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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この想いは入道雲を越えて

作者: tani

ほおずき団地の今日のお話。

 高校2年生の夏休み、学園祭が2週間後に迫っていた。

 吹奏楽部の練習は終わったが、亮は一人空き教室に残って自主練に励んでいた。窓の外からはサッカー部員たちの声とボールをける音が聞こえてくる。


  ちょっと休憩するか


 亮はトランペットを置き、教室の窓を開けた。ボールを追いかけるサッカー部員を眺めていると、ちょうど男子サッカー部エースの3年生がゴールをきめた。高校卒業後はスポーツ推薦で体育大に進学するそうだ。

 接点のなさそうな吹奏楽部2年の亮とサッカー部のエースだが、実は2人は面識があった。亮が住んでいる団地の前を通るバスを先輩も利用しており、剣道部主将の彼女さんと一緒にいる姿をよく見かけていた。


 先輩はスポーツ推薦をもらっているため、卒業までは部活に顔を出すらしい。この教室から先輩の姿を見られる時間が少しずつ減っていくことを考え、胸のあたりがキュッとした。

 8月終わりの生ぬるい風が肌をなでる。自分の青白い不健康そうな腕をみてため息がもれた。


  あと半年…


 吹奏楽部に入部して1年と半年。この教室から先輩のプレーを眺めてきた。さすがエースというべきか、ボールを追う姿はスポーツに疎い亮が見ても抜きん出てかっこよかった。

 しかし亮は知っていた。先輩がなんでもできるスーパーマンではないことを。毎日最後まで残って練習している姿、ケガで試合に出られなくても後輩を全力で応援している姿、エースナンバーを渡されて少し泣いていた姿。

 この教室から先輩を目で追う内に自然と亮の練習量も増え、高校から始めたトランペットは随分上達した。今年の学園祭が、先輩に演奏を聴いてもらえる最後の舞台である。


  この気持ちが憧れだけじゃないことはとっくに分かってる


 自分の中にある想いには、外に零れ出ないようにしっかり蓋を閉めた。先輩にはもちろん、誰にも知られないように。あと半年耐えれば、きっとこの想いとさよならできる。

 窓を開けたままトランペットを手に取る。外は夏空。金属特有の光沢に自分の曇った顔が映った。

 もやもやとした感情を吹き飛ばすように音を鳴らす。憧れだけじゃない気持ちは知られたくないはずなのに、今だけでもこの音が届いたらいいのにと思ってしまう。

 もう蓋をした想いだ。届かなくていい。


  でも、ひとつだけ

  努力家のあなたが進む道が、笑顔に満ちていますように


 それだけでいい。

 遠くの空に入道雲が見えた。

 

  想いをのせて響け、僕の音。



ほおずき団地という名前の架空の団地を舞台に、そこに住む人々のさまざまな日常を描いています。一話完結の物語ではありますが、この話に出てきた人物が別の話にちょこっと登場することもあります。ぜひ、ほかの小説も読んでいただけると嬉しいです。

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