12)変身!! モフモフ爺さん
俺が身支度を整えて筆記用具を持つのを確認したウィルヘルムさんは、準備完了とばかりに頷いた。
「私もちょっとした準備が必要なのですが、ここで済ませてしまってもよろしいでしょうか?」
彼の問いかけに、リナさんがどうぞと答える。
ギルは、いつものやつかい? なんて言っている。
俺は、いつものって何? と、ぼんやり見ているだけだった。
執事さんは、俺の疑問なんかおかまいなしに話を進める。
「ありがとうございます。それでは」
姿勢よく直立したウィルヘルムさんが、正面でパシリと手のひらを打ち鳴らす。
音に驚いている一瞬の間に、執事の姿が白髪のお爺さんに変化した。
モフモフだ。
柔らかそうな長い髭と髪の毛の触り心地がすごく気になる。
何だかとっても触りたい。
いやいや、それよりも何よりも────何なのこれ!! 一瞬で変身!? どうやったの!?
自分の目と口が、ぱっかーんと開けっ放しなのは自覚している。しかし、それどころではない。
「相変わらず見事な変身術だね」
「ええ、ほんとに」
ギルもリナさんも見慣れているらしくて、薄い反応だ。
反対に驚きすぎて思考が迷走中な俺は、興奮気味に筆を執り冊子に殴り書きをした。
(変身!! ウィルヘルムさんは魔術師なんですか!? すごい!! どうやったんですか今のっ!!)
冊子に綴る文字は大きく乱れているし、感嘆符だって大連発の大盤振る舞いになっているが気にしない。
なりふり構わずな俺の反応に、少し戸惑った感じのお爺さんだったが、ちゃんと質問には答えてくれる。
「これは魔法技術の一種ですが、私は魔術師ではなくて執事です。少々難しい技ですが、練習を積めば私のような者にも習得できるものですよ」
おおぅ、俺もやってみたいです。カッコいいじゃないですか、変身。
「役職柄、私の顔は店内でかなり知れ渡っておりまして、執事姿だと厄介ごとになりがちなのです。結構、恨まれたり妬まれたりしていますし」
なるほど。世を忍ぶ仮の姿ってやつなのか。
(お仕事、大変そうですね)
「いえいえ、全て楽しんでやらせていただいていますから。この姿もお気に入りなのです」
(そうなんですか? 仕事を楽しむなんて、何だかすごいなぁ)
「いつもの私では知ることのない、皆の本音が垣間見れますし。お忍びでの店内巡回も愉しいものです」
(…………そうですか)
ニヤリと笑ったモフモフお爺さんからダークな気配が漂った気がするが、ちょっと怖いので知らないふりをする。
仕事の愚痴とか噂話や自分の悪口等々の、あらゆる情報収集に大変便利なのだとか。
時には誰かの弱みを握ったりすることもあったりするらしい。
白っぽい爺さんが黒い笑顔でフフフ~~~とか言っているのなんて、気のせいです。俺は見てないし聞いてないです。
執事さん→お爺さんなウィルヘルムさんが、軽く礼をして悪戯っぽく言う。
「この姿の私は、ヨルムと名乗っております」
(ヨルムさん、ですね。よろしくお願いします)
「こちらこそ。本日は、このヨルム爺が外出のお供をさせていただきます。森のついでに、百貨店の方にもご案内いたしましょう」
今日の外出は、執事さんじゃなくてモフモフお爺さんとご一緒するようです。
“!”……これのことを、幼少のころから最近まで「びっくりマーク」と呼んでいました(笑)。
エクスクラメーションマークという方が、なんかカッコイイですね。




