44話
「はい、分かりましたわ! ご褒美は木刀ですかっ!?」
「ないからね? ちゃんと話聞いてた?」
ダダンさんの所から帰ってきて、夕食を取りながら会議という事を皆に伝え、そのキーになるミゼットも食卓に招待して一通りの説明を終えた直後のセリフである。
ブレないな~、ある意味、物凄く心配になってきたけど……
一応はセレナの言葉ではかなり優秀である事は聞かされてるが不安になってきてる俺だったりする。
ミゼットの隣で涼しい顔で紅茶を飲むセレナを見つめる。
まだまだ思考回路が読めない所があるけど、1つだけはっきりしてるのが面白い事には全力投球で遊ばないタイプだとは信じられるから嘘ではないと思うんだけど……
ミゼットを見てるとどうしても心配だぁ!
眉間を揉む俺を労わるように苦笑する美砂が言ってくる。
「旦那様の懸念されるのは分かりますが、どうやら優秀なのは本当のようです。今日だけで3つ仕事を完了されました。内2つは普通の依頼でしたが、これを……」
美砂が差し出してきた書類を取り、目を走らせて読む。
読み進めると自分でも分かるレベルで目が見開いていく。
書類から顔を上げて美砂、チャロン、クウコ、アオを見つめるとそれぞれの表情は違うが間違いないと頷いてくる。
ミゼットか解決してきた依頼はセイドンのある漁猟協会と交易組合とぶつかり合ってた仲裁案件であった。
良くある漁猟協会と交易組合との揉め事で発端は仕掛け網に交易組合の船が引っ掛かったとかで始まり、港の使用についてまで発展した。
当初は当事者周辺の者が対応してたようだが、手に負えないと先日アウトローギルドに持ち込まれた案件であった。
力で解決できない案件な為、理屈自慢や口の達者、企画実行を謳う者が何人か行ったが全滅した不良債権になりかけた依頼である。
しかし、港が滞ると貿易にも影響は勿論、今、商人達の売りになってる新鮮な海の幸に影響が出るという事でアウトローギルドメンバーから仲裁に出そうかと考えてた所の扱いの難しい案件であった。
それを……
「これをミゼットがやったのか?」
そう問いかける俺に目を輝かして頷く。
「はい、私がやりましたわ。どうも聞くところによると一番に問題になってたのは朝、早朝の港出入りの問題だったようで、双方の出航時間などを調べた限り、偏りがありましたので……」
どうやら、ミゼットはそれぞれの仕事のサイクルを調べて、お互いの時間にズレがある事に着目したようだ。
その偏りを利用した港から出航する時間を分けたそうだ。
勿論、季節や潮の流れ、急な出航などがあるとゴネるものもいたが、このまま平行線で居た場合の生まれるお互いの損益を概算したのを提出すると双方黙ったそうだ。
「そして、勿論、イレギュラーというのはあるのでその時は相手側の方に断りを入れる事。断りを入れたら良いという流れにならないようにその時は違約金を相手に支払うシステムを取る事で納得して貰いましたわ……」
俺に薄ら頬を染めた顔を向けるミゼットは熱い溜息を突きながら目をキラキラさせてくる。
「ご褒美ですか? ご褒美ですよね? メス豚と罵りますか? 頬に平手打ちですか? そ、それともお尻に木刀ですか?」
ハァハァと荒い息を吐くミゼットのセリフを聞かなかったら、恋する乙女にしか見えない辺りが涙腺が緩みそうになる。
変態なのは目を瞑ると確かに優秀だ……
本当なら飛び付きたい条件の逸材なんだが……
「坊主、気持ちは分かるが背に腹には代えれんし、セレナの件もあるしの」
カバンがそう言ってくるのを聞いてセレナに目を向けると目を伏せてるが聞こえたようで口許に笑みを浮かべていた。
仕方がないか、カバンの言う通りで選択肢など初めからなかったのと同じだしな。
俺の返答が待ち切れないのかズズイと近寄ってくるミゼットが俺の眼前までやってくる。
「私はご主人様の為ならメス犬車、メス豚車の如く働きますわ!」
「それを言うなら馬車馬の如くな?」
諦めようとした気持ちが折れそうになるが踏ん張ると近くにあるミゼットの頭をナデナデしてやる。
虚を突かれたように首を傾げるミゼット。
「あの、ナデナデして欲しい訳ではないのですけど……あれ? これはこれで良いような気がしてきましたわ?」
「アウトローギルドに力を貸してくれるか?」
「も、勿論ですわっ!」
「良く言ったのだ。そんなミゼットにはこれをプレゼントなのだ」
チャロンがやってくるとラジオ体操のスタンプカードのような物とをミゼットに手渡す。
カードのスタンプはどうやら30個で満タンになる物らしく、その上部には『ケンタロウからご褒美を貰うスタンプカード』と書かれている。
ワナワナと震えるミゼットがチャロンを見つめる。
「嫁である私達に頑張ったと思わせたらハンコが貰えるのだ。30個溜まったら嫁である私達が許すのだ」
そう言うと「今日、頑張ったから押すのだ」と言われて押されて喜ぶミゼット。
いい仕事をしたとばかりに自分の席に戻ろうとするチャロンの肩を掴んで止める。
「チャロン、聞きたい事があるんだが?」
「駄目なのだ。妻の3大奥義『夫に秘密』が発動中なのだ!」
口をギュッと閉じて喋らないという徹底抗戦を示してくる。
くっ、これは井戸端会議で決まってそうな気がするっ!!
矛先を変えて美砂を見つめ、話し始める。
「美砂、俺はこんな事を容認した覚えがないんだが?」
「あれ? そうでしたか? あら、旦那様、お茶のお代わりをお持ちしますね?」
ティーポットを持って席を自然な動きで立ち上がるのを止めるのが間に合わず逃げられる。
仕方がないのでクリカを見つめると汗が吹き出しながら口許を押さえて首を横に振り続ける。
「なぁ、クリカどうして、『ケンタロウからご褒美を貰うスタンプカード』の下の斜線で消されてる文字が『ケンタロウからお情け頂けるスタンプカード』って書いてるんだ?」
そう、俺が一番聞きたかった事、ミゼットが受け取ったスタンプカードは急遽内容を変えられたモノで手書きされたものであった。
「クリカは何も言っちゃ駄目なのぉ! お姉ちゃんにそう言われたの、みんな持ってるって言っちゃ駄目って!!」
そこで、ハッという顔をする。
さすがアホの子……じゃないぃぃ!!!
俺は他の奴隷の子達を見つめると一斉にほとんどの子達が目を逸らす。
逸らしてないのはアオとミケで、ミケは「集まったら屋台で沢山奢って貰うにゃ!」と喜び、アオは楽しそうに笑っている。、
ミケが取り出したスタンプカードには『ケンタロウから御馳走して貰うスタンプカード』と書かれていた。
なるほど、渡す相手によって内容が違うのか、それがモチベーションになるならいいんだけど……
「アオのは何なんだ?」
「私のは『ケンタロウに悪戯仕掛ける権利スタンプカード』ですよ」
ニヤつくアオだが、ある意味アオらしいと安心しようとした時を狙って、
「勿論、性的にですが?」
「あ、あっかーんやん! もっと自分を大事にしようよ! こうなってくると他の子達も心配になってきたぞ! クウコは何なんだ?」
アオの隣にいるクウコであるが完全に背を向け、こちらを見ない。
良く見ると頭から突きでるようにあるキツネ耳がシナッと倒れ気味で内側が真っ赤になっており、髪に隠れてない頬まで真っ赤になってるのが見える。
「クウコ? あのクウコさん? 聞こえてますか?」
「……ご主人様、後生です、お聞きになられないでください……」
あ、あっかーんや――ん!!!
俺、ぴ――んち!!
周りを見渡すがどの子も程度の差はあれど、顔を赤くしていた。
「どうやらワシ等が色々やっとる内に包囲網を敷かれて逃げ場なし、と言った所のようじゃの?」
ジリジリと下がる俺は踵を返すとアウトローギルドを飛び出す。
俺の安息地を求めて……
「ただの現実逃避じゃがな?」
カバンが何か言ったような気がするが気のせいであろう。
自由を求めて夜の港を疾走していた。
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港にある灯台の下で膝を抱えていると優しく俺の肩に触れてくる者がいた。
思わず、ビクッとして逃げ腰になったのに優しい笑みを浮かべ、労わる視線を向けてくる女性がいた。
セレナであった。
「せ、セレナ、お前だけは俺の味方だよな?」
優しく笑うセレナはプッと噴き出す。
そして、ケラケラと笑い出すセレナを目が点になった俺が見つめる。
「コレ、本当に楽しい、巫女になって正解だったかも!」
今まで生きてきた中で一番と騒ぐセレナを見つめる俺の瞳に涙が盛り上がる。
そして、俺はカバンを巻き込んで暗い夜の海に頭から飛び込んだ。
「こらぁ! ワシまで巻き込むなぁ!!!」
「俺達、一蓮托生だろうっ!!」
仲良しの俺達はいつも一緒であった。
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