24話
どうして、バイブルはいつでも前フリが長いんだろう……きっと性格が悪いからだね(泣)
「まさか、ダダンさんからランク1のカードを奪う方法なんて思いつきませんよ。だから、僕はランク6のカードを希望します。勿論、条件はつけさせて貰いますけどね」
とロレンスが言うのを聞いた嫁の美砂とチャロンに変化があった。
美砂はロレンスに警戒度を上げたらしく、細める目に、いてつく波動が備わったかのような視線をロレンスに浴びせていた。
チャロンは、うわぁ、やるぅ~とばかりに口笛を吹くそぶりを見せていた。
ちなみにクリカは窓のところで止まっている小鳥を見てニコニコしていた。参加してるフリぐらいしてくれよ……
嫁達の反応をダダンとロレンスも気付いているだろうが、今はお互いの駆け引きの真っ最中でこちらに意識を割く気がないようである。
「どうやら、お前の嫁はロレンスの思惑に気付いたようじゃな?」
カバンが面白そうにそう言ってくる。
俺がそれに小声で「どういう事だよ」と聞くと呆れ気味の声で言ってくる。
「優秀な嫁を掴む運はあるが、お前自身はボンクラじゃのぅ? ワシが説明しなくとも本人、ロレンスが説明しよるよ。それより、露骨な態度をしとる2人にそれを気付かせろ」
悪かったねっ! ボンクラで!
若干拗ね気味ではあるが、確かに2人を放置するのは良くなさそうなので左右に座る2人の太ももに手を添える。
それにビクッとさせる2人がこちらを見てくるので首を振ってみせた。それだけで言いたい事が伝わったようで美砂は頬を朱に染めて俯き、チャロンはバツ悪そうな顔をした。
2人が気付けている以上、勿論、ダダンも気付いているようだが、2人と違い、表面上はそれを出さずに質問する。
「で、それをするお前のメリットはなんだ?」
「ええ、それにはまず、お兄さんの許可が必要になるのですが……お兄さんちょっといいですか?」
「何の許可を求めてるんだ?」
俺もこの辺りになると少なくともこの2人の茶番に付き合っているぐらいには理解でき始めた。
「ランク6から5になるのには見立てだと最短で2年でしょうか?」
確かに、美砂の計算では10スタートで5になる最短が3年と言っていた。6から5になるのが一番時間がかかると言ってたのを思い出した俺は、「それぐらいだが、どうした?」と返事を返す。
「そこで僕はランク6を希望しますので、最低ノルマを維持するだけで3年後にランク5にしてもらえませんか?」
勿論、ランク5以降は正規の基準に乗っ取ってで構わないとロレンスは言ってくる。
なるほど、カバンが言ってた意味はこういう意味かと納得する。ローリスクハイリターン、まさに商人の鑑と言っても過言ではない行動だと俺は思った。
感心したと同時に、だが? と思った俺はその疑問をぶつける。
「お前の要望は理解した。それを受けてやる俺のメリットの提示がまだだが?」
俺がそういうと照れた顔をしたロレンスが「やだなぁ、お兄さん、ちゃんと覚えてますよ~」と可愛い笑いを見せるが、あれは俺でも分かった。
どさくさに紛れられるなら知らぬ顔で押し通そうとしていたと……
「お兄さんがダダンさんに求めるもの、色々あるとは思いますが、一番は商人達の宣伝目的のサンプルですよね?」
「確かに細々したモノは色々あるが、そこが肝だな」
俺の返答に満足したロレンスが頷く。
「だったら僕がアウトローに宣伝をする役を担います」
そう言われた俺がダダンでも、と言いかけるがロレンスが止めてくる。
「確かにダダンさんでもできる。でもアウトローからすれば情報源がダダンさんと気付くと言い様に使われるんじゃ? と疑ってしまいます」
まして、この破格な恩恵を聞いたら余計にです、と付け加えてくる。
「ですが、裏の繋がりのない僕達、行商人が酒場などで話を広めたらどうでしょう? 「おっ、面白そうな話だ。ひやかしにでも見に行ってみるか?」と思って、とりあえずお兄さんの作った場所にやってきやすいと思うんですが?」
確かに、どこかの企業が主催する説明会とか聞くと思わず警戒するし、聞いた内容が魅力的であればある程、疑ってしまう。
だが、それが噂話として聞かされると不思議と、ウソだろ? から、マジか? その話、と替わる。
しかも、その情報源を辿ってもこの街に何の縁もない行商人、どこかで噂を拾ってきたのかと受け入れられやすくなる。
「やはり、食わせ者じゃのぉ。ホレ、坊主、あちらは突っ込み待ちしとるぞ。沢山いるアウトローに噂を撒くのに1人で足りるのか? と聞いてやれ」
言われてみれば、まだ? まだ? とワクワクした顔をしたロレンスがこちらを見ていた。
やっぱりコイツは食わせ者だと苦笑する。自分の提案を蹴ると思ってなく、自分の価値を売り込めたと自信の表れか、とびっきり可愛い笑顔を向けてくる。
男だよね?
「で、アウトローはこの街の住人の1割ぐらいと聞いたが、お前が噂を撒くだけでなんとかなるのか? お前1人で言い廻ってたら露骨に怪しいだろ?」
「そこは勿論、考えがあります。一日両日には僕の行商人仲間がやってきますので手を借りようと思うのですが……」
まごつくような仕草をする、あざといロレンスを叩く。
「何が言いたいんだよ?」
「商人はただでは動きませんので、手伝ってくれた者達にランク9のカードをお約束して欲しいのです」
「くっははは! このロレンスという坊主。限定とはいえランク5の恩恵をどさくさ紛れに要求しとる。しかも、協力してくれる相手の報酬として要求する以上、ダダンも文句が言い辛いからのぉ」
爆笑するカバンの言う通りみたいで、ダダンが苦虫を噛み締めたような顔を見せていた。
呆れる俺も嘆息をしてしまう。
ロレンスに行商人仲間は何人かと問うと3人と聞いてくる。
俺は隣にいる美砂とチャロンに交互に視線を向けると美砂は不本意と顔に書いてるが渋々、頷いてくる。チャロンも苦笑いしながら頷いてくるがチャロンの横のクリカが目に入る。
寝んなっ――! 参加は諦めたがせめて起きてろっ!!!
気持ち良さそうに船を漕ぐクリカの姿が見えた。
「分かった、分かった。その代わり中途半端は許さないぞ?」
「任せてよ、お兄さんの期待に必ず応えるから。じゃ、アウトロー用のカードなどの資料と店を構える予定の場所を教えてよ」
それを言われて場所を押さえてる忘れてた俺は、シレっとダダンを見つめる。
「それはこれからお付き合いするダダンさんに紹介して貰おうと思ってたところだ」
「ほう、それは光栄だな。では、街の中心にある少し小さいが……」
「ダダンさん、そこも悪い物件ではないけど、お兄さんのやる予定の仕事には手狭だよね? ダダンさんはもっといい場所を持ってるんじゃない?」
良い笑顔を見せるロレンスに舌打ちするダダンは説明をし直す。
「街の中心からは離れているが、港の真正面にある物件がある。それでどうだ?」
そう言ってくるダダンに満足そうに頷くロレンス。
2人の様子からカバンが決断を下す。
「坊主、少なくともダダンからこれ以上のモノを出せんじゃろ。今後の付き合いで舐められないように相手にボディブロー食らわすつもりでケチらず、グダグダ言わずに決めろ」
それに頷いた俺はカバンから金貨が入った革袋を取り出すとダダンのディスクに重い音をさせて置く。
「足りるか?」
革袋から覗く金貨をチラっと見たダダンは俺を睨むように見つめ、ロレンスは「お兄さん豪快だねぇ」と笑ってみせる。
「つまり、ワシの力を借りなくとも、時間をかければ同じ事ができたと言う事か……物を見ずに決めていいのか?」
「これからする付き合いを良好にしていきたいと思ってくれてるアンタを疑ったりしないさ」
俺の言葉を聞いたダダンは鼻で笑うようにすると強面に目配せすると強面は書類を持ってやってくるとダダンに手渡す。
「この売買契約書だ。両方サインしたら片方持って行け。後、建物の中はほとんど何もない状態だ。立ちあげに必要なモノがあれば、赤字覚悟で用意してやる」
俺がタダじゃないんだ? と笑うとダダンは馬鹿にしたように笑う。
「こちらとて、慈善事業じゃねぇ、商人だから当然だろ?」
こちらもそんな事を期待してた訳ではないのでおどけるように残念だと笑うに留まる。
サインを済ませる前に、書類を美砂に手渡す。
一読した美砂が頷いてみせたので俺はサインをすると片方をダダンに返す。
「良し、正式な返事はまだ聞いてないけど、ダダンさん、資料の疑問には答えた。状況から返事を貰ったようなものだが、俺の商談受けるかい?」
「いつ聞くかと思ったら、否と言えなくなってから言うあたり、お前も性格が悪いな。勿論受ける」
それにニッコリと笑う俺はカバンから無記名のカードを出す。
「じゃ、ダダンさんのカードを作ろうか、正式なヤツを」
「お、お前、お試し用を持ってきたと言ってたのに……」
そこまで言って、俺が本契約用のカードを持ってきてないとは言ってない事に気付いたダダンとロレンスが「うわぁ、騙された」と言った最低野郎を見るような目で見られる。
「お前が競争相手じゃなくて、協力関係で本当に良かったと思うぞ?」
「お兄さん、こっちの世界にはこないでね?」
えらく酷い評価を頂いて不満で唇を尖らせる。
「頼まれてもいかねぇーよ! いいからダダンさんのカードを作るからな?」
ブツブツ言う俺がカードをセットするとダダンはカード製造機に手を翳して作成する。
できたカードをダダンに手渡す。
「金の機能は俺達の立ち上げが済んでからな?」
嬉しそうにカードを見つめるダダンは気軽に「おう、楽しみにしてるぞ」と子供のような笑顔を受けべるがあの面でされると逆に恐怖であった。
それを見つめていると俺の服の袖を引っ張るロレンスがいた。
「お兄さん、お兄さん、僕のは?」
「お前は成功報酬な」
俺の返答にブーブーと不平を言うロレンスの頭にチョップを入れる。
「お前はどさくさに紛れて要求をつけ過ぎ。ちゃんとしたら難癖付けずにちゃんとくれてやるから」
「しょうがないな、分かったよ。約束は守ってね?」
それに頷いてみせた俺は、ダダンに顔を向ける。
「じゃ、次会う時は立ち上げた後でな?」
「おう、次はワシからお前のところに出向かせて貰う」
子供のように喜んでた事に気付いたダダンが頬を朱に染めていた。
やっぱり怖いだけですやんっ!
俺は早々に退散が吉と判断する。
「じゃ、またな」
「おうっ」
と言うと強面に目を向けると扉を開けてくれて先導してくれる。
商館前まで送ってくれた強面が俺に頭を下げて言ってくる。
「ダダン様が言われてた必要なモノができた場合、いつでも私に申し付けてください。ダダン様が仰ったように最大限勉強させて頂きます」
「ありがとう、その時は頼むな?」
そういうとダダンの商館を後にする。
出て、少し経った頃、ロレンスが俺を覗き込むようにして聞いてくる。
「お兄さん、僕もアウトローに撒く噂を考えたいからアウトロー側のカードの説明が書いてる資料があるなら欲しいんだけど?」
その事を忘れていた俺は美砂を見つめる。
頷いた美砂は資料をロレンスに手渡す。
それを受け取ったロレンスは嬉しそうに頷くと俺達から離れていく。
「早速、読ませて貰って作戦会議させてもらうね? きっといい仕事するから約束忘れないでね!」
そう言うとロレンスは走り去っていく。
ロレンスを見送った俺は3人の嫁を見つめて笑いかける。
「とりあえず、ダダンに紹介された建物見に行こうか?」
と言うと笑顔の3人に抱きつかれて驚く。
だが、すぐに何故か気付いた。
「そうだよな? この街に来た当初の話の俺達の城になるかもしれない場所だもんな?」
俺達4人は楽しげな空気を纏いながら港の方向へと歩いて行った。
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