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神様のかばん  作者: バイブルさん
1章 ギルド設立編
23/46

22話

 今週も土曜~

 俺は暗闇の中にいた。周りの景色は見えないのに耳元ではカチャカチャと音がしていた。

 よく耳を済ませると男の声と幼い少女の声がする。


「メス」

「あいさ」

鉗子かんし鑷子せっし

「はいなのよ」

「んっ?! ガーゼ!」

「なんで血が噴き出してるのよ」

「ガーゼ、ガーゼ、ガーゼ、ガーゼ、ガーゼ、汗、ガーゼ、ガーゼ……」

「あっちょんぶりけ!」


 ピィ――――――――



 奈落に落ちるように落下感を味わう俺は、どんどん意識が遠くなっていった……




「これって死ぬパターンやん!!」


 跳ね起きるように起き上がる俺は自分に繋がってる点滴に気付き、驚きを隠せず固まる。


 すると点滴と反対側から声がする。


「オペは成功した。金はいつものところに」

「うむ、助かった。また何かあったら頼む」


 カバンと聞き覚えがない男の声に反応して振り返る。


 振り返った先にはカバンと黒マントを纏った男が後ろ手で手を振って光の渦に向かって歩いていた。良く見ればその男の後ろを追いかけるように幼女も走っていく。



 うん、間違いない。きっとあの人、無免許。



 去っていくのを黙って見送った俺はカバンに詰め寄る。


「今のは?」

「おお、坊主、目を覚ましたか」


 安堵したような声音で俺に言ってくるが、そんな事より、先程の男のほうが気になる。


「今のはもしかして、ご高名な、ブ……」

「うむ、ヤツが天才外科医で有名な無免許モグリの医者でのぉ。ワシはあやつと少々、縁があって薬では間に合わないと判断して依頼した訳じゃ。もうこれで2度目じゃ」



 薬じゃ間に合わない? それって俺のこと!


 悲しい事には目を逸らそう……んっ? 待てよ、2度目? そういえば、こないだもそうだが、今も何故、俺は裏庭に居る? カバンがどうやって運んだ?


 それに気付いた瞬間、2度目ではなく、2日連続と知る。


 気にしたら駄目だ、今、生きてる事が全て。



「それはそうと、あの方はどうやって、この異世界に?」

「あやつを舐めてはいかんぞ? 報酬があって、そこに患者がいるなら紛争地だろうが宇宙だろうが、当然、異世界もくるじゃろ?」


 そう言ってくるカバンに俺はとりあえず頷いておく。



 きっと摩訶不思議アドベンチャーなんだろうと思う事にする。それが一線を超えた天才に許された御業なのだろう。


 だが、それも俺が今、一番目を逸らしたいが為に考えているだけである。


 そう、そんな方にお力を借りないと駄目なとこまで追い込む嫁達の事を一時的に忘れる為の方便。


 今日もヒヤヒヤと綱渡りに成功した俺は朝を迎えた。




 嫁達と少し遅めの朝食を食べた後、俺達は広場にある市場を冷やかすように練り歩いた。


 そんな俺達に素敵な舌打ちや、眉を寄せてガンを飛ばしてくる露天商達に愛想笑いを振り撒いていく。


 そして、ダダンの商館へと足を向けたところで美砂が話しかけてくる。


「どうやら、程良く噂は拡散されているようですね?」

「ああ、俺達の事を愚か者とは思って、相手にするのは時間の無駄と思い、何もしてこない辺りが良い塩梅だ」


 つまり、セイドンの商人、露天商などは俺達を低く見定め、その裏を見ようとしていない。


 正直、俺からすれば馬鹿だな、とは思う。でも、今回に限ってはそうであってくれた事は良い方向に転がるので助かる。

 こういう馬鹿は利益が形として見えるようになると我先とばかりに足元を見ずに飛び付くからである。


「つまり、ケンタロウはあの者達は、それを感じ取る嗅覚がないから、ずっと小さい商店、露天商で終わる。そういうことなのだ?」


 チャロンに笑みを向けられた俺は同じように笑みを返す。


「とはいえ、気付く奴が多いとそれはそれで問題だったんだが……」


 そう言う俺にカバンが続きを言ってくれる。


「ダダンの目が坊主に集中するのを避ける意味でも、程良い相手がいるのが望ましいじゃろ?」


 まさにその通りで、今の状態であれば、ダダンは俺の目を掻い潜る方法を考えて実行してくる恐れがある。そうなるとこれから作る組織がダダンの思うがままになるかもしれない事態を避けたいのでいて欲しいとは思っていたが、いないならいないなりの方法もあるが、所詮は次善策である。



 ままならないな、と思いながら歩いていると向かう先に人影があるのに気付く。


 向こうもこちらを認識したようで笑みを浮かべると俺の方へと一直線に歩いてくる少年に見つめる。


 金髪のフワフワしてそうなクセ毛が良い感じに纏まり、調和を見せている。見た目はどうやら中学生に成り立てといった少年で可愛い顔をしていた。

 その外見を活かすように小奇麗な若草色のスーツのようなモノを着ていて良く似合っていた。


 そして、俺の前に来ると見上げて、花が咲くような笑みを浮かべる少年が話しかけてくる


「お兄さん、薬草採取、銅貨30枚で依頼しますので受けてくれますか?」


 にこにこ笑っているが青い瞳は笑っていないのに苦笑する。


 それにチャロンとクリカは驚き、美砂は目を細める。


「ぐだぐだ説明しなくても、それで分かるだろ? とプレッシャーをかけるなよ。こっちの事はだいたい知ってるようだが、自己紹介してくれるんだろ?」

「ごめんね、お兄さん? 僕はロレンス、行商人さ。僕もダダンさんほど大きくは望まないから1枚噛ませてくれない?」


 まさか裏を読んで欲しいと思ってたら、こんな小さい行商人が気付いてやってくるとは思ってなかった俺は少し試す事にする。


「何の話だ? 何を根拠でそんな事を言い出してるんだ?」


 そう言うとロレンスは「お兄さんはイジワルだな」と子供の特権のような拗ねるように言うので苦笑いをする。勿論、その表情が良かった事もあるが計算されてしている事が分かった為である。


「お兄さん達は手当たり次第に薬草採取の依頼の話をして廻ってた。街の商人達はお兄さんの事を酒の肴にして馬鹿にして騒いでたよ」


 それに美砂を除いた3人は乾いた笑いを浮かべるが、美砂は相手の動向を見守るようにジッと見つめていた。


「でもね、僕は変だな、と思ったんだ。そんな馬鹿と断じられるような事を手分けしてまで宣伝して廻るほど馬鹿な人なんだろうかと、そこのお姉ちゃんだけだったら、僕も馬鹿にする側に廻ったかもしれないけどね?」


 お茶目にウィンクしてくるロレンスは、クリカを指差し、悪戯っ子のように笑う。


 それにクリカは拗ねるようにするが相手は小さな子だと思って堪えているようである。


「それでお兄さん達をつけたんだ。その結果、お兄さん達は馬鹿ではなく、何か大きな商機となる何かをやろうとしてる。僕はそう判断したんだ」


 つけたと言う言葉を聞いた瞬間、美砂は唇を噛み締める。俺もそうだが、つけられている事に俺達は気付いてなかった。


 その空気を感じ取ったロレンスは、


「ごめんよ? 特にプライベートに触れる内容には行き当たってないと思うけどあったとしても吹聴したりしないから勘弁してよ」


 と告げる。


 美砂の視線は緩む事はなかったが、俺は頷き、美砂には後から俺から言い聞かせておく、と約束し、続きを促す。


「1つ、お兄さん達は依頼を知らせるだけで受けて貰おうという努力をしてなかった。これは別の目的があるという事に他ならない。2つ、そんな宣伝をしてた人がセイドンで2番目に大きいというダダン商館に行き、無事にダダンさんに会えたようだ。3つ、ダダン商館から無事に出てきて、お兄さん達の表情は明るく、見送りの人の丁寧な対応」


 指を3本立てたロレンスは、口許に笑みを張りつけながら目を細める。


「ダダンさんが薬草依頼、しかも銅貨30枚の無駄な出費と考えるような依頼の話を聞くとも思わない。大きい商談なら、何故、ダダさんンを選び、街1番のセガールサタンさんに持ち込まない? 高く買い取って欲しいモノだったら、普通は最初にそちらに行く」


 そこまで聞いた俺は、離れて見える範囲の情報を良くを拾い、それを上手に纏めていると感心する。


 ここで初めて、年相応の興奮を抑えられない少年のように頬を紅潮させる。


「これだけの条件が揃って、ダダンさんに話を持って行く理由。それは成り上がる為の手段のはず。今、気付いてない商人達にもきっと恩恵のある話。だから、宣伝し廻ってたんだよね? でも、一番、美味しい時期は今のはず、お兄さん、もう一度お願いするよ。僕も1枚噛ませてよ」


 作り笑いも浮かべずに真摯に俺を見つめるロレンスを見て思う。


 確かに、これに気付ける奴を求めていた。だが、想定してたより切れるのが現れて苦笑する。

 だから、俺は足掻くのように最後の質問をする。


「お前の言う通りだとして、俺がお前に求めるモノは?」

「ダダンさんの注意を僕に向けさせる事でしょ?」


 あっさり答えを口にするロレンスに逆の意味で心配になってくるが、巡り合わせというモノかもしれないと手を差し出す。


「これから、ダダンの所に行く。その1枚が噛めるかはお前次第だ。お前の手腕に期待する」


 差し出した手を握り返すロレンスは、弱った顔をする。


「ダダンから利権を剥ぎ取れですか? 本当にお兄さんは疑り深い。ダダンに敵と認識させる為にそんな事をさせるんですから……でも、面白い。約束は忘れないでくださいね?」


 笑みを弾けさせるロレンスに「着いてこい」というとダダンの商館を目指して歩き出した。


 それが、ロレンスと俺達の初めての出会いであった。

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