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第四話 名探偵からの手紙 ~或いは謎の暗号文~ part2




 三人寄れば何とやら、という諺がある。


 何とやらが詳しく思い出せないのだが、意味は確かとりあえず集まっておけば解決するだろう、とかだった気がする。なぜ私がこの諺の説明が正午前の警官のように投げやりな態度で挑んでいるかというと、この諺が正しくないからだ。


 実際集まったのは二人しかいないのだが、素人が二人集まったところで解決できる問題など無いということを彼らは私にその身を持って教えてくれた。謎の数字の意味を解き明かそうと躍起になってから一時間経過したが、成果は何もなかった。


「五桁の数字って普段見ないわよね」


 28113、10404、15609、11111、02316。


 手紙に書かれた数列の規則は、どれも桁が揃えられているという点だ。それも、わざわざ先頭に0という数字を用いて数学的な意味合いを無視してまでも。


「確かにな。四桁だったら年号だったり日付だったりするけど」

「そもそもこれ、何を表しているのかしら? 文字だったら二桁で済むし」

「何で二桁で済むんだ?」

「アルファベットなら1から26、かな文字だって46個しかないじゃない」


 まあ実際に二桁で数字を表してしまったら暗号としての意味は無いのだが。


「だったら場所とか時間を表してるのか?」

「私に聞かれても」

「使えない奴だ……」

「悪かったわね……でも悪いのはこの手紙よ? 暗号書いてあるくせにヒントが無いんだもの」


 暗号というのはそもそも、解き方と併用することで初めて意味のある文章となる。

 だからエリの言う事にも一理あるのだが、やはり彼女が言うと納得できない。


「文法も間違えてるしな」

「縦読みとかで何か書いてあったりしないの?」

「DEBUって書いてある」

「嘘でしょ」

「なぜバレた」


 せめてもう少しマシな嘘をつけ。


「わからないわね……やっぱり愉快犯のイタズラなんじゃない?」

「そうだ、誰が書いたのかって謎も残っているんだ」


 結局何も獲得しないまま、二人は音を上げた。


「もう九時か……一時間考えたって何も生まれなかったわね」


 掛け時計をぼんやりと眺めながら、エリは悲しすぎる結論を述べた。


「……お菓子とかまだあったかな」


 十嗣もこの一時間で気力を使い果たしてしまったらしい。目は虚ろで、覇気もない。


「無いわよ? 昨日夜中にこっそり私とおばさんで全部食べちゃったから」

「それ、こっそりって言うのか?」

「美味しかったわ」


 誰が感想を聞いた、説明に答えろ。


「コンビニでも行くか……」


 反論する気力もないのか、十嗣は面倒臭そうに立ち上がり、別々のポケットに私と財布を仕舞った。


「私も行くわ」


 欠伸をして、エリも立ち上がる。


「別に俺一人でいいと思うけど」

「バカね、浅野くんのカゴにお菓子詰め放題なんて夢みたいじゃない」

「せめて半分は払えよ」


 溜め息混じりに彼は言う。これで27回目だ。




 コンビニエンスストア。直訳すると便利な店。


 この洒落の利かない名前が示すとおり、現代人にとって欠かせない存在となっている。とりわけ、生活の不規則な人間にとっては。この情緒もへったくれも無い店を、私は心の底から羨んでいる。もし私の事務所の一階にある耄碌した年寄りが経営する糞不味いレストランの代わりにこんな店があったのなら、少なくとも私の食生活は劇的に改善されていたはずだからだ。


「いらっしゃいま……ありがとうございました」


 悲しいことに店員の質は悪い。


 もっと悲しいことに、その店員は大宇宙の意志を感じすぎて一般人が理解できない領域にまで到達していた笹島みえこだった。自転車のどこが正面かという難題は、彼女の死後何百年経とうとも結論は出てこないだろう。


「喧嘩売ってんの?」


 目を細めエリは笹島を睨みつける。この二人、とことん相性が悪いようだ。


「ありとあらゆる商品を販売しています」


 喧嘩と味の薄い紅茶だけは陳列棚に並べて欲しくないものだ。


「バイト?」

「受かっちゃった」


 十嗣の質問に、彼女は無表情と安っぽいピースサインで答えた。どうやらここの店長は人を見る目が無いらしい。


「誰でも良かったのね」


 深夜までやっているんだ、猫の手も借りたいのだろう。ただ残念なのは、レジの前に立つ背の低い女は猫よりも使い勝手が悪いという事実を店長が見抜けなかった事に違いない。


「ところで二人ともこんな時間に何を……」


 自己解決したのだろう、笹島は何かに気づき本棚を指さしたのだった。


「ちょっとだけえっちな本はあちらにございます。オススメは店長に聞いてください」

「いらないです」


 冷静に否定する十嗣だったが、私はそのちょっとだけえっちな本を彼がこのコンビニエンスストアで購入していたという事実を知っている。

 きっと彼は次はどこで買えばいいだろうと悩んでいるだろう。


「違うの? 友達同士でえっちな本回し読みして『俺この子がターイプッ!』ってやるんじゃないの?」

「男同士じゃないと出来ないイベントね」


 エリの額には血管が浮かんでいるが、その顔は何と笑顔だ。大道芸人にでもなれば儲かるのかもしれないな。


「ニンニンは変化の術で女の子に化けてるけど、本当は禿げ散らかした汚いおっさんなんでしょ? 知ってるわよ、私見たもの」


 どこの宇宙の話だ。


「眼科紹介しましょうか?」

「私好みのナイスミドルだったらお願いしたいわ」

「そういう趣味なの?」


 子供に欲情するよりは健全だと思うが。


「ちなみにノンノンはナイスミドル予備軍だからポイント高いわ」

「それはどうも」


 年上趣味の店員をあしらうと、彼らはコンビニを一周してカゴに袋菓子三つとペットボトル二本を詰め込んできた。


 勿論、その代金は十嗣が支払う。


 女性に食事代を奢るのは男を上げるいい機会だと私は思っているが、それは相手が女性に限定される。ここで言う女性というのは、生物学的な区分けではない事を注意して欲しい。


 教養と品性を兼ね備えた人物だけが女性として認められる権利を持っているのだ、断じてギャンブル中毒や自分勝手な脳無しの事ではない。


「笹島はさ、五桁の数字で思いつくものってある?」


 誰でも良かったのは、十嗣も同じだったらしい。商品の会計をしている笹島に、彼は今抱えている難問の助言を求めた。


「六桁に、届けばいいな、バイト代……みえこ、会心の一句」


 三人目は、とことん役に立たなかった。これで諺の間違いが証明できてしまった。


「ところで何の話? ちょっとえっちな本の懸賞?」


 どれだけ好きなんだ、どうせ解雇されるのだからさっさと本屋に転職しろ。


「謎の手紙に書かれた、暗号らしき数字の解読」

「ヒントらしきものは?」


 エリの言葉に、笹島は小首を傾げて尋ねた。


「見当たらないわ。だから気分転換にお菓子を買いに来たわけ」

「そんな訳ないじゃない、二人が見落としてるだけよ」

「何ムキになってんの?」

「暗号とけたってアホ面提げて喜ぶノンノンの顔が見たくないの?」

「確かに」


 確かに。


「失礼な奴らだ」


 溜息をついて十嗣は呟く。もちろん二人には聞こえない。


「あ、お会計671円になります」

「半分払えよ」

「財布持って来てる訳無いでしょ」

「最低な奴だ」


 今度は、笹島にだけ聞こえたらしい。

 その証拠に、二人はエリに刺すような視線を送っていた。




 帰宅した彼らは、また例の手紙と向き合っていた。それよりも差出人について考えるべきではないのかと思うが、どうだろうか。


「あの女が言っていた事、もしかしたら一理あるかもしれないわね……癪に障るけど」

「ヒント? でもそれは見つからなかっただろ」

「見落としていたのよ。文字でも数字でもない何かが、この手紙を解く鍵になるのよ」


 暗号の解き方そのものを手紙に乗せてしまえば、当然暗号としての意味は無くなる。直接的な方法を指示しないというのは懸命だが、間接的な方法も受け取った人間が理解できなければ話にならない。手紙の主は、そこまで弁えているのだろうか。


「もしかして……文法のミスとか」


 思い出したように十嗣がつぶやく。それに同調するかのように、エリも力強く頷いた。


「有りうるわね。それで浅野くん、頼みがあるんだけど」

「何だ?」


 彼女は笑った。

 それも、とびきりの苦笑いだ。


「この手紙どこがどう間違えてるのか私に教えて欲しいんだけど」


 馬鹿しかいないのか、高校生という生き物は。

 私に見せてくればそんな物すぐに指摘できるのだが……いかんせん口がないので教えることはできないな。


「俺、この間の英語のテスト65点だったんだ……」


 ため息混じりに彼は言う。良いか悪いかは知らないが、私なら満点を取れるに違いないだろう。きっとその程度の試験だ。


「勝った」


 自分より下の人間を確認して優越感に浸るエリ。器の小さい人間とは、つまり彼女みたいな人間のことを言う。


「か、風邪引いてたんだよ!」


 あからさまに取って付けた言い訳を口にする十嗣。

 ちなみに私はここ一年間彼が咳き込んでいる姿など見ていない。


「多分だけど、ヒントは直接的な文字なんかじゃないのよ。もっとこう……この手紙自体っていうか」

「エドワードからの手紙が、どこかにヒントが……」


 なるほど、手紙そのものか。それにしても十嗣、私の名前を呼び捨てにするとはいい度胸じゃないか。


 眉間に皺を寄せ、彼は考える。


 出来の良い彫像のように、彼はしばらくそのまま動かなかった。いつもの彼なら、そのまま建設的な意見など出せずに終わるのだが、今日は違った。


「わかった!」


 彼は叫んだ。

 それが神がもたらした奇跡なのか悪魔の知恵だったのか私にはわからない。しかし、これだけはわかる。


 それは彼にとって、間違いなく幸福な瞬間だった。


「……わかった、わかったぞ服部!」


 目を血ばらせ声を張り上げ、彼はエリに詰め寄った。少し見方を変えれば彼が強姦魔に見えそうだが、どうせ被害者はエリなので例え手元に電話があっても私は通報などしないだろう。


「それはいいけど、もう少し静かにしてくれる?」

「おいおい、名探偵にそんな言葉は無いんじゃないかな」


 浅野十嗣は完全に調子に乗っていた。彼の頭の中でどんな結論が出たかは知らないが、少なくともその顔は腹立たしい事この上なかった。


「早く教えて?」


 服部エリは笑う。

 しかしそれは顔だけだ。その笑顔の裏に隠された催促と苛立ちに気づかない人間は一人もいないだろう。もちろん、馬鹿で有名な十嗣も例外ではない。


「答えは、その……これだ」


 少しだけ気後れしながら、彼はポケットの中にある私を取り出しエリに突きつけた。


「……エドワード・J・タイラーの事件簿?」

「多分百回は読んだかな」

「それと手紙に何か関係あるのよ?」

「服部、俺達は大きな思い違いをしていた」


 彼はまた尊大な態度に戻り、勿体ぶって説明を続けた。


「五桁の数字なんて無かったんだ」

「ここにあるわよ」

「それさ、実は二つに別れてるんだ」


 なるほど、そうだったのか……私はもともと暗号の解読にはそこまで興味がなかったので、ここは十嗣の言う事を素直に聞いてみるのも手だろう。


「どういう事?」

「例えばこれ、28113だけど……二万八千百十三じゃなくて、二百八十一の十三なんだよ」


 メモ帳に書かれた数字を指差し、彼は暗号の読み方をエリに教えた。


「……それが?」

「281はページ番号、13は行数だ。間違いないね」

「その根拠は?」

「文頭の0だけど、これは単純に体裁を整えるため。もし三桁じゃないページを指定したいなら、切り方が変になるし」


 十嗣にしては、割合まともな意見だと感心した。たしかに数字を見てみればみるほど、彼の言うことが正しく思えてくる。


「ってことは、犯人は几帳面な人間ね」

「次に、下二桁。この本さ、1ページに18行しか無いけど……どれも18を超えてないだろ?」


 根拠も、それなりにはあるようだ。それが絶対なものだとは思えないが、少なくとも妥当ではある。


「あ、本当だ」

「どう俺、凄いだろ? 凄いだろ!?」

「それでその指定されたページと行数から何がわかったの?」

「え? それはまだ確かめて無いから」


 間抜けなアホ面を下げて、十嗣は重大な事実を発表した。解き方がはっきりしただけで暗号が解けたと言うには無理がありはしないだろうか。


「早くやろうか」

「はい……」

「私がページと行数言うから読んで。もちろんメモするわ」

「任せろ」


 役割分担も決まったところで、彼らは早速暗号の解読に取り掛かった。せいぜい私は、エリの言ったように女性の名前が出てこないことを祈っていようか。


「まず281ページ13行目」

「『皆さん落ち着いて下さい、落ち着いて!』 ……グレゴリーのセリフだな」


 一字一句違えずに、彼女は新しいメモ帳のページに文章を書いてゆく。この文のどの部分が暗号に使われているのかは、全て出揃わなければ解らないだろう。


「次、104ページ4行目」

「『ながらも、彼女は彼女なりの考えがあるのだろう。もちろん私はそれを愚かだと思うが』」


 先ほどと同じ作業を彼と彼女は繰り返す。自分の発言がパズルのピースのように扱われるのは、何とも言いがたい物があった。


「156ページ9行目」

「『み』」


 み? そんな事言っていたか?


「……み?」


「『彼の顔には、苦悩の色が見て取れた。そして彼はそれを誤魔化すがごとく、ポケットから紙巻煙草を一本取り出しそれを嗜み』 の最後の『み』。ここで文章終わってる」


「誤植じゃない? それ」

「そうかも」


 そうなのか。


「初版?」

「そうだね」


 そうだったのか。


「まあいいわ、次は111ページの11行目……ふざけてるわね、これ」


 規則的すぎるその数字はダミーとしての役割があったのかもしれないが、種が割れてしまった今それは滑稽なだけだった。


「『僕は彼を殺したことを、間違っていたなんて思っていませんよ』」


 そういえばこの時の犯人も、言葉と行動が矛盾している滑稽な人間だっただろうか。


「最後、23ページの16行目」

「『違います、我々は騙されています……彼は、死んでなどいないのです』」

「できたわ」


 私がその場にいた人間全てを驚かせた思い入れのある言葉で、暗号が示す文章は締められた。なかなか悪くない気分だった。


「文章自体は繋がらないわね」

「頭文字とか」


 十嗣はエリからペンを借り、頭文字を一字づつ書きだした。どうやら、エリの予想は外れてくれていたようだ。


「み、な、み、ぼ、ち……知ってる女の子?」

「南墓地だと思うけど」


 暗号が示していたのは場所だった。

 それも、男女の逢瀬には余りに似つかわしくない不吉な場所。


「ああ、確か二駅ぐらい隣だっけ……とりあえず今から行く?」


 エリはその場所に心当たりがあるらしく、距離的な情報を教えてくれた。どうやら五百円玉が一枚あれば往復できるらしい。


「いや、明日の放課後にするよ」


 あくびをしながら、常識的な結論を下す十嗣。

 しかし彼は失念していた、目の前にいる女に常識が通用しないという事に。


「何ぬるいこと言ってるのよ」

「え?」

「いいかしら浅野くん、探偵は時間との勝負なのよ? 間に合わなくなっても知らないわよ?」


 時間に追われることもあるが、何も陸上選手のように一分一秒を競い合っている訳ではない。


「じゃあ始発で行けば学校に間に合う……かな?」


 それなりに常識的な回答をするも、当然エリは首を横に振る。


「私、今日は徹夜で世界を救うって決めたの。だから無理、絶対に眠い」

「もう一人で行くからいいよ」

「ひどい、君がそんなに冷たい人だなんて思っていなかった!」

「どうすればいいんだよ」


 彼女は口元を釣り上げ、不気味に笑っていた。

 黒く大きなその瞳も、怪しいぐらいに輝いている。


「サボるわよ、学校」




 浅野十嗣はご存知情けない人間である。


 今日も服部エリの言われたとおり、仲良く自主休校をしてまで墓地に来ている。学校には病欠という事になっているが、これは朝両親に頭を下げてまで獲得したものであった。


「眠いわ……」


 彼を誘った張本人は、目を半開きにし悪態をついている。もちろん、その原因は彼女にある。


「世界は救えたか?」

「ええ、みんな大好きハッピーエンドよ」

「そいつは良かった」


 徹夜でクリアしたというテレビゲームの話を終えると、彼女は墓地全体を見回した。午前九時ということもあってか、墓地特有の禍々しさは軽減されている。それでも同じような物体が規則的に並んでいる不気味さまでは消えてくれないでいるが。


「ねえ浅野くん、私達何でこんな所に来たんだっけ」

「それはエドワードの捜し物を手伝うために」


 別に私は何も探してないが。


「イタズラだったら?」

「それはもう無いんじゃないかな。暗号にわざわざ誤植を使うなんて、マニアしかやらないよ」


 差出人が参考にしたであろう本も、やはり初版なのだろう。たかだか悪ふざけにわざわざ初版本を用意するなんて相当な暇人にしかできないはずだ。


「しかしこんな墓地に何があるのかしらね……宝箱か隠し階段のどっちかだと思うけれど」


 まだ徹夜で世界を救った英雄としての気分が抜けないのか、彼女は有り得ない選択肢を提示していた。現実と虚構の区別ぐらい付けて欲しいものである。


「墓石に何かあるんじゃないか?」

「じゃあ一つ一つ倒してみようか。何かすごい武器とか眠ってるかもよ?」

「あ、あんなところに怪しい茂みが」


 呪われたくないのか、それとも損害賠償を払う気はないのか。

 どちらにせよ彼は墓石から離れるという正しい選択を選んだ。


「逃げたな……」

「わー、あからさまに怪しいぞー」


 十嗣は間抜けな台詞と一緒に、雑草が好き勝手伸びている茂みを足でうまく払いながら進んでいった。


「ひどい棒読みね」

「そう言うなよ、宝箱があるかもしれないぜ!」


 そんな物が街中に溢れているほど、この社会は甘く無いだろう。しかしありがたい事に、私の名を語る人物が探しているだろう物を私は見つけられたのだった。もちろん、脳天気な十嗣は気づいていない。


「宝箱もお金も無いみたいね……その代わり」


 どうやらエリも見つけたようだ。全く探しものとは随分と薄気味の悪い物だったらしい。その上隠し場所が適当だ、もし彼らよりも早く誰か来ていたらどうする気だったんだ? 


「ゾンビはいたみたい」


 雑草にまぎれて、それはあった。


 まるで幼い子供が太陽に手を伸ばすよう、真っ直ぐとそこにあった。ただ子供と違うのは、伸びた手には肉が落とされ骨が顕にされている点と、ここからでは彼か彼女の手しか見えない点だろう。


「……は?」


 足元を見て、十嗣の顔が強張る。


 ――無理もない、人の死体らしきものなど彼が見慣れているはずはないのだ。

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