38話
もっと定期的に?
せんべいを齧りながらテレビを見るバイブル。
「んっ! 考えとく」
カバンに進むべき滝の裏の洞窟を伝えられるままに歩く俺に話しかける声が聞こえるような気がするのはきっと気のせい。
「お待ちになってください。何もされずにあのまま放置……放置されたら……ああっ、それはそれでいいかも!」
頑張れ、俺、何も聞こえてない。
俺には神々のタネを手に入れるという崇高な目的……崇高? 美砂達に夜に絞り殺されないことが?
考えちゃ駄目だ、考えちゃ駄目だ、だめぇ~、
今、考えたら足を止めて違う泥沼にハマる! 更に今は倍率ドン!
「無視をなさらないで! ああっ、悔しさが体を駆け巡ると痺れ、甘い痺れがぁ」
金髪の同じ年頃だとは思うが童顔で幼く見える少女、ミゼットの病状が悪化し出してるようで恍惚な表情を浮かべて器用に身悶えしながら一定の歩くペースを維持してくる。
相手にしたら駄目だ!
だが、相手にしてないのに、ドンドン病状が悪化してるようにしか見えないってどういう事だぁ!
ピンチな俺はカバンを軽く叩き、助けを求める。
「まったくいつも困ると叩くのぉ。話しかけられんのだからしょうがないのではあるが、別の手を考えるぐらいせんか?」
ブツブツ文句を言うカバンであるが、今の俺にはお前しかいないと静かに涙を流すのを見て取ったのか、溜息を零すと話し始める。
「これっと言った解決策はないが、この金髪少女を連れて狭間にいってやらかされて出られなくなったらアダムとイブになってしまうぞ? じゃから、ここで決着をつけた方がいいと思うがのぉ」
「サラッと私の事をお忘れではありませんか?」
そう言われてギョッとして振り返ると何を考えているか分からない青髪の麗人、セレナがカバンを見つめていた。
どうやらカバンもびっくりしているようで、口を閉ざしている。
俺がやっと止まった事を嬉しく思ったミゼットだったが自分を無視してセレナを見つめているのに気付き、頬を紅潮させて興奮した。
だが、俺にモノ申すのは失礼と判断したようで矛先をセレナに向ける。
「いきなり何を言うのですか? 今は、私を認知して貰う……もう少し時間をかけてから認知して貰う為に頑張ってるところなのですよ? 聞いているのですか?」
ミゼットにそう言われてもカバンを見つめるセレナを頬に冷たい汗を流しながら見つめる俺。
あれ? この子、カバンの声聞こえてたりする?
「おかしいのぉ、ワシの声が聞こえるのは坊主と元の持ち主の神だけなんじゃが……」
「ええ、聞いてますよ……ミゼット様」
そう言うとカバンからミゼットに視線を戻すセレナ。
あれぇ? 今の絶妙なタイミングじゃなかったか?
確かに、ミゼットの言葉に遅れて返事しただけにも聞こえるが俺にはカバンに反応したように見えた。
「坊主、念の為にワシはこの娘がいる前では口をきかんからのぉ?」
普段、声を顰めるような事をする必要のないカバンが声を顰めて言ってくるのに僅かに頷いてみせる。
俺達が戦慄に震えそうになってる最中もミゼットは自分より高身長なセレナを腰に両手をあてて怒ってます、と意思表示しながら文句を言っていた。
「貴方は確かに建前上、部下ですが友達だと思ってるのに無視されると……悲しくなるだけで、気持ち良くなったりしないですわ!」
その言葉を聞いて違う意味で俺1人が戦慄に震えそうになってたりする。
ミゼットが俺を見つめて嬉しそうにすると自分を抱き締めて身悶え始める。
「落ち着いてください、ミゼット様」
終始表情が無表情なセレナがミゼットの眉間にチョップを入れると「痛い、何をするのですか?」と騒ぐのを見て、俺は首を傾げる。
「あれ? 痛みを受けると喜ぶ人かと思ってたけど勘違いしてた?」
「失礼ですわ! 私が痛みで喜ぶような変態だと思われてたなんてショックですわ、ご主人様!」
んっ? と首を傾げる俺はミゼットが何やらおかしなことを言ったような気がして眉間を揉みながらセリフを遡ろうとしてるとセレナに手を取られる。
「それはそうですよ。痛いのを喜ぶような変態が私の上司だと思われるのは心外です」
手を取られて右往左往する俺に「はいはい、怖くないですよ、怖くない」と淡々と言うとミゼットの右頬を平手打ちさせられる。
ぺちっ
強引に動かされた手だったのでたいした力は入ってないが、ペタリと座り込むミゼットを心配して声をかける。
「悪い、抵抗しなかった俺が悪かったが……」
「せ、セレナ、グッジョブですわ!」
目を爛々とさせたミゼットがハァハァと呼吸を荒らげて立ち上がると叩かれた右頬の反対側の左側を差し出す。
「昔の偉い人が言いましたわ! 右頬を叩かれたら左頬を差し出せ、と!!」
「それ絶対違うぅ! 大変な所から訴えられたらアカンやつや!」
(これはフィクションで馬鹿なコメディなので、そんな心が広い偉人が居られた所の団体さんなので同じように広い心で許して下さい!)
良し! これでお馬鹿な子、ミゼットの後始末は良いはず!
それはともかく
「この子は男に叩かれると喜ぶ変態さんか!」
俺に変態と言われて更に興奮の度合いが増す変態。
我関せずといった具合に腕を組んでこちらをセレナが呟く。
「そうかもしれませんね。ただ、剣術指南の先生も男性でしたが、打ちのめされて痛がってましたが喜んではいませんでした」
そういうとフッフフと笑いながらこちらを見るミゼットは出会ってからほとんど見せてなかった凛とした表情で言ってくる。
「馬鹿にしないでください。私はプライドは人一倍強く、痛みで喜びを感じた事などありません! 他人に媚びへつらうような情けない人種と一緒にしないでください、ご主人様!」
「さっき流しかけたけど、ご主人様って言ってるからな!」
「それは貴方がコミニケーションを取るのを拒否されて歩き続けたからでしょ?」
そう言われて不満がない訳ではないが、文句を言い返せなかった俺は渋々、自己紹介をする。
「俺の名前は剣太郎」
「ケンタロウ様ですね。胸に刻みました、ご主人様」
俺はミゼットを指差してセレナに向き合うが顔を明後日の方向に向けて見てないフリをされる。
すると、ミゼットがおもむろに土下座をする。
「一生のお願いですわ。その木刀で後、1度だけ叩いてくれませんか?」
土下座するミゼットの顔は見えないが荒い息使いとこちらから見える耳が赤くなってるところから、どんな顔をしてるか悲しいかな分かってしまう俺。
ところで、こんな馬鹿な小説を読んでいる女性がいるかどうか分からないが、良く妻子持ちの男やモテない男が、
「一晩だけお願いします!」
と頭を下げるシーンをテレビなどで見かけると思う。
まあ、テレビの中だけと思う方もいるだろうが、意外といたりする。
あんまりしつこいから折れる方もそれなりにいたりするのでこの手法が残る訳だが、男に恨まれる覚悟で言おう。
これして得るのは男だけで女は格を下げるだけなんで毅然とした態度で断りましょう。
後、男女問わずになるが、友達の借金取りが現れて、
「アンタの友達が金を返さないんだよ。このまま帰るに帰れないから電車賃だと思って1000円だけでもいいから」
と強面に頭を下げられても払ってはいけない。
民法だったかな? あれで友達の借金を代わりに払うという意思表示をした事になり払わされるとか。
多少、聞きかじった情報なのでアヤシイ部分もあるが覚えておくといいだろう。
などと長い前振りをしたが、どうしたら一番いいかを俺が示してみせよう。
無言で踵を返すと洞窟の奥へとダッシュして逃亡を計る。
「俺は真っ当に生きたいんだぁ!」
「良し、距離が空いてるのじゃ。このまま距離を開けたまま狭間に辿りつけば逃げ切れるぞ!」
沈黙を解いたカバンに頷き返すと俺は更に加速する。
土下座してたミゼットが遅れて俺が逃げた事を知って慌てて立ち上がり、走りだした途端に躓いて顔から地面にキスをした。
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