31話
アウトローギルドを始めて、1週間が過ぎた。
ギルド会員達はカバンの有効性を身を持って知るのは早い段階で理解したようだが、インスタントスキルの有効性にも気付き始めた者達が現れてきた。
自分が持つスキルの教える事で金が取れると分かると競うようにし出すかと思われたが、それはカバンからの忠告により、ギルドで管理して順番制にする事を最初の段階で連絡していた。
抜け駆けしたり、ギルドを通さずに商売した場合はペナルティ、最悪はギルド会員永久剥奪もあると伝えているので、そこまで攻める者も出ずに済んでいた。
とはいえ、珍しいスキル持ちは、それだけでも充分に稼ぎになる。
スキルの発現は、得意な事を磨き続けたら出やすいと伝えているせいか、力自慢は討伐依頼を中心に、頭脳労働担当はそれに付随したモノを探して受けているようだ。
中には子供に戦い方を教えていたら、急に魔法に目覚めたりした者が現れたりしたものだから、今はちょっとした子供達に戦い方を教えるアウトローが子供の取り合いの状態で笑える。
これについては、カバンが言うには、教えた子供が魔法に適性があって、それに触発されて発現したのではないかと言っていた。
スキルの売り買いに関わらないかと、思わなくはないが、子供達に教育を施す駄賃だと見ないフリを決めている。
インスタントスキルではないので、これに気付く者は当分出てこないと高を括っている。
変わり種では、全裸で真昼間のメインストリートを走り抜ける事で何かに目覚めると信じた勇者もいた。
当然のように衛兵に掴まり、只今、反省促す為に投獄中であった。
彼曰く、
「もうちょっとで何かに目覚めそうになっていた!」
だそうだが、きっと目覚めたら駄目だったものだったと思われた。
依頼を積極的に受ける者が多く、今日から子供達の雑用限定の依頼も受注が始まった事で、今まで、苦しい生活をしてた者達の生活水準が格段に良くなった。
アウトローギルドを立ち上げた頃は、不潔で荒んだ目をしてた者が多かったが、今では生活に余裕が出てきたせいか、目が表情が強張らなくなっている者が増えてきた。
今後は、依頼人と直接交渉も出てくる事もあるだろうから、エチケットを守る意味で清潔である意味の指導も必要だろうと見ていた。
それも大事だが、あの懸案事項、識字率向上についての方策が迷走していた。
確かに美砂達が教える事はできる。
だが、受付業務から外す事は現実的に無理だし、時間を作ってこれ以上負担をかけるのも嫌な俺は頭を悩まし続けていた。
そんな時にアイツがやってきた。
「やあ、お兄さん。順調そうですね」
「ん? ああ、ロレンスか。あれ? お前のギルドカードはもう作っただろ? 何故、セイドンにまだいる?」
コイツの性格だと儲けを出す為に売れる物を買い漁って飛び出していると思っていたのでまだいた事が驚きであった。
「いやいや、皆さん、考える事は同じだと思いまして日をずらして出発しようと思いましてね?」
話を聞くといくら鮮度が維持できるとは言っても、売った相手の手元ではドンドン劣化する。
古くなったタイミングに合わせて新鮮な物を売りに行く。
しかも、そういう鮮度の良いモノが手に入ると一般に知られてからだと飛ぶように売れるし、先に持ってきたモノなどに目も行かないという計算をしているようだ。
先行する者達を宣伝要員として結果として顎で使っているロレンスは可愛らしい顔した悪魔であった。
「分かってたけど、お前、性格悪いな?」
「やだなぁ、お兄さん、そんなに褒めないでくださいよ。いくら褒めても惚れませんよ?」
あざとく可愛らしい仕草をするロレンスの頭を叩く。
ときめいたりしてないお! 頑張れ、剣太郎!!
「ぐだぐだじゃな?」
何かカバンが言っていたような気がするが気のせいと割り切る。
あ、コイツに文字を教える事ができる相手に心当たりないか聞いてみるか。
「なあ、ロレンス。文字を教えられる相手に心当たりないか? アウトロー相手でも気にしなさそうなヤツで?」
「文字をですか? どうして急に?」
叩かれた頭を撫でながら、首を傾げながら聞いてくる。
さっきのあざとい感じより、こっちの方が破壊力あるやん!!
必死に平静を保って、咳払いすると事情を説明する。
文字が読めないと依頼書を毎回こちらが説明しなくちゃならない事と、今後、ギルドを通じては勿論だが、依頼を受けた時に依頼人とアウトローとの間に契約が為される事が出てくるだろう。
例えば、護衛依頼で、食事や宿などの費用は出す、出さない、いくらまで、などと決める時に形で残すとなると文字になる。
文字が読めないとそれが聞いた、聞いてないで揉める元になると伝える。
「ああ、確かに商人は証文とか好きですからね。ちゃんと言い逃れできないようにする為に」
確かに揉めそうだ、と呟くロレンスは腕を組んで考え込む。
何やら思い付いたようだが、少し困った顔をこちらに向ける。
「あー、一人心当たりがなくはないんですが、ちょっと問題ありですが……」
「どんな奴なんだ?」
そう言う俺に一度は口を開こうとするが、諦めたように被り振る。
「説明するのが難しいんで、一度、お兄さんが会った方が早いかも」
「そうなのか? じゃ、これからでも会えるか?」
そう言うとロレンスは「絶対に暇してるはずなんで、すぐに会える」と疲れたように言ってくる。
俺は美砂に少し出てくると伝えるとロレンスに案内されてアウトローギルドを後にした。
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ロレンスに案内されて町外れにあるボロ家に連れてこられた俺は、ロレンスに校舎裏に連れられて来たのかと思うシチュエーションかと勘違いしそうになる。
勿論、告白というオチではなく、お礼参りされる側の人のように。
決して、少しでも期待してないからね?
「坊主、誰に言い訳しておるのだ?」
ほっといて、俺も色々、大変なのよ!
などとカバンと漫才してる間にロレンスはボロ家の引き戸を開けるとこの家の主の名前を呼ぶ。
「トーマス出ておいでよ。僕だ、ロレンスだ」
ロレンスに着いて中に入ると不思議な光景があった。
家の中が汚いのは外観で予想は付いていたが、何故か家の中で石垣の模様が書いている風呂敷で姿を隠して壁に張り付いているヤツがいた為であった。
「あーはっはは! ロレンスか、久しいでござる。会いたくは、拙者のいる場所を看破してみせるでござる!」
おそらくトーマスが喋る度に風呂敷が揺れる様を見つめて、とても悲しくなってくる俺がいた。
「なあ、こんな頭のネジが飛んでるようなヤツが教えられるのか?」
「大変遺憾な事ですが、これでも僕が通っていた、国内最高位と言われる学院で在学期間3年の間、常に主席だったという黒歴史のような相手ですが、学力は本物なんです」
ロレンスは涙目になりながら、「そのせいで僕は万年次席でした」と悲しみに暮れる。
正直、ロレンスの有能さは良く分かっている。
誰よりも早く、僅かの情報を頼りに俺の思惑を見抜き、最大限の収穫を得た。ダダンさんもどうやら一目置いたらしいコイツは間違いなく有能だ。
それが、あの変態が超える?
若干、からかわれているのかと疑惑が浮上するが、昔を思い出して涙目にになってるロレンスが嘘を吐いているようには見えなかった。
石垣の風呂敷を睨みながら、唸っていると変態が高笑いをし出す。
「やはり、拙者を発見する事はできないか! 然り、然り。教えてくださいと言えば教えてやらんでもないぞ!」
調子に乗ってふんぞり返り出したようで風呂敷が持ち上がり、草履を履いた足が見えていた。
なんか腹が立ってきたな……
「いや、聞かないでもどこにいるか分からない馬鹿はいないからな。余りに分かり易過ぎて石でもぶつけてやろうかと思ってな」
「はっはは、凡人はいつでも強がるでござる。大抵の者は拙者の居場所に気付かず、通り過ぎるからな!」
多分、見て見ぬふりをしてるだけだろう?
「じゃ、石をぶつけてやろうか?」
「凡人がどこまで気付けているか見てやろう。近くに適当に投げてもカンが良いと褒めてやるでござる」
そう聞くと俺はカバンから拳大の石を握り締める。
俺が持つ石の大きさにロレンスが慌てるが無視して石を風呂敷目掛けて投げる。
すると風呂敷を手放して鼻を押さえて床でのた打ち回る黒装束の少年が現れる。
しばらくすると立ち上がるトーマスがこちらに顔を向ける。
不敵な笑みを受けベているが、鼻から血を流し、前歯が欠けた間抜け面を晒していた。
「ふっ、ビギナーラックとは恐ろしいものでござる」
「いや、お前がそれでいいなら、俺も何も言わないけどな?」
「色んな意味で打たれ強いガキじゃな」
呆れ過ぎて、何をしに来たのか忘れそうになった俺は、本題に戻る為に、ロレンスに本当に大丈夫かと確認を取る。
それに頷いて見せたロレンスは、トーマスに話しかける。
「君に頼みたい事があってきたんだ。セイドンで猫の次に暇を持て余している君にね」
間違ってないだろうが、言いたい放題されるトーマスは一向に気にした風には見えない。
ロレンスが掻い摘んでここに来た事情を説明するとトーマスが偉そうに言ってくる。
「ビギナーラックとはいえ、拙者を見つけた手腕に免じて、その依頼お請けしよう。それでは、しばらくお世話になるでござる。では、明日よりお伺いしますのでよろしくでござる、御館様」
そう言われたが大丈夫かな、と心配する俺の背を押すロレンスが、「能力だけは、大丈夫です」と太鼓判を押すので信じてみる事にしてアウトローギルドに帰る事にした。
それから、トーマスにより子供達に文字を教える教室が開かれ、『ござる先生』と人気者になり、識字率向上に一役買った。
なんで、あんな馬鹿が人気者になるんだ?
「馬鹿だからじゃろ?」
そう呆れながら言うカバンの言葉が重く響く今日この頃であった。
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