12話
モーニングスター大賞に応募してみました。何かお気付きになられたら、関係ないかな?と思っても気軽に情報を頂けると嬉しく思います。
白じむ空を見つめながら俺は宿屋の裏庭にある切り株の上で背中を丸めて座っていた。見る人が見れば、真っ白に燃え尽きたボクサーのように見えるほどに胸を打つ姿を晒していた。
「えっと、の、のう、坊主。そろそろ機嫌を直してもええじゃろ?」
カバンから取り出した『ふぁいとイッパツ』と書かれた小瓶の2本目を栓を開けると小さいストローを挿して、生存本能が求めるがままに吸い込む。
これ飲んであんなに元気溌剌してるのだから、きっと俺も大丈夫なはず!
医薬部外品という意味は今は知りたくはない。
反応しない俺についに堪忍袋が切れたらしいカバンがフタをバタバタさせて騒ぐ。
「ええい、いつまでイジけとる! 絞り取られたと言っても愛されとるがゆえじゃろっ!」
「……キレて誤魔化しても駄目だからな? 俺だってな、お前に助けを求めてもあの状況で何もできない事なんて分かってたさ。俺が何を求めてたなんて、お前なら気付いてただろうが」
バタバタとフタを不機嫌そうにしていたのが、その一言と共にパタリと収まる。
そう、あの時、俺が求めていたのは応援、激励、もしくは諦めを促す言葉であった。ただ、「まあ、頑張れ」の一言で良かったのに、目の前の行われる狂演にビビって目を反らしたのだ。
「しかも、俺が助けを求めた時点で美砂の接近に気付いていたよな?」
俺がジト目で言うと、カバンの紐がピキィ―ンという擬音が聞こえそうな程、一瞬伸びて硬直する。
やっぱり、こいつ気付いてやがった。
そう思った俺は、更に過酷な目に遭う事を気付いていながら知らん顔したカバンにボソッと呟く。
「裏切り者」
ピーンと張っていた紐がシナシナとなって地面に落ちる。
美砂も2度目という事で多少は落ち着いていたようで、初めての時のような力づくで逃がさないとばかりではなかった。
とはいえ、ほんの15分程前までバトってたし、やんわりと逃がさないとばかりに搦め手で逃げ道を潰されていった……あれ?余計に状況が悪くなってる気がしたが今は、カバンの事である。
ジッと見つめる俺と黙るカバン。カバンが人であったら、まず間違いなく、コメカミから汗を流していたであろう。
「そ、そうじゃ、今日は前夜祭らしいのぉ。坊主達はいくのか?」
追い込まれたカバンは、とうとう、韜晦を始めたので、溜息1つ吐く事で今回の事は流してやる事にした。
それから2時間ほど経った頃、俺と違って元気溌剌でお肌つやつやの3人と合流して食堂で朝食を食べていた。
そこでチャロンが俺に質問してきた。
「そういえば、ケンタロウはポポロンに何をしに来たのだ?」
「いや、そう言われると困るんだが、特に目的があってきた訳じゃないんだ」
あの時は、スパロンをおびき寄せる為に適当に北に向かったに過ぎない。その向かった先にポポロンがあっただけであった。
それをそのまま伝えると、クリカが嬉しそうにする。
「そのたまたまで、クリカはケンちゃんに会えた事を感謝するの!」
それにチャロンも頷いてみせる。
そう思うと俺もスパロンを初めて感謝をしてもいいような気がする。
スパロン、君のおかげで可愛い嫁が3人もできました、マル。どやぁ
スパロンの冥福を祈るぐらいに心の余裕が剣太郎にはあったが、きっと彼は成仏できてないだろう。
剣太郎は勿論、美砂すら知らない事であるが、スパロンには婚約者は何人かいたが、女性相手の童貞は捨てずに死んでしまい、悔いが残りまくりであった。
「では、どこに行くつもりなのだ?」
2人はどこでも着いていくと笑みを浮かべながら言ってくる。
それは嬉しい事であるが、行き先など考えてなどいなかった俺は隠さずに素直に伝える。
「正直、行き先は考えてないけど、やりたい事はある」
食べながら話していた俺の空になった皿にサラダを盛り直してくれる美砂。話には入ってこないがしっかりと聞きながら、あれこれと俺の世話を焼いてくれていた。
それに、俺は「ありがとう」と感謝していると、クリカが聞いてくる。
「ケンちゃんがやりたい事って、なぁに?」
「ああ、腰を落ち着けて、住む場所と仕事を探そうかと思ってる」
俺は、みんなで住めるような家を捜すつもりだと伝えると3人は本当に嬉しそうにしてくれて、こっちも嬉しくなってしまう。
「この辺りで、住みやすくて、人がそれなりにいる場所と言ったら、ここのポポロンか、更に北上した先にあるロッジ、西にある港町セイドン、それと少し遠いが王都ぐらいなのだ」
それを聞いた俺は、迷わず即決する。
「人の流れもあって情報も行き交ってそうな港町のセイドンだったか? そこがいいかな?」
剣太郎は山育ちで、こっそり海沿いの場所での生活に憧れがあったのである。
それを受けた3人はあれこれと、向こうで住む家はこんなの、とか、どこで相談したらいいかとなどを楽しそうに話し出す。
俺はそれを眺めてるだけでも楽しかったので、サラダを摘まみながら聞いていた。
盛り上がって興奮状態になったチャロンが意気込むように俺に縋りついてくる。
「すぐに出発しようなのだ! 今から出れば、遅くとも夕方には着くのだ」
意外と隙があるチャロンの胸元から先っちょが見えそうになっている事をコッソリ伝える。
言われたチャロンが顔を赤くして胸元を押さえて下がる。
「ケンタロウはエッチなのだ。まだ、し足りないというなら私ならいいのだ」
チャロンがそういうと美砂とクリカに剣呑な雰囲気を感じた俺は慌てて否定する。
「いや、他の男に見られるかもしれないから注意しただけだ。大丈夫、充分満足してる」
チャロンは嬉しさ半分、残念半分といった顔をするが残る2人はあきらかに残念そうである。
俺は慌てて話の軌道修正を計る。
「そういえば、今日は前夜祭だろう? 女の子は祭が好きってイメージがあるけど、それを楽しんでからでもいいんだぞ?」
俺がそういうとカバンが鼻を鳴らす。気付けば、誤魔化し方がカバンと一緒と気付いた俺はバツ悪くなり頭を掻く。
俺の言葉を聞いた3人は何やら困った顔をしていた。
「ケンちゃんが行きたいというなら行ってもいいの。でも……」
クリカの言葉に追従する2人であるが、頷きかけたところで美砂が何かを思い出したようで、口に手をあてて、声を上げる。
「チャロンさん、クリカさん、私達は勘違いしています。旦那様はこの祭が何なのか知っておられないのです」
美砂の言葉に2人は、えっ?といった顔をするが、俺も何の事か分からず首を傾げる。
「良いか悪いかはともかく、これはかなり有名なはずなのだ」
「それでもです。事情はここは人の耳があるので、後で説明しますが、まず間違いありません」
なんとなく、とんでもない祭に誘ったようであると理解した俺は、理由を聞くとチャロンが説明してくれる。
「なんでケンタロウが知らないかは脇に置くのだ。今、開催される予定の祭は、『奴隷市』なのだ。それも年に一回の一番の大きな『奴隷市』でそれを祭にしてるのだ」
「クリカ、ううん、女の子はちょっとした問題があるだけで、すぐ奴隷にされちゃうから、あんまり見てて楽しくないの」
更にクリカは、俺に貰って貰えなかったら、そうなる可能性があったと伝えてきて、結構危なかった事を知る。
しかも、壁に挟まってるクリカもどこかの奴隷商がデモンストレーションを目的にやってると勘違いした男共が触りに来ていたんじゃないかとチャロンに説明されて、色々、納得した。
それと同時に女の子に選んで貰えない男共にとったら金で嫁を買うようなものなのだろうと更に嫌な理解を進めた。
普通なら物語の主人公ならハーレムに奴隷を入れて更なるハーレムを目指すのが王道であろう。
俺は色々、頭で考えが纏まると頷いてみせると3人に伝える。
「良し、『奴隷市』には行く理由はないな。すぐに……セイドンだったか? そこを目指して俺達の城を手に入れよう!」
俺の決断を嬉しそうに受け入れてくれる3人は「すぐに出れる準備をしてきます」と席を立つ美砂と共に2人も部屋へと戻っていく。
それを見送った俺は、笑顔を凍らせたかのようにそのまま硬直させていた。
嘆息するカバンが俺に話しかける。
「坊主、日和ったな?」
俺はカバンの言葉に小声で返す。
「だって、俺、長生きしたい……!」
そう、せめて、60歳までは生きたい、と涙を一滴零した。
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