アスカ遺跡 3
こんなわけのわからない朽ちかけの遺跡の前で、とにかくも、なんとか互いに打ち解け合えたことにミニスがほっとしていると、ナーウッドが
「あっ、そうだ!もう一人、二人に紹介したいやつがいるんだ。ちょっと、待っててくれ。今呼んでくるからっ」
と言って、挨拶もそこそこに何処かへと行ってしまった。ナーウッドの大きな足が地面を蹴ると、乾いた砂がブワッ、ブワッと舞う。
それを見ながらミニスが
「そう言えば、ナーウッドはここまでどうやって来たのかしら?確か、彼は前に相棒がいると言っていたけど……」
と考えていると、遠くの方で
「おーーいっ!タミラーーッ!」
と大声で言うナーウッドの声がした。
それを聞いた、ミニスとキミが
「タミラさんって名前なのかな?だとしたら、女の人ね」
などと話していると、わりと早くナーウッドが一人の女性を伴って帰って来るのが見えた。
やっぱり女性だったのだ。
その女性はナーウッドに向かい
「なになに?いきなり。私はもう遺跡には絶対に入りたくないって言ったでしょ?」
とか
「もし、遺跡に入るんだったらさ、また別途、追加報酬を要求したいんだけど?3万ペンス」
とか、なにやら言いながら歩いている。それに対してナーウッドは
「いや、3万ペンスは高過ぎ……って、そうじゃなくて。会わせたい人がいるってさっきから何度も言ってるだろ?まだ信じてないのか?」
と必死に説明している様子だ。が、彼女は
「信じるもなにも、こんな辺鄙で何もない所に、私以外に乙女なんているわけないわ。だから、まーた適当にこじつけて私を遺跡の捜索に借り出す気なんでしょ?しかもタダで!タダよ!?図々しいにも程があるわ、これで何回目!?もうそんな手には引っ掛からないわ」
と言って、全くナーウッドを信じようとしない。それを聞いてミニスは、ナーウッドは今までいったい、彼女に何をしてきたのだ? と思う。が、続けて
「タダタダって言うけどな、タミラ。俺は今までお前に、どれだけ追加報酬を払ってきたと思ってるんだ。お陰でこっちはスッカラカンだ。もう十分だろ……」
「はいはい、何を言ってるのかしらね。私の操縦テクがないと、ろくに遺跡も回れないポンコツトレジャーハンターのくせに。私ほどの腕の「運び屋」、それも「滑走路外離着陸専門」のパイロットは世界中探したって数人しかいないんだから。そのくらいの報酬は貰って当然だわ」
という会話が聞こえてきたから、その考えをすぐに改めた。
あ、これはお互い様みたいね、と。
ミニスとキミはまた顔を見合わせ、肩を上げ下げする。
「わかった?わかったなら、私のために金になりそうな財宝の一つや二つ、さっさと掘り出してきな。私はここで待ってるから……ん、あら?」
ミニスとキミがその声が聞こえてきていた方向をずっと見つめていたら、タミラと思われる女性が遺跡の壁の影から顔を見せた。だから、彼女も二人の存在に気がついて、言葉を止める。
彼女はとても意外そうな顔をしていた。
頭には赤い民族模様のバンダナを巻き、その上から操縦用ゴーグルを掛けている。服装は薄い紺のツナギを着ているが、上は完全にはだけさせ白いTシャツ一枚になっている。そして、そのTシャツの胸のところにはなぜかデカデカと「Adventure」とプリントされているのだが、それが、はっきり言ってダサい。しかし、その浅黒い肌と、気の強そうな大きな目をした、エキゾチックな雰囲気の彼女には不思議と似合ってはいた。なぜだかはわからないが、とてもダサいTシャツがしっくりとくるのだ。
そんな服装に気を取られていたミニスだったが、すぐに気を取り直して
「どうも」
と言い、ペコリと会釈をする。
それを真似てキミもペコリとした。
それを見たタミラも
「え?あ、どうも」
と戸惑いながらも会釈をする。
そして、そんな様子をポケットに手を突っ込んだまま横で見ていたナーウッドに向かい
「ねぇ!ちょっと、ちゃんといるじゃない!乙女が二人!本当なら本当だって、もっと真剣に言いなさいよ」
と理不尽なことを言う。
それを聞いたナーウッドは、わかってくれれば、もうどうでもいいという感じで
「だから、ずっと言ってただろ」
と短く言った。そして続けて、ミニスとキミに向かい、
「紹介する。俺の相棒のタミラだ。二人乗り飛行機の操縦をしてもらってる。ここへもその飛行機で来たんだが、今はもっと向こうの方へ停めてある。こんな奴だが、いい奴だ。よろしくな」
と簡単にタミラを紹介した。それを聞いて二人はそれぞれに頷く。そして、ナーウッドは間髪入れずに
「で、タミラ。まず、こちらの方がミニス・マーガレットさん。ほら、話しただろ?例の一昨日の一件の時に助けてもらったって。この方がそうなんだ」
と今度はタミラにミニスを紹介した。すると、タミラは目を丸くして
「えっ?あの、一昨日の時の?まさか、なんでこんな所に?」
と言う。そう思うのも無理はなかった。だから、それに対してミニスが
「それは、きっと同じ目的のためです。タミラさん。私達もここにサマルさんを探す手掛かりを見つけきたんです」
と言った。
それにタミラはああーと相槌を打つ。
ミニスのそのとても端折った説明でも、わかってくれたようだ。しかし
「そう…あなた達もこの金にもならない、ナーウッドのお友達捜索の手伝いをやらされているのね」
と、少し誤解というか見解の違いはあるようだった。だからミニスはちょっと歯切れ悪く
「えっ?…あ、はい……」
と答える。
金にならない? ミニスはこの捜索をそんな角度から考えてみたことはなかったのだ。
まぁ、それはミニスには一応国から給料が出ているから、というのもあるが……
でも、そんなミニスの様子など見えていないのかタミラはしゃべり続ける。
「やっぱり、お互い大変ね。でもさ、ホント、男ってバカよねー。そんなやつなんか放っておけばいいのに。ね?こっちは忙しいんだって。大体、本気で死のうって思っている人が、わざわざ手紙なんて書くわけないわ。きっとかまって欲しいだけなのよ。だから放っておけばそのうちひょっこり戻ってくるのよ、そういうやつは放っておくのが一番。それを、このナーウッドは変に優しいから本気にしちゃって、仕事も全部放っぽり出してさ。私が何回言っても聞かないのよ。その優しさを少しでも仕事と、私のお給料に還元して欲しいわ。ね? あなた達もそう思わない?」
「は、はぁ……」
そう言うタミラにミニスは呆れるというか圧倒されてしまった。
本当は色々と勝手に勘違いされている部分があるから、訂正したかったのだが、その隙すらないのだ。でも、そこはさすがに付き合いの長そうなナーウッドが、
「むしろ、俺はお前の金銭欲が恐いぞ」
と話の腰を折った。
「いや、そんな愚痴はいいんだ。お前がいくら言ったところで俺の考えは変わらないからな。それよりも、もう一人も紹介させてくれ、タミラ。こちら、キミ・エールグレインさん。キミさんは例のラシェット・クロードの友達で、一緒に旅をしていた人だ」
ナーウッドはキミの方を手で示して言う。
ナーウッドのその言葉にタミラは今度はキミの方を見る。特にナーウッドに愚痴を流されたことについては、なんとも思っていないようだ。たぶん、いつもこうやって口喧嘩しているのだろう。その感じはミニスにも若干、身に覚えがあったから、なんとなくわかった。
「キミちゃんね。はじめまして、タミラ・ケー・ルーよ。あなたもまだまだ、か弱い年頃なのに大変ね。そのラシェットさんって人も相当のお人好しなんでしょう?」
タミラが挨拶をしながらそう言うとキミは
「はい」
と答え、
「でも、私もそのお人好しにつけ込んで、ちゃんと報酬をもらう約束を取り付けてあるから平気なの。だから気にしないで、タミラさん」
と付け加えたから、タミラは思わず笑ってしまった。
「ははは、キミちゃん、あなた、小さいのにしっかりしてるのね。ははは、いいわ、私と気が合いそう。よろしくね。ミニスさんも、よろしくね」
そう言われて、キミとミニスもそれぞれ
「うん。よろしくね、タミラさん」
「ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」
と言う。
「で?その例のお人好しさんはどこに行っちゃったの?なんか、二人しかいないけど」
挨拶が終わるとタミラは辺りを見回してそう二人に聞いた。だから、キミの方が
「ううん。残念だけど、ラシェットとは別行動をとることにしたのよ。だから今は二人だけ」
と答える。で、その答えに
「あ、そうなの。それじゃあ、もっと大変じゃない。やっぱりお人好しって、周りには迷惑かけるのよねー」
とタミラは言うが、口調的にどうやらそれについてもあまり関心はないらしい。つくづくマイペースというか、面白い雰囲気の人だなぁと二人は思った。
とにかく、女三人は早くも打ち解けたようだった。
そんな三人の様子を満足げに見たナーウッドは
「うん、これでとりあえず挨拶は済んだな。よしっ、タミラ、もう戻っていいぞ。あとはこっちで調査をするから」
とタミラに向かって言った。
すると、タミラはちょっと拍子抜けしたみたいに
「えっ?あ、もういいの?遺跡調査は?」
と聞く。しかし、ナーウッドは
「いや、遺跡調査と言っても、ここは以前にサマル達と何度も来てるからな。今回は本当にお前の出番はなしだ。安心しな。その代わりにこのお二人に協力してもらうことになった」
と言ってタミラの申し出をやんわりと断った。
「ふーん、本当に?」
「ああ、本当だ。それにもうお前に渡せる金もないしな」
そう言うとタミラもやはり遺跡には行きたくないのか
「あっそう。わかったわ。じゃあ、本当に挨拶だけになっちゃったけど……」
とキミとミニスの方を見る。
それにミニスは
「あ、いえ、こっちは気にしないで。私達はここの調査が目的で来ているので……タミラさんは無理せずに、自分の持ち場に戻ってください」
と言った。その言葉にタミラは気まずそうにしながら
「別に持ち場ってほどのものでもないのよ……でも、やっぱりもう遺跡に閉じ込められるのは勘弁だから、戻るわね。ごめんね、一昨日このバカを助けてもらったお礼は今度、必ずするから」
と返事をする。そして、キミにも
「キミちゃんも、あんまり無理して付き合ってちゃダメよ。こいつみたいな遺跡バカとか、もう一人のお人好しさんにもね。あ、でももし遺跡にお宝があったら教えてね。独り占めはなしよ。じゃ、またね」
と言うと、宣言通り、元来た道をさっさと帰って行ってしまった。
それをミニスとキミは手を振りながらキョトンとして見送る。
「なんか、嵐みたいな人ね……」
そうミニスが思っていると、そんなミニスの前までナーウッドは戻ってきた。そして
「さて。じゃあ早速調査に行こうぜ。お二人さん」
と言う。しかし、キミはその前に疑問に思ったので
「ねぇねぇ、そういえばなんで、タミラさんに私が守人だってことを言わなかったの?」
と素朴な質問をした。
それについてはミニスもそう言えばそうねと思う。なぜなら、トレジャーハンターの相棒をしているような人が「守人」という存在に興味がないわけないと思ったからだ。
でも、ナーウッドから出た答えは
「ん?あ、いや、あいつはそういうのには全く興味ないからさ」
というまるで正反対のものだった。
「え?そんな人いるの?」
驚く二人。それに対し、
「いや、この業界に関わってるやつの中じゃ、たぶんあいつだけだけどな。あいつにはロマンってやつがまるで足りないから。いつも現実主義。金、金、金さ。ま、だからこんな危ない旅にもちゃんと金さえ払えばついてきてくれるんだから、ありがたいと言えばそうなんだけどな」
ナーウッドは頬を掻きながらそう言った。
しかし、本当にそれだけの理由でタミラがナーウッドについてきているとは、さすがにミニスもキミも思わなかった。そこにはきっとナーウッドとタミラにしかわからない、奇妙な友情関係があるに違いないのだ。
でも、それを本人に対して色々と聞いてほじくり返すのは気が引けたので、しないことにした。
「そんなことより、さ、早く行こうぜ。じゃないと肉食動物達の夕食の時間になっちまう」
そう言うナーウッドの目は、やはりキミが守人だとわかる前とは違い、ワクワクと輝いている。本当に早く遺跡に潜りたいといった感じだ。
でも、ミニスはまだ聞きたいことがあったので
「ねぇ、ナーウッドさん。あなたは、それよりもって言うけど、私にも色々と聞き足りないことがあるのよ。あなたの持っている情報とか。さっきあなたが言っていたあなた宛の手紙のこととか」
と言った。でも、それについてもナーウッドは
「ま、その辺のことは、互いの情報交換も兼ねて、歩きながら話そうぜ。だから、早く潜ろう」
と、待ちきれないように言う。それを聞いてミニスはまるで遊園地を前にした小学生のようねと思う。
「ねぇ、でもすぐには出てこられないんでしょ?そうしたら、夜になって、その時はタミラさんはどうするわけ?危険じゃないの?」
すると今度はキミが聞いた。確かに、その問題もあった。
二人がタミラの心配をすると、ナーウッドは
「大丈夫大丈夫。飛行機には大量に固形燃料が入れてある。それで火を一晩中、絶やさなければ動物は寄って来ない。それにあいつはもうそういう野営には慣れてるからな。心配はいらないぜ」
と言ってその心配を一蹴した。
「あ、そうなの。ならいいんだけど……」
キミは言った。
そして、二人は黙る。どうやら、これ以上は今のところ聞きたいこともないらしい。それを見てとったナーウッドはニヤッと笑い、
「よしよし。じゃあ、今度こそ出発だな」
と言ってリュックを背負い直し、もう消してしまっていたランタンの火を改めて灯した。
そうやって作業をしながらナーウッドは
「なに、心配はいらない。さっきも言ったが、ここはもう何度も来ているし、それに洞窟型の遺跡構造じゃないから、早ければ1日で行って帰って来られる」
と聞いてもいない遺跡情報をしゃべる。それを聞きながら、ミニスは
「なんか、成り行きでこうなっちゃったけど……ま、とりあえずここは任せるしかないわね。このナーウッドさんの腕を信じて」
と思っていた。すると、その心中を察したのか、キミがつんつんとミニスの袖を引っ張る。そして、目が合うと、うんと頷き
「心配ないわ。きっとうまくいく」
と確信ありげに言うから、ミニスは不思議と笑みを浮かべてしまった。こういう感じの時のキミには本当に敵わないわね、とミニスは思った。
「じゃ、これから遺跡の内部に向かうが、内部に入ったら、お二人さんは俺の後ろをついてきてくれ。くれぐれもあまり距離は開けないようにな。そして、これも守って欲しいんだが、基本的には俺の歩いた所をなぞるように歩いてくれ。最初は厳密じゃなくていいが、特に遺跡の奥の方では確実にな。じゃないととんでもないことになる場合もある」
準備が終わるとナーウッドは簡単な注意事項としてそう言った。それに二人はうんと相槌を打つ。でも、
「とんでもないことって?」
と、そこはさすがに気になったので聞いた。
「それはわからない。が、知らないで済むならそれが一番だ。でも、一例を挙げると、前にタミラが俺の言いつけを守らなかったせいで、落とし穴に落ちてな。その時は二人して10日以上も脱出のために内部を彷徨い歩くはめになった。あの時は脱出口が見つかったからいいが、できれば、俺はもうそんな目には遭いたくない。二人もそんなの嫌だろ?」
ナーウッドのその言葉に二人は、うんうんと力強く頷いた。そして、それを聞いてタミラの遺跡嫌いの原因は絶対にそれだなと思った。
「で、入り口は?」
キミが聞く。すると、ナーウッドはふふっと得意げに笑い、
「ここさ」
と言って、地面、正確に言えば床を指差した。
「床?」
「そう。この真下が肝心の遺跡の内部になっている。でも、入り口なんて物はないんだ。だから、この先にある崩れた床の隙間から入る」
それを聞いてミニスは
「入り口がない?えっ?こんなに立派な巨大石の建物を作っておきながら地下への入り口も作れなかったの?」
と驚く。しかし、ナーウッドはその驚きとは反対に当然のような顔をして
「上のこの遺跡なんて関係ない。むしろこの遺跡の場合は地下を隠すため、もしくは封印するために作った可能性が高いんだからな。別物なのさ」
と言った。それにミニスは益々驚く。
「えっ? じゃあ、この遺跡は地下よりも新しいってこと?」
「ああ、そうだ。この遺跡はたぶん2000年から、せいぜい2500年くらい前に作られた、比較的新しいものだろう。それに比べて地下はもっともっと古い。そして、その地下のさらに最深部にある部屋なんかは、一体いつ頃に作られたものなのか見当もつかない」
ナーウッドはそう言う。
しかし、そう言われてもミニスは余計にぴんとこなかった。ミニスにとってみれば2000年前だって気の遠くなるほど昔のことなのだ。
「えっと、じゃあ私達はこれからどこを目指して進むの?」
ミニスは考えるのを止めて、とりあえず当面の実務的なことを聞いてみた。
それにナーウッドは
「もちろん、最深部の部屋を目指す。通称『石の部屋』をな」
と言う。実務的なことを聞いたはずなのに、またわけのわからない言葉が出てきた。
「い、石の部屋?」
「ああ、入り口とその壁が黒い、ツルツルした固い石で出来ていて、そして同じく入り口の前に黒い石で出来た石版が必ず置いてあることから、トレジャーハンターの世界ではそう呼ばれているんだ。まぁ、正式名称はもしかしたらキミさんが知っているかもしれないが……」
ナーウッドはそう言ってキミの方を見たが、キミは肩をすくめて
「ううん。名前なんて知らないわ。いいんじゃない?石の部屋で。ま、部屋とは限らないけど」
と、答えた。ミニスは相変わらず置いてけぼりだが、ナーウッドは構わずに
「そうか……部屋とは限らないのか…じゃあ、迷宮とか、もしかしたらもっと広い空間をイメージした方がいいのかも知れないな……」
と、ひとりで興味深そうに考察している。
これではキリがないなとミニスは思った。だから
「あーもう。わかったわ。百聞は一見にしかず。もう直接見て自分で判断するわ。だから、もうさっさと行きましょう」
と、諦めたように言う。それにはキミも
「そうね。そうしましょう」
と同意した。
「お、いいね。お二人さん。そう、考古学の真髄は考察にはないんだ。全ては実地の、肌に触れる経験の中にある。さ、ついてきな。こっちだ」
ナーウッドは嬉しそうに言ったが、別にミニスもキミも考古学など極めたいとは、これっぽっちも思っていなくて、ただサマルの手紙のヒントを解きたかっただけなのだが、なんだかそんな顔を見せられると、今は言わない方がいいなと思った。
そして、二人はキミ、ミニスの順番でナーウッドの後ろについて行く。
「ここだ。ここから入るんだ」
少し歩いたところにその隙間はあった。しかし、それは隙間と言えば隙間だが、人が一人やっと通れるか通れないかといった隙間しか空いていなかった。
これではキミとミニスは通れるが、本当に体の大きいナーウッドが入れるのかと思う。
「じゃ、待っててれ。俺が先に行くから」
でも、二人の不安を余所にナーウッドは、先にリュックを隙間から落とすと、自分もぎゅうぎゅうになりながらも、スルスルッと降りていってしまった。なるほど、かなり体が柔らかいのだ。ナーウッドは本当に色々な身体能力に恵まれている。
「よっと。さ、気をつけて降りてきてくれ。受け止めるから」
「わかった」
ナーウッドに促されるまま、キミとミニスも隙間から地下に降りた。
そこは当たり前だが、とても薄暗くてランタンの光だけでは、奥の方は真っ暗で何も見えない。通路は長くどこまでも続いているようだった。しかし、天井の高さは思っていたよりもずっと高く、ナーウッドですら、ちゃんと立って歩けるほどだ。
「よし。落としものはないな?こういう狭い所を抜けた時は落としものに注意する必要がある。じゃ、こっちだ。ゆっくり行くぞ」
ナーウッドはリュックを拾い上げ歩き出す。その足取りに迷いはないようだった。その後ろを二人もうんと頷き、歩き出す。
なんとも言えない、ひやっとした感じがするのをミニスは背中に感じていた。
それは慣れないことをしている緊張からくるのかもしれない。ナーウッドがいてもこれなのだ。きっとキミと二人だけだったら、もっと嫌な汗を掻いていたに違いない。そう思うとミニスはこの出会いに感謝した。そして、あの時、ナーウッドを助けたことは、独断だったがよい判断だったと、そう思った。
「足元、気をつけな。石がゴロゴロしている」
ナーウッドは言った。見ると、確かにところどころ、石の壁が剥がれ、下に落ちてしまっている。地震のせいか、それとも経年劣化のためかはわからないが、それにしても、この構造物の経てきた時間を考えれば、無傷みたいなものだ。ミニスはむしろ石を避けながら感心していた。
景色はどこまでも一緒のようだった。今のところ脇道も扉もない。
時々、雑草や木の根が石の間から這い出ているのが見える。
そんな殺風景な景色とランタンに照らされたキミとナーウッドの背中を見ながら、ミニスはこの不思議な出会いと、この不思議な遺跡だったら、一体どちらがより不思議なのかしら? と考えても仕方のないことを考える。そう考えずにはいられなかったのだ。
そしてまた、心の中で
「でも、やっぱりこれって諜報部の仕事じゃないわよね」
と、どんどん深みにハマっていく自分の状況も、やはり笑いに変えずにはいられなかった。




