45話
ミゼットを仲間に引き入れ、アウトロー出張所の準備に追われ出して2週間が経った。
王都に近い土地の買い取りも思いの外すんなり事が進み、隣国に繋がる街道に沿う場所の確保に成功した。
ダダンさんが言うには、先物取引で海鮮物の乾物の買い占めをしたが、アウトローギルドのせいで損した貴族で、腹いせのつもりで売る気がなかったのに相場の3倍の値段でふっかけてきたのをあげ足を取って即決で買ったそうだ。
いくら俺が上限を設けなかったからといって無茶したモノだと思ったが、本来は王都の傍の土地は簡単に売ってはならないという暗黙の了解があり、他で買うなら手続きなので相当時間がかかるが、こちらに恨みがあるのを逆手にとってスピード解決させたらしい。
「思いきった事をやったが、時間との勝負になる今を考えれば、ダダンの英断というべきかのぉ」
「確かに、商人連合に揺さぶりをかける為に、末端の商人に海鮮物や石鹸の旨みをちらつかせて、その売れ行きで焦らせ、内部分裂を狙う……と、喋ってる間に、固まってたな?」
俺は、手元にある楕円形の型の蓋を外すとレモンの香りがする黄色い石鹸を取り出して触ってみる。
しっかり硬さがあり、型枠に残った石鹸カスを水に濡らして擦ると泡が立ち、更にレモンの良い香りが広がるのに満足そうに頷く。
「ふむ、1週間かかったがなんとか形にはなったのぉ」
カバンの言葉に頷く俺は、正面でドヤ顔する黒装束の少年を見つめる。
「レシピがあったとはいえ、良く1週間で仕上げてくれた。苦労したんじゃないか、トーマス?」
「いえいえ、某は未知の石鹸を作る事に没頭させて頂き、御館様には感謝の言葉以外ございません。しかも、この製造法を秘匿にせよ、というご命令が琴線に響きまくりでござる!」
語学を教えるのが週1の為、暇を持て余した頭のおかしい天才であるトーマスに声をかけて、説明すると2つ返事で受けてきた。
興奮気味のトーマスに苦笑しながら俺は頬を掻く。
「当面はな、それで頼む。それでダダンさんに用意して貰った工場と子供達の教育はどうなってる?」
「このレモン石鹸を製造ラインにのせるには、もう少々お時間を頂きたいでござる。ですが、庶民に出廻すクズ石鹸であれば、もういつでも可能でござる」
思った以上に進んでいるな、頭のネジが飛んでるけど優秀なのは間違いないな! ネジが飛んでるけどな!!
大事な事だったので2回思った俺は満足そうに頷く。
「石鹸工場の立ち上げはこのまま頑張って貰う事で任せるが、今できたレモン石鹸とクズ石鹸の一部をロレンスに引き渡してくれ」
「御意」
そう言うと無駄に天井にへばりつくと玄関の前で降りてアウトローギルドから出て行った。
「本当にあのネジの飛んでるぷりがなければな……」
「まあ、そう言うな。僅か1週間で形にした事も凄いがそれを誰かに教えるというのは、その何倍も凄い事じゃ。変人じゃがな?」
フォロー入れてもカバンも変人の1点だけは動かない訳ね?
「しかし、クズ石鹸は庶民に宣伝用に配るのは分かるのじゃが、レモン石鹸はどうするんじゃ?」
「それは美に煩い存在、女、それも貴族の女であれば、この石鹸の良さを知ったらどうだと思う?」
俺がニヤついて言うとカバンがクッククと楽しげに笑う。
「持ってる事がステータスとばかりに自慢しまくるだろうのぉ、同じ貴族の女に?」
カバンも俺が言いたい意味を理解したようで、競い合うように同じモノ、あるのならそれ以上のモノを求める。
かといって、貴族が自分の足や調べたりして探すか? という話になれば、それはないだろう。
きっとお抱えの商人連合の者に探すように指示をする。
その商人は敢えて隠してない入手経路を辿ってセイドンで作られ、楽市楽座で取引されていると知れば、貴族の命令に逆らう訳にいかずにコッソリと買いに行くだろう。
楽市楽座に入った商人がそこで売られているモノを王都に持ち帰って売ったら儲かると当然、気付く。
商人連合への義理と商人との性が対立して、少し、と手を出した瞬間、後は下り坂を転げ落ちるが如くである。
こうなると商人連合と貴族と儲けの三竦みが完成である。
当然、商人連合との足並みは崩れ出し、そこに居ずらくなった末端の商人達の目の前に現れるアウトローギルド出張所。
セイドンの商人達の便利なカードに嫉妬してたのに、自分達も? となれば裏切る者が出てくる。
勿論、商人連合も黙っていないが、報復を恐れた商人は貴族に「石鹸の調達を邪魔されて満足にお持ちできません」と泣きつけば、商人連合 VS 貴族の構図が出来上がりである。
貴族に睨まれる、離反した仲間は懐が潤って行くのを横目で見てて耐えれるのはどれくらいいるだろう? という話になり、商人連合の力は弱体化の一途をたどる。
「仮に貴族と商人連合が手を組んだとしたら、取引中止にして他の相手、隣国と商売すると匂わす。本当にダダンさんは良い所を押さえてくれたよ」
「最悪の事態の武力となれば、国が動かない限り、スキルを使い始めたアウトローには多少の人数の差などあってないようなものという事じゃな?」
肩を竦めながら俺は頷く。
できれば武力で事を収めたくはないんだけどな……
そういう可能性もあるとは考えている。とはいえ、貴族も利に聡い所があるから、商人連合と手を組むとも思えない。
などと考えていると2階から降りてきたミゼットが俺に声をかける。
「ご主人様、それではミゼットは楽市楽座に出発します!」
「おお、もう出れるのか? 俺も遅れて出発するから頼むな?」
20名程のアウトローを従えたセレナがミゼットの背後で控えている。
「街の守り、客の護衛の第一陣の選抜完了です」
俺が報告に頷いたのを確認したセレナはミゼットに「出発しましょう」と告げるとミゼットは元気良くアウトローギルドを出発した。
「ワシ等も準備をするとしようかの?」
「荷物はお前がいるからいらないけどな。でも……」
俺は階段を昇り、3階に行くと俺を待っていたかのように立つ3人の嫁、美砂、チャロン、クリカに微笑みかける。
「行ってくるな?」
そう言うと1人ずつ抱き締めて頬にキスをしていく。
キスされた3人は頬に手を添えながら不満そうな顔を向けてくる。
「何故、頬なのだ! 愛が感じられないのだ!」
「そうなのぉ! ケンちゃんの私達への愛が冷めたのぉ!」
美砂は何も言わないが悲しそうに見つめてくる。
それに慌てた俺がはっきりと言う。
「そんな訳ないだろ? 口にしたらそのままベッドに連れて行かれて押し倒されそうな気がしたからだ!」
俺も少々、神経質かな? と思うけど、念の為に……って!!
美砂達が綺麗に明後日の方向に視線を向けるのを見た俺は英断であった事を知った。
「やっぱり危なかったな……俺は出てくるから後は頼むな?」
追及しないと分かった美砂達は輝かんばかりの笑みを浮かべて頷いてくる。
現金な嫁達に苦笑いが漏れる俺はアウトローギルドを後にする。
有能で時々、無能なカバンに触れる。
「予想通りばかりにいかないだろうけど、これからも頼むな、相棒?」
「こちらこそじゃ、坊主、いや、剣太郎」
俺は最高の友達と一緒にやるギルド経営はまだまだ続く。
「向こうに着いたら、まず何からやろうか?」
「そうじゃな……」
こんな風にきっと……
完
打ち切りにさせて頂きました。
これまで『神様のかばん』を読んで頂いた方、有難うございます、そして、本当に申し訳ありません。
理由は活動報告の『神様のかばん、2次落選のお知らせと諸々』というタイトルに書いた通りですが、全ては書き切れなかった私の力不足が起因しております。
剣太郎とカバンの関係性は物凄く好きで、バイブルがストックしてたアイディアを使ったモノでしたがやはりハーレムが好きになれなかったのが大きかったです。
それ以上にありきたりを狙った訳ですが嫁達、ギルドメンバーとの出会い方もバイブルの好みではなかった。
登場キャラクターは好きになれたのですけどね、勿論、山賊(仮)もです(笑)
次、新しい話を書く時はこんな言い訳を言わなくて済むように頑張りたいと思いますので、いずれ新しい話を書いた時はよろしくお願いします。




