1話
目を覚ますと、俺は森の中にいた。というか木の枝で寝ている状態で目を覚ました。
勿論、剣で鍛えた精神の持ち主の俺は、慌てて、木から落ちる。
「イタタタ、あのまま頭から落ちてたら、ちょっと危なかった」
空中で腹筋するように頭が下になるのを防いだ俺は、体に着いた土や落ち葉などを払いながら立ち上がる。
辺りを見渡すが、やっぱり最初に思った通り、森の中としかいえない。
「おかしいな? さっきまで道場に居たはずだが……」
俺がいた道場は、確かに森の中にあるが、森は俺の庭と言い張れるぐらいに知り尽くしていたと思っていたが、ここがどこかすら分からない。
自分の身の周りを確認すると、いつもの道着に木刀、そして、見覚えはあるけど、知らないカバンが1つ。
「なんで、カバン?」
その小汚いカバンは、空から降りてくる少女と空の城に行く少年が持つカバンにそっくりであった。
なんとなく、カバンを肩を通して、少年のように紐をかける。そして、木刀を腰に差す。
「剣太郎は、木刀とカバンを装備した!」
いくら誰もいないと分かってても17歳になろうとする男が楽しげに声を上げて言う事じゃないな、と頬を掻いて誤魔化す。
「まあ、道場の周りの森だろうから適当に歩いていたら、見覚えのある場所に出るだろ」
最悪、道路にさえ出ればなんとかなるだろうと気楽に歩き出す。
しばらく歩くと赤い実が成っている木を発見して近寄る。
「おっ、リンゴが森の中に自生してたのか、知らなかったな」
持って帰ろうといくつか取ると肩に下げているカバンに入れていく。すると吐き出すようにカバンからリンゴが飛び出してきて、その内の一個が俺の顔面にめり込む。
「うぉぉぉ!!」
リンゴの硬さにもがき苦しむ俺は、何が起こったのか知る為に痛みを噛み殺してカバンの中を覗き込む。
覗きこむが、やはり、特に何もない。本当に何も入っていないのである。
首を傾げつつ、リンゴをそっと入れると底でチョコンとおとなしくしているので、ホッと気を抜いた瞬間、ヤツは牙を剥いた。
再び、リンゴが飛び出してきて、同じ場所にリンゴがめり込む。
「うあぁぁ! 鼻が潰れるぅ!」
地面に汚れる事も気にせず、痛みを誤魔化す為に転がる。
少し、痛みが落ち着いてきて、立ち上がるとカバンを投げ捨てようとするが、手を止める。
「これって使い方次第じゃ面白いかも」
そう思った俺は、カバンを正面に向けて、爆弾を扱うように慎重にリンゴを投入する。
「3,2,1、ファイアー!!」
とカッコ良く叫んでみたが、リンゴは飛び出ない。おかしいと思った俺がカバンを覗き込むとリンゴが飛び出してきて、三度同じ場所にめり込む。
「無駄に命中率がたけぇ――――! 無茶苦茶、いてぇ――――!」
先程よりも激しく転がり、軽く土煙が上がる。
ピタっと俺は止まると、「ふっふふ」と笑う。
「お前を俺の敵として認めるぞぉ! かかってこい!」
木刀を構えて迎え撃つ体勢になる自分を冷静に見つめた瞬間、我に返る。
なんて恥ずかしい事を俺はやっていたのであろうと反省する。
とりあえず、道場に戻ろうとカバンを手に取ろうとすると風が吹き、カバンの紐に手を払われるように叩かれる。
大丈夫、俺は冷静だ、オーケーだ、オ―ルグリーンさ。
俺は家に帰ったらこのカバンの口を念入りに縫い止めて入れる事も出す事もできないようにしてやると心に決めて乱暴に紐を掴み、肩に通した。
「残念ながらリンゴは持って帰れないなら、食べながら帰ろう」
真っ赤に熟したように見えるリンゴを道着で擦ってから齧ると思わず、噴き出す。
「シブ―、渋柿みたいに渋い! 水、水はないか!」
と必死に辺りを見渡し、無意識にカバンを漁ると手応えがあり、取り出すとペットボトルであった。ペットボトルのラベルには『チェルノ……の天然水』と掠れて読めない部分があるが、とりあえず口を濯ぎたい俺は迷わず開けると口に含み濯ぎ始める。
それを2,3回して落ち着くとペットボトルを見つめて首を傾げる。
「さっき、中を見た時、何もなかったんだけどな?」
ペットボトルの水がしっかり冷えている事にも気付き、更に謎が深まる。
どういう事だろう、と首を傾げていると甲高い悲鳴が聞こえてくる。
「女の子の声!?」
男ならノンビリいくかどうか悩んだが、女の子となれば別と俺は声が下方向へと全力疾走して向かった。
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