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砂漠の星 郵便飛行機乗り  作者: 降瀬さとる
第4章 動く世界・三人の友情編
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カジの決意

ボートバル海兵達が撤退するのに混ざって、キミ達は走っていた。目指すは、マリアの指示した通り、格納庫である。


しかし、この時キミは後悔していたのだ。

本当にマリア達を残し、自分達だけ逃げ出して良かったのかと……。


「マリアさん……」


キミは呼びかける。

でも、応答はない。

反応がまだ消えていないということは、少なくとも無事なのだろうが…キミは気が気ではなかった。


「おい、お嬢ちゃん。もう少しスピードを上げるぞ。じゃないと、追いつかれる」


そんなことを考えていると、カジが言った。

それに、気がついたキミはうんと頷く。

確かに背後からはアストリア兵の部隊が迫っている気配がしたのだ。

ここは追いつかれる前に、是が非でも格納庫に辿り着き、籠城したかった。


が、それをしたところでキミ達の、いや、この艦隊の勝敗は全てエリサ達に委ねられることになる。


キミは、それは良くないことのような気がしてならなかったのだった。


だって、自分達だけのうのうと脱出しても、あのショット相手にいったいマクベス達はどう戦えるというのだろう? ショットが行けば、すぐにでもブリッジを占拠できるのは明白だ。この艦はショットに奪われることになる。

そうなれば、たとえ脱出できたところで、この広い海上に逃げ場なんてない。脱出用のポッドなど、呆気なく発見され、沈められてしまうに違いない。

エリサがこの艦の弾薬を全て使い切ったことは幸いだったが、そのくらいのことは、きっとショットなら朝飯前だろう。


「ダメ……このままじゃダメなのよ。籠城なんてバカげてる」


ラシェットではないが、キミはそう思った。

いつの間にか、ラシェットの思考の「癖」みたいなものが、キミにも染み付いてしまったらしいが、キミはそれには気がついていなかった。


キミは走るカジ、ミニス、ノノ、イズミを順に見た。


そして、ボートバルの兵士達も。総勢で40人くらいはいるだろう。


キミはそれらの人々を同時に操り、戦えるかを瞬時に計算した。結論から言えば操れる。けどそれは、もしそうした場合、その人達が負傷したり、死んでしまったりしたら、それは全てキミの責任になるということを意味した。


それにはさすがのキミも胸を詰まらせ、逡巡した。


でも、キミがそうしないとここにいる人達は、むざむざショットに操られ、余計に被害が出る可能性だってある……そうなるよりは、いっそ……。


キミは考えるだけでも嫌だったから、ギュッと目を瞑った。


そんなキミの様子に気がついたカジは、その辛そうな表情に目を細めた。

そして、


「おい、ミニス。俺達は次の角を右だ。いいな?」


と唐突に言い出した。


「えっ…? あっ、ちょっと…待ちなさいよ、カジッ!」


カジが急にボートバル兵達が走る廊下からずれ、右に曲がると、ミニスも釣られて廊下を右に曲がった。

それに慌てた様子でキミ、ノノ、イズミも続く。


そうして、その角を曲がったすぐ右側のところにあった扉をカジは反射的に開き、皆を中に誘導した。


そこは倉庫のような部屋だったが、ガランとしていて何もない所だった。寂しい部屋だ。

そこで五人は息を潜め、追手のアストリア兵達をやり過ごす。カジ以外の四人には状況が全然飲み込めなかったが……。


そうやって、アストリア兵の足音が遠のいていくと、ようやくカジが


「ふーっ。なんとかうまく誤魔化せたなぁ…。しかし、なんでまたノノさんとイズミさんまで付いて来るんだよ。別に付いて来なくったって良かったのによ」


と説明より先に失礼なことを言い出したので、ノノはむっとして


「はぁ!? 私だって、別に付いて来たくて来てるんじゃありません! 仕事だからです! もし、嫌なら、付いて来なくてもいいように、もっと立場をわきまえた行動と発言をしてください!」


と息を切らしながら反論した。

それにはカジも何も言い返せず


「へいへい、それは仕事熱心なことで」


とぼそっと言うのみだった。


「…ったく、そんなことはどうでもいいでしょう? それよりもこれはなんなのよ。カジ。格納庫に行くんじゃなかったわけ?」


そこへ、早く事情を説明して欲しいとミニスが言う。

それで話が戻ったからカジは改めて


「ん? ああ、そうだったんだが……お嬢ちゃんに他に案があるらしくてよ」


と言って、キミを見た。

それにキミは「えっ?」とすごく驚いた顔をして


「ど、どうしてわかったの…?」


と聞く。カジはニヤッと笑ったが、その理由を口にすることはしなかった。


「…さぁてね。それよりも、お嬢ちゃん。今はマジで時間がない。ここでちゃっちゃと、そのお嬢ちゃんの考えってやつを、皆で会議しちまおうじゃないの。な?」


そう促されたキミは、カジと目を合わせると戸惑いながらも力強く頷く。


それから、よくわからないといった顔をしている、他の三人の方も見た。

そして、意を決して

「あのね…このままじゃダメだと思うの」

と切り出し、先ほど考えたことを四人に話し始めた。



それを聞き終わったミニスは腕を組んで


「うーん……まぁ、確かにそうだわね…」


と改めて考えた。

けど、ノノとイズミはというと、


「そんな、あのエリサ大尉がそう簡単に負けるわけないじゃないですか!」

「そうですよー!」


などと言っている。

その素朴な意見にカジはため息をついた。


「あのなぁ……ノノさん達も見ただろう? あの人間離れした、奴の実力を。しかも、マリアさん曰く、ショットの野郎は本当に機械らしいんだぜ? そんな相手を敵に回したら、いくらランスロット大尉だって危ないかもしれないじゃねぇか」


「そ、それは……」


そう言われると、ノノもイズミも反論を躊躇った。でも、心の中では、そんな与太話みたいなものを信じていいのかと、まだ疑問に感じていた。


「まぁまぁ、とにかく。ランスロット大尉が勝ってくれればさ。それはそれで一番良いのは事実じゃない? だから信じるのはいいと思うわ。でも、そうじゃなかった時。最悪のパターンの時も想定できるのが、軍人としての資質でしょう? だったら、ここはキミちゃんの意見に耳を傾けてみるっていうのも、いいとは思わない?」


ミニスが言うと、今度も


「でも、彼女は軍人じゃないですし…」


とノノが真面目くさって言うから、カジが


「あんたみたいに、変に頭が固いよりはいいんじゃねぇか?」


と茶化した。

すると、イズミは笑い、ノノは顔を赤らめた。

それで話は一応、話は落ち着き、みんなでキミの危惧を元に新たな作戦を考えようということになった。


「で? 具体的には何か考えてんのかい? お嬢ちゃん?」


「……うん。ひとつだけ」


カジに聞かれ、キミはそう言った。そして、先ほどから暖めていた案を口に出す。


「あのね。まずは何よりも先に皆でここを脱出するの。それも私達だけでなく、ブリッジにいる人達も、できればアストリアの人達も」


「なっ!? ブリッジを放棄しろと?」

「それに、なんでアストリアの奴らまで!?」


早速、イズミ達の横槍が入る。が、それをミニスが手で制し、キミに話の続きを促す。


「そうよ。ブリッジは放棄する。それと、アストリアの人達も脱出させるわ。だって…」


キミはそこで一旦、言葉を切った。

そうしてから、満を持して


「この船はショットと一緒に海の底に沈めちゃうんだもの」


と三人に向かって、きっぱりとそう言った。


「えっ!? こ、この艦を沈める!?」


その突拍子もない考えには、さすがに四人ともびっくりしてしまった。思わず声も揃う。


「ちょ、ちょっと待ってください! これはボートバル海軍の切り札、第一級装備品なんですよ?」

「それを、沈めるということは我々の戦力が大幅に減るということになります! そうなったら、もうこの戦は……」


ノノとイズミはキミにそう言った。けど、キミはそれを睨みつけて


「だから何よ。そんなの私には関係ないわ。戦争なんて、結局どっちが勝ったって同じじゃない」


と言う。さらに続けて


「けど……どっちが勝ってもいいけど、ショットにだけはもう好き勝手を許しちゃダメなのよ。そのくらいのことはノノさんもイズミさんもわかったでしょ? あいつをひと目でも見たなら!」


とその思いを訴えた。


それを聞き、ノノとイズミは顔を見合わせる。

二人とも何と言ったらいいかわからないという顔をしていた。確かに、そんなふうに少女に、しかも自分達が意図的に戦争に巻き込んだグランダン出身の少女に言われてしまうと、二人にはもう沈黙する他、答えがなかったのだ。


そんな様子を、複雑な気持ちで見ていたカジが助け舟を出したつもりでもないが、


「言われてみれば、それもひとつの手ではあるよなぁ」


と、また話を元に戻す。そして、ミニスの方を見て、同様に意見を求めた。それにミニスも頷く。


「そうね。まぁ、あの化物を封じる事ができるのなら、この艦の一隻くらい、安いもんなんじゃない?」


と。


「ミニスさん…カジさん」


それを聞いたキミは、安堵の表情を浮かべる。

それは、これまでにも何度も手助けしてくれたこの二人が、また自分の意見に賛同してくれたからだった。

キミはそれを、とても頼もしく思う。


しかし、二人の方は、決して気を緩めてなどいなかった。それは、もちろん、そのための方法がまだはっきりしていなかったからだ。カジは質問を続ける。


「で? それをやるとしてもよ。どうやってこの艦を沈めるんだ? この艦はショットに操られてんだろう?」


「それは大丈夫。ノアさんが今、コントロールを取り戻そうと頑張ってるみたいだから。まだ時間が掛かるらしいけど、この艦を沈めることくらいもできると思う」


「じゃあ、脱出はどうするの? ポッドの数は足りるかもしれないけど、それまでの時間稼ぎも必要だし、何よりも誰かがブリッジにこのことを知らせに行かないと…」


「それは……」


と、キミが考えを巡らせていた、その時だった。


「…えっ……?」


と言って、キミが突然動きを止めた。

そして、頭を押さえ、目を見開き、


「そんな…それって…あ、マ、マリアさん…? マリアさん…!」


と一人、虚空に呼びかけ始める。

始め、何が起こったのか皆にはわからなかった。


しかし、やがてその呼びかけも止めてしまったキミが、ゆっくりと顔を上げ


「マリアさんの反応がなくなった…たぶん……もう…」


と絞り出すように言ったことで、すぐに事態が飲み込めた。


「そ、そんな…! マリアが……?」


それに一番ショックを隠せなかったのはミニスだった。

そして、それと同様にノノとイズミも


「嘘…ということは、まさか…エリサ大尉も…!?」


と混乱を隠せないでいる。

だが、それに関してはキミは言っていいかどうか迷っていた。


実はエリサは生きていて、ショットに操られてしまったと。

そんなことを言ったら、二人は助けに行きかねないからだ。


そうしたら、二人はショットに鉢合わせてしまう。それは次なる悲劇を生んでしまうかもしれない。キミは二人に何も伝えてあげられない自分が歯がゆかった。


「やっぱり…あの時、私も残っていれば……」


キミは今度こそ激しく、後悔していた。

あの時、再び見せつけられたショットの力の前に、心の奥底で怯えてしまっていた自分を、キミは厳しく責めた。


そんな四人の様子を、唯一人、カジだけは冷静に見つめる。


そして、こう思った。

本当にマリア達がやられてしまったならば、今こそもう一度作戦を立て直し、自分達が踏ん張る時なのではないのか? と。


それは正しい考えだと思われた。

幸い、俺はまだクールでいられている。マリアさんともミニスほど親しくはなかったし、ランスロット大尉にだって思い出は(嫌なことならあるが)特にない。


それよりもカジは今、目の前にいるこの四人のことを心配していた。

だから、


「おいおい、皆、何しょげてやがる! まだ、俺達にはできることがある。そうじゃなかったのかよ!?」


と大声で言った。

そして、振り返る皆に向かい拳を突き出し、

「いいか? よーく聞け?」

と、瞬時に捻りだした作戦を口にする。


それはキミの考えを現実にするための、かなりシビアな作戦だった。



ーーそのおよそ10分後。


ショットは一人、廊下を速めの足取りで歩いていた。


彼の着ていた白衣はボロボロに裂け、メガネはひび割れ、そして右腕は失われていた。

その切断面からは、様々な機械や繊維が剥き出しになり、定期的にバチバチとショートする。


それを見て、ショットは

「こんなにも苦戦したのは、本当に何百年ぶりでしょうか」

と微笑む。

それはある種、心地よい感覚でもあった。


「ふふふ…それにしても、やはり天才が作ったものというのは、こうも僕を楽しませてくれる。あの、華奢なフレームで、あの戦闘力……できれば、僕の体も新しく作り直してもらいたいくらいですよ。ふふっ」


ショットは戯れにそう思った。しかし、そんなことは所詮、叶わぬ夢だ。この時代からすれば、アップ博士は大昔の、それもろくに伝承も残らない一科学者に過ぎない。


「……まぁ、それに今更、もうこの体にも未練はないですかねぇ…あと少し…あと少しだけ動いてさえくれれば、それでいいわけですから。そうしたら、僕はあいつに…会え…」


そう思いながら歩いていると、ショットは少し先の曲がり角にもたれかかって立っている、一人の男の姿を発見した。


男は病人のような服装をし、サングラスを掛けている。

ショットはその顔に見覚えがあった。会うのもこれで四度目だ。


「おや? あなたは?」


ショットは近くまで行くと足を止めた。

そして、何時ぞやのアストリアでの出来事を口にしようとすると、


「なんだ、なんだ? 随分とカッコよくなっちまってんじゃねぇのよ」


と向こうに先に口を開かれてしまった。

だから、もう説明は無用だと、ショットも


「ふふふ…そうですかねぇ? お気に召したのなら、あなたもすぐに同じようにしてあげますよ? カジ・ムラサメさん?」


と返す。

ゾッとするような言葉だったが、しかしそれをカジは鼻で笑った。


「へっ、俺様の名前もご存知とは、恐れいったね。でも、お生憎様。俺様は元からスーパーカッコいいからよ。そんな格好になる必要はないんだぜ?」


そう言うと、カジは拳を握り、ボクシングの構えを取る。

そして、ショットを挑発するように、クイッと指で手招きし


「来な」


と言った。


「……雑兵が…いいでしょう。望み通りにすぐに終わらせてあげますっ!」


その安い挑発にショットはすぐに乗ってきた。やはり、少し冷静さを欠いていることは否めない。しかし、そこがカジ達にとっての要だった。


カジは物凄いスピードで突っ込んでくるショットの左手をギリギリで避けると、カウンターで右の拳をショットの顔面に叩き込む。

バコッと鈍い音がした。はっきり言って自分の右手の方が砕けるんじゃないかと思ったが、手応えはあった。うまい具合に目にダメージを与えることは出来なかったが、とりあえず、ちゃんと攻撃を避けることができたことにはカジは内心ホッとしていた。


二人はまた間合いを取る。


「さぁ、どうした? もっと来いよっ」


なおも、カジは挑発する。それに、ショットは益々、目つきを強張らせ、無言で突進してきた。


今度は動きにフェイントが掛かっていた。

しかし、それもカジは冷静に見極め、回避する。そして、またカウンターで顔面を狙った。が、それはショットも学習し、首を捻らせて避ける。


互いにとても人間の反射スピードを超えた動きをしていた。

それに、ショットは珍しく首を傾げる。


「あなた…ただの雑魚ではないようですねぇ。一体、どんな手を?」


「へへっ、それを教えるバカがどこにいる?」


カジはそう言うと軽くステップを踏んだ。そして、再び、頭の中に集中する。


実はカジは先ほどから、ずっと頭の中でキミから指示を受けていたのだ。


「右から来る!」「フェイント! 左から!」

といったふうに。


キミは今、ここにはいないが、遠くからでもショットの思考が読めるらしく、それを瞬時にカジに教えてあげているのである。だからこそ、カジはショットの攻撃を二回も凌ぐことができていたのだ。


しかし、たった二回で喜んではいられない。

なぜならば、カジはここでショットを、引き留める役を自ら買って出たのだから。


つまり、カジの考えた作戦とは。


1、キミとノノ、イズミの三人がブリッジに向い、皆の避難の誘導する。

2、カジとそして、今は通路に潜んで見えないが、ミニスの二人が船が沈む直前まで、ここでショットを足止めする。


というかなり無茶なものだったのだ。


だが、これ以外に良い手など、他に思い浮かばなかった。

だから、カジはここでショットにあっさりと負けるわけにはいかないのである。


ショットが次に、様子見とばかりに、先ほどまでよりもスピードを落として突っ込んでくる。

そして、そこから蹴り、突きと連続攻撃を繰り出してきた。

カジはキミから事前に、キミがマリアからの最後の連絡で聞いたというショットの武器の特性のことを知らされていた。

だから蹴り以上に、ショットの左手に触れられないよう、注意し、避ける。


そうして隙ができると、わざと空を切るように足を蹴り上げ、


「ミニス!」


と叫ぶ。

すると、逆側の廊下で待機していたミニスがショットに、サブマシンガンの弾丸を雨のように浴びせた。

カジの蹴りによってショットを守っていた空気が散り、弾丸が届くようになるのを二人は狙っていたのだ。それもキミとマリアから授かった戦術の一つだった。


「…ちっ」


サブマシンガンの不快な感触に苛立ちを隠せないショットは舌打ちをする。

そして、ミニスの目をキッと睨みつけようとしたが、ミニスはショットがそちらを見ると、また廊下の奥に引っ込んでしまった。


「おい、どっち向いてるんだ?」


と、そこへ今度は背後を取ったカジが、大型のオートマチックにショットに迫る。

そして、右腕切断部に銃を押し当てると、ゼロ距離で、一発、二発と弾を撃ち込んだ。


ショットの体からバチバチッと火花が散る。


二発撃ちこむと、カジは深追いは決してしないでまた距離を取った。


彼も今回ばかりは陽動が大事だと、肝に銘じているからだ。それに、所詮こんな銃では、この男は倒せない。それもわかりきっていた。


「……ふふっ、今のはなかなか良い攻撃でしたよ…?」

「それは、お褒めいただきありがとう。じゃあ、どうだ? ここいらで一度帰るってのはよ?」


肩を抑えているショットに向かって、カジは言った。

けど、もちろんショットにはそんな気はない。ショットはどうやったら、この男を殺すことができるかを必死に考えていた。


目を見て操るか。

しかし、先ほどから濃いサングラスを掛けていてよく見えないが、あのカジという男はどうも、目を閉じながら戦っている節がある。

そうでなくとも決してこちらの目は見ない。あの小娘の入れ知恵だろうが、かなり警戒されてしまっていた。


「ふふっ…ならば」


そう考えたショットの判断は、素早かった。

彼はカジに背中を向けると、彼とは反対方向の廊下に潜んでいるミニスを先に始末してしまおうと、そちらに向かったのである。


そして、その曲がり角にバッと飛び込む。が、そこに既にミニスの姿はなかった。

その代わりに、置き土産の手榴弾が一つ、ころんと置かれていた。


「なっ…」


ショットが逃げようとした瞬間…爆発。


かなり絶妙なタイミングだった。ショットは吹っ飛び、ボディは黒く煤け、足にもダメージを受けたようだ。


そんな様子を見ているのかどうか、煙の向こうから


「へっ、そうそうじっと同じ場所にいるわけないだろう? じゃあな! これからは俺達とこの艦内で鬼ごっこと行こうじゃないの?」


とカジの声がする。


そうして、煙が晴れた頃にはミニスの姿同様、カジの姿も忽然と消えてしまっていた。


そんな廊下の様子を床に転がりながら眺めていたショットは悔しさを通り越し、妙にバカバカしくなって


「…ふふふ。確かに。これは意外と困りましたねぇ……」


と苦笑いしたのだった。



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