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砂漠の星 郵便飛行機乗り  作者: 降瀬さとる
第4章 動く世界・三人の友情編
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飛空挺

僕をおぶって階段を駆け上がるナーウッドの脚力は、殆どカンガルー並みだった。

全く重そうな感じがしないのだ。

目が覚めたら男の背中にいた、なんていうのも初めての経験だったが、僕はそれ以上にそんなことがまず印象に残った。


「ナーウッドさん……どうしてここに?」


僕は辺りを見回しながら聞く。状況確認のためだ。

見ると、階段の上の方にリッツとリンダの姿が見える。リッツはイリエッタを、リンダはヤンとケーンをそれぞれ抱えている。トカゲの姿はまた消えたのか、見当たらなかった。

しかし、どうやら僕の指示した通り、僕が目覚めるよりも先に脱出を開始してくれたらしい。


振り返るともう、だいぶ上の階まで来ているようだった。ナーウッドの後ろに誰もいないことから、彼が殿しんがりを買って出たのだろうとわかった。


「どうしてここに……か」

すると、ナーウッドが呟いた。


「まったく…俺はこの時のために、ここをずっと見張っていたんだぜ? そりゃ、あんなデカブツが直接、城に乗り付けたとあっちゃぁ、じっとしていろって方が無理な話だ」

「デカブツ?」


僕がナーウッドにそう聞き返すと、僕の声をかき消すように階段の上方で大きな爆発音がした。


それで一同は一瞬立ち止まる。


「な、なんだ?」


僕が訝しんでいると、階段の上から全力で降りてくる人影が見えてきた。

近くまでやって来るとそれは、サーストンだった。全身埃だらけだ。

サーストンは僕達の姿を確認するとすぐに


「皆さん、急いでくださいっ! 敵の増援部隊が来ましたっ!今、カシム軍曹達が時間を稼いでくれています、ですので今のうちに飛空艇へっ!」


と、僕達を急かすように言う。


「飛空艇…?」

僕は疑問に思ったが、僕を背負うナーウッドはサーストンに言われた通りに急ぎ始める。だから、邪魔になるだろうとは思いつつも、僕はナーウッドの後頭部に向かい


「デカブツって、まさか飛空艇のことなのか!?」

と問いかけてみた。

それにナーウッドは走りながらも頷いてくれる。


「ああ、そうだよっ! でも今はそれどころじゃないだろう? 落ちないようにしっかりと捕まっててくれっ!」

「あ、ああ……うん。わかった」


僕はもう降りて自分で走れる気もしていたが、そんなことを言っている時間もなさそうなので、黙っておぶさっていることにした。ほんと、これでは僕が皆を助けたのか、僕が皆に助けられているのか、わからなくなってしまう。

だから僕はせめてもの援護として、端末のメット越しに、ずっと後方を警戒していた。


すると途中、階段に繋がる廊下から、ロサーリオ・ベットーレが掛け出して来るのが見えた。おそらく、敵の部隊を離れ、こちらに合流するためだろう。一応ナーウッドに、ベットーレが後ろにいる旨を伝えると、


「ああ。話は聞いてる」


と言ってちらっと振り向いた。

それに気がついたベットーレは、とても嬉しそうな顔になって


「やぁ、ナーウッドくん。やっと一緒に仕事ができるね」


と手を振る。それをナーウッドはとても複雑そうな顔で受け止めていた。どうやら二人は知り合いらしい。


「…はぁ…リッツはまだ仕方がないとして、まさかあんな奴とまで協力しなきゃいけないとはな……」


が、ナーウッドが小声でそう漏らしたのが聞こえたので、それで二人があまり良い意味の知り合いではないのだなとわかった。


「急いでくださいっ! 早くっ!」

サーストンは先頭を走りながらまだ叫んでいる。

普段は冷静そうな顔をしているサーストンがこんなにも急かすとなると、いよいよ時間がないのだ。僕はこのままおぶさってていいのか、真剣に見当した。


「あ、そうだ」


僕が考えていると、ナーウッドが唐突に


「いつどうなるかわからないから、今のうちに伝えておく。ニコからの伝言なんだが……」

と話題を切り出した。

「え? ニコ…? あのニコさんから?」


それに僕は耳を傾けようと……したのだが、その時。


「いや、待て。ちっ…すまないが、その前に追手だっ!」


と、ナーウッドは鋭い視線を僕の後方に向けた。


それで僕もその方向を見てみる。

「げっ…」

確かに。肝心な時に余所見をしてしまっていたが、後方、遥か下の階からだが、十数人の追ってが階段を駆け上って来ていた。ベットーレはそんなこともお構いなしに呑気な顔をして僕達の後ろからついてきている。僕はそれを見て、こいつが連れて来たんじゃないだろうな? とつい疑ってしまう。


しかし、そんな原因の追求など今はできそうにない。だから、僕は上の方を行くリッツ達を見て

「どうする?」

と、ナーウッドに相談した。


「…そんなの決まってるだろ?」


すると、ナーウッドはそう言って止まった。そうして、僕を見て

「もう歩けるかい、大将?」

と訪ねてきた。それに僕は

「ああ。大丈夫だ」

と応える。

それを聞いたナーウッドはふんっと言って微笑み、僕を背中から降ろした。


「ありがとう、助かった」

「なに、お安いご用さ」

間近で見るとやっぱり、ナーウッドは相当背が高い。

そこへ、下から上がってきたベットーレが合流した。


「おいおい、こんなところで立ち止まってどうするんだい? まさか、たった二人で、ここで足止めする気じゃないだろうな?」

ベットーレは言う。それにナーウッドは

「ああ、そのまさかだ。しかし……ベットーレ。お前は残る気はないみたいだな? 今、二人でって言った」

そう応えたが、僕も同感だった。


「当たり前だろう? 僕が他人のために何かすると思うかい?」

「ふんっ、そんなことは、まずないな。だから、尚のことお前の寝返りが信用できない。なぜ、ショットを捨てて、リッツについた?」


そのナーウッドの問いに、ベットーレは呆れたように首を振った。


「そんなの、決まっているじゃないか。より美味しい思いができる方に付くことにしているからっていう以外に、理由などありはしないだろう? 王子様の方が報酬が良かったのさ。それに、良いパイプもできそうだ。今後の仕事の役立ちそうなね」

「いいや、違うな。それだけじゃないはずだろ?」


そこでナーウッドはベットーレを睨みつけた。


「金だの、パイプだの…そんなものは、お前にとって、ただのおまけに過ぎない。いつもお前は「お宝」以外に興味はないはずだ」


と。でも、その視線をベットーレはとても愉快そうに、まるで楽しんでいるかのように受け入れている。僕にはその光景がとても薄ら寒いもののように思えた。


「お宝ですか……そうだね。いやいや、さすがは僕の永遠のパートーナー、ナーウッドくんだ。よくわかっている」


「……今度は何に目をつけた?」


「そんなの……言えるわけないだろう? お。それに、そろそろ僕は行かないと…」


そんなやり取りをしているうちに、下からの増援はどんどん近づいて来ていた。それを見てベットーレはその場を離脱すべく、上を目指して駆けて行く。ナーウッドはそんなベットーレの姿を苦々しい顔で見送りながら、


「もし、あいつらに何かしやがったら、今度こそお前を殺すからなっ!」


と言う。

すると、そんな物騒な言葉に反応したのかベットーレだけでなく、リッツ達もこっちを向いた。


見ると、リッツ達とはもうだいぶ距離が開いている。

後は、僕達がここで上手く粘る事ができれば、皆は脱出できそうだ。


「ははっ、当たり前でしょう? ナーウッドくん、僕はあなたに嫌われたくはないのですから。どうか安心してください?」


ベットーレはそう言いながら、笑顔で階段を駆け上がって行く。

そして、その上の方でリッツ達は、僕達が何をしようとしているのか理解した様子で、こちらに手を掲げてきていた。


「ナーウッドッ!」


リッツは大声で言った。その声にナーウッドは視線を上げて応える。


「……無事でなっ!」

「……へっ…お前もなっ!」


二人のやり取りはそれだけだった。しかし、僕はそのたった少しの言葉だけで

「ああ、この二人は本当に友達なんだな」

と感じた。うまく言えないが、なんとなくそう感じたのだ。


「ラシェット…さん、ナーウッド…?」


すると、今度は一層か細く、くぐもった声が聞こえてきた。

「その声は…ヤンか…!?」

ナーウッドは言う。

それはリンダが抱えているヤンの声だった。どうやら、彼女は他の二人よりも一足先に目覚めてくれたらしい。しかし、呼吸器を付けているために、声がこもってしまっているから、その声はより聞き取り難いものになっていた。


「あ、ありがとうね……」

「もう、いい。無理してしゃべるな」

「そうです。それにもう時間がないっ! 僕達に構わず、早く脱出してくださいっ」


僕達は言った。

それで、リッツとリンダ、サーストンは顔を見合わせ、動き始める。

それぞれ、僕達に言葉を残して。


「…ラシェットさんも、後は頼みます」

「無事でな、二人共」

「お二方、ご武運をっ」


そして、最後にヤンが、精一杯の声で


「しっかりねっ…元気になったら、二人共デートしてあげるからっ!」


と言ったから、僕達は


「そりゃ、有り難いね」

「そりゃ、有り難いな」


と言って笑った。



ーー皆を見送ると、僕達は振り返り、すぐに迎撃に向けて体勢を整えにかかった。

僕はつい流れに任せたまま、持ってきてしまった端末を脱いで地面に置き、頭を振った。

端末は持っていては邪魔になるので、仕方なくここに放置していくことにする。


まずは互いの武器の確認だ。


「悪いけど、僕は丸腰だ。荷物は全部部屋に置きっぱなしで何もない……そっちはどうだい?」

「…ハンドガンは二丁ある。あと、手榴弾と催涙弾、閃光弾が一個ずつ。それとナイフだな…」


そう言い合いながら、とても心許ない武器数だなと、僕達は思った。

しかし……なぜだろう? 全然負ける気がしないのは。


「三十秒、時間を稼げるかい? そうすれば後は僕がなんとかする」

「ん? ……ふんっ、任せな。そんなの、楽勝だぜ」


「…よし…じゃあ、よろしく頼む」


僕がそう言ったのが合図になり、ナーウッドは階段を駆け下りて行った。その一階分先には、もう十数人から、四十人近くにまで膨らんだ追手が、迫って来ており、まずはそこにナーウッドが挨拶代わりの催涙弾を投げ入れる。


僕はそれを確認すると、目を瞑り、両手にイメージを集中させた。

イメージするのは……


「来い…」


すると、思っていたよりもずっと早く僕の手の中に<電気銃>が現れた。


両手でしっかりホールドするタイプの大型銃で、全体的にずんぐりむっくりしたフォルムのシルバーの銃である。

しかし、そんなおもちゃみたいな見た目とは裏腹に、殺傷能力こそ低いものの、広範囲の敵を一気に鎮圧できる優れた武器なのだ。

僕はこの銃の特に「殺さないで済みそう」という部分が気に入っているのだが、バルス曰く「大型の牛でも気絶させられる」ほどの電流が放射されるらしいので、それで本当に人は死なないのかと、それだけは不安だった。


でも、今はそんな事を言っている状況ではない。向こうはこっちを殺しに来ているのだ。だから、僕はすぐに銃を構え、ナーウッドに続き、階段を駆け下りる。

そして、壁に隠れて銃で応戦しているナーウッドの後方に来ると、


「伏せててくれっ」


と言って、躊躇なく引き金を引いた。


すると、銃の本体からキュイーンと音がしたかと思うと、その二秒後くらいに銃の先端のアンテナのような所から、青い蜘蛛の巣のような雷がバリバリバリィィッと、廊下の兵士達に向けて一斉に放たれたのだった。


「なっ…!?」


廊下を青白く照らす、強烈な閃光。

その光景に、さすがのナーウッドも声を上げ唖然としている。


でも、本当に唖然としたのは僕の方だった。

なぜなら、イメージで訓練していたものよりも、遥かに威力があったからだ。

不思議に思い、銃を見下ろすと、少々焦げ臭い本体の横にメーターがあった。二つある目盛りのうちの一つが減って、一つが点灯している。なるほど、これは全部で二発しか撃てないタイプらしい。確かにこの威力だ、二発が電池の限界だろう。仮想世界での練習では撃ち放題だったが、まぁ、現実ではそんなものか。


「ま、丸腰じゃあ、なかったのかよ…」

「えっ?」


僕がそんなことを考えていると、ナーウッドは言った。

彼は僕が<転移術>を使えることを、リッツから聞かされていなかったらしい。

けれど、それこそ説明が面倒だ。またあとで説明することにする。


見ると、廊下の敵は見事に全滅だった。

念のため脈を測ってみるが、よくわからない…たぶん死んでいないとは思う…いや、そう願う。


「すごいな……この調子なら、なんとか上とも合流できたんじゃないか?」

と、僕達が話していると、そうは問屋が卸さないようで、別の追手がまた下から来るのがわかった。しかもさっきよりも人数が増えている。この感じだと、益々増えていきそうだ。


「……よし。でも、後ちょっと時間稼ぎさえすれば、あいつらは脱出できるだろう」

「そうだな…でも、その後僕達はどうやって、ここから出る?」

「ヘヘっ、それは俺に任せておきなっ」


ナーウッドがそう言うから、僕はそれに従い、敵を引き付けながらじわりじわりを階段を登った。

電気銃の威力は絶大で、二発目で第二陣を撃破する。しかし、やはりそれで電池を使い果たしたらしく、銃は撃てなくなってしまった。


だから、僕は銃を捨て、もう一度イメージする。


それを見たナーウッドは、ハンドガンで敵を牽制する手を止め、目を丸くして


「そ、それは……マリアと同じ…空間転移…術か?」


と言う。

けど、手を休めている暇はそれほどなかったらしく、すぐに目つきを元の鋭いものに戻した。


「くっ……」

僕は無事に二つ目の電気銃を出すと、心なしか頭がふらふらした気がしたが、構わず追手に向かってぶっ放した。

そう言えば、すっかり忘れていたが、僕は一週間以上何も食べていない状態なのだ。ふらふらするのも無理はない。それを意識すると、ものすごくお腹が空いた。


そうしているうちに、だんだんと敵もこちらの戦力を警戒したらしく、無闇に向かって来なくなった。どうやら、作戦を練っているらしい。

おそらく、ここで取る常套手段としたら、上下、もしくは下横からの挟撃だろう。

いくら武器が強力だとはいっても、僕達は二人なのだ。その弱みを突かれたら痛い。そろそろ潮時だった。


「なぁ…ナーウッド…」

「ああ、ここらが引き際だな、大将……」


意見が一致すると、ナーウッドは懐から無線機を取り出し、


「……聞こえるか? 再度作戦変更だ。当初の予定通り、ポイント9でピックアップ。二分後だ。悪いがお客付きだ。ああ、そうだ。なるべく、ジャストで頼む」


と言った。そして無線機を仕舞うと


「行くぞっ、ついて来いっ!」


と言って、さらに階段を一階分、一気に駆け上がった。

下からは、その様子を見た兵士達が一斉に動き出している。

僕は、ただ慌ててナーウッドの背中を追った。牽制どころではない。真剣に走らないと、すぐにおいていかれそうになるのだ。ナーウッドはやはり普通に走ると、尋常じゃないくらい早かった。


「遅いぞっ、こっちだっ」

「お、おう…!」


階段を離れ、廊下に入る。そこは広い廊下の多い階だった。それもそのはず、この階は貴族や王族しか本来は立ち入れないサロンのような場所なのだ。


その広い、ワインレッドの絨毯が敷き詰められた廊下を僕達は走る。


まずは、遥か前方に追手の壁が見えた。

前衛に大盾を、光栄にライフルを構えた陣形だ。


「ラシェットさんよ…最後に、あいつらだけやれるか? その物騒なビリビリで…」

「ああ。あと一発あるから、やれると思う」


僕は全力でかけながら、銃を構える。

しかし、この真っ直ぐな廊下では、向こうのライフルの射程の方が有利だった。電気銃は、距離が開けば開くほど威力が分散してしまうらしく、有効射程が極端に短いのだ。


だから僕は、走りながら策を考えていたのだが、僕がそれを思いつくよりも先に、

「ちょっと、目を伏せなっ!」

と、ナーウッドが懐から閃光弾を出し、投げた。


すると、次の瞬間には、辺りを電気銃どころではない光が満たす。


警告が遅かったから、危うく僕も目潰しを食らうところだったが、なんとか免れた。

そして、廊下の端に逃れつつ一気に距離を詰め……


「食らえ……!」


と、最後の一発を放つ。


それで前方に見えていた壁は総崩れとなった。

その上を僕達は難なく、突破する。武器を順調に消費してしまい、ちょっと心配だったが、その先はまだ警戒されていない区画のようだった。だから、


「ここまでくれば、もう安心かな…」


と僕は言った。さらに続けて


「時間はどうだ? そのポイントって所には辿り着けそうか?」

そうナーウッドに聞く。

「ああ。あと少し……あった! あの右の部屋のバルコニーだ!」


その部屋の前に着くとナーウッドは迷いなく部屋のドアを蹴破った。

そして、まっすぐにバルコニーへと繋がる窓に向かう。しっかりと施錠されているが、そこも蹴破ろうというのだ。


が、ナーウッドが蹴ったところで問題が発生した。


「ちっ…強化ガラスかっ!」


そう。そこの窓はライフルでも、おそらく手榴弾でも破壊できないであろう、丈夫なガラスでできていたのである。

試しにナーウッドは、また何度も蹴ってみたが、彼の馬鹿力でも窓はビクともしない。


「くそっ! 時間がないってのにっ!」


ナーウッドは吐き捨てた。

それを聞きつつ、僕はこの事態を打開すべくイメージを開始した。


すると、すぐに僕の右手に黄色い光が集まり始める。

もう慣れた武器だったからだ。

僕はその筒状のものを、ものの数秒で転移させることができた。


〈光剣〉だ。


僕は光剣の刀身を起動させると、驚くナーウッドを尻目に、


「はぁっ!!」


と、一息に窓の強化ガラスを丸く切り裂いた。


ガシャーンとくり抜いた窓が音を立てて崩れ落ちる。

これで突破口はできた。


「ナーウッドッ!」


僕が声をかけると、ぼけっと突っ立っていたナーウッドは気がつき、すぐさまそこからバルコニーに飛び出した。

僕はまた転移を使ったせいか、益々ふらふらしたが、なんとかその後に続く。心なしか、無性に甘いものが食べたかった。


バルコニーに出ると、すごいエンジン音と風の音が聞こえてきた。


ナーウッドは西の空を眺め、次に真上を見上げる。

僕もそれに倣い、上を見上げた。


すると、そこにそれはあった。


僕にはそれは最初、空飛ぶクジラのように見えた。


深いブルーの流線型の機体。

薄い装甲板に覆われたその姿はまるで嘘みたいに、そこに浮遊している。


「飛行艇…しかも、あれは……」


僕がそう思い出そうとしていると、ナーウッドが


「なるほどな……城を盾にしているのか」

と言う。

それで僕も考える方向を変えた。


「城…? そうか。だから丸見えなのに、下から砲撃されないんだな?」

「ああ、そうだ。しかも、あの位置取りは玉座の間と国王の部屋を背負っている。なかなかいい作戦だ」


なるほど、国王を盾に使っているわけだ。あれなら、迂闊に手は出せないだろう。


飛び立つ時、以外は…。


「……いや、それよりも。タミラの野郎はまだか? もう時間だぞ」


ナーウッドが空を見渡して言う。

タミラとは誰だかわからないが、大方、ここに飛行機か何かで乗りつけるつもりなのだろう。任せとけとは言っていたが、この男もなかなか無茶をする……。

と、


「お、来やがったな…」


その時、ナーウッドが西の空を指して言った。


見ると、まだ僕にはよくわからないが、確かに飛行機らしき機影がこちらに向かっているのが見えた。

少し大きめの機体だ。たぶん、二人乗りタイプだろう。僕はそう思った。


「あの機体か?」

「ああ、そうだ。でも、なんだか様子がおかしい……」


ナーウッドは言う。いったいどんな視力をしているのか。この距離では何がおかしいのか、僕には全然わからない。

しかし、その機影が近くにつれ、僕にもようやく事態が飲み込めた。


飛行機が2機見えるのだ。


しかも、その内の一機は、もう一機のナーウッドの仲間である機体を追いかけている?


そして、さらに近づいてくると、その機体の正体が知れた。


それに僕は驚いてしまった。


その追いかけてきていた機体は、漆黒のカラーリングのゼウストだったのである。


「ゼ、ゼウスト!? バカな……な、なんでここに第1空団の機体が!?」


僕はバルコニーから身を乗り出して凝視する。


見るのは機体のナンバー表記だ。

ナンバーはおそらく……


「06って書いてあるな……なんだ、あの機体は?」

ナーウッドが言った。


それに僕はやっぱりなと頭を掻く。


それは、僕の同期であり、マクベス・オッド大佐の実弟でもある、クラウス・オッドの機体だったのだ。


それを知り、僕はギュッと拳を握りしめる。


「まったく……あいつはいつもタイミングが悪い…」


と。


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