記憶への旅 ー思い出の地で
「約8年と……何ヶ月ぶりかな? ラシェット」
サマルは岩の上に座ったままそう言った。
薄明に照らされているのは、屈託のない笑顔だ。
それに対し、僕は
「そんなの、いちいち覚えてるわけないだろう?」
と呆れ顔で言い、さらにサマルの近くへと歩み寄る。
僕の声はそんな親密そうな行動とは裏腹に、低く、くぐもっていたが、サマルの声は昔と変わらず、とても柔らかい。
僕はそのことに少し頭が熱くなりかけたが、そこをグッと飲み込み、彼のいる岩の横に立つ。
すると、今度こそサマルとバッチリ目が合った。
浅黒い肌に、くっきりとした二重瞼、黒い瞳。すーっと鼻筋の通った端正な顔。朝の涼しい風に靡く、白色の髪の毛。いつもの釣り用のブーツに、茶色のズボン、濃い紺色のシャツを腕まくりをして着ており、その手元には彼愛用のタックルと、ルアーボックスが置かれていた。
懐かしい顔……。
彼の顔つきはすっかり大人になっているのに、僕には全然変わっていないように思えた。
僕はそう思っただけで、何も言えなくなってしまう。
会ったらまず真っ先に色々と文句を言ってやろうと思っていたのに、その全てがこの場では不要な言葉に思えて仕方がなかった。
「ははは、君は変わらないなぁ、ラシェット。顔も言うことも」
僕がぼーっとしていると、その隙にサマルに先を越されてしまった。
どうやら、彼も僕と同じことを思っていたらしい。
だから、僕は
「その言葉。そっくりそのままお前に返すよ」
と言う。
僕の言葉にまたサマルは
「へへへ、そうかなぁ? 少しは大人になったつもりなんだけど」
と笑った。
そうした後、サマルは釣竿を持ち、おもむろに立ち上がる。
リールに掛けてあったルアーの針も取り、垂らす糸の長さを調節。
そして、僕に笑顔を向けた後、さも当たり前かのように、沼のど真ん中にルアーをキャストした。
空中でキラリと光ったそのルアーは、サマルが得意としていた、スピナーベイトだ。それで、沼の底に生えている水草の上の部分を掠めるように攻めるのだが、サマルは昔からこれがとてつもなくうまかった。まるで彼には水中の様子が見えているかのように。
しかし、そうは言っても、魚だってなかなか簡単には引っ掛かってくれないから、サマルはゆっくりとリールを巻いては、キャストする位置を少しずつずらして、同じことを何度も繰り返す。
僕はその様子を黙って見ていた。
「ここにきて、釣り……?」
何を考えているのか知らないが、サマルは無言になり、本格的に釣りを始めてしまった。
こういう時のサマルは何を話かけても、全然こちらの言うことを聞いてくれないのが常だった。
でも、僕はさすがに一緒に釣りをする気分にはなれなかった。
だから自分の後ろにあった手頃な岩に座り、タバコを吸う。
なんだか、変な感じだ。
ここで、しかも釣りをするサマルの横でタバコを吸うなんて。
当たり前だが、そんなことは初めてだった。なにせ僕は当時中学生だったし、僕がタバコを吸うようになったのは、郵便飛行機乗りになってからのことなのだから。
「ふーっ」
僕は軽く煙を吸い込むと、ゆっくりと吐き出す。
この世界のタバコは気軽に吸えていい。空気の汚染も、嫌煙家のことも気にしなくていいし、なにより灰皿がいらない。なんなら、1本をずっと吸い続けることだってできる。全ては自分の好み次第。
しかし、僕はそんなの全然、味わいがないと思った。タバコの1本分というのは、それはそれでちゃんと計算された分量なのだ。それに、吸い始めの部分と、フィルターに近い部分ではうまさが違う。僕は断然吸い始めが好きで、それをちゃんと認識するためにも、まずい部分もあって欲しかった。
「もしかしたら、灰を落とす煩わしさだって、捨てたもんじゃないかもな…」
ヒュンッ!
サマルがまたキャストする。
僕はそれを見るでもなしに見ながら、次にこの世界における釣りというものについて考えていた。
それは魚の意思をいうものが、どういうものかということを考えることに等しかった。
この世界は全てイメージで出来ている。そして、全ての物質をイメージで作り出すことができる。しかし、今まで見た印象では、生命はその範疇ではないらしい。もし範疇ならば、例えば人間だって作り出せてしまうことになる。僕は試す気にもならないが、そんなことが可能ならば、とっくにそこら中を、作り出された「イメージ人間」が意識有りげに徘徊しているはずだ。それが見られないということは、逆に言えば、それが不可能であるということの証左に他ならないだろう。
その一方で鳥や蝶、野生動物の影はここまでの道のりで散々見てきていた。
ということは、それらの動物はシムテム側が用意したものということになる。もちろん、この沼にいるであろう魚もだ。
だとするならば、それはもはやスリリングな駆け引きをする相手として相応しいものなのだろうか? と、僕なんかは思ってしまう。魚の意思なんてないのだ。全てはシステムで管理されていて、ルアーに食いつくかどうかも、確率論でしかない。
こんなところで釣りをしたって、なんにも面白くないに決まっている。
だから僕は黙ってタバコを吸った。
そうしているうちに、一旦収まったと思っていた怒りが、またフツフツと沸いてくるのを感じた。
サマル、お前はこんなところで何をやっているんだ……。
「タバコ、吸うようになったんだね」
すると、そんな僕の気持ちを察しているのかいないのか、サマルが手を休めぬまま、僕にそう聞いてきた。僕はそれに、煙を吐きながら
「まぁね。そりゃ、八年も過ぎれば、色々とあるさ」
と答える。
「そっか……それもそうだね……」
そう言うと、サマルはまたキャストした。
「君もやらないかい? つり竿の出し方くらい、もうわかってるんだろう?」
「悪いけど、僕はもう釣りはしばらくやっていないんだ。それに、今はとてもじゃないが、そんな気分にはなれそうにない」
「……そう……残念だ」
僕はそれを聞いて、タバコを消す。
そして、またサマルのいる岩の横まで来た。左を見上げると少し寂しそうな顔でリールを巻く、サマルの顔が見えた。僕はその横顔に話掛ける。
「お前こそ、もうわかっていると思うが、ここに来る前に、あの三人と会ったよ。それと、ナーウッドさんにも。まだ、うちの国の王子には会えていないけどな……皆、顔には出さないが、お前のことを心配してたぞ。それと、怒ってもいた。なんで、僕には頼るのに、自分達はあてにしてくれないのかってな」
僕の言葉にサマルは、より一層寂しそうな顔になる。
何かを言いたそうな、でもそれを言いあぐねているようなそんな口の結び方だ。
「なぁ、サマル。お前は今、どこにいるんだ? どこからここにアクセスしている」
僕はサマルの操る釣り糸が作り出す、水面の波紋を一瞥し、彼に問いかける。が、その返事もないので、僕は彼の顔をじっと見て、息を吸い、拳を握った。
「サマル、お前がここにいるってことは、お前はまだどこかで生きているんだろ? なら、あの手紙に書いてあったことを、今ここで、全部撤回してくれ! 僕はお前が自殺したところになんて行きたくもないし、お前を殺したくなんかもないっ! それはたぶん、皆も一緒だ。お前がどんな事情を抱えているのか知らないけど、一人で抱え込んだりなんかしないで、洗いざらい僕に話してくれっ! 僕はサマル、お前に隠し事なんてしたことないだろう!? なぁ、そうだろう!?」
僕は精一杯の気持ちでそう言った。
口を動かしているうちに僕の中で抑えていた感情が決壊し、ぼろぼろと体の外へとこぼれだしているような、そんな感じだった。
しかし、それでもサマルは相変わらず口をを結んだまま、リールを巻いている。
そしてそれを巻き終わり、もう一度キャストしようと竿を振りかぶった時、僕の中で最後の堤防が音を立てて崩れ落ちるのを感じた。
僕は気が付くと、サマルのいる岩に飛び乗り、彼の手から竿をもぎ取り、それを湖の真ん中に向けて、思い切りぶん投げていた。
「釣りなんかしてんじゃねぇよっ!! こっちを見ろよっ、サマルッ!! 僕はここにいるんだぞっ!!」
僕の叫び声が静かな山景に響き渡り、バシャーンッと、沼に竿が叩きつけられる音がした。
サマルはそれでようやく、僕の顔をまともに正面から見てくれた。
その顔は、やはり寂しそうな色に染まっている。いつもの茶化すようなサマルの顔ではない。
そんなサマルを見て、僕はちょっとだけ、頭が冷えた。
「……ごめん……でも、言ってくれなきゃわからないし、言ってくれないのなら、せめて僕の話を聞いてくれなきゃ困る……じゃないと、なんでこんな所まで来たのか、わからないじゃないか。サマル、お前だって、ここで僕のことを待っていてくれたんだろう?」
僕がそう言うと、サマルは伏し目がちで
「ああ……そうだね。悪かったよ」
と頷き、
「これで最後だと思ったからさ……もう一度ここで……ラシェット。ただもう一度、君と釣りがしたかった。それだけなんだ」
と付け足すと、そこでまた僕の顔を見た。
「こんなんで最後なんて、バカ言うなよ。僕が必ずお前を助けてやる……こんなシケた仮想現実の沼じゃなくて、本物の三つ沼でもう一度二人で釣りをしよう。だからっ……」
僕は思わず、サマルの手を取った。
するとその瞬間。
なんとその手から僕に向かって数多の情報が電流のように押し寄せてきた。
「なっ!」
僕は息を飲む。
そして、眼前でフラッシュバックされる映像に刮目し、それと重なるように、瞬時に流れ込んでくる音声に耳を澄ませた。
それだけで、僕はサマルの身に起こってしまったことの、あらましを徐々に理解していく。
即ち、サマルとリッツとナーウッドの三人が遺跡調査中に、眠っていたショットとスーパーコンピューターを発見したこと。
また彼ら三人が、その成果を元にアストリアの侵略の歴史を掘り起こす論文を執筆していたこと。
そして、その調査中に誤ってショットの封印を解いてしまい、論文に関心を持っていた現アストリア国王、ジョシュア4世の手により、サマル達だけでなく仲間の4人もあえなく捕まってしまったこと。
そして、何より、事情を知ったそのジョシュア4世が、ショットの存在を庇護し、再びこの世界全土をアストリアのものとしようと、動き出したということ……
それらのことが、瞬時に僕の中に入ってきては、記憶に定着した。
「はっ……!」
その反動か、気がついたはいいが、なんだか頭がクラクラする。
うまく立っていられない。こんな苦痛に似た感覚はこちらに来てからは初めてだった。
「こ、これは……?」
僕が目を白黒させていると、
「これで、わかったろ?」
と目の前のサマルが言った。いつの間にか、僕達の手は離れている。
「……わかったって、何がだ…?」
「僕が最後かも知れないと思った理由がさ」
サマルは言う。
しかし、僕はズキズキと痛む頭を押さえながら
「いや、わからないね。そんなことよりも……」
と言った。
「お…?」
どうやら、彼が予想していたこととは違うことを、僕は言ったらしい。
しかし、僕は痛みが落ち着くと、そんなことに構わず、続けて、
「お前は誰だ?」
と、目の前の人物を睨みつけて言った。
その顔も。
覗いた記憶も。
仕草も、思考も。
全てがサマルなのに、僕の本当に知りたい「ここ二ヶ月余りの記憶」がすっぽりと抜け落ちている、この奇妙なサマルに向かって。
すると、サマルはふふっと笑った。
「そうか……そっちに気がついてくれたか。流石はラシェット。僕の一番の友達だね」
その開きおなった言い方も、サマル本来の茶化すような言い方だった。
「冗談じゃない。さっさとサマルを出せ」
僕はそれに、頭にきたから強く言う。
しかし、そうは言いつつも僕の中の違和感は消えはしなかった。
なぜなら、ここにいるサマルが本物のサマルではないということを頭では確信しながらも、心では信じ切れずにいたからだ。それ程、目の前のサマルは、サマルそのものに見えた。
僕の激しい言い方に、サマルは少し困った顔になっている。そして、自分の手を暫し見つめた後、僕の目を見て、
「確かに僕はサマル・モンタナ本人そのものじゃないけど、同時にちゃんと本人なんだよ? それはわかってくれているのかい?」
と言った。
しかし、残念ながら、僕にはその意味が全くわからない。
「本人なのに、本人そのものではない? 一体、どういうことだ?」
僕が眉間に皺を寄せ、聞くと、サマルは頬をぽりぽりと掻き、
「そうだね。つまりは、僕はサマル・モンタナ本人の意識のコピーなのさ。直接データベースに書き込まれたね」
と言った。
「コ、コピー…?」
僕はその言葉の意味をなんとか理解することができた。
コピー。
ほとんど同じなのにまったく違うもの。
似て非なるもの。
しかし、そんなこと……人間でやるなんて……
「可能なんだよ。ちゃんとしたコンピューターの知識と、元のデータが壊れるかもしれない覚悟さえあれば。信じられないかもしれないけど、その成功例が僕というわけだ」
サマルは僕の考えていることを見透かしたように言った。でも、僕はその言葉の中に、聞き流せない言葉を見つける。
「元のデータが壊れる…? それって!?」
僕が問い質そうとすると、サマルは
「まぁ、抑えてよ。結果論だけど、君がここにいるということは、僕から手紙が来たんだろう? ということは、少なくとも僕はちゃんと生きていたってことだ。記憶も脳も壊れてなんかない」
と言う。
が、僕は問題の核心はそこではないと思った。
「ああ、そうだな。確かにお前は生きていた。でも、それが確実なのは、お前が僕にこの手紙を書くまでの間だけだ」
僕がそう言うと、今度こそサマルは言葉を詰まらせた。
静けさを取り戻した水面には、いよいよ朝日が降り注ぎ始め、その反射したキラキラとした光が僕とサマルを包み込む。
とても嫌な、それでいて哀しい複雑な気持ちなのに、ここ沼の朝は爽やかで、懐かし過ぎる。
痛い程だ。
「お前はいつ、自分の意識をコピーした?」
「……あの城を出ようと思った前日の夜さ。残りの端末を使ってコピーした。こんなふうに姿形もあるということは、きっと僕はコレも作って、それからあそこを抜け出したんだね……」
「何の為にそんな危険なことを?」
「それはコピーのことかい? それとも城を出ようと思ったこと?」
「その両方だ」
僕がそう言うと、そこでサマルはひとつ息をつく。そうしてから、改めて口を開いた。
「僕がここにいるのは、君を待つためだよ。無理を頼んでしまう君を手助けするため。そして、何より最後に君と話をしたかった。実際に城を出たのは皆のためだ。あのまま、僕の研究が完成してしまったら、皆に人質の価値がなくなり、いずれ殺されてしまうだろうことは目に見えていた。だから、僕はあそこから……ショットから逃げる必要があった」
「……それだけか?」
「ふっ…いや……それだけなら僕ひとりの力でも、その場は何とかできたかもしれない。でも……僕には時間がなかったんだ」
「時間が……なかった?」
僕がそう聞くと、ああとサマルは頷く。
しかし、僕にはその真意が計りかねた。サマルは続ける。
「僕が僕でいられる時間がね。あと少しで意識を失くすだろうと予想できるところまで来ていた……だから、そうなる前に、なるべく遠くに行く必要があった。それも誰にも見つからず、死ねる場所に。そして、もし死ねなかった時のための保険として、悪いけど君を巻き込もうと思った。この世界に君しか適任はいなかったからね。皆に頼らなかったわけじゃない。君が特別なんだ。僕と同じ体質になってしまったであろう君がね……」
「お、同じ……体質?」
僕はわからずに、そう漏らす。
そんな僕を見据えサマルは
「心当たりはないかい? 自分の知らないはずの、古代の知識が、急に頭の中に浮かび上がる感覚に」
と言った。
「はっ!」
そう言われて僕は頭の中が真っ白になった。
最近発覚し、今まで誰にも言わずにひた隠しにしてきたあの知識のことを、他でもないサマルが言ってきたことに衝撃が走る。
しかも、サマルにも同じ現象が……?
「そ、それって……」
「待って」
僕が質問しようとすると、サマルはそれを手で押し留めた。そして、
「順番に話そう。僕はそのためにここにいるんだから」
と言った後、
「ラシェット。その僕からの手紙の中に。僕達の同級生のことについて何か書いていなかったかい?」
と、逆に僕に質問をしてきた。
「同級生?」
あの手紙はトカゲに奪われてしまったが、僕はその文面を一字一句間違えずに覚えていた。
そして、その中に確かにサマルの言う通り、僕らのクラスメイトについての言及があったのを、思い出す。
名前はジース。
奇しくもショットと同じ名前だが、残念ながら僕はそのジースなるクラスメイトに全く覚えがなかった。そんな人物もいたような気がしないでもないが、不思議とそれを思い出そうとすると、記憶に霧がかかったように、途端に頭の中の風景が不鮮明になってしまう。
しかし、僕は今までそのことを大したことだとは思ってこなかった。なぜなら、サマルからの手紙の内容も、ちょっと道で会って、昔の話をしただけような感じだったからだ。まさか、それが本筋の意味を補足するものだなんて思わないし、思えるはずもない。手紙にはもっと大事なことがたくさん書かれていたからだ。
「覚えていない?」
「いや、手紙のことは覚えているよ? でも、ジースって奴のことは、はっきり言って記憶にないよ」
僕が首を横に振りそう言うと、サマルは
「そっか。それもそうだね。君はまだ完全に覚醒しちゃいないんだ。そして、それは喜ばしいことでもある」
と言って、懐から一枚の写真を取り出した。
僕は受け取り、それを見下ろす。
そこには僕とサマルと、僕もよく見知ったクラスの男子達が写っていた。
「君のアルバムから拝借した一枚さ。僕はここに彼が写っているのを覚えていたんだ。当時、僕達は幽霊写真だって言って騒いでいたけれどね」
「ああ…あの写真か」
僕もやっとこの写真のことを思い出した。これは僕達の仲間の一人が僕のカメラを使って、記念に撮ってくれた写真だ。
そして、現像してみると、そのクラスの輪の中に一人見知らぬ男子生徒が写り込んでいたことで、学校中の話題をさらった写真でもある。
「例の幽霊の」
「そうさ。でも、彼は幽霊なんかじゃない。きっと写真になんて写ってはいけなかったんだろうけど、嬉しくて写ってしまった。そんな、僕らのクラスの転校生……」
「ジース・マグノアリアくんさ」
そう言って、サマルの指差した部分を見て、僕は目を疑った。
「えっ?」
そこに写っていた顔。
その顔は、少し幼いが、紛れもなくあのジース・ショットに瓜二つだったからである。
「バッ、バカな……な、なんで? それに、歳だって合わない! 彼はどう見ても中学生で、ショットは40代の男だぞ!?」
「そうだね……だから、二人は同一人物ではないんだ。でも、元は一緒。彼らは二人とも作られし存在なのさ」
「作られし…?」
僕がそう言うと、サマルはコクッと頷く。
そして、今度はサマルの方から僕の手をギュッと握った。
☆
すると、次の瞬間には、僕達は校庭のグラウンドの前に立っていた。
トラックの向こう側では、男子が一塊になって走っている。遠目でもわかる、体操服。その着崩し方。間違いない。あれは僕達だ。
「思い出そう。順番に」
その声に横を向くと、サマルも同じ方向を見ていた。
「思い出す…?」
「ああ。そうすれば、君はこの世界も、そして皆のことも救うことのできる力を得る」
僕の横でサマルはそう、きっぱりと言った。




