102)その先にあったもの
────────メインシステム キュウシチュウ
キテイ マリョク カクニン シマシタ
マリョク ソウリョウ ジュウテン カンリョウ
フウイン カイジョ
────────メインシステム キドウ ジュンビチュウ
コレヨリ メインシステム “ニケ” キドウ
ゼンケン ヲ “ニケ” ニ インストール
キドウシステム “モヨウ” プログラム エンド
シュゴシステム “ハコ” プログラム エンド
────────キドウシステム キノウテイシ
────────シュゴシステム キノウテイシ
────────メインシステム “ニケ” キドウ
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どこかで誰かが、抑揚のない声で棒読みに台詞を唱えている。
何かの呪文?
しすてむって、何?
きどう?
まりょく……って、魔力かな。
ふういんかいじょは……えっ!! 封印解除!?
ちょっと、封印って何?
いったい何を封じてた?
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……ええと、どうなってるんだ?
思考力が回復してからというもの、俺は疑問符ばかりを量産している。
何もない場所。
ないのかどうかも判断できないようなところ。
明るくも暗くもないし、寒くも暑くもない。
俺はそこに佇んでいた。
いや違う。
自分が立っているのか座っているのかも不明。
はっきり言って、寝転んでいるのかすらわからない。
ただ存在している。
まあ……存在してないと、こうやってのんびり考え事とかできないからねぇ……。
ふと気づくと、自分に何かが寄り添っている気がする。
こっ、コレはもしかしてモフモフ!? モフモフなのか!?
黒っぽい毛並み、それにシュッとした尻尾が生えている。
尻尾が俺に絡みついてきて、くすぐったいような気がする。
なっ、何かペロッとされた。
わわわっ、毛繕い? 俺、毛繕いされてんの!?
めちゃくちゃ情愛を感じてしまう。
俺、すごく慈しまれているみたいなんだよ。
嬉しくて──何かを返したくて腕を伸ばす。
すると腕や手先指先の感覚が戻ってきた。
両手でモフモフを抱きしめる。
そうしたら身体の存在がしっかり認識できてきた。
腕の中には小さな猫。
可愛くて思いきり撫でまわしても、嫌がらずに付き合ってくれている。
「みゃ~ん」
小さな鳴き声を聞いたとたんに耳の存在を思い出した。
「ご主人……やっと逢えた。……ずっと逢いたかった」
ン? 耳の存在を思い出した直後に、耳を疑う。
「聞こえてる? ご主人?」
ええっと、やっぱり話してるよね……この猫君。
念話じゃなくって話してる。
「ああ、猫がいきなり話しかけたら驚きますね。もちろん念話もできますよ? ご主人は、念話をご希望ですか?」
ええと、………………………………。
「いや、このままで大丈夫」
俺は状況を上手く飲みこめずに、ぽそりと応答するのみだった。
不思議な場所で、不思議な猫と会話する。
「聞いても良い?」
「何なりと」
「ここはどこ?」
「ご主人……貴方の、思考の中です」
「俺の?」
「はい。貴方の身体は、ハコと呼ばれる入れ物の中で気を失った状態です。私は、貴方の思考に働きかけて会話をしています」
なるほど、現実じゃないなら空想物語みたいに何でもありかも知れないな。
「その、ご主人っていうのは俺のこと?」
「はい。貴方のことです。貴方は私のご主人です」
猫君は、何だか嬉しそうに返答をしてくれる。
「じゃあ、君は? 君は誰?」
「私はニケ……………………」
猫君はじっと俺の目を見て、少し姿勢を正してから言った。
「………………………異世界から弾かれ、ここに辿り着き──────この世界を構築したメインシステムの一部です────────」




