第2話 アクション映画は始まらない
謎の欧米美女に助けてと懇願された俺はとりあえず自宅に案内して話を聞くことにした。
俺の家は平屋建ての元武家屋敷でそこそこの敷地面積があり、現在リビングにあたる部屋で机を挟んで向かい合っている。
「それで、匿ってという事は誰かに追われてるってことですよね?それが借金取りや警察の類なら、速やかにお引き取り願いますが」
「それなんだけど、匿ってほしいのは私じゃないの。騙して悪いけど、そうでもしなきゃならない深い理由があるのよ」
見ず知らずの人物に対してウソを吐かなければならない理由。
なんかスッゲー緊張するんだけど……。
「理由なんだけど、今から私が話すことは冗談に聞こえるでしょうけどすべてノンフィクションよ。信じるかどうかは任せるけど」
彼女がコートのポケットから警察手帳のような縦開きの革製手帳、表紙に描かれてるのは金色の下地に嘴と両足が赤い翼を広げた漆黒の鷲のエンブレム、確かこれはドイツ連邦共和国の国章だったはず。
そしてそれを広げると免許証のようなカードと、赤い下地に交差した金と銀の鍵と金色の装飾がされた白い王冠が描かれてる盾と十字が描かれた銀の槍を持った西洋甲冑のエンブレムがあった。
「私の名前はクラリッサ・ブラウン。ヴァチカンローマ教皇猊下直属の非公式エクソシスト管理組織、通称IECO。そこのドイツ支部の人間、それが私の正体よ」
同業者じゃねーか!
(表向きは)民間人の俺にウソついてまで話す内容っていうから、悪の秘密結社に追われてるとかそういうアクション映画みたいなこと想像してたのに完全な同業者かよ!
俺が『実は同業者だったこと』に驚いてるのを、『自分の正体を知ったこと』に対して驚いていると勘違いしたクラリッサさんは真剣な表情を崩さずにIECOの簡単な説明をした後
「ここからが本題よ。実はある人物……いえ、ある魔物を匿ってほしいの。本当なら日本支部に協力を求めたいのだけど、訳あって秘密にしておきたいのよ。もちろん、タダとは言わずそれなりの報酬も用意するし私たちも出来る限りのバックアップをするから引き受けてもらえないかしら?」
「あ~、クラリッサさん。それは無理ですね」
俺が苦笑いしながら断ると、クラリッサさんは軽く息を吐き出して手帳を仕舞うと立ち上がった。
「そうよね、いきなりこんなこと言われて信じられるわけないわよね。ごめんなさい、他をあたって」
「いや、そうじゃなくて」
俺はポケットから自分の身分証明書、表紙が日本国の慣例上の国章である十六弁八重表菊紋とカード以外全く同じ手帳を彼女に見せた。
あ、クラリッサさんが鳩が豆鉄砲を食ったような顔してる。
「そうゆう訳なんで、協力できないんですよ」
「なんで……」
クラリッサさんが床にへたり込んで頭を抱えて何やらぶつぶつ独り言を言い始めた。
「なんで、なんでこんな郊外に都合よく日本支部の人間がいるのよ!もしかして彼はNINJA!?日本人は全員NINJAの資格でも持ってるの!?日本じゃ見ず知らずの異国人が急に訪ねてくるのは日常茶飯事って話はデマだったの!?」
「あんた日本を何だと思ってるんだ」
「そうだ!まだ可能性はあるわ、この際色仕掛けでも……」
「聞こえてますよー」
彼女からしてみればこんな片田舎にまさか同業者がいるなんて思ってもいなかったんだろうし、俺も同業者が助けを求めてくるなんて微塵も思ってなかったので対応に困る。
このまま何も聞かなかった事にして出てってもらうか、それとも日本支部には内密にしておいて協力するべきか……。
どちらにしても、俺にとってメリットはある。
前者の場合は面倒事を回避できる。なにせ知らなかったとは言え、民間人を当てにする事態なんて余程の面倒事に決まってる。
後者はこれをネタにドイツ支部に大きな貸しを作れる。将来何かがあったときに役に立つだろう。
今のところ考えは前者で纏まりかけている。
彼女には悪いが、日本支部に発覚した場合のデメリットが予想付かないし何よりも面倒事に首を突っ込みたくない。
クラリッサさんに再び視線を向けると、未だ悶絶するように頭を抱えて涙目で云々唸っている。
数分ほど熟考した後、俺は大きく溜息を吐いて立ち上がり彼女に近づく。
「クラリッサさん」
「ふぇ?」
間の抜けた声を出して顔を上げたクラリッサさんの前に立ち、満面の笑みを浮かべて手を差し伸べる。
「3つ、条件があります」
「条………件?」
「1つ、匿う彼若しくは彼女が日本に長期滞在するにあたって必要な書類と経費はすべて其方が用意すること。
2つ、僕への報酬ですが、口止め料を兼ねて倍額にすること。
そして3つめ、何があってもこちらは一切責任を持ちません。
これらを約束してくれるんなら、一肌脱ぎますよ」
たぶん、彼女にとっては悪魔との取引に近いんだろう。実際冷たい目で睨んできてるが、俺は女性に睨まれて興奮する趣味はない。
「お金で秘密が守れるんなら安い買い物ですよ。其方にとっても、悪い話ではないと思いますが?」
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