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プロローグ

 アラーム代わりのテレビの音が聞こえる。

 私は布団の中にもう少しひきこもろうと決めた瞬間に、今日は何曜日だということを思い出した。

 ぱっと起き上がり、ベッドの隣に置いてあるペットボトルの中の水を一気に飲み干しだ。

 時刻は朝八時。平日だったら急がないと仕事に遅れる時間だった。

 だけど今日は日曜日、つまり早起きしなくても平気な休日。

 ゆっくりと朝の支度を済ましたら、冷蔵庫に今日の朝食を取り出した。

 ああ、毎日が日曜日だったら、早起きしてもこんなにワクワクできるのに……

 そう考えながら、私はテレビのチャンネルを変えた。

「今日もばっちり間に合った!」

 私はテレビに映っている「マジカル探偵シャドリーナ、このあとすぐ」の文字を眺めながら、変なテンションで独り言を言ってしまった。


 日曜日の朝八時三十分、これこそ私の毎週の唯一の楽しみである。

 いい年して会社で働いてる成人済み女性でありながら、大きいお友達を自称しているくらいの女児向けアニメのオタクだ。

 まあなんだ、もちろん会社の同僚には内緒しているけど。

 時々は、娘がいたらもっと周りを気にせずに女児向けのコンテンツを楽しめるのにと思うけど、残念ながら子供を作れる相手もいない。

 そもそも恋人ができたら、そういう理解されない趣味は自由に楽しめなくなるから。まだいいや。

 いまの私の生き甲斐というと、それは……

「はぁ……シャドリーナちゃん、今週もかわいい…尊い……」

 ……そう、女児向けアニメ「マジカル探偵シャドリーナ」の主人公のシャドリーナちゃんこそが、私の生き甲斐なのだ。

 小学生なのにすごく凛々しくて、言いたいことをはっきり言える頼もしい子で……

 見た目というと、王道な金髪ツインテールに翡翠みたいなばっちりお目目がまた信じられないほどに可愛くて……

 世の中の冤罪を晴らすべく、人のため一生懸命頑張っている姿が一秒でも離したくない。

 というか、目の中に入れても痛くないほど素晴らしい女の子で……

 ああ、なんというか、まるで天使みたいな女の子……もはや女神だ!

 こんな女神と毎週会える限り、私は生きられる!

 はあ、人生って楽しいわ……


「ああ、今日のシャドリーナちゃんも最高にかっこかわいかった……まだ来週で会いましょうねシャドリーナちゃん」

 今週の「マジカル探偵シャドリーナ」の放送は終わってしまった。

 心がそれなりに満足されたけど、なんというか、こう……

 正直言うと終わったらもう虚無でしかない……

 アーケードゲームもあるけど、アニメだからいずれ完結する。ということはもちろん知ってる。知ってるけど……

 考えたくないなあ、シャドリーナちゃんがいない生活。

 給料もボーナスも全部シャドリーナちゃんにつぎ込んだし、完結したらどこにお金使えばいいのも知らないし……

 こんな、女児向けアニメの主人公にガチ恋している成人女性が……自分から見ても随分気持ち悪い。

 祭りのあとの寂しい気持ちになったから、私は何も考えずに早めの昼寝をすると決めた。

 はあ……夢てもシャドリーナちゃんと会いたいな……



 どれくらい寝てしまったのだろう。

 なんだか、いつもより頭が重いし目も開けない。

 ……一応寝返りはできるらしいから、私は目を閉じたまま寝返りをした。

 すると、

「おい、やっと起きたのか。いつまで寝るつもりだ?」

 という、なんとなく聞き覚えがある性別不明な声が響いた。

 いや待って、私は一人暮らしだぞ?!というと……

「……泥棒?!」

「なにを言っている?頭でもぶつけたのか?!おい、はやく目を覚めろ!」

 声の主が激怒しているらしい。

 そんなこと言われても、ここは私の部屋なんだし……あっ、ひょっとしてまだ夢の中なのか。

「目を覚ましたいけど目が開けないですけど、どうしてくれます?」

 私は冷静した口調で相槌を打った。

「全く、まさかと思うけどシャドリーナの小娘にやられたのか?お前というやつは……」

 ん?

 今なんて……?

 今この人シャドリーナって言ったよね!?

 さすが私、本当に夢でシャドリーナちゃんと会えるんだね!!

 と、いかんかん。冷静を取り戻さなきゃ……冷静を……

「なんですか?この私はシャドリーナちゃんに心酔していますよ。シャドリーナちゃんの悪口を言ったら私が絶対に許しませんからね!」

「はあ?!シャドリーナの小娘がまさかお前を洗脳したのか?!おい、いい加減正気に戻れ!」

 と、性別不明な声の人がそう言ったあと、何かしらの魔法を使ったらしい。

「洗脳って失礼なんですね!私はちゃんと自分の意識でシャドリーナちゃんを好きにな…った……か……っ…??」

 ……。

 おい。なんて目が覚ましたらシャドリーナちゃんがいなくて、代わりに悪の組織のショタキャラが私の目の前に立っているんだ?!

 なんてろくでなしな夢なんだ!!

「ああああああああああああああなんでお前だ、なんでお前なんだ!!!」

「はあ?!さっきからおかしいぞお前!敬語で話ったりオレの事を泥棒だと呼んたりして!しかもなんだぁ?あの忌々しいシャドリーナの小娘に心酔してるだと、お前魂でも入れ替えられたのか?!」

 目の前にいる悪の組織のショタキャラ、シュトフは顔が真っ赤になるくらいに怒っている。

 ……いつもシャドリーナちゃんの邪魔してくる可愛い顔している生意気な小僧だ!

 しかもなぜかこいつとシャドリーナちゃんのカップリングが一番人気ということにめちゃくちゃムカついてる。

「なんてよりによってお前なんだ!!私の、私のシャドリーナちゃんはどこにいるんだ!!」

 私はシュトフの肩を掴んて、力を入れて揺らした。

「なっ、なにをするっ!おい、呪い解除の魔法をかけたのになぜ正気に戻らない!!しっかしりろエイリー!」

 シュトフは嫌そうな顔しながら抵抗して、やがて私の名前を……!?私の名前……?

「エイリーじゃなくて吉村玉実(よしむらたまみ)なんだけど」

 だれがエイリーなんだ!……いや待って、

「ヨシ……?お前大丈夫か?本当に魂を入れ替わられたのか?!」

 そういえばエイリーって、あの……最近ネットで噂されている次に登場する悪の組織のロリ幹部なんだよね?!

「おいどうした!なんて黙る!」

 ……とすると、もしかしたら……

「…なんでもありませんわ。どうやらわたくしが勘違いしたようで……先ほどのご無礼を許してくださいまし、シュトフさま」

 と、私がエイリーちゃんを演じきると決まった瞬間である。

 まあ、どうせ夢だし、楽しまなきゃ損だ!

 ……と、そう思っていた時期もあった。


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