13話
用意を済ませた俺達は、嬉しそうにはしゃぐチャロンとクリカに引っ張られながら西にある港町、セイドンを目指して街道を歩いていた。
3人から聞いた話だと、気候は温暖で海の幸は勿論、山に囲まれるような土地柄ということもあり山の幸も楽しめるらしい。
ただ、他と比べて人の出入りが激しい為か、荒くれ者が多いような気がするとのことである。
そうそう、チャロンとクリカに俺がどうやら違う世界からやってきたようだと既に伝えてある。
その時の反応が余りにあっさりし過ぎて俺は肩透かしを食らった。
「う~ん、ケンちゃんはケンちゃんだから別にいいかなぁ~」
「へっ?」
クリカの返事を聞いた俺は間抜けな声を上げてしまう。
それを横で聞いていたチャロンが腕を組んで言ってくる。
「まあ、時折、紛れ込む者はいると聞いた事があるのだ。聞いた話では、凄まじい力を振るって、好き勝手する者がいたが、その時の時代の者達に滅ぼされたという話もあるが、ケンタロウはそんな事をしそうにないし、問題ないのだ」
チャロンは、「念の為、身近な者以外には、話さないほうがいいのだ」と忠告してくる。やっぱり、異世界特典を手に入れたような小説の主人公のような奴もいるのか、と思うが、今の話だと殺されてるよ、と突っ込みそうになった。
話は逸れたが、俺が確認したかったことはそれではなかった。
「いや、俺が気にしているのは、世界が違う男の嫁になってショックを受けてないか? って聞いてるつもりだったんだが」
俺の言葉にキョトンとした顔をしたチャロンとクリカはお互いの顔を見合わせると即答する。
「「全然?」」
再び、呆ける俺に、チャロンが言うには、惚れて結婚した相手が獣人だったり、ドワーフだったする事もあるし、そこに異世界人が混じるだけだと笑顔で言われた。
女はリアリストとよく言ったものだと頭を掻く。
言われてみれば、美砂も気にしなさ過ぎだと思った事を思い出す。
そう言う意味では、男は夢を食って生きているなと思う。
落ち着いて想像して欲しい。
例えば、可愛い彼女が「私は宇宙人なの」と言ってきたり、美人な嫁だと思って幸せを噛み締めてるところに「実は魔女よ」とか言われたら引かないか?
そこで目を輝かす残念な人!貴方は色々、毒されていますよ!
という話があった。今も2人は何も変わらない笑顔を振りまきながら俺の手を引っ張っている。
困惑気味の俺にカバンが話しかける。
「まあ、良かったじゃないかの。拒絶されんかっただけでも良かったと思うところなのに変わらずに愛される。男の本懐じゃろ」
消化し切れぬ思いを持て余している俺にカバンは嘆息する。
「その辺りの事は、ゆっくりと時間が解決するわい。とりあえず、今は時間が解決しない問題を考えたらどうじゃ?」
それに首を傾げる俺を見て、更に呆れるカバン。
「本気で忘れとるのか? お前は向かった先でどんな仕事に就く気じゃ」
そうだ、確かに忘れていた。どんな仕事がいいだろう?だいたい、この世界でどんな仕事があるか良く分かってない。
自分が異世界人である事を踏まえても、何も考えずに嫁である3人に「どうしたらいい?」と問いかけるのは余りにみっともない。愛想を尽かされても文句は言えない。
異世界モノの定番の仕事はアレしかない。
正直、なんやかんやで言葉を濁してきたが、俺はこれしかないだろうっ!とずっと思っていた。
お話によって微妙に違いがあるので、3人に確認を取ってみる事にする。
「なぁ、セイドンの冒険者ギルドってどんな所?」
3人を見渡すようにして質問すると、3人ともキョトンとした顔をして俺を見つめ返してくる。
いち早く立ち直った美砂が、困った顔をしながら俺に聞いてくる。
「冒険者ギルドとは何ですか?」
そう言われた俺は、きっと先程の美砂達と同じようにキョトンとした顔をしていたと思う。
えっ?ないの?
それが最初の感想であった。
「あ―、もしかして、名前が違うのかな? 探索ギルドとか、傭兵ギルドとかない?」
違う言い方でアプローチするが、またもや同じ反応を返される。
「ギルドというのは分かるのだ。鍛冶ギルドというモノがある。職人達の互助会があるのだ。だが、冒険? 探索? 傭兵ギルドなんて聞いた事がないのだ」
チャロンがそう言い、「どんなモノなのだ?」と質問してくる。
俺は、街で困ってる事を処理する仕事や、モンスター、獣退治や、迷宮探索などをする場所で、依頼者と請負人である者を同士を仲介する仕事と説明する。
「旦那様、そのような組織はありません」
美砂の言葉に2人もウンウンと頷く。
商家の娘であった美砂が断言する所から考えて、まず間違いはないだろう。
「もしかして、モンスターや迷宮も存在しないのか?」
「ううん、モンスターもいるし、迷宮、ダンジョンもあるのぉ」
クリカが、当然のようにあると伝えてくる。
それらがあれば、それを仕事にする者が居そうなのだけどな、と思ってると美砂が言い難そうに言ってくる。
「そういった組織はありませんが、一番近しい職業は……そのぉ……」
そんな美砂に首を傾げながら見つめていると、俯かれてしまう。
その様子に嘆息したチャロンが代わりに説明してくれる。
「無法者、アウトローと呼ばれる者達なのだ。定職に就かないのか就けないのかは人それぞれだろうが、その日暮らしをしているのだ」
アウトローの中には荒くれ者も多く、犯罪者と同義と捉える者も多いとチャロンは付け加えてくる。
「そのアウトローと呼ばれる人は多いのか?」
「そうですね、地域差はありますが、これから向かうセイドンは他と比べて多く、住人の1割弱はいるかもしれません」
美砂が答えてくれた内容を吟味しつつ、考え込む。
セイドンの人口がどれくらいかは分からないが、1割近くいるというのは多いと判断してもいいだろう。
まして、そういう人達があぶれているという事は、これはチャンスではないだろうかと俺が思っていると楽しそうに笑うカバンが話しかけてくる。
「坊主、面白そうな事を考えておるな? ワシは賛成じゃ。これでもワシは『神様のかばん』じゃ、迷える者達を導く為に頑張る小僧に協力を惜しまんぞ」
「上手くいくかどうか分からないぞ?」
小声で言う俺にカバンは更に笑う。
「なぁ~に、神とて子達を思って色々、手を尽くして失敗もやってきておる。子達の間では成功した内容だけを伝えられてるから知らんだろうがな」
行動する事が評価に値する、と言いたい事は理解できるが、神様の失敗を暴露していいのか?と俺は嘆息する。
そんな事はお構いなしのカバンは、「のぉ、のぉ、どうするんじゃ、坊主?」とせっついてくるので、とりあえず、今あるアイディアを伝えようとしたところで声をかけられる。
「いたぁ――! アニキ、あのクソガキがいましたぜっ!」
俺達の前に飛び出してきたThe三下といった男が俺に向かって指を差して、岩陰に向かって叫ぶ。
岩陰から、山賊の親分といった無精ヒゲが少し似合う男と三下2といった男を連れだって現れる。
「会いたかったぜ、クソガキ。あの時の借りを返しにきたっ!」
俺はその言葉を吐かれて、体を硬直させる。
そして、恐る恐る、問い返す。
「どこかでお会いしましたか?」
「はぁぁ!? 昨日の話だぞ! 忘れたとかフカシこくなよっ!」
顔を真っ赤に叫ぶ、山賊の親分(仮)が叫ぶ。
昨日と言われても、昨日の夜のバトルのイメージが強過ぎて、それ以外がとても希薄になって覚えてられないと泣き事を心で嘆く。
「旦那様、昨日の街でクリカさんの胸を揉もうとされた殿方です」
俺は、「ああっ!!」と叫んで、手を叩くと指を差す。
「思い出した、あの時のセクハラ男かっ!」
「セクハラって言うなっ!」
思い出したら、沸々と怒りが沸いてくるが、不意に疑問に思う。何故、あの場にいなかった美砂がその事を知っているのだろう。
そう思いつつ、美砂を見つめると、そっと目を反らされた。
「まあいい、あの時、受けた恥辱を灌ぐ為に……」
グッと力を入れて、溜めを作る。そして、俺に指を突き付ける。
「お前をぬッ殺すっ!」
そう言うと3人は俺に目掛けて走ってくる。
よく理解できない部分はあったが、俺は3人に目掛けて叫び返す。
「また土の中に戻してやる! 『夏の日の思い出』」
地面に手を置き、顔を上げると三下1、2が自信に溢れた顔をして、俺にドヤ顔を披露していた。そう、首から下を土に包まれながら……
「してやったみたいな顔してても、お前ら土に埋められてるからな?」
それでも崩れぬドヤ顔をする三下達は、誇らしげに言ってくる。
「まだ気付かないのか、アニキはどこにいると思ってる!」
言われて気付いた俺は慌てて辺りを見渡す。
俺が見つける前にクリカが声を上げる。
「ケンちゃん、上!」
「わっははは! 甘い、甘過ぎるぞ、クソガキっ!」
山賊の親分(仮)は高らかに笑いながら、胸を起点に回転すると両手を羽根に見立てて、飛ぶような姿をキメてくる。
俺はそれを見て、アイツは体操選手かっ!と驚愕する。
「2度も同じ手でやられるか? やられてやれんよっ!」
クッ、と悔しそうにする俺の顔を見て、勝利を確信して人生の絶頂を味わってる人のような顔をして着地する姿勢に入る。
俺はそのタイミングに合わせて、地面に手を着ける。
「良し、『夏の日の思い出』」
「えっ?」
着地場所の土が消えて、穴に落ちると一瞬で首から下を土で埋められた山賊の親分(仮)はキョトンとした顔を晒す。
それを正面から見ていた、嫁の3人はチャロンとクリカは爆笑してしまい、美砂は肩を震わせて顔を背ける。
俺は、「ちょ、ちょっと待って」と挙動不審になる山賊の親分(仮)に近づいていく。
正面に立つ俺を見上げた山賊の親分(仮)は、ちょっと可愛らしい目をして首を傾げていってくる。
「今日は便秘気味で調子が悪かったから、勝負は次の機会に!……ダメかな?」
俺も可愛らしく首を傾げながら笑みを浮かべて言ってやる。
「ダメだよぉ?」
そう言うと俺はカバンから看板を取り出して、『エサを与えないでください』と表記して地面に突き刺す。
そして、騒ぐ3人を放置すると、嫁3人を連れてセイドンへと再び歩き始める。
「まあ、ああいう奴らもアウトローと呼ばれるのだ」
歩き始めた所でチャロンにそう言われた俺は眉間を揉み始める。
先程のアイディアがいきなり座礁した気分に襲われる。
「前途多難だのぅ、坊主」
カバンがそう言ってくるが、反論の余地がなく溜息しか漏れなかった。
「現地調査をしてから、もう1度練り直すのが良いじゃろ」
手元にある情報が少な過ぎて、まだ判断するのは早いと俺は気を取り直すとセイドンへと歩き続けた。
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「あのクソガキ、舐めやがって! おい、まだ出れないのか?」
「すいません、兄貴、昨日よりしっかり固められてて……」
「あっ、あっ、兄貴、犬がきやしたぜ!」
人と同じぐらいの犬が木々の隙間から3人を見つめて舌舐めずりをする。
山賊の親分(仮)は、剣太郎が去っていった方向に顔を向けると叫ぶ。
「クソガキっ! いやいや、ぼっちゃーん!! 助けてください! い、犬がくるぅぅ!!」
3人の悲鳴と犬の遠吠えが響き渡った。
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