43)ドラ息子侵入事件
先日のあの出来事時は“地下通路手摺り破壊事件”などど仰々しい名前が付けられてしまった。
この前の小鳩大量召喚事件といい、いったい誰が名称を考えているのやら。
まったく暇な人もいるものだ。
近頃の地下食品売り場では、またアッシュが何かやらかしたみたいだと、すっかり問題児扱いされている俺だった。
王国騎士団の奴らは手当をしてもらって、無事に怪我も完治したらしい。
ただ、酒泥棒じゃなくて素人相手に喧嘩を売って返り討ちになったことになっていて、ひょろっこいバイトの兄ちゃんに負けたと馬鹿にされ面目丸潰れな状態であるという。
そのせいなのか、最近では通勤途中でリヒトだけでなく俺まで絡まれるようになってしまった。
「おい、ボンクラ勇者にじゃじゃ馬子豚姫。今日も仲良くご出勤かよ」
「お前のせいで俺たちの立場がなくなっちまったじゃねえか。どうしてくれるんだよ」
「今度はやられたりしねえぞ。あの時はお前が何か卑怯な真似をして、嵌められたに決まってんだ! そうでなけれお前如きに後れを取ったりはしないんだっ!! いい気になるなよっ!!」
「今度は正々堂々と勝負しろ! 変な木の棒じゃなく剣で勝負だ! ああ、庶民には剣なんか扱えないか!? ハハハッ。庶民のくせに俺たち貴族に盾突くんじゃねえよ」
やいのやいのと囃し立てられ、煩わしいったらない。
しかし、これ以上問題を起こせば、職場でメチルさんのお説教になるのは目に見えている。
商人たるもの謂われなき誹謗中傷に一々狼狽えるものではない、というわけである。
ムースさんからは、乱闘騒ぎは後始末が面倒だから避けてくれともいわれているし。
リヒトも俺も、平常心を心掛け無言でやり過ごすのだった。
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そんなある日、百貨店自警団の中央ゲート詰め所に、泥棒が入った。
取られた物はマスターキー。
店内のどこにでも出入りできてしまうという万能な鍵だ。
賢者作の不思議魔道具で、この店内に三本あるうちの一本なのだとか。
自警団の管理責任が問われる大騒ぎになったのだが、犯人はすぐに判明した。
総支配人子息ウィリー=ヴィアン=ケルムとその取り巻きたち──長くて面倒だから、ドラ息子とその一派と呼ぶことにする。
彼等が悪ふざけで、問題のマスターキーを使って最下層の広間に侵入したからだ。
それはもう、ものすごい騒ぎになった。
店の営業時間中だというのに、いきなり大音量の鐘の音が鳴り響いた。
時を知らせるリーンゴーンっていうのんびりしたのじゃなく、カンカンカンカン!!! っていうけたたましいやつ。
異常事態にびっくりしていると、ペティットオーク自衛部隊がものすごい勢いで階段へと駆け込んでいくのが見えた。
職場の皆も、どこに隠してあったのか其々の武器……といっても警棒とか刺股とか小型ナイフとか……を手に、自衛部隊の後に続いたのだ。
とりあえず俺はあの元手摺りを持参で、リヒトは事務所に置いてあった警棒を拝借して参加した。
俺たち一般従業員が現場に着いたときには、既に事態は決着していた。
場所は百貨店の最下層、石造りの広間。
結界に護られた侵入不可区域に入り込んだ賊の大捕り物。
まさに迅速な対応である。
薄暗い空間に押し寄せた大勢のペティットオークたち。
彼等にとり囲まれた賊──ドラ息子一派は、縄で拘束され身動きできないようになっていた。
「無礼者!! 今すぐに縄を解けっ! 俺たちが誰だかわかっているのかっ! 総支配人子息にこんな仕打ちをしてただで済むと思うなよ!!!」
「ここで一番偉い人間の息子なのだから、何処で何をしようと俺の自由だっ! 貴様らのような子豚どもに文句を言われる筋合いはないっ!!」
現行犯で囚われても往生際が悪いというか、反省の色なしというか、尊大で偉そうな態度を崩さない。
リヒトの姿を見つけると、彼に向かってまで悪態をついた。
「やい、役立たずめ! お前が何時までもグズグズ役目を果たさないから、俺たちが代わりに実行してやってんだろうが。さっさと俺たちを助けろよっ!」
「もう少しで剣を手にできたというのに、口惜しいが俺たちではどうにもならなかった。意気地がない勇者のせいで、こんな目に遭わなくてはならないなんて。糞勇者!! 責任を取ってもらうからな! 覚えておけよ!」
無言のリヒトは、ただ警棒を握り締め──複雑な表情で佇んでいた。
もしかしたら、何もできずにいる自分を責めているのか……あんなことを言われたら、王城に囚われている友人たちのことも心配だろう。
大騒ぎの中、人混みをかき分けて広間に入ってきた集団がいた。
先頭は、見覚えのある人間族の年配男性で食品売り場の事務長さん。
彼が連れてきたのは、総支配人とその部下たちだった。
でっぷりと太った中年男性は、やはり偉そうに踏ん反り返っている。
息子が騒ぎを起こしたというのに、焦っている様子などは微塵もうかがえない。
「これは、いったい何の騒ぎだね。我が息子が何をしたと?」
「これはこれは、ケルム総支配人。貴方のご子息が店の決まり事をサッパリご存じなかったようでして、仕方なく拘束させていただいております。勝手に鍵を持ち出して、入ってはいけない場所に立ち入ってしまったのです」
「店の決まりなど知る必要はない。私がが百貨店の支配人なのだから、我々が言ったことが決まりなのだ。ならば、問題はないであろう?」
「いやいや、それでは不法地帯。秩序も何もあったものではありません。どんなに高貴なお方であっても、好き勝手に大切なものを持ち去って、どこでも入り込まれては堪りませんな。このような悪事が横行してしまうのは困るのです」
「少しばかり悪戯が過ぎてしまっただけのことだ。たいしたことではなかろうに」
自衛部隊の隊長が一応は畏まりながら事情を説明するが、息子は悪くないの一点張りで埒が明かないようだった。
店の住人──主に食品売り場のペティットオークたちが、不満半分呆れ半分で見守っていると、総支配人の部下たちが皆を追い払い始めた。
「オラオラ、何時までここでサボっているんだよ。これは見世物じゃないんだ。さっさと仕事に戻れ!」
いやいや、皆さん緊急事態に駆けつけたわけで、サボってっていうのはおかしいんだよ。
だいたい、これはドラ息子たちが引き起こした騒動なんだから。
事の成り行きは気になるが、不承不承で仕事に戻る俺たちだった。




