、つまり約2.4メートル! それよりも、遥かに、倍近く!



       大きいッ!!



「申し上げましょう。我らが祀る疫神のその名を。真名を『2のn乗尺様』と言います。つまり、あなた方が呼ぶように合わせるなら、今この方は『十六尺様』と言ったところでしょうか」


「『2のn乗尺様』!? 『十六尺様』!?」


 スケールが違うことに度肝を抜かされる俺。

 文字通り、スケールが違ったのだ。なんてことだ、不覚にも、どこから突っ込めばいいのか分からないッ!


「十数年に一回目覚めてはその背丈を2のn乗(nは目覚めた回数とする)尺に大きくするこの『2のn乗尺様』。次に目を覚ました時には最早この封印の間を突き抜けて、『三十二尺様』になってしまいます……そうならばこの村はもう、終わりです! どうか、高名な怪奇ハンター様! 我らが疫神に永遠の眠りを与えてくださいませ!」


 泣きながらに懇願してくる村長。いやしかし、怪奇ハンターの俺、出来ることが皆無。


 なんだよ、『2のn乗尺様』って、ポポポとか鳴く巨体の女の怪異なら俺にも捕まえられるかもしれないと思ったのに、本当にデカすぎる! 目測5メートルだぞ!? しかも目覚めたらさらに大きくなるだと!?


 どうしたらいいんだよ、快眠アロマでも置いとけって言うのか!? てか、ひとまず写真を撮って証拠を押さえておくべきか? 


 足元で泣いている村長を一旦無視して、俺はスマホを取り出し、写真を撮ろうとした。


 だが、其の行動。運命を分けることとなる!




 カシャ!



 っという乾いた音共に凄まじい、閃光(フラッシュライト)


「やっば、オートモードにしてたの忘れてた……って」


 カメラ越しに被写体と目が合う。

 5メートル近い女の眼球は通常人のそれとは異なってかなり大きい。其の目が、完全に剥き出しに開かれて、いる……


 構えたスマホをゆっくりと下ろしながら、潜めて大きく息を吐く。


 今度は生で、

 目が、合った。


 『2のn乗尺様』フラッシュライトに驚いて、完全覚醒……!


「ポ、ポポ……」


「ッスゥ…………」


 ハンター、目を合わせたまま深呼吸。

 そして、刹那の間に膨大な思考実験を重ねる!


 どうやったら逃げられる? どうやったらことを穏便に済ませられる!?


 まるで幾多の世界をシミュレートする演算装置の如く、土壇場にして怪奇ハンターの隠されていた頭脳もまた覚醒!


 大台の百を超える脳内イメージの結果!!


 ハンターが得られた答えッ!


「ア゛ア゛ァァァァォォォォォオオ!! やらかしたァァァ!!」


 惨め! あまりにも!


 村長の首を掴んで韋駄天の如く一目散で社から飛び出す怪奇ハンター! 其の道以外にやっぱり無かった! だが、逃げるにはあまりにも不利すぎる!


「か、怪奇ハンター様、なんてことを!」


 村長、どうにかしてくれると思っていた相手の予想外の失態に傍に抱えられながら、愕然!


 しかしハンターにそんなことを気にする余裕はなかった!


 だって社の方から恐ろしいほど獰猛な地鳴りの音と何かが崩れる音がするのだから!

 麓に戻って村の中に駆け込むと村人たちも騒然と山の方にある社を指差したり、喚いたりしながら示していた。


 ハンター、鍛冶場の馬鹿力でなんとか村長もろとも一旦は逃げ果せたが……山の方を振り返ると


「ポッ!」


 『2のn乗尺様(五度目の起床)』=三十二尺様、つまり!


「約10メートルくらいか……お、終わった」


 木々を投げ倒しながら10メートル近い巨体で山を滑り落ちてくる白ワンピの女! 振り乱した髪が怒れる竜の如く舞う!


「お、終わりじゃ、終わりじゃこんな村〜!」


 誰かが叫んだ。

 と同時に障害物を全て踏み潰しながら山を駆け降りてきた三十二尺様、大ジャンプ!


 からの、ハンターめがけてヒールスタンプ!


「ら……来世では真面目に働こう……」


 ハンター、お手上げ。

 こうして、一つの村がまた世界から失われることとなった……




 ドンガシャァァァァンンンンンッ!!!







ハッピーエンドルート制作予定……!


楽しんでくださったら、感想、ポイント、是非お待ちしております!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 発想が面白いです。 過剰な自信が捻り伏せられる様が爽快でした。
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