クラスメイトにときめいてしまった。
「おい!シュトフ!これは一体どういうことなのだー!?」
私の怒りの声がこの薄暗い部屋の中で鳴り響いた。
「こっちのセリフだろ!お前は一体なにを考えてるんだ!?」
私はいま、この紺色頭の悪魔と盛大にケンカしてる。
「全部お前のせいだ!お前のせいだよ!」
私は目の前にいる男に怒鳴りながら、ここ最近の事を思い出す。
私の名前は吉村玉実、どこにもいる普通のOLだ。
独身で一人暮らしの寂しい生活の中、私にとっての唯一の癒しとは毎週日曜日の朝に放送される女児向けのアニメ。
アニメのタイトルは「マジカル探偵シャドリーナ」。
主人公であるマジカル探偵は次々と問題を解決して、正義と魔法の力で人の冤罪までも晴らすとても素晴らしい女の子達。
私はマジカル探偵のリーダー、シャドリーナちゃんの事が大好きである。
どうして彼女の事をこんなにも好きなのかは自分にもよく分からない。
可愛いのに強くて凛々しくて、私が何歳になってもきっと彼女に憧れ、好きになると思う。
シャドリーナちゃんを好きになって以来、彼女は私の光でした。
そんな私が、ある日の昼寝から目覚めたら、シャドリーナちゃんと同じ世界にいた。
嬉しくて舞い上がるところに、自分が彼女の敵であることを知った。
最悪だと思って一人でしょんぼりしたら、今度はスパイとして彼女の学校に転校する事が決定。
……今度こそ私のターンだと思ったのになー……。
「なんて私がシャドリーナちゃんのクラスに転入するのではなく、マルメローナちゃんのクラスに入ったんだ?!」
そう、今度こそ私とシャドリーナちゃんが運命の出会いを果たすんじゃないかと思ったのに、転入先はシャドリーナちゃんの幼馴染であり私の最大の恋敵であるマルメローナちゃんがいるクラスだった。
……本当、最悪……
「お前ってやっぱバカだよな?!」
は?なにを言い出すんだこの憎たらしい男は!!
「この私がバカだと?!お前こそバカなんじゃないの!この、この顔が女みたいなわけわからん男がっ!!!」
私は絶対こいつを許さないと思い、シュトフに拳を振り下ろす。
「おい待って、何すんだ!まったく落ち着けって、オレの話しを聞け!」
……だが、避けられた。
「ちっ」
「舌打ちすんじゃねぇ!いいか?エイリー、お前がシャドリーナの小娘のクラスに転入したら大変な事になるから」
シュトフは珍しく真顔で私を見つめた。
……男に見つめられるのは嫌いけど、なぜだがシュトフに見つめられてもそんなに嫌じゃない。
「……大変な事って」
まさか私がシャドリーナちゃんと恋仲になってシャドリーナちゃんの友人やご両親に知られたら私が大変な目に遭ってシャドリーナちゃんと恋の逃避行を行わなきゃいけない事になるからとか……!!
「ああ、大変な事。……お前がいま考えている事じゃないから安心しな。というかその顔本当に気持ち悪いからやめろ」
本当にそんなに気持ち悪い?!まあとんでもない妄想しているオタクってそういうもんだろうな……
「なによ気持ち悪いって、とりあえず謝って欲しいけど!でも、大変な事って一体なんですか?」
……気持ち悪いだろうなと自分も思ってるけど今の自分はかわいいロリの姿しているのでやっぱり謝ってほしい。
「謝らない。……ああ、シャドリーナの小娘は勘がいいからな。このタイミングで誰かが転校してきた事に絶対何か察すると思ったから」
シュトフは私から目を逸らしながらそう言った。
「……確かに」
思えばシャドリーナちゃんは小学生だけど、探偵。勘がいいのは当たり前。
こんなもうすぐ夏休みの時期に転校生がきた事を疑うだろう。
「承知しましたわ。ですがわたくし、シャドリーナちゃんに運命を感じていまして……絶対、シャドリーナちゃんに会いに行きます」
例え同じクラスじゃなくても、同じ学年にいるんだ。
だから絶対ワンチャンあると思って、私はエイリーの口調でそう言った。
シュトフは私の言葉を聞いて、ため息をついた後に再び口を開いた。
「……勝手にしろ。それとお前の素にもう慣れてしまったから、今更そういう口調で話すのが気持ち悪いからやめろ」
……私がシャドリーナちゃんの仲間になった暁には、絶対こいつを殺すと強く思う瞬間であった。
✽
夏休みまで一ヶ月。私はランドセルを背負いながら通学路の途中にある坂道を歩いた。
悪の組織の本部から登校するのが面倒くさいからシュトフに頼んでマンションを借りて一人暮らしを始めた。
……どこにいても一人暮らしするのだけは変わらないな……。
せっかく、こんな世界でかわいいロリとして生まれ変わった(?)のに、結局ぼっちなのか……。
と、私がそう思っている時に、私にはある友人の声が聞こえた。
「愛理ちゃんー!おはよー!」
その声の主は、マジカル探偵マルメローナちゃんこと、丸山花梨ちゃんだ。
「花梨ちゃん、おはようございます。今日も一日よろしくお願いしますわ」
私はパタパタと走ってる花梨ちゃんに振り向き、花梨ちゃんに挨拶した。
……私はぼっちじゃなかった!
私はこの世界に来てから、転校生になってからは、ある事に気付いてしまった。
「うんうん、今日もよろしくね〜!愛理ちゃん、今日も笑顔がかわいいね!」
私のクラスメイトの花梨ちゃんが、とんでもない小悪魔で天然たらしであることに……。
いや、でも、待って。私は一途なオタクだ。
こんな事で浮気するんじゃないぞ吉村玉実……!
「え、ええ。どうもありがとうございます、花梨ちゃん。花梨ちゃんも素敵で可愛らしいと思いますわ」
そう、私も負けてはならぬのだ。
「あっ、あっ、ありがとう愛理ちゃん……えへへ……愛理ちゃんにかわいいって言ってもらってあたしとっても嬉しい!」
ほら見ろ!花梨ちゃんが動揺した!顔が真っ赤になってる!
そうそう、こうやって大人の余裕ってやつを見せつけなきゃな!
「生まれて初めてそう言われたかも……愛理ちゃん、大好き!」
……。
参りました。
そんなに照れながら満面な笑顔で大好きとか言うの、吉村は反則だと思います。
……そして多分いま私も顔が真っ赤になってる。
おい吉村!恋敵かもしれない女子小学生にときめいてどうするんだ!女子小学生だぞ!もうロリコンでレズで最低な女じゃないか!
落ち着け、落ち着け私……!
「あっ、えっと……わわわわたくしもえっと、……花梨ちゃんの事、その……す……、すす……、……すき焼きが食べたいのですわ!」
ああああああああああああああああああ!!!ロリコンでレズで十分なのにヘタレという属性はいらないぞ!!!!何やってんだ私!!!
というかなんて花梨ちゃんに告白しようとしてんだ!いやでも友達だから好きだとか簡単に言えるか?友情だから好きなのか?ぼっちだからわからん!!!
しかもなにがすき焼きなんだ!真夏ですき焼きを食べたがるやつおるか!
「……?すき焼き?あたしとご飯食べたいの?」
ほら花梨ちゃんが困惑してるんじゃないか!
「そ、そうですわ!ええ、でもいまは暑いから、すき焼きじゃなくてもわたくしは平気なのですわ」
……よし、誤魔化そう!
「じゃ、じゃあ!放課後、あたしのおうちにくる?今日お母さんとお父さんはいないの!」
……?!?!??!?!?
なにを言い出してるんだこの子は……??????いや、邪な気持ちになるな吉村!思春期の男の子じゃあるまいし落ち着け!
そして、花梨ちゃんの口から出た次の言葉に、私は我に返った。
「あっ!隣のクラスにいるあたしの幼馴染の女の子も呼んでいい?三人で鍋パーティーしよ!」
「かしこまりましたぜひ誘ってくださいよろしくお願いいたしますわ」
ついに来たか。この私がシャドリーナちゃんとの運命の出会いを果たす日が……!
もう夏の鍋パとかどうでもいいから、早く放課後にならないかな。
私は鼻歌を歌いながら、花梨ちゃんと学校に向かって歩い続けた。
その待ちに待った放課後のイベントが、ありえない展開になる事も知らずに……。
はじめまして、西園律です。
色々と忙しくてしばらくは放置していましたが、今日からしばらくの間毎日更新しようと思っています。
よろしくお願いします。