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幼女魔王はただひたすらに我が道を行く  作者: あおいろ発泡飲料
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賢者たるエルフの族長、魔王と会談する

エルフが賢者って鉄板だよね。多分。


念願の崩山獣(やまくずしのけもの)の尻肉のソテー…! By頭おかしいおっさんエルフ(賢者)

先日、生まれたばかりだと言う魔王から書状が届いた。曰く、我らが住まう太古の樹海に自生するカカオの木から取れる実を流通してほしいと。そのために、今まで行なってきた交易について会談の場を設けたいと。

カカオの実は、我らエルフにとっては薬だ。その実をすり潰してできる黒いドロリとした液体は、飲む目薬となる。さらには疲労回復効果もある。しかし、あまりの苦さに嫌う者が多く、羊乳酒や蜂蜜、または蜜酒(ミード)をたっぷり入れて飲むしかなかった。それを、薬を使う必要のない魔族がほしいという。

理由はわからないが、あちらから望むのならば、魔界産の小麦や麦酒(ビール)、あの魔王の演説でメイド長なる者が言っていたショウチュウなる酒を手に入れるチャンスだ。ついでに崩山獣(やまくずしのけもの)の尻肉のソテーをねだってみて、食べさせてもらえるならば僥倖だ。

魔王に返事を書いた書状を飛ばす。崩山獣の尻肉のソテーが食べたいとわがままもついでに書いて。魔王はいきなり転移の応用でこちらに直接書状を送ってきたが、僕はそんなことはできない。そのため、書状に魔力を込めて、鳥に変じて文字通り飛ばすしかない。この太古の樹海の中心にある世界樹から魔界まで、徒歩だと片道で三年かかるのだ。

ああ、崩山獣の尻肉のソテー…食べたのは二百年ほど前か…あの肉の柔らかさ、うま味、思い出しただけで腹が空く。魔王、わがままを言うがどうか食わせてくれ。僕はあの味が忘れられないんだ。






一月経って、魔王との会談の場が魔王城に設けられた。

…以前来た時はこのような見たことのない様式の建物ではなかったはずだ。絡繰がふんだんに使われた建物など。材料費も技術料も半端なく高くつくだろう。


「驚かれるのも無理はありませんが、もう一つ驚きの事実があります」

「な、なんだ?」

「これ、建てたの魔王様なんです。生まれたばかりの時に太古の時代から存在した前の城を破壊して、その土地を森に変えて。元々森だったここを更地にし、この城を、どこからか調達してきたアダマンタイトやオリハルコン、ヒヒイロカネ、果てには魔鋼(まこう)聖土(せいど)、崩山獣の骨の粉末や海蛇龍の鱗の粉末を用いて建てたんです。この星硝子(ほしがらす)だってどこから調達してきたのか…まあ、おそらくドワーフの領地からなんでしょうけど」


転移で我らエルフの一団を案内してくれた先代魔王の右腕は、そう疲れた様子で教えてくれた。この城を、効果(エンチャント)が無駄にと言っていいほどかけられたこの城を建てたのが、魔王などとは……先の魔法もそうだが、規格外が過ぎるぞ、邪神よ!

しかし、謁見の間の中央にて実際に目にした浮遊する魔王は、わずかに漏れ出る魔力に威圧感を感じるだけの、黒い幼女であった。


「はじめまして、と言うべきか。私はエルシャファン・ドゥ・ツェルストゥロン。長ったらしいが、"エル"や"エルシャ"、"アーロン"と縮めて呼んでくれて構わぬぞ」

「はじめまして。僕はセキノタスと言う。気軽に"セキノ"と呼んでくれ」

「承知した。では会議の間へと参ろうか。………またか。グランよ、界境(かいざかい)の人間共がまた騒いでおる故、鎮めてきてくれんかの?」

「御意」


随分と長い名を邪神に与えられた魔王は何かを察知したのか、先代魔王の右腕に、そう命じた。この場にいながらして魔界の現状を把握できているのだろうか。そうだとすると、彼女は最強の魔王と言われた五代前の魔王と同等か、それより強い魔力を持っていることになる。彼もまた、魔界の現状ならば城にいても察知できたという逸話があるのだ。

魔王に案内された会議の間は、すべて黒曜石で机も椅子も設えられていた。透き通るような光沢を放つ漆黒の石には、簡単に鑑定しただけでも三つの効果がかけられていた。…リラックス効果という効果は、初めて見たな。

長いテーブルの両端に、向かい合うように座る。連れてきた従者たちは、僕の後ろに控えている。魔王の後ろには、馬頭のメイドと魚面人のメイドがいる。……なぜ、頭だけなんだ。首から下は人間のようだというのに。


「さて、会談を…と言いたいところだが、腹を空かせておろう?先ほどからおぬしの従者の腹の音が愉快な演奏をしておるわ」

「………」

「………申し訳ありません、族長」


魔王の見る従者の一人である姪をこちらも見ると、肩身が狭そうに彼女は身を縮こませた。

それを見た魔王はからからと笑い、空いている椅子に従者たちを座らせた。


「せっかく来てもらった故、崩山獣の肉でも振る舞おう。エルフ好みの味付けになっているかはわからぬが」

「…尻肉のソテーは?」

「もちろん用意しておるぞ。前に狩った肉が余っておってのぉ…魔王生誕祭と称して一月前に魔界の民全員に崩山獣料理を振る舞ったのだが、それでも余ってしまっておる」

「魔王様魔王様。それは魔王様が一度に三体狩って来たからだと思うんです」

「食いきれると思うたのだ。しかし、皆遠慮してがっつかなかったな」

「そりゃあ遠慮しますよー。普通、魔王エル様の手料理なんて、恐れ多くて民草には口にできませんもん」

「料理長嘆いてましたよー。魔王様に揮える腕がないって」

「…今度並んで料理でもするか」


崩山獣の尻肉のソテー。しかも、会話を聞く限り作ったのは魔王。料理長が嘆くほどの腕前と言うならば、味には期待できよう。

しかし、一度に三体の崩山獣を狩るとは。やはり規格外が過ぎる。

三魔が会話している間に、テーブルの上に真白のテーブルクロスが敷かれ、その上に料理が並べられる。そこに魔族の手は介入していない。正確に言えば介入しているが、それらはすべて魔王の魔力によって行われていた。

事象操作。強すぎる魔力は因果さえ狂わせるが、事象操作はその制御の一端だ。ここまでできるとなると、おそらく因果律操作すら可能なのだろう。

どこからともなく現れた料理たちに、従者たちの開いた口が塞がらない。しかも、美味そうな匂いが満ち、涎まで垂れている。


「好きなだけ食ろうてくれ。おかわりはあるからの」


魔王の言葉に、僕は遠慮なく頂くことにした。どうせ毒は効かないエルフという種族だ。料理で暗殺ができないことは魔王も重々承知しているだろう。

そう思いながら、念願の崩山獣の尻肉のソテーを口にした。











◇◆◇ しばらくお待ちください ◇◆◇











毒以上の毒だった。あれほど美味なるものがこの世に存在するとは。恐るべし、魔王の手料理…!


「バターの風味と爽やかなスパイスの香りと辛味が、絶妙に絡んでいた…ローストされた肉も美味しかったけど、やはりソテーが一番だ」

「サイコロステーキっていう一口大のステーキ、やばいっすね!程よい歯ごたえがあるのにいくらでも口にできそうな吸引力というかなんというか…一口大ってのがやばいっすよ!ほいほい口に入れちゃう!」

「………肉うどんっていう食べ物、美味しかったです。……肉のうま味が、淡い味付けの汁に溶け込んで、それにうどんっていう麺に絡んで……他の肉でも、きっと美味しい」

「生姜焼きなるものも美味でした。濃い味付けを美味だと感じるとは、千年生きてきて初めてですよ。米との相性も抜群でした」

「喜んでもらえて何よりだ」


我らの反応を見て嬉しそうに笑う魔王は、とても幼子には見えない。なるほど。確かに「お母さん」だ。

和やかな雰囲気になったところで、会談を始める。これまた魔王の手作りだという緑茶と茶菓子――米から作ったアマザケというものを使ったシフォンケーキだ――を口にしながら、交易品について話を進めた。


「…アマザケとやらの製法を、こちらに伝授していただけませんかの?どうやらこれには、薬効があるようで」

「ほう、さすがだの。甘酒は美肌と体力回復に効果がある。消化にもよいでな、胃が弱った時には最適だ。さらには便通を良くしてくれる。酒と名に付くが酒精がほんのわずかにしか含まれておらぬ故、子どもでも口にできる。味の好き嫌いは当然あるが、このように菓子に応用もできる。もちろん、そちらのハーブ酒の製法と引き換えに伝授しよう」

「ありがとうございます」

「エルシュ殿、カカオの実から作られるちょこれーとという菓子なのだが…」

「うむ。製法は伝授するが、こちらで作った日持ちする菓子もそちらに流通してほしいのだ。菓子職人という職が、今民で流行っておってのぉ」

「では、こちらも作った菓子を流通させてほしい。互いに切磋琢磨し合えば、より美味い菓子もできるだろう」

「もちろんだ。美味いものは心を豊かにするでな」

「ああ。真その通りだ」

「……………食い意地の張った者たちの集まりか、ここは」


ぼそりと、帰ってきた先代魔王の右腕、現魔王の右腕が何か言ったが、聞かなかったことにした。

念願の崩山獣の尻肉のソテーに加えて、額肉のロースト、頬肉の燻製、肋肉のサイコロステーキ、背肉を使った肉うどん、腹肉の生姜焼き等々、いろんな料理が食せた。さらには有意義な製法伝授の話まで取り付けられた。小麦、麦酒、果てには芋や麦から作るショウチュウという酒も流通させてもらえるようになった。先代魔王の時には小麦の取れ高が低くて流通できなかったらしいが、この魔王はなんと民に土壌改良や小麦の収穫を楽に行う魔法を教えたらしい。そのため、これから小麦の生産量が増える予定だそうだ。さらには民に仕事を与えるため、ショウチュウは製法を民に伝授したという。芋の生産も始まり、すべてはこれからだが、魔界産の小麦は粉にしてパンを焼いても、麦飯にしても美味いことで有名なのだ。土産にもらった魔王手製の麦酒とショウチュウではあるが、これが民の手製とは言えエルフの皆に振る舞えるかと思うと、心が躍る。こちらはカカオの実以外にコーヒーの実やバナナの実、ゴムの木の苗を流通させることになったが、痛手ではない。むしろこれらが魔王の手によって(いい意味で)魔改造されると思うと、楽しみですらある。

うん。実に有意義な場だった。今度はこちらに誘って存分に持て成そう。






余談だが、魔王手製の麦酒もショウチュウも実に美味だった。人間の作る麦酒は泡が少なく、まとわりつくような苦い口当たりで正直好きではないが、やはり魔界産の小麦を使った麦酒は格別だな。さっぱりとした苦みと爽やかな酒精と弾ける白い泡がたまらない。さらにはあの魔王が作ったものともなれば、美味いのもわかる。…趣味程度に魔法でさくっと作っていると言っていたが、個人的に分けてもらえないだろうか。

ショウチュウはショウチュウで、芋でできたものはすっきりとしていながらもまろやかな甘みと、突き抜けるような酒精の辛みが非常に年配のエルフ好みだった。麦でできたものは香ばしい匂いが気にならなければ飲みやすく、比較的若いエルフ向けとも言えるか。魔王おすすめの氷割りで飲むと実に美味い。芋はお湯だな。一緒に連れて行った爺は氷割りがいいと言うが、僕はお湯割りの方が好みだ。辛みが鎮まって、鼻を甘い香りが擽るのがたまらない。しかし、温かいうちに飲まないとその良さがなくなるため、ついつい飲む速度が上がってしまうのが難点だ。

うん、やはり魔王に少し融通してもらおう。代わりに僕が作る、異界から知識を得た羊羹などの菓子を振る舞おう。


「族長様はやっぱり賢者様っすね。これだけ飲んでも酔わないとか…」

「くくくっ、神に選ばれた僕が酒に負けるとでも?」

「だって見た目だけなら頭おかしいおっさんエルフだし」

「誰が頭おかしいおっさんエルフだ!」


まったく。失礼な甥だ!まだおっさんではない!青年だ!三百七十二歳だ!僕はまだ若いんだ!と言うか頭おかしいって何!?


「…………エルフは最長で千五百年生きるので、族長はまだおっさんじゃありません。人間で言うところの二十代後半です」

「異界で言うところのアラサーっすね。もうじきおっさんっすね」

「おっさんではない!まだ!」


一緒に会談に連れて行った甥と姪に呆れた目で見られた。まだ僕はおっさんじゃないんだぁぁああああああ!






(頭は中身じゃなくて見た目なんすけどねぇ…異界の影響受けすぎでしょ。モヒカンって何)

新たに名前付きの登場人物が出たので、以下設定。


セキノタス(Ξεκινώντας)

賢者。のはず。名前はギリシャ語で「始まり」の意味。

金髪ロン毛をモヒカンにした、(見た目的に)頭おかしいおっさんエルフ。ゴリマッチョ。甥っ子姪っ子と爺ちゃんは普通に天然ストパーの金髪ロン毛の細マッチョ&ひんぬー。

薬の知識が豊富。異界の知識に触れられるほど魔力が強く(体ごと次元を渡ることはできないけど、意識だけなら次元を渡れる)、異界の薬も再現しようと思えばできる。

お酒大好き。甘いものも大好き。でも一番好きなのは崩山獣の尻肉のソテー。めちゃうま。ワイン(赤)と合う。珍しいものも大好きで、そのためにわざわざ髪型をモヒカンにした。できれば流行らせたいけど、可哀そうな子を見る目でみんなから見られているので、多分無理。見た目のごつさも相俟って、人間からは突然変異のエルフと言われる。




エルフとは。

インテリ美人。男は細マッチョ、女はひんぬーが多い。突然変異でゴリマッチョとないすばでーがちょっとだけいる。頭はいいのにどこか残念。賢者だけが残念なわけじゃない。みんなどこかしら残念。酒乱とか病弱とか酒乱とか。

魔族の体が物質化したらエルフになる、と言われるほど、元々は種族の性質が近かった。のに、いつのまにか魔族は脳筋に、エルフはインテリ美人になった。

基本的に魔族とその亜種であるマーメイドとセイレーン以外の他種族に対して冷たい。特に同じ酒好きのはずのドワーフに対しては絶対零度。過去に一度、材料にする!と言って大地の神(賢者を選ぶ神)に祈りを捧げるために存在する世界樹を伐採しようとしたから。もちろんエルフ領内はドワーフの立ち入り禁止。立ち入ったドワーフは即刻さらし首。厳しい。

エルフの作る薬は万病に効くとも言われていて、高値で取引されている。でも実は薬より魔道具作りのプロ集団。魔界産の魔石をふんだんに使ったログハウスがそもそも魔道具だったりする。みんなの家自体が魔道具。町一つが魔道具、なんてこともある。もちろん対ドワーフの発見即殲滅(サーチアンドデストロイ)用。意外と過激。


太古の樹海とは。

エルフ領の一つ。大地の神の神殿でもある世界樹を中心に広がる、始まりの時から存在する樹海。カカオの木やバナナの木などが自生する。イメージ的には南国ジャングル。土壌に含まれる魔力の質上、植物の成長速度が速く、七日前に収穫したのにもう花が咲いていたりする。

薬はもちろん、バナナのパウンドケーキやパンケーキ、米料理が名産。米は元々ここにあったもので、交易で魔界に渡った。以来、米は魔界産のものを使っている。美味しいから。


エルフ領とは。

エルフが治める土地。樹海オンリー。魔界の南部地方がお隣さん。魔界との間だけ壁がなく、それ以外のところとは壁がある。高さ十メートルの魔鋼製。木の中や木の上に家を作っている。町や村の規模は人間に比べるとやや小さい。やはり名産は薬。それ以外にも土地ごとの独特な料理が評判。ハーブ酒や緑茶、紅茶、烏龍茶も人気。

魔族とマーメイド、セイレーンとのみ交易を行なっている。

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