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砂漠の星 郵便飛行機乗り  作者: 降瀬さとる
第2章 動く人達編
69/136

天敵と転移装置

「あれはいつの頃だったかなぁ」

と、その時ベットーレはナーウッドとの出会いの事を思い出していた。


別に大した思い出ではない。ちょっとばかり屈辱的で、劣等感を覚えたような出会い方だったが、今となってはそれも美談と言えなくもない。あの経験があったからこそ、今の自分の富と栄光があるのだと。


そんなことを夕日を見ながら考えていたから、ベットーレは最初、そこにナーウッドの姿が見えたのは幻かと思ってしまった。

「ん?」

しかし、それは見間違うはずもない、宿命のライバル(と、勝手に思っている)ナーウッド・ロックマン本人の姿だった。


「おやおや……」

それに気がついて、ベットーレはゆっくりと椅子から立ち上がる。

本当は内心、少し驚いていたが、それは決してナーウッドには見せない。ナーウッドには、そのくらい余裕のありそうな態度で臨むのが最適なのだと、ベットーレは体得していたからだ。

それでやっと自分とナーウッドは五分と五分。そう思うのも、やはり劣等感がある証拠だとは知っていたが、それを受け入れられるくらいの器量はベットーレにもあった。


「お一人かな?」

そんなふうにベットーレが言うと、そこで初めて気がついたのか、周りの兵達も一斉にナーウッドに向き直り、銃を向ける。それは気配のせいだった。ナーウッドは気配を消すのがうまいのだ。これに気がつけるのは、付き合いの長い同業者くらいなものだろう。


複数の兵に銃を向けられるナーウッド。でも、彼はいたって落ち着いた様子で、

「ああ。一人だ。もしここにタミラがいなけりゃな。なぁ? ベットーレ」

と言う。

「ふふふ。そうかい。でも、可笑しいね。情報ではもう二人、ご婦人がご一緒のはずなのですが……」

「いや、俺は一人だぜ?」

ナーウッドはわざとらしくそう言った。

どの道、ベットーレには嘘をつけない。


辺りは夕日が完全に落ちる少し前だった。もうこんな時間になっていたのかとナーウッドは思う。そして、

「お前こそ、毎度毎度、大勢を引き連れて。ご苦労なこったな」

と思ったから言う。

「ふふっ、僕は友達が多いんだ。知っての通りね」

そう言うと、ベットーレはアイコンタクトで隊長格に指示を出す。なるべく引きつけて包囲するように、と。依頼主の命令では、ナーウッドは生け捕りにして欲しいとのことだったが、ベットーレはそれが如何に難しいことか十分に理解していた。


「友達ねぇ。随分イカツイお友達だ。今日はみんなでピクニックか? それとも…」


「ハンティングかな?」


そう言うとナーウッドは一息に駆け出し、遺跡の屋根に跳躍した。

隊長格が

「あっ!」

と言う間も無く、ナーウッドは崩れかけの屋根に手をかけ、影に消える。

「右に回り込め! 援護っ!」

そう指示が飛んだが、ナーウッドの攻撃はもっと素早かった。

屋根の向こう側ではもう戦闘になっており、ナーウッドが突破口を開くべく発砲している。銃が発砲される度、兵達はバタバタと倒れる。ある者は脚を抑え、ある者は手を抑えながら。


「おやおや、相変わらず優しいね。ナーウッドは。まぁ、それも良いところなんだけどね」


しかし、それでもベットーレは取り乱しなどしなかった。ベットーレはいつも自分の持つ戦力を過信しないのである。

だからこそナーウッドにとって苦手な相手だった。

さすがのナーウッドも持久戦に持ち込まれると、いつも最後には負けてしまう。それは当然と言えば当然なのだが、ベットーレはその辺のバランス感覚がとてもいい。天性の司令塔なのだ。


「ちっ、やっぱな。うまくはいかないか」


なので、ナーウッドは早々に突破しようと思ったのだが案の定、先ほどの穴はもう塞がれてしまっていた。

「くそっ。いっそ本当に軍人になればいいのによっ」

ナーウッドは吐き捨てた。


するとそれが聞こえたらしくベットーレは

「いやいや、僕は軍人は嫌なんだよ。だって自由がないじゃないか」

と言う。


「ナーウッドこそ、いい加減僕と組まないかい? きっと僕は役に立つよ? タミラ女史と三人でやろう」

「嫌なこった! 寝言は寝て言え!」


ナーウッドは遺跡の屋根に伏せながら言う。そして、気づかれないように胸にしまってある無線機のツマミを弄り、信号を出す。これでよほど薄情じゃなければタミラが迎えに来るはずだ。きっとあいつは来るだろう。来なければ、契約違反で違約金だ。必ず来る。


「それまでの勝負だな……」


ナーウッドは空を睨んだ。


そして、地下に向かった彼の新しい友達のことを思う。


「せめてもう少し俺が引き付けないとな」

ナーウッドは決意を新たにした。


ナーウッドは立ち上がり、また駆け出す。

下手な陽動だとはわかっていたが、彼にはこれしか思い浮かばなかった。


だから彼は力尽きるまで走るつもりだ。

屋根から飛び降り、草原の高い草の中を選び彼は駆ける。後ろではベットーレのよく通る声で指示が響いていた。



ーー「……はぁ、はぁ。まったく…何回ここを通ればいいのよ…」


全力で走ってきたミニスが愚痴をこぼすと、キミによってまた呼び出されたウルクが

「ん? どうしたんだ? まだここに用が残っていたか?」

と不思議そうな顔をする。

もう、すっかり顔馴染みのような感覚だ。


「上がアストリア兵に包囲されてたのよ」

「…なるほど? そういうことか」


キミにそう言われただけで、ウルクはわかってくれたらしい。さすが、アストリアという言葉には敏感だ。きっとキミはそれもわかっていて、あえて具体的に言ったのだろう。


「相互転移装置を使用します。システムマスター。よろしいでしょうか?」

マリアが言った。端末のスイッチはもう入っている。どうやらそれも使うらしい。

「ふふっ、あれの存在も教えたか、アンドロイドよ…うむ。よいだろう。許可しよう。だが、ひとつ心配なのは……」

そこでウルクは言葉を切り、顎に手を当てながら


「向こうがどういう状態になっているかはわからんぞ?」


と言った。

「イエス。わかっています」

マリアはそう言ったが、できればミニスも詳しく知りたかった。だからマリアに聞くと

「転移する向こうの遺跡の状態がログのリンクが切れてしまっているため不明だと言うことです。ですので、最悪こちらに戻って来られなくなる可能性があります」

と説明してくれた。

が、そう言われても行くしかないではないか。それ以外に有効な手はないのだから。ミニスはそう思うと、諦めたように

「ま、わかったわ」

と答えた。


「で、その装置はどこにあるの?」

キミがウルクに聞く。

するとウルクは指を差して、

「廊下の中央に立ちなさい。私が送ってやろう。マリア、貴殿は制御を頼む」

と言った。


そう言われるまま、三人は扉を抜け、廊下の中央に立つ。やはりあの石像達は現れない。先ほどの制御というのは、この石像のことなのだろう。ミニスはそう推測した。


そして、廊下に立つと扉の向こうが見える。

そこにはただの暗い谷間が広がっているのだが、ミニスはそこに万が一現れるかもしれない敵影を警戒していた。

散々、トレジャーハンターのくせに字が読めないとか、ナーウッドのことをからかったミニスとキミだったが、いざあの大きい背中が見えなくなると、やっぱり少し心許なく感じる。

まぁ、そんなことを言ったら、ナーウッドは喜んでしまうだろうから言わないが、せめて心の中だけでもそう思ってやるか、などとキミは考え、ミニスも思っていた。


「では、行くぞ。今度こそ達者でな。もし、また私に何か聞きたくなったら、いつでも来るがいい。貴殿達なら歓迎だ」

「ありがとう。そうするわ」

キミは手を振る。

その様子を見るとマリアは頷いた。


それが合図になり、転移装置は起動した。



ーー「えっ?」


まずキミが気がついたのは、黄色い世界だった。


どこまでも果てしなく続く、パステルイエローの世界。


次に浮遊感。

そして、なんとなく安らぐ感じ……


視界の中では光の粒がまるで雪のようにキラキラと輝いていた。


「これは……どういうこと?」


キミはなぜだか、そこを知っている気がした。


が、どこかはわからない。

行ったこともあるような、ないような。なんとも微妙な記憶がキミを刺激し、もどかしさを抱かせる。そう。ここはまるで……


が、それもすぐに終わった。


一瞬、視界がゼロになる。


次に見えたと記憶しているのは草原だ。そして洞窟。山。川。空。そして……



ーー「あっ……」


気がつくと、そこは真っ暗だった。

でも、先ほどまでの浮遊感はない。足もちゃんと地に着いている。

そして、肌寒かった。そういえば、あの空間には温度などなかった気がする。


「マスター、ミニスさん、無事ですか?」


「あ、マリア」


キミがそう言うとマリアは手のひらに内蔵されているライトを点けた。すると、とたんに辺りは明るくなる。やはり、ここは現実だ。地面も壁も岩でゴロゴロしている。

でも……


「あれ? ミニスさんは……?」


ミニスがいなかった。

キミは心配になり辺りを見渡す。と、すぐに

「おーーい!キミちゃん、マリアさーん」

と言うミニスの声が聞こえてきた。

「ミニスさん!?」

キミはホッとして言う。マリアもそちらにライトを向けた。間違いない、ミニスだった。少し違う場所へ転移させられたらしい。


「よかったぁ…皆無事ね?」

「うん」


ミニスはキミの肩を掴んだ。それにキミは頷いて答える。こうしていると、二人は本当の年の離れた姉妹のようだ。


「ということは、信じられないけど、本当に私達、移動しちゃったのね」

ミニスは呆れた顔をして、マリアに言った。すると、マリアは

「イエス。ミニスさん。相互転移装置は問題なく起動したようです」

と応える。


「ですが、少々座標が違いましたね。それに……」


しかし、マリアには辺りをサーチして気がついたことがあった。それは今のこの空間、その現状だ。


「どうやら、閉じ込められましたね」


マリアはそう判断し、言った。


「えっ!?」

それにミニスはほっとしたのもつかの間、すぐに驚かされてしまう。

「な、なんで!?」

と。

「おそらく、昔に大規模な土砂崩れがあったと思われます。それで道が塞がれてしまったのでしょう。よくあることです」

それにマリアはこともなげに返事をした。

「じゃあ、ここから出られないの?」

これにはさすがのキミも不安になり聞く。しかし、マリアは


「それは大丈夫でしょう。どうやらあちらに生命の部屋に続く扉があるようですから。そこでまた、ここのログに相互転移、もしくはその他の経路での脱出方法などを教えてもらえば済む話です」


と力強く言ったから、二人は安心した。

「よかったぁ……」

「じゃあ、とりあえずそこまで行きましょ」


三人は歩き出す。

地面は確かに土砂崩れがあったのか岩がゴロゴロしている。そして、話によるとここはベルド山脈という山の中腹らしいから、いくらか肌寒い。でも、それ以外にはとくに危険や異変などを感じることもなく、扉まですんなり辿り着いた。


のだが、そこでマリアはまた予想外の事態に遭遇した。


珍しくじっと固まり、何かを考えるマリア。


その前には黒い石でできた石板が置かれている。

その様子を見てキミも隣へ行き、石板を眺めた。そして、キミも気がついた。


「これ、壊れてる?」


えっ、とミニスも覗き込む。でも、当たり前だがよくわからない。どうやらキミとマリアにはわかる何かがあるらしい。

マリアは思考の中から戻り、キミに語りかける。


「いえ、これはログが遠隔操作されているのです。ですので……ログはここにはいない。だから壊れているように見えるのです」

「ふーん…ログがどこかに連れて行かれちゃったね?」

「イエス。おそらく。ここのログ、「ノア」は確か、他の場所のシステムマスターも兼ねていたと思いますので。たぶんそちらからの遠隔操作でしょう」


ミニスは二人の話を横から聞いた。そして、

「じゃあ、そのノアって人を取り戻せばいいのね?」

と言う。それに対するマリアの答えはイエスだった。


「そんなこと、できるの?」

そう言って、ヘルメット型の端末を起動させるマリアの顔をキミは覗き込む。

「わかりません。相手の技量にもよります。が、やってみましょう」


そう言うとマリアは石板に手をつく。すると、石板は微かに光を発した。

その時、ふとミニスは嫌な予感がしたので

「ねぇ、マリアさん。その作業って、何分くらい掛かりそう?」

と、試しに聞いてみた。


「不明です。が、3日もみていただければ」

「み、3日!?」


ミニスは今度こそ固まった。3日。あと3日。そんな……こんなところでどうやって3日も生きろと言うのか。水はあるのか? 食料は?


キミと目があった。

二人はすかさず荷物を確認する。そこには少しの水と氷砂糖。空のお菓子の袋しかなかった。


まさか……私達もついにネズミデビューか?


ミニスは倒れこみ、キミはとりあえず砂糖を一個齧った。


ああ……ナーウッド……


この時、二人はナーウッドの本当の重要性を思い知ったのだった。



ーー「ちっ、まだかよタミラのやつ……もうぼちぼち時間稼ぎも限界だぞ」


ナーウッドは茂みに隠れながらそう思った。


当初の目標だったキミ達の逃走時間を稼ぐというのは、とうに達成したと思われた。だからあとは自分が逃げればいいのだが……この時ナーウッドの包囲は完成しつつあったのだ。


辺りはすっかり闇に包まれている。

それは今のところ夜目の効くナーウッドに有利に働いていたが、ずっとそうとは限らない。ベットーレはしつこいのだ。きっと何かを考えつくはずだ。

だからこそ、そろそろタミラには姿を見せて欲しかった。


「ふふっ、どうかな? もう無駄な抵抗とわかったかい?」

どこからともなくベットーレは言う。それにナーウッドは

「うるせぇ! まだまだこれからだ」

と、言ってしまう。居場所がバレバレだ。


ナーウッドは反応のない無線機に耳を澄まし、夜空の雲間を見て、一か八かの賭けに出ようか迷っていた。


それはタミラの行動を先読みしてのことだった。

今、もしタミラがこの空域に飛行機で来るとしたら雲に隠れながら低速度で近づく以外には方法がない。だとしたら、選択肢は2つなのだ。

西の雲間か、東の雲間か。

雲の大きさや風の流れからすれば、東の雲の方が機体を隠し易そうだった。西の雲は散り散りになりつつある。そんなところを飛ぶのは発見のリスクが高い。


だから東だ。安全に来るとしたら。しかし……


「よっしゃ!」


ナーウッドは姿勢を低くしたまま、あえて西へと走り出した。敵の銃弾が肩を掠める。


ナーウッドは思ったのだ。きっとベットーレも同じことを考え、東の空を警戒するだろうと。

だからあえて西だ。

そして、タミラもそう判断するはずだと。

これでさらにベットーレに読まれていたら…その時はその時だ。


「くっ……」

銃弾に草は裂かれ、土は跳ねた。

これが本当にラストチャンスだ。タミラ、頼む……


と、その時。


西の雲間に暗い陰が見えた。

「へっ、ナイスタイミング! 惚れちまうな」


それは全ての光を落としたタミラの愛機、セブンスだった。その機体が雲を抜けるとスピードを上げ、急降下してくる。

これまたギリギリのラインだ。おそらく、タミラは地上すれすれまで降りてきて、すぐに急上昇する気だ。

その飛行機の降下地点。そこにナーウッドは滑り込み、飛行機に掴まらなければならない。ナーウッドもスピードを上げた。

「ちっ、間に合うか!?」


「ふっ、やはり来ましたか。ランチャーを出せっ!すぐにだっ!」

ベットーレは言う。


その前でナーウッドは全力疾走した。


兵士達は前後に分かれ、前はナーウッドを追い、後ろは武器をロケットランチャーに切り替え、既にセブンスを落とそうと狙っている。


ナーウッドはそれを見ると、無線機を取り出し

「タミラッ! 視界確保っ! 」

とだけ叫び、返事も待たずにポケットから閃光弾を出し、炸裂させる。

強烈な光が辺りを染め、一時的に視界を奪う。

しかし、タミラの機体はそのままナーウッドめがけ、突っ込んできていた。


接触まであと数メートル。


「撃てっ!」


ベットーレの声がした。すると、ぴゅーんという音とともに、ロケットランチャーが4発発射される。


「このっ……!」

しかし、ナーウッドはその軌道を見切る。当たるのは2発だ。その弾だけを正確に銃で撃ち落とす。けたたましい爆発音と灼熱が草原を赤く染めた。


「よしっ!」


ナーウッドは今度こそ飛行機を捉えた。そして、地面すれすれまで降り、急上昇を開始するところだった機体の脚の部分をなんとか捕まえる。体が宙に浮くと、振り落とされないようにガッシリと両手で抱きついた。


すると、またランチャーの追撃がきた。

が、もう無駄なことだ。

ナーウッドは体勢を整え、片手で銃を構えると、片っ端からランチャーを撃ち落としていった。物凄い技術と腕の力である。彼こそきっと軍人になった方がよかったのではないかと思うのだが、本人はそんなこと、思いついたこともない。


「ふーっ、今回はさすがに危なかったな……」

飛行機が安定飛行に入ると、ナーウッドは草原を見下ろしながらそう思い、飛行機の脚をよじ登った。

終わってみれば、見る見る間に飛行機はベットーレ達から遠ざかっていった。


そんな遠ざかっていくライバル機を見ながらベットーレはなぜか誇らしい気持ちになっていた。

やはりやるな、と。

僕のライバルはこれくらいでなきゃならない。


「ベットーレ殿」

「ん? なんだい?」


ベットーレが腕を組んで立っていると、隊長格が声をかけてきた。どうやらベットーレが不機嫌だと勘違いしたらしい。


「ふふっ、そんな顔をしなくていいですよ。大丈夫です、次もあります。それに、今回はナーウッドくんも手ぶらみたいでしたからね。あの恐い上司にはそう言っておきましょう」


ベットーレはそう言って笑った。それで、その場の兵は安堵の表情を浮かべる。


「さ、では我々も撤退です。ご婦人達の行方も気にはなりますが、ナーウッドのことです。追っても無駄でしょうから……」


ベットーレはそう命令する。そして頭の中では、再度ナーウッドを追う計算を開始していた。



ーー「ありがとう、助かったぜ。タミラ」


「えっ? あ、ああ。なんだよ、当然じゃんか。ははは」


後部座席に座ったナーウッドから通信が入る。しかし、その第一声が意外なものだったから、タミラは驚きを誤魔化すように笑った。てっきり、逃げ出したことや、助けが遅れたことへの文句がくるかと思っていたのだ。

良かった。結果オーライだ。


「ところで、あの二人はどうしたの?」

タミラは気になって聞いた。ナーウッドだけだから助けられたものの、もし他の二人もいたら、どうしようかと心配していたからだ。

「大丈夫。もっと安全な場所にいるはずだ」

「本当に? あんたの安全は信用できないからね」

タミラは当然のように言う。


「いや、本当に大丈夫さ。あの三人ならきっと心配はいらない」


「ん? 三人?」

タミラは首を傾げる。二人じゃなかったっけ?


「それよりも、タミラ。これからのことなんだが……」

タミラが計器を目でチェックしているとナーウッドは言った。早速、次の行動のことを相談しようと。

「なに? なんかわかったわけ?」

「ああ。色々な。とりあえず次はサンプトリアだ」

「オッケー。サンプトリアね。なんだか、久しぶりね」

タミラは答えた。

サンプトリアか……だったらまた燃料を入れないとな。

「でもタミラ。その前にちょっくら寄りたい所がある」

ナーウッドはまた言った。

「ん? その前に? そんな暇あるの?」

「ああ。どうせ通り道だしな。ついでに様子見だ」

「通り道? どこにいくのよ」


「アストリア城」


「はぁ!?」

タミラは驚いた。またこいつは金ならなそうな所に突っ込もうとしている。

「ナーウッド、あんたバカなの? ついこの間逃げてきたんじゃない! のこのこ捕まりに行くようなものよ?」

タミラは振り向いて叫ぶ。通信機がいらないくらいの声だ。


「いや、無理そうなら帰るから心配ない。とにかく、一度会って謝りたいやつがいるんだ」


「はぁ? 」

タミラには益々意味がわからなかった。

それに、その発言はなんとなくいつものナーウッドらしくない。どうしたというのだ?

まさか……遺跡で何かあったのか?


「……もしかしてミニスって女の方?」

「は?」

今度はナーウッドが聞く番だった。なんの話だ? と。

「何がだ?」

「別に。なんでもない」


「ああ、そうか…」

あっさりタミラが引き下がったから、ナーウッドもそれ以上言わなかった。まぁ、いい。とにかく今は疲れている。それ以上反対されないのなら、タミラには悪いが、少し眠らせてもらおう。


「で? お宝は見つかったわけ?」

と、思ったらそんな質問がきた。

お宝。

そういえばそんなことなんて頭の片隅にもなかったなとナーウッドは思う。だから正直に

「いや、なにも?」

と言った。

「……なにも?」

げ、やばい。怒っている。あ、そうだ!

「そ、そういえば、こんな古代の機械だったらある! ちょっと危険な代物だが…」

と、言ってタミラにそれを見せたのだが、

「……それ、例のやつじゃない」

と、浮かない顔をするだけだった。

が、少しすると、タミラは一転、目の色を変えて


「あ、なるほど!これをショットに売ればいいのね?なるほどー、そうかぁ。だからアストリアに行くのね。そうすればきっとものすごい大金が……」

そうヨダレを垂らしながら言ったから、ナーウッドは慌てて

「バカ野郎っ、それだけは止めろ!」

と言った。


タミラは笑っていたが、目はマジだった。


とにかく、そんなこんなで、二人は北を目指す。


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