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ヘ○シング

栄治の車で1時間ほど掛かって付いた場所は、都心からやや離れた広い敷地を持つ大学キャンパスのようだった。


「意外ね、都心のインテリジェントビルの一角に有るとばかり思ってた」

 

 IT企業といえば電気・通信インフラが強化されてOA器機の配線が床内に収納可能な高付加価値設計のビルにあるのが当然だと考えていたが、3階から5階建ての窓ガラスが広めのいかにも「学校」らしい、よく言えばオーソドックス、悪く言えば特に代わり映えのしない建物が芝生と広葉樹がほどほどに植栽された敷地に建っており、最先端の研究がなされているようには思えなかった


「みゃーちゃんの言う『ゲーム開発会社』の中にはそう言った場所にあるのも確かだね。

だけどうちらのやってる業務は複数の分野が絡んでいるから、ライン上でデーターのやり取りだけじゃ足りない場面とか出てくるんだよね。まぁ作業がこなれていけば面付き合わせての議論は減るだろうけど」


「たとえばさっき通り過ぎた工学部の某研究室はサイバネティックの分野でうちらと提携してる」


 サイバネティックとは通信工学と制御工学を融合し、機械工学・生理学・システム工学を統一して扱う学問である。言っちゃ何だけどたかがゲームにそこまでマジやるとかどうかと思う


「そしてモル……治験(トライアル)協力者(コーポレーター)の募集掛けるのに『大学』は都合が良いからね」


 いま、絶対に実験動物(モルモット)と言いかけたな。

隣にそのモルモットが歩いていると気付いて言い直したようだが


「此処の3階がメインの開発部門だ」


「医学部……うち帰らせてもらうわ」


「ちょっ! 見もしないで いきなりどうした?」


 バスケ選手も画やとバックロールターンをかましてダッシュをかけたが栄治は瞬間移動したかのように追いつき私の肩にがっちりとクローをかけた、バスケならファールだぞっ!


「『ここは危険』そう囁くのよ……わたしのゴーストが」


「どこかの公安9課の女ゴリラみたいな事言うかっ!?」


ボケをかましたら即座にツッコミ入れるのは昔とかわんないな、少し安心した


「頭に針刺したり変な薬飲ませたり注射したりとかするんでしょ」


「!!」


 あ、ボケのつもりだったのに目を逸らせやがった


「大体こう言うのって工学部でしょ、いくらサイバーだからって医学部にメインを置くのはあやしい

それって『下手したら病院行き』が冗談じゃなく常態化してるて事じゃないの ?」


「いやいや、そんなしょっちゅう事故とか起こしてないから。……まぁ3D酔いに対しての薬の処方とかは有るけど」


 3D酔いまたはVR酔いは体感ゲームとしてFPS(一人称視点シューティング)で時たま起こる状態異常である

視覚から来る動きの情報と三半規管から来る信号の齟齬から来ると言われているがそれが全てではないとも聞く。ちなみにキャラクターの背後から見る形のプレイはTPS(三人称視点シューティング)で「地○防衛軍」がそれである


   ◇  ◇  ◇


 とりあえず見てもらわないと話が進まないと懇願されて開発ルームに連れて行かれたのだが

自分がネットやテレビで紹介されて知っているゲーム会社のそれとはレイアウトが大分異なっていた。

 イメージしていたのはずらりと並べられた机と椅子、各人に与えられたブースにモニターと外付けハードディスクドライブとキーボード、マウスと大量の資料がごっちゃに積み上げられている一種のオタ空間を思い浮かべていたのだ。

 入り口のドアを開けて目に入ったのは壁が黒い吸音素材を一面に貼り付けた、そうね録音スタジオを思わせる一種の非日常世界を思わせるアウトラインで、中央に黒の合成皮革のリクライニングパーソナルソファ(肘掛とフットレスト付き)が鎮座し、それを囲むように電子機器が配置されている。

 壁が黒くなければICU(集中治療室)かと思ったのは、ここが大学の医学部棟という先入観のせいか。


「えーじ、私には『集中治療室』に見えるんだけど」


 栄治の話によると開発初期の段階では通常の椅子に座ってテストした時、脱力した身体の姿勢が崩れて転げ落ちたトラブルが何件か生じたので現在のようなレイアウトを組んだらしい。


「モニターの数が多くない?」

ソファの左右にあるテーブルに置いてるモニター装置の数がやけに多いのを聞いてみたが。


「これは被験者の主観映像とその他の角度から見た映像をチェックする為の装置だ」


ふむふむ、つまりリプレイ画像を見て動作チェックするようなものか……あれ?


「ゲームのリプレイ集はわりと見るけど『主観映像』ってMMOではあまり聞かない気がする」


 そう、例えプレイヤー視点で撮られた画像と言えどMMOではプレイヤーキャラクター自身も写っているのがほとんどだ、其れは何故か。

 外部から見たほうがキャラクターが何をしているか、ダメージを受けた際の部位が見てプレイヤーに判り易いからだ。

 火器を撃ちまくるシューティングゲームに主観画像タイプが多いのも自分のダメージを気にするより標的に意識を集中して狙いをつける事に重きを置いているからだと聞く。


「このゲームはシューティングゲーム寄りのコンセプトなの?」


「魔法や投射武器も有るからシューティングの要素は無いとは言わないが、一番の理由は『一体感』だな、VRだから外部視点はプレイヤーには不自然だがギャラリー向けに複数の視点も設けている。」


 現時点では動作チェックの意味合いだけだと栄治は言う


 まぁ、それは良いとして目の前のソファにはだれも居ないのに何故か5名の白衣つけた人たちが先ほどから(あわただ)しく行き来してる、そしてこちらを見てはコソコソと小声で話し合ってるのを見ると不安な気持ちがわいてくる。


「ねぇ、さっきから気になっていたんだけど」


「ん、なにかな?」


「あの人たち、白衣はつけているけど医療関係者には見えないんだけど……」


そう、白衣はつけててもボサボサ髪で目の下の隈が全員なのは不健康な雰囲気バリバリである。


「いやぁ、白衣つけているのはお医者さんばかりじゃないし、彼らはうちの開発スタッフさ、最先端電子機器の国内トップのエキスパートぞろいだ、心配しないで良い」


 それってマッドサイエンティストのフラグじゃないですか、やだー


   ◇  ◇  ◇


 準備が出来たとのスタッフの声に渋々ながらソファに座る。データー収集が進まないと彼らも家に帰れない日々が続くと言われると、NOと言えない日本人のひとりとしてあまりダダ捏ねるのもはばかれる。検査着に着替えたりせず今の服のままでよいからと言われたのもあったし。

 

 本来は心拍計や心電図の電極もつけてモニターしたいと言われたけど、あなた『医師や検査技師ではない』と言ってなかった? 異常が起きたら本職呼んでよねと栄治に念を押したから彼らには身体いじられたくはない。


 これをつけてくださいと手渡されたのが電極がいっぱい付いたヘッドギア


「パ○ウェーブ」


「みゃあちゃん、そのネタはちょっとヤバイからやめようね」


 栄治の説明だと網膜・視神経を経ず大脳皮質後頭葉視覚野に情報のやり取りで映像見せたり、逆に脳が見ている映像を取り出して電子機器に映し出す中間器機インターフェースだとか。

 事故や病による後天性障害の人の治療データ蓄積すれば先天性盲人にも適用して人工視覚の獲得ができる可能性も高くスポンサーの期待も大きいとの事。

もっとも、人工視覚そのものは義眼や人工網膜を外科手術により埋め込むタイプが実用化が進んでいて、娯楽であるVRゲームは仮想空間で構築した映像を感じる、といった違いはあるが。


「このギアの画期的なのは『脳内映像を可視化』出来たことなんだよね」


 このヘッドギア以前にも脳内映像の可視化には色んな機関が挑戦してて美弥も科学系雑誌で読んだ事はある

それでは脳内血流の分布の変化を事前のデータと照らし合わせて「たぶんこんな画像を思い浮かべている」と言った程度だった記憶


「ブラウン管に「イ」の字とか」


「高柳健次郎か、つかマニアックなネタを」


 テレビ創世記の話で実験機の走査線が40本(現在のテレビは525本、ハイビジョンだと1125本)だから荒っぽい画像しか送受信できなかった時代の話だ。1926年(昭和元年)に基礎は出来ていたのだが本格的なテレビ放送は大戦後の1953年まで待つ事となる


閑話休題それはさておき


「この技術は『脳内映像を可視化』出来る、ぶっちゃけた話人が見た夢を本人以外の人が観覧できると言う人類の夢のひとつが実現した、と言っても良い」

 それに比べるとコンピューター内で構築された仮想空間を網膜-視神経を使って見ることは大した事では無いとのたまわく。ゲーム開発者がそんな事言っていいのか


「ただ、現時点ではヘッドギアのみで仮想現実世界にダイブする事は時間が掛かるとの事で『変性意識状態』に誘導する必要がある」

 ヘッドギアの電極パッドを研究者の人がペタペタと貼り付けているのを手持ち無沙汰で目だけ動かしてモニターの並んでいる机を眺めていると栄治がこれまた怪しいブツを持って椅子の傍へ来る。


「エージ、それは?」

オーディオ用ヘッドホンはまだわかる、それに繋がるなんやらダイヤルがこれでもかと付いている黒い箱とLEDランプが10個以上付いている黒いサングラス


「これは左右で周波数の異なる音を出して、側頭葉聴覚野で合成音を形成する為のデバイスだ、専門用語で言えばヘミシング・デバイスと言う」


「大A帝国王立国教騎士団!」


「いや、吸血鬼の旦那とか関係しないから」


 苦笑しながら相手してくれる、良いヲタ仲間だ。

栄治の説明によると普段聞きなれない音を聞くと人の脳はそれに集中すると共に脳神経の新しい経路を作る事が判って来たらしい、その過程で「変性意識(アルタードステーツ)状態(コンシャスネス)」を経験する。

 変性意識そのものを経験するだけならさほど難しい事ではない、酒を飲んで酔っ払ったり、ある種の薬物を服用する事でも体験できる、ただ後者は医師など資格ある者の処方無しだと日本では罪に問われたりするが。

酒や薬物を服用せず精神を極度に集中する事で日常生活とは異なる知覚状態を作り出す運動選手(アスリート)が居る、彼らはその状態を『ゾーンに入った』と言うとか。


「判ります、○ニスの玉子さま、ですね」


「みゃあちゃん、その発言は腐ってると言われるから止めようね」


何故だ。解せぬ。

作中「脳神経が新たな経路うんぬん」はフィクションです、鵜呑みにしないでね

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