14話
潮の香りのする街、セイドンに到着した。
門を抜けるとそろそろ店じまいの時間のようで露天商の者達が後片付けに追われていた。
そんななか俺達は、宿屋を探して歩く。
「とりあえず、家捜しは明日から始めるとして、今日はどこで泊りましょうか? 旦那様」
宿を探している俺の手助けをするつもりの美砂が探す判断基準を求めて質問してくる。
俺は、しばらく、とは言っても1週間ほど宿に泊っても苦痛を伴わさそうな場所で、それなりにセキュリティー的なものがしっかりしてそうな所と考えていた。
その旨を3人に伝えると少し驚かれる。
「家を探すにしても、そこまで時間をかけなくても見つかると思うのだ。なのに、何故、1週間? 後、警備に力を入れている所は割高なのだ」
「うん、家を捜すのは少し腰を落ち着けて捜したい理由があるんだ。それは夕食を食べながら話そうと思ってる事に絡むから後廻しにするとして……警備はやっぱり可愛い嫁がいる以上、そこをケチりたくないからかな?」
チャロンの疑問の声に俺はそう答えた。
だが、最後の言葉は自分で言ってて恥ずかしくなり、鏡を見なくとも顔が赤くなってる自信があった。
俺の言葉を受けた嫁達、美砂は顔を真っ赤にして俯いてしまい、チャロンは「これは、これで悪くないのだ」と満更でもなさそうにし、クリカは「えへへ」と嬉しそうにしてくれた。
素直に喜んでくれたのは嬉しいし、引かれたら悲しいのは勿論だが、やっぱり恥ずかしいと俺は穴を掘って隠れたい衝動に駆られる。
「ケンちゃんに心配して貰えてすごく嬉しいのぉ。でも、クリカもお姉ちゃんも凄く強いよぉ? お姉ちゃん、村一番の魔法使いだったしぃ」
「えっ? そうなのか?」
定番のエルフなら人より強い魔力があるのは、お約束だと思っていたので、それなりには思っていたが、村一番と聞くと凄いな、と驚嘆する。
それにない胸を張るチャロンが、鼻息を荒くしつつ言ってくる。
「まあ、王都の魔法部隊に声をかけられた事も何度かあるのだ」
「へぇ、凄い事なんだよな? なんで行かなかったんだ?」
俺の言葉に俯いて表情が読めなくなるチャロン。
そのチャロンを見て、納得する美砂と何かを誤魔化すように笑うクリカ。
何故、3人がそういう風な反応を示すか分からない俺は首を傾げる。
「あの、旦那様? 魔法部隊は誰にも誇れる名誉職ではあるのですが、少々、問題もありまして……」
「うん、だねぇ。お姉ちゃんは、今までの状況では死んでも行きたくないって言ってたのぉ」
2人の言葉を聞いた俺は、死と隣り合わせの職場なのか?とも思った。だが、魔法に限らず兵隊であれば、それなりに可能性としてはあるからどうなんだろう、と思っていると俯いていたチャロンが何かを呟く。
なんて言ったか分からなかった俺は、耳に手をあてて、近寄って「なんて、言ったの?」と聞き返した。
肩を震わせるチャロンが顔を上げると目尻に涙を浮かべながら叫ぶ。
「独身率90%の職場なのだ! しかもその10%も入隊前に結婚した者だけという独身で入隊して結婚した者は皆無……まさに地獄なのだぁ!」
俺は、うわぁ、と心で呟き、チャロンの魂の叫びを遠い目をするように見つめる。
美砂が言うには、確かに強い女は敬遠気味らしいのだが、決して結婚相手として、それだけで拒否するという話はないそうである。強い女が嫌だという男よりは少ないそうであるが強い女がいいという男も存在する。
なので騎士団の女性騎士は普通に比べれば、やや結婚が遅れる傾向があるが、そこまで目を剥くような差はないらしい。
別の理由でも需要があるらしいが、とりあえず考えるのを放棄する。
なら何故、魔法部隊はそんな事態に陥っているかというと……
どうやら、魔法が強い子に高い割合で頭がおかしい、もとい、残念な子が多いらしい。
チャロン弁では、魔法とは異界とのゲートをいかに開けるかがキーになるという学説があるらしく、普通の人なら眠らせているパスが開いている。つまり、開いちゃいけないパスも開いている可能性が高くなり、性格破綻者が多いのではないかと言っていた。
その学説が正しいかは別にして、ゲートというものがあったと仮定すると都合のいいところだけ開いているというのは確かに出来過ぎな気がした。
更に魔法部隊の者を嫁に貰うのを敬遠する動きがあるのは、よくある強い魔力のある者との子供は同じように魔力の強い子供が生まれる。といったお約束がありそうであるが、残念ながら、それは魔力に関してはないと実証されてしまっている事が後押ししていた。
怒らせたら手に負えず、頭が残念で、遺伝の恩恵が子供に引き継がれないとなれば、損得勘定で考えれば、すこぶる納得がいくと俺は思った。
俺は宿を捜す為に辺りに視線をやりながら、チャロンに「一応、俺と結婚したからいくの?」と問いかける。
そうするとチャロンは首を横に振る。
「今の所、それは考えてないのだ。私はエルフだから、急がなくても時間もあるし、子供を産んで子供から手を離れてからでも全然、遅くないのだ」
チャロンの瞳が妖しく輝いたような気がしたが目を反らす事で見なかった事にする。
色々な事から目を反らすとして、当面、問題はないとホッと溜息を吐く。
「行こうかと思ってるとか言われたら、なんとなく話し辛くなったから、ホッとしたよ」
「先程言っておられた、もう1つのお話ですか?」
美砂の言葉に頷く俺にクリカが俺の腕に抱きついてくる。
「ねぇ、ねぇ、ケンちゃんがクリカ達に話したいって言ってたのどんな話なのぉ?」
「夕飯の時に話すって言ったろ? まずは宿を探そうぜ」
そう言う俺に「はぁーい」と楽しげに返事をするクリカは拳を突き上げる。
俺達は再び、宿屋探しに戻った。
その後、チャロンのメインストリートが交わる所か港の近くに行けば、良い宿があるんじゃないかという意見に従って進むとメインストリートと交わる大きな道の中央に広場に出るとチャロンの言う通り、少し値の張る宿を発見する。
荒くれ者、アウトロー風の女戦士が門を守るようにしていて、最低限な警備はされているようだと判断して、この宿に泊る事を決めた。
部屋に案内されて、荷物を置くと3人に先に食堂で席を取っておいてくれと頼み、好き嫌いのない俺は、この街の名物料理を聞いて注文をお願いした。
3人が快諾して、出ていくのを見送ると俺はカバンに話しかける。
「なあ、カバン、相談があるんだが」
「冒険者ギルドを作りたいって話かの?」
説明する前にあっさりと口にされた俺は「やっぱり気付かれてた?」と苦笑すると「まあのぉ」と肯定される。
それじゃ、話が早いと判断した俺はストレートに核心を聞く。
「この宿まで来るまでを見てて、どう思った?」
「そうじゃの、思っていたより、アウトローと言ったか? それに準じる者達の立場が低く、通り道で交渉しとったのが良い例じゃったと思うのぉ」
そう、メインストリートを歩いている時に露天商と買い取り金額で揉めている姿を目撃した。
その揉めていたのは、薬草の買い取りのようでアウトローの言い分だと頼まれた時は10個で銅貨20枚で買い取ると約束だったらしいが、土壇場で変更されて10個で銅貨10枚と言われたそうである。
そうそう、カバンの話だと銅貨1枚が100円程度という話である。銅貨、銀貨、金貨と価値が上がり、100枚で次の硬貨に替わる。
話を戻すとそう必死に交渉する男であったが、表情にどこか諦めが滲んでいたところから日常茶飯事であると見て判断した。
「俺は、このまま放置してると不味い事になると思う。今は小規模で犯罪が起こる程度のようだが、アウトローが自分達を守る為に組織化する。そうなると手に負えない事になると思う。そこで冒険者ギルド的なのを作って機能させていったら、少なくともそういった組織の足止め、弱体化はできる」
地べたに座りながら、通りを歩く人を物色するように見つめるアウトローと思われる人達の姿を見て、導火線の近くで焚き火をして談笑してる事をこの街、いや、おそらく、他の街でも商人達、依頼主達は気付いていない。
「それで、商人達の意識改革を図る意味も兼ねて、商人達に色んな仕事の適正金額をこちらで決めて、仕事を受けに廻ろうと思う」
「それはアウトローより安く仕事をするのか?」
俺はカバンの言葉に被り振る。
「いや、むしろ高い金額でしようと思ってる」
「そんなの蹴られるに決まってるじゃろ?」
呆れるように言ってくるカバンは「坊主、何を考えておる」と聞いてくる。
勿論、俺もそうなる事は分かっている。
「ああ、当然、そうなるよな。でも、最初にやるのは、その金額、もしくは、それ以上の金額を提示しないと今後、誰も受けてくれないというのを知らしめる為にやるんだ」
「どういう事じゃ?」
そう聞いてくるカバンだが、どことなく楽しげに聞こえるのは俺の気のせいじゃないと思う。
俺は1つ頷くと続きを口にする。
「これはカバンの協力がなければ絶対できない話だから、興味を持って貰えて助かる。商人達は欲しいからアウトローに依頼する。でもアウトローは商人に買って貰いたいから依頼を受ける訳じゃない」
「なるほどのぉ」
カバンは、カッカカ、と笑いながら、俺の言いたい事を理解したようで楽しげにする。
「つまり、商人達が欲しがるようなモノを一時的にせよ、買い取り続けて、それが市場で出回らなくなり出した理由は勿論、馬鹿でも調べる。調べた先にお前が居て、渋々でもお前が決めた額か、それ以上の金額を提示しないと買えない事を知らしめる、そういう事じゃろ?」
「そういう事だ。それを実行する為にも、カバン、お前の力を貸してくれないか?」
少しの沈黙の後、カバンのフタがバタバタと揺れる。
「面白い、面白いぞ、小僧。ワシはお前に拾われて良かったと思うぞ。商人の牽制はそれで良いが、アウトローに対しては、少々、信じられにくいし、インパクトが足らんのと違うかの?」
それにはいくつか案があり、カバンができると言えば、凄く助かる案件があった。
それを思いきって聞くと、爆笑した後、「ワシに任せろっ!」と力強い言葉を貰い、楽しげに話を進めていると、いつまでも降りてこない俺を呼びに来たクリカに怒られて、一旦、カバンとの話は中断して、慌てて食堂へと向かった。
そして、3人の嫁のご機嫌取りをしてから、俺達はセイドンの海鮮物を舌鼓を楽しんだ。




