11話
剣太郎とクリカが楽しげにポポロンの街中を歩き出したのを尾行もとい、暖かく見守る者達がいた。
何を隠そう、姉のチャロンと剣太郎の嫁の美砂であった。
2人は必死に隠れてるつもりだが、はっきり言って、相手が初めてのデートに浮かれ気味の剣太郎と天然なクリカが相手だったから気付かれてないだけで、廻りの人にジロジロ見られるレベルで怪しさ爆発の格好をしていた。
探偵ルックと言えばいいのか、更に自分達が怪しいですよと言わんばかりにサングラスまでする気合いの入れようからも分かるように彼女達もかなりの天然である。
勿論、自覚症状はない。
凝り性な美砂は、付け髭まで装着して中身の入ってないパイプを咥えている。
自分達は完璧と疑ってない彼女達は、剣太郎とクリカを見つめ続ける。
「出だしは、かなり不安な感じだったのだ。でも、今はいい感じでホッとしたのだ」
「そうですね、でも、手を繋いで街を歩いたのは私が先です。クリカさん、腕を組んだら許しませんっ! 私が先に……」
恥ずかしそうに顔を覆う美砂。
基本的に美砂はビーストモードに入らない限り、純な子である。
「ケンタロウも大変なのだ」
惚れられ過ぎも考えモノだと考えながら、見つめる先では、クリカに手を引かれて屋台で肉の串焼きを食べたいと強請る姿が見えて、チャロンは舌打ちする。
「クリカの馬鹿者なのだ。いきなり重たいモノから食べたら、食べ歩きしづらくなるのだ。軽いモノをメインに攻めて、最後に重たいモノでシメる、これが王道なのだ」
「そこは、デザートなどを最初にチョイスして、女の子だなぁ、と殿方の心を掴むモノです」
美味しそうに串焼きを頬張るクリカから、力説する美砂に視線を向けたチャロンが、えっ?という顔をして見上げる。
見られている事に気付いた美砂は可愛らしく、コホンと咳払いをすると、「花嫁修業の一般教養です」と目を反らして言う。
チャロンはチャロンで、食べ歩きとしては間違ってない言動だが、デートとなると間違っている。
対して、美砂は知識だけの頭でっかちにありがちな先入観である。勿論、そういう風に騙される男はいなくはないが、引く程の量を食べようとしない限り、デザートだろうが肉だろうが美味しそうに食べる姿のほうが男受けする。
そういう意味ではクリカは正解のルートを辿るが、チャロンと美砂は落第である。
クリカは串焼きを半分食べると剣太郎に手渡そうとしているのを2人が見て慌てる。
慌てた2人が距離を詰める。
「えへへ、ケンちゃん。半分あげるのぉ」
「半分あげるじゃなくて、他にも色々食べる為に俺に押し付けてるだけだろ?」
呆れた顔をする剣太郎はクリカから串焼きを受け取ると、「ケンちゃんありがとうっ!」悪びれもせずに、えへへ、と笑う。
剣太郎が食べ終わるのを待つクリカは、辺りを見渡し始め、2人は慌てて物影に隠れる。
「油断し過ぎて見つかるかと思ったのだ……」
隣でコクコクと頷く美砂であるが、拗ねたように唇を尖らせる。
「花嫁修業で教えられた知識と違う反応を旦那様がされてます」
「勉強だけで上手くいったら苦労しないのだ」
唇を尖らせたままの美砂は「でも……」と悔しげにする横にいるチャロンも面白くなさそうにする。
再び、監視に戻った2人の見る先では、今度はドーナツ屋に行ったようで、1つのドーナツを半分づつにして食べる姿を見て、歯軋りする2人。
「あんなに楽しそうに食べてるのだぁ! クリカをあんな風に育てた覚えはないのだ!」
勿論、育てた事がある訳ではないので、覚えがなくて当然である。
同じように悔しがってた美砂であるが地団駄を踏むチャロンを見て我に帰る。
少し、考え込むような顔をするとチャロンに問いかける。
「もしかして、チャロンさんも旦那様に惹かれているのですか?」
「な、な、何を根拠にそんな事を言うのだ!」
目は泳ぐは顔ビッシリと汗を掻き、顔を真っ赤にするチャロンを見て、美砂はこれ以上の根拠は必要なのかと悩むが口にする。
「いえ、私は初めは照れてるだけなのかと思っていたのですが、旦那様に笑いかけられる度に赤面されてましたよ?」
パクパクさせる口の動きを読む事ができれば、なんだとぉ!と言ってるのが分かっただろうが、図星を突かれたとだけは美砂にも分かった。
ただでさえ色白なので、真っ赤になると露骨に分かり、露出してる部分も薄らと桜色になっている。
チャロンの様子に嘆息すると美砂は口を開く。
「私は別に良いのですよ? 旦那様が良いと仰るなら?」
「ほ、本当か? 嘘じゃないのだ?」
美砂に縋りつくように食いつくのにビックリし過ぎて若干引く美砂であるが頷く。
チャロンは夢想するように、「自分で結婚相手が選べる日が来るとは思ってなかったのだ……」と嬉しそうにするが、まだ剣太郎の返事を貰う前である。
妹のクリカは天然であるが、姉のチャロンは妄想をして突っ走るタイプだと美砂は冷静に判断した後、自分の行動は軽はずみだったかもと少し後悔する。
「そうと決まったらクリカだけに楽しませるのは癪なのだ!」
早速暴走しようとするチャロンを止めようとするが、剣太郎のほうに視線をやった美砂の目が据わる。
「いえ、すぐに行く事にしましょう。クリカさんだけに良い思いをさせる訳には行きません」
美砂の見つめる先では剣太郎の腕にクリカの腕を絡ませるのを見た美砂は飛び出す。
チャロンは置いていかれて、「待つのだ!」と必死に追いかけた。
クリカと屋台巡りをしていたら、探偵ルックに決めた美砂とチャロンが走ってくるのが見える。
クリカもそれに気付いたようで、「ほぇ?」という言葉と共に自分の姉を見つめる。
2人が俺達の前までやってくると息切れする息も整えずに美砂が変装を解こうとしながら話し始める。
「私達が誰か分からないと思いますが……」
「いや、どこからどう見ても美砂とチャロンだろ?」
俺の言葉にクリカはウンウンと頷き、美砂とチャロンは驚き過ぎで固まる。
どうやら、自分の格好が完璧な変装だと思っていたようであるが、俺から見れば変装というより、仮装である。
「まあ、コスプレだと思えば、チャロン、似合ってて可愛いぞ。美砂も口髭取ったら可愛いぞ」
チャロンは顔を真っ赤にして俯き、美砂も素直に口髭を取ると褒められて照れてるのか、付け髭を外すのを忘れたせいか分からないがチャロンと同じように俯く。
そんな2人に苦笑いをしてしまう俺は、クリカに視線を向ける。
「なんか良く分からんがみんな揃ったし、この後はみんなでいこうか?」
「賛成なのぉ~」
そう言うとクリカが俺の腕に抱きつく。
それを見た美砂が眉尻を上げて、空いてる方の腕に飛び付く。思わずやってしまったようで、顔を真っ赤にすると慌てて離れる。
俺は笑みを浮かべて、美砂に空いてる腕を差し出す。
すると、おずおずと触れるだけの腕の組み方をしてくるのを見て美砂らしいと思う。
微笑んで美砂を見ていると袴を引っ張られるような感触に気付き、振り向くとチャロンが掴んでいた。
「駄目だろうか?」
潤んだ瞳でそう言われて、駄目と言える男がいれば、凄いとは思うが尊敬はしない。
「勿論、構わない」
ニッコリと笑って伝える。
そう言う俺に嬉しそうに微笑まれて、今度は俺が赤面しそうである。慌てて、俺は辺りを見渡すとなんとなく賑やかそうな場所を指差す。
「今度はあっちに行ってみようか?」
そう言うと嬉しそうに3人は返事をしてくる。
その返事と共に今まで黙ってたカバンがぼやく。
「坊主はモテるのぅ~ワシ、金出すの止めようかのぅ」
俺は3人に気付かれないようにカバンと必死に交渉しながら俺達は屋台巡りを楽しんだ。
屋台巡りを済ませて、宿で軽めの夕食を済ませて、部屋に戻った俺の心は嵐に襲われていた。
「えっと、悪い。もう一度頼めるか?」
今、俺達は3人だけがこの部屋にいた。俺とチャロンとクリカである。美砂は何やらチャロンと話していたと思ったら、少し席を外すと言って部屋から出ていったのである。
そこでチャロンに言われた言葉を脳が認識してくれなかったので、わんもあぷりーず、したのである。
「そ、その、クリカと共に私も貰って欲しいのだ!」
顔を真っ赤にするチャロンであるが、不安があるようで目が忙しなく動く。
今、耳に入ってきた言葉が認識できずに、そうか、ワタシという結納品がこの世界ではあるのかも!と現実逃避を俺は試みるが失敗に終わる。
「駄目だろうか?」
チャロンの必殺の縋りポーズを食らってノックダウン目前であるが、俺は必死に返事を返す。
「駄目とかじゃなくて、正直言って、俺は美砂を嫁に貰った時点で俺の人生の絶頂期と思ってたのにそこにクリカが来て、そのうえにチャロンもってなると、俺で大丈夫か?って思ってしまうんだよ」
チャロンは、どうやら自分は否定されている訳ではないと分かって嬉しそうに顔を綻ばせる。
「大丈夫か? じゃないのだ。私はケンタロウじゃないと嫌なのだ」
「クリカもケンちゃんがいいのぉ」
むむむ、とグダグダと悩む俺にカバンが叱責してくる。
「女が捨て身になって体当たりしてきとるのに、いつまでグダグダしとるかぁ! 嫌な相手じゃったら、何も言わんがそうじゃないのじゃろうがぁ!」
カバンは覚悟を決めろと言ってくる。俺はカバンに感謝する。背中を押してくれる存在がこれほど有難いと感じた事がない。
俺は覚悟を決めて、2人を見つめると、俺の腹が決まったのを悟った2人が生唾を飲み込む。
「こんな俺だが付いてきてくれるか?」
「望むところなのだ!」
「勿論なのぉ」
抱きついてくる2人に優しくキスをすると俺は2人同時にベットに押し倒して俺達の前夜祭を始めた。
それから2時間経った頃、俺は命の危機と戦っていた。
2人は美砂ほどアグレッシブではないが、片方としてると片方が休んで体力回復させるという無限ループに入ってしまっているのである。
「次は私なのだ」
幼い表情に色を見せるチャロンに首に抱きつかれて嬉しい半面、休ませてぇ!と叫びたい俺は助けを求めるようにカバンを見る。
「ワシはただのカバン。見ても何も喋りません」
こんな時だけ、ただのカバンのフリをするカバンに怒りを募らせているとドアが静かに開く。
開いた先には白い長襦袢を着た美砂が三つ指立てて現れる。
俺に見られている事に気付いた美砂は、可愛らしくポッと頬を染める。
「失礼します……」
「美砂もきたぁ――!」
前夜祭のつもりが俺だけのデスマーチに変わった夜であった。
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