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姫様来訪2日目 1

 姫様こと関根春奈が村に来た2日目になります。

 徐々に変化が発生している宮崎兄妹はどうなるのでしょうか?

 物語は地味に進行します。

 

新星暦83年3月23日木曜日【姫様来訪2日目】


 関根春奈が村に来た二日目は前夜の言葉通り、春奈達一行は朝食後から村を歩き回る事にした。

 彼女は前日と違って専用の帽子を使ってケリュク発生を隠していた。それでも漏れている量は並みの能力者の発生量並だった。

 そして、彼女は年齢相応の振る舞いをしようと努力していた。案内役の太郎と美月にはタメ口で喋って欲しいとわざわざ断っていた。兄妹の話し合いで、案内は主に太郎がする事になっていた。


 太郎は宮崎家敷地内にある村の集会場兼仮設学校から案内する事にした。平屋ながら80坪ほどの立派な建物だった。


「さて、ここが俺達の母校だ。小中の学校を兼ねている。生徒は小学1年生から俺までの8人だ。他に一緒に面倒を見ている小さな子供が2人いる。先生は市から1名派遣されているが、昨日から市内に帰っている。君が帰る日に戻って来る予定だ。月に一回の村の集会にも使っている。その他、結婚式や葬式にも使っている。何か質問は?」


 春奈は使い古された手作りの木製の机と椅子を興味深そうに手で触り、それから自分も座ってみる。椅子の高さが合わなかったので、高さを合わせる為の蝶番をわざわざ自分用の高さに合わせた。もう一度座って、満足げな顔になった後で太郎に尋ねた。


「この村の人口は43人ですよね? あと何年で50人越える予定ですか?」

「開墾事業はそれなりに上手く行っている。そのおかげで移住者も増えている。生まれた赤ん坊も入れてこの3年で住人の数は10人増えた。あと1年か2年で50人を越えるはずだ。君が聞きたいのは市立学校の建設の事か?」

「そうですよ。この屋敷の東真向かいの広場に作るのかな? と思って」

「その通り。この村を作る時にはもう計画に組み込んでいた。ご先祖は長期的な発展を考えていたからな」


 太郎は自分が生まれる16年前に他界した、宮崎家始祖の宮崎利光とは当然の事ながら会った事は無かったが、小さい頃は父親から話をよく聞かされていた。


「立派な方だったんですね。もっとも私から見たら、苦労しながらも村をここまで発展させたお父様も立派ですけど」


 春奈は知っていた。その計画作りには関根家も深く関与していた。

 更に宮崎利光の開墾団を支援する為に、関根家は大工や信用できる人材を利光の代わりに募集して上げた。個人が開拓団を立ち上げる場合には信用問題もあり、なかなか良い人材が集まらない。だから、当時すでに資力を蓄えつつあった関根家がバックアップする形にして信用を上げたのだ。

 採用した大工の腕は確かで協調性も申し分なかったが、知人の借金を返済するはめに陥っていたので、関根家が借金の肩代わりをして上げた。そのお礼に作ってもらった椅子は未だに春奈が自分の部屋で使っていた。この学校の椅子と同じ作りであった。材料は選び抜いたクリの心材部分を使っていた。バランスも良く、材質の選択眼と加工の丁寧さもあって、材料の平均的な耐久年数を軽く越える年数を使っている。

 年齢に合わせて高さを変える工夫も実用性が高かった。関根家は宮崎利光とその大工と話し合った結果、パテントを取得してその収益をこの学校につぎ込んだのだ。

 だから、関根家の子供が代々愛用している椅子の『子孫』を見付けた事で、春奈はつい意味も無く座りたくなってしまったのだ。

 春奈は椅子の高さを元に戻して、丁寧にその椅子を机の中に入れた。満足した彼女は次の場所に案内してもらう事にした。


 春奈達が行く所には警護員が先回りしていた。次の案内場所の広場には3人の警護員が間隔を開けて仁王立ちしていた。村の子供達はその姿を遠巻きにして眺めていた。

 折角学校が休みだから広場で遊ぼうとしたら、怖そうな大人が3人も立っている。

 でも珍しいから見てみたい。だから遠巻きにしていたのだ。

 そこに別の警護員3人に守られた村の長の兄妹と、昨日村に牛車でやって来た少女が広場に歩いて来た。8人の子供達の腰が完全に引けてしまった。小学校5年の男の子を中心に、今日も川に行こうかと話しをしていると、その少女が近付いて来た。


 春奈は警護の者達に『少し離れて』とお願いをした後に子供達の方へ向かった。子供達の顔にはありありと警戒心が浮かんでいた。彼女に出来る精一杯の幼い笑顔を浮かべながら子供達に言った。


「こんにちは。はるなです。1週間ここにいるのでお友だちになってください」


 子供達は無遠慮に春奈をじろじろと眺める。その目は珍しい動物を見る様な色が浮かんでいた。

 自分達は生まれた時から一緒なので、小さい子供からリーダーの小学5年生までこの村の仲間だった。彼らにとっては、宮崎兄妹は村の長の子供だから仲間では無かったし、一緒に遊びたいとも思わなかった。その兄妹と一緒にいる見慣れない少女がいきなり『友達になって』と言って来ても簡単に仲間に入れる事は出来ない相談だった。

 また8人が話し合いを始めた。いや、一人足りない。二番目に幼い男の子が春奈の所に近付いていた。


「おねえちゃん、むらおささまよりえらい?」


 どうやら宮崎利一より偉いのか聞いているようだった。


「ううん、えらくないよ」

「だったら、たろうさまよりえらい?」

「ううん、太郎様の方がえらいよ」

「それなら、みつきさまよりえらい?」

「ううん、えらくないよ」

「んーとね、そしたらリクよりえらい?」

「ごめんね、リクさんってだれ?」

「リクだよ。ぼくのおにいちゃんだよ」


 と言って子供達のリーダーを指差した。春奈は納得をすると同時に答えた。


「リクお兄ちゃんの方がえらいよ」


 その男の子は大きく頷いて、兄に向かって大きな声で宣言した。


「おにいちゃん、このおねえちゃんはおにいちゃんのてしただ」


 春奈は事の成り行きを楽しんでいた。市内ではいつも『あの関根家のお嬢様』だったし、子供同士でも常にパワーゲームをしていた。

 だが、ここでは出身は関係無さそうだった。たまにはこういった単純な関係も良い。この村に来た目的には個人的な息抜きも、極少量は含まれていたので、この子供達の仲間になれるなら少々の事には目をつぶっても良い気になっていた。

 子供達はまた話し合いをした。


 こうして春奈はこの村の子供達のグループで3番目に偉い子になってしまった。


 ダントンは少し離れた所で子供達と春奈の会話を聞いていた。

 何がどうなったのか、春奈はこの村の子供のグループに組み込まれていた。会話の言葉は分かったが結論はよく判らなかった。

 どうやら春奈お嬢様は子供達のリーダーではなく、3番手に収まったらしい。しかし姫様は上機嫌だ。

 昨夜の話を藤田から聞いていたが、あの写真を見てからの姫様は異常に機嫌が良いらしい。藤田は10分に亘って、姫様から写っていた人物の説明を聞かされたそうだ。その中に自分の始祖が写っていた事は『びっくりした。だってモノカラーの写真一枚残って無いんだぜ。でもいきなりこの中のだれかが自分の始祖だと言われても、実感は湧かんわな』と言っていた。


 ダントン家の始祖はアメリカ(学校で習った限りでは日本と同盟関係を結んでいたそうだ。新狭山市とラミス王国との関係に近くて、信じられないが日本よりも強く、一番強大な国だったそうだ)人だったが、孤立後数年で新狭山市に帰化していた。

 今もアメリカ国籍のままなのは始祖が将校だった十数家族だけだった。彼らはアメリカ合衆国の誇りと、万が一戻れた時の為に未だに帰化をしていなかった(と言っても新狭山市からの思いやり予算と租借した自治領からの収穫から給料を賄っていた)。またアメリカ合衆国を代表して、新狭山市と新たに同盟を締結していた。


 どうやら、子供達のグループ内で今日と明日の予定が決まった様だ。姫様は今日のところはこのまま村を見て回るらしい。そして明日は子供達がいつも遊んでいる二上川のおすすめポイントで川遊びをする事になっていた。彼の頭脳は警備をしながら『藤田を下見に行かせる為のロジックを今の内に考えないといかんな』と考えていた。


 次に向かった先は宮崎邸の北に並んでいる公共施設用地だった。100m×40mほどのブロックであるが、ここには最終的にメイン通りから奥へ向かって「駐在所」「村役場」「消防団倉庫」「共同倉庫2棟」が並ぶ予定であった。現在は奥半分ほどに消防団倉庫と共同倉庫2棟が建っていた。

 春奈は簡単な作りの建物が建っているだけの草地に立って、太郎に尋ねた。彼女の中で基準が変わったのか、口調は砕けて来ていた。あまりにもさりげなく変化した為に、太郎も気付かなかったが。


「ここには村役場と駐在所が建つのね。あの建物は何?」

「学校と村役場と駐在所用の資材を乾燥させている倉庫だ。あと少しで使える」

「中を見ても良い?」

「構わんが、面白くは無いぞ。もしかして木材には詳しいのか?」

「ううん、あんまり」


 ダントンが先に入り、安全を確認してから春奈達三人は資材乾燥倉庫に入った。

 雨を避けるだけの粗末な作りであったが、風を通す工夫はしてあった。その隙間から外の明りは入って来る。中は木材の香りが充満していた。その匂いを楽しむように鼻をくんくんさせていた春奈が何かに気付いたのか、太郎の方へ顔を向けた。


「カシの木と違う匂いが混じっているみたい。なに?」


 太郎は意外なそうな顔をして、逆に尋ねた。


「鼻が利くんだな。なんだと思う?」

「分かんない。初めて嗅ぐ匂いね」

「杉の木だ。新二上山の中腹の谷間で群生を発見した。標高が高いし道が険しいので結構苦労をしたんだぜ。もっとも曲がっていたから、使える部分はそんなに多く無かったが」

「凄いじゃない。私が知っている限り、杉の群生を発見したのは4例目だよ。植生域の面積は? 植林の計画は?」

「なんだ、詳しいじゃないか。東西200m×南北700m位だ。採算に合わないと思うな。面積が小さすぎる」


 春奈は何かを考えている様だったが、直ぐに振り切って顔を太郎に向けて言った。


「『平成辞典』って知っている?」

「なんだ、それ?」

「あら、知らない? 市内の図書館で一般にも公開している、平成の事を解説した本よ。秘密だけど、実は公開されている部分はかなり薄めている。なんとなく始祖たちが来た『日本』って凄かったんだなと誘導する為の道具。杉の木もその中に出てくるの」

「おい、そんな事をばらして良いのか?」

「さあ。あなた達が誰にも言わなければ大丈夫と思うわ」


 薄暗い倉庫で春奈の目がじっと太郎を見ていた。心のガードが緩んでいた所に不意を衝かれた太郎はあっさりと了承してしまった。


「分かった、言わない」


 春奈は続いて美月を見た。彼女にとっては人生で初めて出会ったような目だった。春奈の意思に飲み込まれそうな錯覚に陥ってしまう。

 気付けば思わず頷いていた。


「それでその『平成辞典』とやらの続きは?」

「杉の項目は実物が発見されていないと勘違いして、結構詳しく書かれていたの。だから私も知っていたって訳。その後発見されていた事に気付いた途端に一気に削除されたから、今の内容は薄くなっているわ。残念ながら、これ以上は私がした誓約に触れるので言えないの。ごめんね」

「分かった。だがこれだけは教えてくれ。俺らの大工の先祖が日本人の大工から直接修行したらしく、伝承で杉の名前は分かっても特性までは分からない。誰に聞けば教えてくれる?」

「帰ったら調べておくわ。さて、次はどこに連れて行ってくれるの。その前にお昼にする?」

「食事にしよう。結構腹が減った」


 ダントンは二人の会話を聞きながら、胸を撫で下ろしていた。2・3番地の警護員は倉庫の外で警備に就いていた為に今の会話を聞いていない。姫様の発言は綱渡りだった。

 だが、その甲斐は有った。藤田から聞いていた限り、友好的ではなかったボンボンは知らない内に姫様のペースに引きずり込まれている。

 もっとも、ダントンにとっては、意外でもなんでもなかったが・・・・・



如何でしたでしょうか?

 自分でもビックリするくらいに地味です(^^;)

 それと、書き回しも一部手直しもしていますが、下手っすね、文章が・・(^^;)

 自分で言うのもなんですが、この作品の後に書いた「神隠しより生まれし少女」の方が、スムーズに感じます。

 やはり、こういう創作は、書き慣れないと上手くならないんでしょうねえ(^^)

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