20話
最近、1人称の書き方を思いだしてきたように感じるのですよ。少し乗り出しているような気がするのですが読んで頂けてる皆様はどう思われますか?
昼の鐘が鳴ると俺は宿屋の前へと戻ってきた。
昼まで露店や商店を廻ったが、当然のように断られ、怒鳴られる事も少なくなかった。
まして、俺がそういう話をしていた事を覚えておいて欲しいと告げると罵詈雑言率は跳ね上がるし、塩を撒かれた事すら少なくない。
塩って貴重品だと思ったんだけどな?
そう思う俺であったが後々、海が傍である事と近くの山で岩塩が豊富である事を知り、セイドンではそれほど高価な調味料ではなかった事を知る。
そんな事を考えていると既に宿屋の前には3人の嫁達が待っているのが目に入る。どうやら一番遅かったのは俺だったようである。
「ごめん、待たせて」
手を振って3人の嫁に駆け寄る俺に笑顔で出迎えてくれる。
「丁度、今、みんな集まったところですよ」
代表で美砂が笑みを浮かべてそう言ってくれると、チャロンもクリカも笑みを浮かべて頷いてくれる。
笑みを浮かべる少女達の内のクリカの髪から水が滴るのを見た俺は質問する。
「クリカ、汗を掻いているのか?」
濡れている髪の部分を指差す。
すると、少し弱った笑顔をしたクリカが言い辛そうに言ってきた。
「うん、お店の人にお話してたら、怒ったお店の人にお水を……」
それを聞いた俺は申し訳なさに包まれる。
カバンからタオルを取り出すとクリカの濡れた髪を拭いてやりながら胸中で自分を責めた。
何故なら、俺は3人にこれをする意味、効果をしっかり説明をしたとは言えない。
この後、どうするかとかなんて一切口にしていなかったのだから、これをする意味を見出せずにやる気を失っても仕方がない状況の中、3人は俺を信じてこうやって着いて来てくれている。なんて幸せ者なのだろう。
そう思いつつ、クリカの髪を拭いているとクリカは嬉しそうに破顔してくる。
「辛い思いさせて、ごめんな?」
「ううん、大丈夫なのぉ。クリカ達はケンちゃんを信じてる」
そんな言葉が嬉しくて人の往来の多い場所だというのに抱き締めて、有難う、と告げる。
顔を真っ赤にさせるクリカから離れて、隣にいるチャロンにも感謝を告げて抱き締める。そして、美砂にも同じようにした。
3人とも顔を真っ赤にして俯き、美砂など気が遠くなりそうになっている。
その3人を見つめた俺は小声で呟く。
「夜もこれぐらい可愛かったら文句なしなんだけどな……」
「ふん、不満がない相手なんぞ、存在せん。それでも好きな相手がいる事が幸せである事を噛み締めるんじゃな」
さすがはカバン、時々、反論不能の含蓄ある発言を披露してくれる。情けないバージョンのカバンとは大違いである。
でも、この不満って……
命懸けなんですけど!?
何てことを考えているのを顔に出さないワザを身に着けた俺は、3人を優しくエスコートするよう「行こうか?」と告げると夢気分の3人が着いてくる。
俺のエスコートで歩き出して少しするとまだ頬は赤さが残るが落ち着いてきたのか美砂が俺に質問をしてくる。
「これからどちらに?」
「ああ、セイドンで2番目と言われる商人、確か、ダダ―ンと言ったかな? そいつと面会する為に」
そう言うのを聞いた美砂は首を傾げる。
「旦那様、街1番の商人ではなく2番ですか?」
「ああ、俺がしようとする話は1番より2番の商人のほうが価値を理解して受け入れたいと思うはずなんだ。俺達が仲介業をするにあたって利用してくれるなら商人用のカードを作る予定だ。その最高ランクが馬車1台分の容量のカードにするつもりだ」
美砂は俺の言葉を受けて、何やら考え込みブツブツ言い出す。
クリカは既に考えるのを放棄したようで俺の腕に抱き付いてご満悦だが、チャロンは諦めずに聞いてくる。
「ごめんなのだ。その説明では何故1番は駄目なのか分からないのだ」
「うん、俺達と大口で最初に取引してくれた人に1名にだけ、最初から最高ランクのカードを提供すると言えばどうだろう?」
そう言われたチャロンも何かが引っかかりを感じたようで考え出すが、美砂がいち早く答えに行き着いたようで顔を上げる。
「つまり、このカードを利用できるようになれば、最大の商機を得ると暗に伝えて、この街1番の商人への渇望を利用しようと?」
「そうか、そういう事なのだ。で、定期的に利用しないとカードのランクが下がると言えば、必要経費と考えるのだ。そして、急激に力を増していく姿を周りの者が見て原因を探るとこのカードに行き当たるのだ」
美砂の言葉を受けて、同じように理解に至ったチャロンが概要を説明する前に口にしてくれた。
説明が楽な嫁を持つと嬉しく思っているとカバンが茶々を入れてくる。
「こういう嫁は外で浮気すると即効で気付くから気をつけろよ?」
そういうカバンに俺は鼻を鳴らす。そんな事する訳ない。勿論、嫁を愛しているのもあるが……
リアルに死ぬ未来しか見えないよ?
刺されるか、刺して殺されるかの違いしかないからな?
「うん、そういう理由で2番は受けてくれやすい。だが、1番なら保身に入ると俺達と敵対、場合によったら殺害を狙ってくる可能性があるからな」
「でも、2番目の商人と手を結んでも、その危険は変わらないんじゃない?」
そう聞いてくるチャロンだが、俺は頭を掻く。
「その可能性も否定しきれないものはあるんだけど、それは情報が秘匿されている内にやらないと足元を掬われる結果になる可能性があるんだよな。だって、これができるのが俺達だけかどうか分からない以上、俺達を殺して警戒され、水面下で進められたら、気付いた時には取り返しがつかない」
まあ実際は俺達しかできないのだが、それを知らない以上、迂闊な事はできない。取り返しがつかなくなった時に頭を下げに行った所で受け入れて貰えないぐらいは考えるはずである。
「そういう意味でも朝に急いで貰ったように情報が拡散する前に動きたかった。理想を言うなら、ダダ―ンと話している間に拡散してくれてるとこの後がとても楽なんだけどな?」
「少し思った事なんですが、確かに馬車1台分は魅力です。ですが、それだけで引っ繰り返せるモノでもないと思うのですが……」
やはり美砂は商家の娘だっただけあって頭が廻る。今も話に着いていく事を完全に諦めて腕に抱き付いて鼻歌を歌うクリカとは大違いである。
「勿論、それに対する方法とこれを普及する意味を込めた対策も講じている」
待ってたとばかりに笑みを浮かべる俺に苦笑する美砂は「旦那様、可愛い」と呟かれて、子供のようにドヤ顔してるのかと照れてしまう。
チャロンに恥ずかしがってないで話を進めるようにせつかれる。
「こう言えば、間違いなく乗るはず。ダダ―ンの傘下に居る者にも必要の口数は仕事を出して貰う必要はあるがある一定水準のカードを持っている者の下に居る者限定でランクのスタートが最低ランクからではなく、1つ上から始まると言えばどうだろう?」
「なるほど、それを知れば乗ると思います。でも旦那様、狙いはそれだけじゃないですよね?」
チャロンもそこまでは理解したようであるが首を傾げる。
首を傾げるチャロンが可愛くて笑みを浮かべる俺であったが頷いてみせる。
「その一定水準を超えるカードを持つダダ―ンの下へと群がるように商人達がやってくる。傘下に入れてくださいってな? ランクが上がる条件が厳しめだとそれは露骨な形で現れる」
「人が集まれば、人脈という力、ということなのだ。1番だけでなく競争相手の商人達の弱体化にも繋がり、遅れに舌打ちする事になっても他の商人達も私達の所を利用するしかなくなるということなのだ?」
見上げてくるチャロンの頭に手を置いて撫でながら、「よくできました」と笑いかけるとフニャとした笑みを浮かべる。
「美砂も補足の説明ありがとうな?」
と感謝を告げると嬉しそうに目を細めて静かに頷いてくれた。
そして、正面に見えてくる大きな建物を見つめる。
ダダ―ンの商館を目当たりにして俺は気合いを入れながら嫁達に頷いてみせた。
「俺が言ってるのはあくまで机上の空論だ。色々やらかすかもしれないが、できるだけフォローを頼む」
そう頼む俺に頷いてくれる嫁に感謝を告げると商館の入り口目指して歩き始めた。
俺達が作るギルドの一歩目の始まりである。
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