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幼女魔王はただひたすらに我が道を行く  作者: あおいろ発泡飲料
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魔王のお披露目(前編)

おめでとう!赤ん坊魔王は幼女魔王に進化した!


どういうことなの… By先代魔王の右腕の魔人

新しく魔王が住むための城が、魔王によって作られた翌日。

魔王が、赤ん坊から幼女に進化した。


「えっ……成長、してる…?」


先代魔王の右腕だった魔人は、日課の散歩をしていた時に朝から庭で花を咲かせている魔王を目撃し、思わずそう口から漏らした。昨日までは確かに生まれたての人間の赤ん坊の姿だったというのに、今は人間で言えば三歳くらいの幼女だ。しかし、人間の姿とは似て異なり、背中に六対の黒い翼を、小さいながらも生やしている。なぜか服は黒に染められた獄蚕(ひとやかいこ)の絹で作られたであろう、Aラインのドレスを着ていた。髪も黒く、服も翼も黒いが、唯一肌だけは、病的なまでに白かった。


「おはよう。なんだ、私が成長していてはおかしいか?」

「あ、おはようございます。いや、昨日まで見た目が赤ん坊だったんで、まさか一日でここまで成長するとは思っていませんでした」

「なるほど。人の赤子の姿で生まれれば、そう思われても致し方ないか。だが、私とて魔族ぞ」

「ええ…姿形なんて、あってないようなもんですよね……」

「うむ、魔力の塊故、見た目なぞ自分らしくあるためのものでしかない。…しかし、他の者にも驚かれそうだな」


虹色の雨を降らせ続けながら、魔王は自分の姿を見直した。そして、溜息をつく。


「生まれる時の姿形を選べぬというのも、難儀よの…」

「そうですね。魚の姿で生まれた魔族が、成長するにつれ鳥になったりしますし」

「魔は見目によらぬのぉ…」


しみじみとそう呟いた魔王は、雨を止ませて魔人を見た。見た目は幼女とは言え、魔王は魔王。正面から見据えられただけでも、わずかばかり溢れる魔力の濃密さに、体が竦んだ。


「話は変わるが、おぬし、先代の魔王の右腕だったそうだな。魔人の姿をしているところを見ると、知能が高そうだが」

「はい。先代に頭を買われて、人間の国で言うところの宰相なるものの真似事をしていました」

「そうか。ならばちょうどいい、私が王になって初めての仕事をやろう」


ニヤリ。幼女に似つかわしくない笑みを浮かべた魔王を見て、魔人は全力でこの場から逃げ出したくなった。もちろん逃げようにも逃げられなかった。






「なんにせよ、まずは名乗ろう。私はエルシャファン・ドゥ・ツェルストゥロン。これ一つが名というのも長ったらしいと私も思うが、古き神が定めた名故、文句は古き神に言ってくれ」


太陽が天辺に上った頃。五十階建ての城の一階にある謁見の間に集められた魔族たちは、皆三歳の幼女になっている先日生まれたばかりの魔王の姿と、その名前の長さに驚いていた。本魔が自己申告している通り、確かに長い。しかし、「文句は古き神に言え」とは無茶振りもいいところである。

古き神とは、魔族以外で言うところの邪神である。その古き神はこことは違う次元に存在しているため、次元を渡る術を持たないこの世界の住人は、会うことなど絶対にできないと言ってもいい。おそらく、この魔王は別なのだろうが。


「そうだな…縮めて"エル"でも"エルシャ"でも"アーロン"でも構わぬぞ」

「名前の先と後を取る呼び名は主流ではありませんよ」

「頭だけを縮める方が安直故か…まあ、好きに縮めて好きに呼べ。よほどの呼び名でない限りは許容しよう」


玉座の上で、短い脚で器用に胡坐をかいて浮かんでいる魔王は、楽しそうにそう言って笑う。朝から今までの短時間で、この魔王の性分を嫌と言うほど知ってしまった右腕になった魔人は、遠い目をして溜息をついた。


「さて、皆に集まってもらったのは、思い上がりが過ぎる人間共に、私の存在を知らしめようかと思うて、その方法を考えてもらうためだ。私が気に入るほど面白い案を出した者には褒美を取らすぞ。褒美と言っても、昨日くれてやった肉のように食えるものだが。…崩山獣(やまくずしのけもの)の肉で生ハムや燻製、ソーセージなどを作ってみたいのう」

「…………崩山獣の肉が、昨日の巨鳥(おおとり)の肉並みに超高級食材だというのはご存知で?」

「知らぬ。美味いということしかな。美味い肉は魔力吸収効率が高い故、私が魔王でいる間は民すべてに食わせてやりたいものだ。民には長生きして、世界のいろんな面を見てほしいからの」


「そうだ、海に面したところでは、海蛇龍(うみのじゃりゅう)の海鮮丼でもご当地メニューにしてみるか」

そう呟いた魔王の声が聞こえた魔族たちは、魔王の言った食材に思いを馳せてよだれを垂らした。特に崩山獣の肉は酒によく合うため、魔族のみならず、マーメイドとセイレーン以外の種族に好まれている。しかし、崩山獣はその名の通り山を崩すほど大きな獣のため、一個大隊相当の数の敏腕狩人が集まったところで全滅する可能性の方が高い。これを単独で討伐できる存在は、おそらく世界中どこを探してもこの魔王しかいないだろうほどだ。先日の巨鳥も難易度としては同じだが、空を飛ぶ分厄介である。

巨鳥も崩山獣も海蛇龍も、その肉は長命の魔族やエルフでさえ、一生に一度も食べられないことなどざらである。その肉をポンと提供してしまえる魔王は、そんな食材を褒美にくれるという。やる気が出ないわけがなかった。

しかし、一時間、二時間、と刻々と過ぎる時間と共に、魔族たちの出す案は少なくなっていった。皆ありきたりのものしか思い浮かばず、頭を抱えている。


「普段頭を使わぬ弊害よの。ほれ、甘いものでも食せ。甘いものが苦手ならば、苦めのものもあるぞ。頭が働かぬ時には、甘さのあるものを食べるといいのだ。魔族にも通用するかは知らぬがな」


そう言って、一時間経ったあたりで厨房に行っていた魔王が、魔人を伴って再び謁見の間に現れた。魔王の周囲には、色とりどりの菓子が浮かんでいる。材料はおそらく、またどこからか調達してきたのだろう。


「これ、なんです?」

「チョコレートだ。エルフの住む太古の樹海にこれの原料となる実があるぞ」

「………どうやって調達してきたんです?」

「転移の応用ぞ。私はどこにいても思った通りの物の座標軸を特定できる故、可能なのだ。もちろん、もらいっぱなしは性に合わぬでな、実は再び木に付けさせておる」

「魔王様魔王様。今までの魔王様はそんなことできませんでした」

「力も頭も足らなかったのであろう」

「身も蓋もない言い方ですねー」


からからと笑いながら、ピンク色のメイド服を着た馬頭のメイドが、甘い匂いにつられてチョコレート(生チョコ)を手に取る。五本の指の爪がすべて蹄になっているが、器用なものである。

彼女が一口チョコレートを食べると、歓喜のあまりか、ピンク色に見える魔力が彼女から溢れ出した。


「お、美味しいです!はじめましての触感と味です!もう口の中からなくなっちゃいました!」

「そうか、気に入ったか。こういうものもあるぞ?」

「いっただっきまーす!………おおおおお…とろっとしたちょこれーとがアツアツですが、ふんわりしっとりなスポンジと相性抜群ですね!これを世界に広げれば、魔王様の知名度も上がりますよ!」

「うーむ…それでは魔族らしくなくないか?」

「うっ、そうですね…でもこれ、本当に美味しいです!せめて魔界に広げません?」

「元よりそのつもりだ。賢者であるエルフの族長に、これの材料となる実を交易品にしてもらえるよう謁見を申し入れる予定なのだ」

「さすが魔王様!抜け目ない!」


すっかり魔王が作った菓子を気に入ったメイドの様子に、魔王は嬉しそうに笑った。他の魔族たちも、思い思いに気になった菓子に口を付けている。


「う、うめえ…この、リョクチャってのに似た苦みがたまんねえぜ…」

「…家庭料理でもあるパンケーキが、どうしてこんなに素晴らしく美味しいのでしょう……くっ…魔王様に料理の腕で負けてしまうとは……!」

「この魔王様って、作ることに特化してるっぽいなー。…うん、美味い。もう魔王様が店開いちゃえばいいんじゃないかな」

「違うよ。作って壊して作ることに特化してるんだよ。昨日の城、見ただろ?」

「あー…うん。納得。古き神からいろんな知識を与えられてるみたいだし、楽しい世界になりそうだよねー」

「お、このケーキ、変な風味だけど美味い!」

「…皆気に入ったようですね。魔王様、これおかわりあります?」

「ごつい見た目に似合わず、おぬしは甘いものが好きだのぉ…ほれ、おかわりだ」

「ありがとうございます。……シフォンケーキ、初めて食べてみましたが、いろいろ応用が利きそうですね」

「チーズと抹茶と紅茶と林檎と檸檬と蜜柑とクランベリーもあるぞ」

「……檸檬ください。冒険してみます」

「あ、魔人グランさんずるい!魔王エル様、私にも林檎のシフォンケーキくださいな!」

「ほれ。この林檎のジャムを付けて食べるのもおすすめだ」

「わーい!ありがとうございます!」


――その日は結局、魔王の菓子パーティーになった。






(皆美味そうに食ろうてくれる故、作り甲斐があるというものだ。さて、そろそろしょっぱいものでも用意するかの。…よし、このまま酒盛りといこう)

名前が出てきました。以下設定。


エルシャファン・ドゥ・ツェルストゥロン(Erschaffung und Zerstorung)

幼女魔王。名前はドイツ語で「創造と破壊」の意味。

黒髪黒目。ただし瞳孔は内(小)と外(大)の二つあり、内側のは勿忘草色、外側のは瑠璃色。瞳孔の中に瞳孔がある感じ。肌は真っ白。むしろ青白いと言ってもいいくらい。美幼女(三歳児)。六対の黒い小さな翼を羽搏かせ、空を飛ぶこともできるが、それより転移した方が早いし、浮遊魔法を使った方が気分的に疲れないので、ぱたぱたすることは滅多にない。ぶっちゃけただの飾り。

作って壊して作ることに特化した魔王。基本的に作る方が好き。気に入ったものは壊して、気に入ったものを作る系わがままちゃん。自分が作った料理やお菓子を美味しそうに食べてくれる魔族のみんなが愛おしい。もはや我が子。


グラン(Gran)

右腕さん。名前はイタリア語のGrandeの語尾音削除。よく楽譜とかで見かけるやつ。大きい、偉大な、などの意味。

褐色の肌の魔人。とがった長い耳に、細マッチョの体。こちらも黒髪黒目。ただし瞳孔が金色で白目の部分が白くない。赤い。ライオンの尻尾が二本生えている。顔の表情筋は死滅しているけど、尻尾は感情豊か。寝ている(意識を停止している)時によく尻尾が絡まるのが悩み。

泳げない。というか浮く。沈めないし進めない。ただひたすら海面水面に浮く。体を構成する魔力の質が、それらより軽いから。幼女魔王曰く、煙で体ができているようなもの。




魔族とは。

脳筋。体は物質ではなく魔力だけでできている。考える前に体が動く。頭はあまりよろしくないのが多い。単純に火力(ワンパン)だけ見ればダイナマイト級の威力。一番弱い魔族でもそうなのだから、魔王城にいる魔族になると、一魔(ひとま)の全力ワンパン=巨大隕石落下。

魔法じゃ傷付かない。その前に魔法が、魔族が無意識で発する魔力により相殺されるから。魔族の攻略方法は、ひたすら相手の魔力を消耗させること以外にない。脳筋なので、おちょくって持久戦に持ち込めばいける。問題はダイナマイト以上の威力を誇る攻撃(物理)に耐えられるかどうか。

生まれる瞬間の姿はそれぞれ。大気中の魔力が凝り固まって生まれるので、親子や血の繋がりという概念がない。生まれた時は鳥でも、「こういう姿が自分にふさわしい」と思うとライオンになったり亀になったりする。基本的に成長するにつれて、希望の姿がなければ能力に応じた姿に変わる。グランたち魔王城にいる魔族がそのタイプ。魔人系は魔族の中では飛びぬけて頭がいい。そのため、使える魔法の種類が豊富。馬頭のメイドさんは獣人系で別系統。物理特化。


魔界とは。

魔族の住む土地。魔力の濃密さが半端なく、弱い魔力に慣れ親しんだ人間の国のものを持ち込むと、一瞬で外気の魔力に耐え切れず破壊されるほど。イメージ的には常に百倍の重力がかかっている感じ。

風光明媚な土地が多く、のどかな農村さえ、金色の小麦畑が美しい。名産は米、小麦、大麦、葡萄、檸檬、林檎、茶、麦酒(ビール)、ウイスキー、ワインやシードルなどの果実酒に魔石各種。特に魔石は土地柄(魔力濃度の高さ)で上質なものが取れるので、魔道具作りが大好きなドワーフには垂涎もの。酒も美味いので、ドワーフたちにとっては「魔界産のものは安くて美味くて気取った感じしねえから最高だぜ!」らしい。

エルフとドワーフ、マーメイド、セイレーンとのみ交易を行なっている。

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